第一回選考会議が開かれたのは、授賞式前日の遅い午後。 実は、連日のブレックファーストミーティングで情報交換をしていたので、リストアップされそうな作品は絞れていたはずでした。ところが予想外の作品がいくつもあがり、選考会議はあっけなく延期。それぞれが夜を徹してのブース試写、ビデオ試写へとあいなったのです。 そして、翌朝、仕切り直しで始まったのがこの選考会議です。 それぞれの優れたポイント気になる点は昨日すでに各審査員によって熱く語られていることもあり分析的な言葉は少ないですが、爆笑が飛びかいながらも本音と本音がぶつかりあう、ピリリと締まった空気はレアそのもの。これぞプロの味です。 ちなみに、前日あがった候補作は、『母』『ふと想う...』『アメリカ通り』『Z32』『生まれたのだから』『馬先生の診療所』『凧』の7本でした。
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| 恩地 |
今日は第二回選考会議ですし、受賞式の当日なので、昨日のように何本も候補をあげるのではなく、ひとり一本ずつこの作品だというものを推してもらって、審査の核心に迫っていきたいと思います。 では、順番に行きますか。ジャンさんの一押しは何ですか? |
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| ジャン |
僕は『ユリ 愛するについて』です。 |
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| 恩地 |
あなたは『馬先生の診療所』?
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| 根岸 |
『馬先生の診療所』
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| 恩地 |
お姉さまは?
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| 山崎 |
『馬先生の診療所』もいいですが、イチ押しは『母』かなあ。
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| 恩地 |
僕も『母』なんだな。あなたは?
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| 金子 |
『凧』です。
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| 恩地 |
じゃ、その4本に絞って、山形映画祭における監督協会賞の意味をどう付けるかという中で討議していただきたいと思います。 では、まず『ユリ 愛するについて』について、ジャンさんから。
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| ジャン |
僕は、この賞のメッセージというものを考えたとき、ひとつは、この賞に注目するのは日本国内の、特に若い人たちが注目するだろうと思ったんです。 そんな彼らに対してメッセージを送るとしたら、絶望的になってた日本の作品の中では一番いいということで推しました。彼女(東美恵子監督)は感性も優れているし、完成度もかなり高いので、いいんじゃないかと思います。
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| 恩地 |
(原稿を取り出し)たまたま審査レポートの前半を今朝書いてたんで、関係しているので読みます。 「この賞の選考にあたって、僕は出来れば日本の若い才能を見つけ出して応援したいと考えて、コンペティション以外の小さな作品も追い掛けてみたのですが、残念ながら幸福な出逢いはありませんでした。映画はその時代の社会を映す鏡であるということが言われます。現在の日本は、良い映画が出来にくい、ゆるんだ社会だということになるのかもしれません」って、言おうと思ったの。 だから、何故、『ユリ 愛するについて』を外したかというのは、そのつもりでわざわざ見に行って、「残念ながら」っていう感じが僕はしたのね。 それで、やっぱりそういう中で『母』を見ると格段に映画としてレベルが上だし、そういうことで僕は『母』を1位に押したんですよね。 ジャンさんが言ってる、この賞が若い日本の人を育てるためにあるっていうことはいいことだと僕は思うし、ただ、監督協会は40年以上50年近く新人賞を出してるわけね。だから、それとダブるのもどうかなあという気もちょっとしてるんで、僕は『ユリ 愛するについて』はあまり賛成ではないということなんですけど。
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| ジャン |
原稿書き直したくないんでしょう(笑)
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| 一同 |
(爆笑)
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| 恩地 |
後半はまだ書いてないので、何度でも頭から書き直しますよ(笑)
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| 金子 |
『ユリ 愛するについて』が、どこが優れてるか分からないんですが、そんなにいいんですかね。
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| 山崎 |
20代の女の子と恋愛する年金オジサンがなんといってもチャーミングでしたよね。恩地さんにそっくりな長い眉毛で。
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| 恩地 |
そうそう、俺が出てるのかと思っちゃったよ。そういう意味では親近感があるけど(笑)。 やっぱりジャンさんの中に、日本の若い才能に応援という意図もあるわけでしょう。
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| ジャン |
はい、そうですね。
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| 根岸 |
僕が『馬先生の診療所』を推すのは、日本を贔屓するつもりはないんだけど、アジアは贔屓したいなあというのがひとつの理由ですね。アジアの中から出来れば見つけたいなあといった気持ちはあった。 それと、尖ったとか新しい試みという言い方もあるんですが、そういうことで上滑りしちゃった映画が多い中で、逆にしっかり腰を据えたというか、今失われちゃった、ある土地にキチンと腰を据えて映画を撮るっていう姿勢を評価したいですね。 撮影する被写体との関係を時間をかけて築いて、素晴らしいキャラクターをスクリーンの上にキチッと映し出した仕事だと思うんです。 それに、彼(叢峰監督)が若いということも含めて、ということです。
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| 恩地 |
はい。じゃ、山崎さん。
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| 山崎 |
『母』は、分かりづらいとか、飛んじゃってるところはあるんですけど、全体として、主人公に設定したお母さんの人間を描いてるということで。ドキュメンタリーは人間を描くもんだということを改めて私に思い出させてくれた作品です。 あと、女性が子供を産んで、夫がいなくなって、子供を抱えての苦労は何世紀も経っても変わらないですけど、同じテーマは繰り返されてるとは思うんですけど、改めて、今考えなくてはいけないテーマかなあと思って。テーマ性ですね。
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| 恩地 |
『凧』は?
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| 金子 |
僕はヤマガタで22本見たんですけど、感心は皆するんですけど、感動まではいたらない作品が多く、感動という意味では『Z32』と『凧』が感動したんですけど、その中で『凧』はどのカットも無駄がないというか、分からないところがひとつもないというところが大きい。 そして、こういう映画祭の中で、あまり注目されてないところを我が監督協会が選んだところに意味があるということで、さらに強く推したいです。
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| 恩地 |
ひとわたり推薦理由を聞いたので少し破けた意見を言います。 最初にジャンさんが言ったように、この賞の性格から考えて昨日皆さんに『馬先生の診療所』を半強制的に見てもらったわけなんですね。それで、言い出しといて僕は3時間30分全部見れてないんですけど、僕は一押しは『母』なんですけど、見た部分だけで言えば『馬先生の診療所』に変わってもいいですと、そういうくらいの、割といい加減さというか。
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| 根岸 |
『凧』については僕も非常にいいなあと思ったんですよ。ただ、前提条件みたいなことになっちゃうんだけど、昨日、ジャンが言ってたようにね、選ばれ方っていうかな、要するに、応募してね、山形にこの映画を持って来ようってふうに作家が思ったんじゃなくて、ある国家的なラインから選ばれて来て上映されてるってものに賞を出すべきじゃないんじゃないかなって。 僕も結構遅い時間に「あ~あ」と思いながら見たんだけど、確かに最後の追い込み方とか非常にうまいし、実際に胸打たれるものがあったんだけど、あったがゆえに、もう一回冷静に考えてみるとね、そういう風にここに来てる映画を選ぶのは道筋が違うんじゃないかと思いました。
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| 恩地 |
僕もそれは賛成というか、国が出して来てるって形のものに監督協会賞はないだろうと、『凧』は外したいなって思っております。 ヤマガタでの監督協会賞のありようというのは、やっぱり山形映画祭に出品したくて一生懸命持って来てっていう人達、そういう意味では若い人達に小さい映画でもいいという意味だったと思うんで、僕もそう思います。
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| 金子 |
僕は山形映画祭に向けて出して来る作家の中に蔓延する"映画自身の本質から外れる心持ち"っていうのがちょっとあるような気がするんで、そこが山形映画祭に向けて出品した作品だけに限るのはどうかと思うんですね。それで逆に、まさにドキュメンタリー映画ということで出されている作品は対象にすべきではないと。 それで僕が感じた違和感というのは何なのかってことなんですが、ドキュメンタリーは差別されているのではないかという思いをより戻すプライドの高さっていうんですかね、それが映画というものの本質をちょっと歪めかけてるんじゃないか、そこに山形映画祭の危険性を僕は感じるんで、要するにどんどん観客が小さくなって来るという、そこにひとつショックを与える意味でも『凧』を推薦したいと思います!
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| 一同 |
(爆笑)
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| 恩地 |
山崎さん、『凧』を外すかということについて、どうですか?
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| 山崎 |
4本の中で一番希望が持てるのは『凧』なんですよね。広がる映画。私の推す『母』は閉塞感の映画なんです。 ただ、前半見てて辛かったのは、ポーランドの国から何らかのアフガニスタン支援に向けての助成があって、その一環として映画が作られていく、アフガンの子供たちにビデオカメラを持たせて何か撮らせて行くという大きな枠組みの中でのプロジェクトであって、個人がこうしたいと作り始めた映画じゃないんじゃないかというところが、いい映画だとは思いますけど、居心地の悪さが前半にありましたね。
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| 恩地 |
もともとの始まりがどうだったかということは分からないわけだけど、出品されて来たルートはほかとは明らかに違うわけだよね。国家が絡んだルートの作品も賞の対象にするかどうかという疑問が今3人から出て来ているわけで──
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| 山崎 |
だから、外した方がいいと思います。
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| 恩地 |
なるほどね。ということなんですけど、金子さん、4人、外した方がいいという意見なんですが、いかがいたしましょうか?
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| 金子 |
ん、まあ、外した方がいいという前提が山形映画祭のドグマを守るという危険性をちょっと感じる。
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| 恩地 |
山形映画祭の歴史を俺はずっと見て来てるわけね。山形映画祭は小川紳介が作ったわけだよね。それで、小川紳介の色が濃過ぎて俺はいつもずっと距離を置いて来たんだけど、ここんとこ5~6年というか、7~8年、かなり小川の色が消えて来て一般的なドキュメンタリー映画祭になって来たんで、割と俺は近づいたという20年の中での流れがあるんだけど、だからといって今のあり方がベストだというわけではない。あなたの言ってる山形映画祭の欠点を感じないわけじゃないんだよね。
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| 金子 |
欠点までとは言わないですけど、初めから、『明日に向かって』のコーナーを外してしまうと、それは欠点に繋がるんじゃないか、欠点になってしまうんじゃないかということです。そういう作品を監督協会賞の対象にしないと決めること自体が、危険に足を踏み入れるところに行くから。
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| 恩地 |
じゃ、外すなってこと?
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| 山崎 |
昨日ちょっと耳にしたんですけど、"山形ドキュメンタリー映画祭にエントリーするにはどうしたらいいか"っていう質問を、ある人が中国に招かれた時に聞かれたと、そのノウハウを知りたいみたいなことです。 「カンヌ狙い」とか、「ベルリン狙い」とかいろいろありますよね。それと同じように「ヤマガタ狙い」というのも、特に中国とか、賞を取ることによって広がりが大きいと思うところってのは、間違いなくそこに来ますよね。その危険性は、やっぱり、監督協会の賞としては、どっかで踏まえて選択した方がいいかなと思いますね。『ヤマガタ狙い』の映画があるってことは押さえておいた方がいいと思いますね。『凧』はそれとは明らかに違うって思います。
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| 恩地 |
賞狙いは出て来るよね、どこでもね。
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| 山崎 |
そうそう、そうなんですよ。
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| 恩地 |
だからって、それを避けて映画祭をやるってことはありえないって気はするけどね。
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| 山崎 |
そうそう、それもそうなんですよ。
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| 恩地 |
カンヌでもベルリンでも一緒の話で。はい、分かりました。そうすると、まず『凧』を外して3本に絞りたかったんだけど、ダメなんで、4本残します。この4本で、どれにするかという話に移りたいと思います。今の多数決で行くと、『母』が2人で、後が1人ずつということなんだけど。
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| 山崎 |
私も恩地さんと一緒で『馬先生の診療所』もいいというところがあります。
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| 恩地 |
そう、僕は『馬先生の診療所』でも『母』でもいいとは思ってるんです。だから、僕と山崎さんが『馬先生の診療所』に行っちゃうと3人が『馬先生の診療所』にという話になるんだけど。
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| ジャン |
ちょっと、『馬先生の診療所』のこと話してもいいですか。
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| 恩地 |
うん。
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| ジャン |
とても内容が良かったんで、深夜に無理して見て良かったと思ってたんですけど、完成度がちょっと気になるんです。あれは見てて映画じゃなくてラフカットという感じがするんです。僕が本当に編集してあげたいくらいなんです(笑)。 長い映画になってもいいんですけど、音が凄くうるさい時があったり、音の編集を全然やってない。絵の編集もヘタクソなんですね。絵の選び方とか、前半はずっと引きでやってて、途中からズーミングでドアップが出て来たりするとか、意図的じゃなくて、そのまま残してるということがあるんで。ま、内容が優先するだろうから、いいという判断もあるだろうけど、監督協会が送るメッセージとしては、これでいいんだというメッセージになってしまうんで、同意はイージーじゃないです。 僕はドキュメンタリー映画監督としては、ドキュメンタリータッチということでカメラが揺れたりすることは許すんだけど、完成度は劇映画レベルを狙うべきだと思うんです。音の編集とヒカリとかそういう面ではそのレベルを狙うべきだと思うんです。 その意味では、出来てる『ユリ 愛するについて』を候補に出したということでもあるんですけど、『馬先生の診療所』に絞って言うと、それはちょっと違うメッセージを送るということで、監督協会がそういう映画を認めるべきではないんじゃないかと、とても残念ながら言うんですよ。 内容としては凄く勉強になって、今、中国が映画を作ってる中では、ああいう映画の情報は貴重なんだと思う。ああいう場面を捉えるということは勇気も必要だし、村の中に溶けこんでいい形で撮ったんで監督もとてもいい人だと思うし、本当に賞を与えたいんだけど、与えると、メッセージの意味としては、ちょっと危険だなあと思います。
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| 金子 |
ま、つぶやきだけで中国の社会の矛盾を表現してしまうというのは凄いと思いますけどね。しゃべってるだけで中国の現実が分かって来るという。
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| 根岸 |
待合室だけだもんね。
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| 金子 |
ただ、ちょっとね、欠陥はね、長いということですよ!
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| 一同 |
(爆笑)
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| 金子 |
人に勧める時に、2時間35分もあるんだよって。
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| 恩地 |
金子さん、3時間だよ!
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| 金子 |
あ、3時間35分! 確かに面白いんだけど、本当にその長さは必要なのかっていうと、分からないところもあるじゃないですか。
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| 恩地 |
だから、必要か必要でないか、さっきのジャンさんの意見でもあるんだけど、俺なんか55年間、映画界でいろんなものを詰め込まれているわけだよね、イヤでも入って来ちゃう技術とか。そういうのは無い方がいいって最近全然思い出してるわけ。 だから、そういう意味でヘタクソな監督とか、「何でこんなに長回ししてるの」とか、「何でこんなところにカメラ持って来てるんだよ」っていうのが、逆に俺にとっては新鮮だったりすることもあるのよね。だから、それで『馬先生の診療所』が凄く気になったということもあるんだけど、「そうかあ、もう一つだなあ」っていう感じはやっぱりあったんだな。 でも、僕は今『母』を推してますけど、皆さんが『馬先生の診療所』っていうことであれば、ほとんど抵抗なく、それに賛成出来る心境にはなってますけど。
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| ジャン |
ま、一歩引いて逆の見方をすると、こういう本格的なドキュメンタリーで、黙って人が話しに来るのを待つ、見てる、という作品を我々が評価してるということが別なメッセージにはなるんですよね。
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| 恩地 |
それとねえ、僕がドラマとドキュメンタリーの両方をずっとやって来た中で「ドキュメンタリーとは何か」っていうことで考えると、作家が作る映画である以上全然同じだと、ドキュメンタリーの方法で撮ろうと、役者を使って撮ろうと、作品であることには変わりはないという基本的な考え方はあるわけですよね。 だから、この間から言われてるフェイクとか、ヤラセとかってのは、一向に構わないと思ってます。ただ、それに対して作家がどれだけストイックかってことがないとね、それが野放図になっちゃってると、これはどうしようもなくなっちゃうんだけど、作家がストイックであれば、それはどちらでもいいし、今のテレビドキュメンタリーでヤラセなしのドキュメンタリーなんて、まず有り得ないし。そういうことは考えているんですけど。
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| 金子 |
その批評性を見事に感動まで持って来たのが『凧』なんですよ!
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| 山崎 |
そうそう。
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| 金子 |
感動まで行ってるから、これは腕としては凄い!
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| 根岸 |
腕として凄いね。
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| 恩地 |
だから、腕が凄い奴に賞出すか、腕はなくても新しいものを目指してる奴に賞出すかってこともあると思うんだね、この監督協会賞というのは。
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| ジャン |
『母』は両方いけるんですよね、腕もいいし、内容も。
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| 恩地 |
そうそう。それで、観察っていうことが今、凄く大事だと、ドキュメンタリーにおいてね。それは、ヤラセかヤラセでないかってことよりも、ヤラセでも観察でありうるということもあると思うね、作家のストイックさがあれば。だから、その辺から行くと、やっぱり俺は『母』は一番いいかなあと未だに思ってはいるんだけどね。
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| 金子 |
『母』に関しては、腕って意味では疑問があるんです。伝える技術ってところで。観察とかは確かに素晴らしいところもあるけど。伝えるってところで、未熟なのか、確信犯なのか、新しいところに行ってるのかが分からないんですよね。
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| 山崎 |
未熟じゃないですかね。確信犯とは思えないですね。
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| 根岸 |
そうですね。『母』の話じゃないけど、『馬先生の診療所』の推薦の弁をひとこと言っておこうと思うんですけど。 一見あまりにオーソドックスなドキュメンタリーのように思えるけど、発想として、診療所の待合室というあの狭い空間で中国全体の問題を彼らのおしゃべりによって見せてしまう、それを絶対つかめるって信念みたいなものを作家が持っていて、そういう風に発想したこと自体があの映画における彼の勝利だと思うんだけど。 そういう意味では、そこに自分がずっといてカメラを回し続けるっていう発想は、なかなか無いと思うんですよ。やっぱりなんとか話の結果を伝えるために出掛けてしまいますよね。それだと、それ以外にはあそこにいるってくらいにしかならない。
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| 恩地 |
だからそれがね、彼の最初からの、この映画作るための、そこに粘ることによって中国全体を描いちゃうんだということで始まったかどうかは分からないよね。
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| 根岸 |
それは勿論そうですよ。
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| 恩地 |
でも結果的にそうなったって風に評価する場合には、彼の進歩になるわけだから、賞を与えていいんだろうって気はしますけどね。えーと、今、『母』と『馬先生の診療所』を3人が推してて『ユリ 愛するについて』と『凧』が1人ずつなんだけど、出来れば何らかの形で、『馬先生の診療所』か『母』にどっちかが乗り換えてくれると進めやすいんだけどね。『凧』は絶対乗り換えないかね?
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| 金子 |
(ポツリと)絶対とは言いませんけど。
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| 一同 |
(笑い)
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| 恩地 |
だから『馬先生の診療所』に乗り換えるか、『母』に乗り換えるかで全体の流れがずっと変わっちゃうんだよ。
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| 金子 |
誰も『凧』に乗り換えないんですか。
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| 一同 |
(爆笑)
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| 恩地 |
(笑って)誰もいなさそうだね。
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| ジャン |
僕は『ユリ 愛するについて』は降りてもいいんですけど。『馬先生の診療所』に譲ってもいいんだけど。
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| 恩地 |
そうすると、どんどん絞れて来るんだよ(笑)。『ユリ 愛するについて』がなくなって『馬先生の診療所』が増えて、『凧』がなくなって、どっち行くか──。(金子に)キャスティングボードだよ!!
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| 金子 |
『馬先生の診療所』。
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| 恩地 |
ああ。これは凄く議事進行したねえ。
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| 一同 |
(爆笑)
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| 恩地 |
俺はさっき言ったように、どっちでもいい、『馬先生の診療所』に行ってもいいんだけど、(山崎に)どうしますか?
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| 山崎 |
私は『母』を監督協会賞として、『馬先生の診療所』は奨励賞かなと思ってるんです。というのは、『馬先生~』は長いと思うし、もう少し努力してほしい、その差ですね。『母』はいろいろ努力した結果が、いろいろ未熟な点も含めての2時間弱になったと思うんです。
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| 恩地 |
でも、これ1個しかないからね。2つに割る訳にいかないし。
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| 山崎 |
では、『母』に奨励賞で。名前だけでも。
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| 恩地 |
んん、名前だけって、それはちょっと。
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| 山崎 |
ダメですか。
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| 恩地 |
そりゃ、賞は1人に決めた方が。今、3対2で『馬先生の診療所』と『母』になっちゃってるわけだけども、俺が乗り換えると4人になっちゃうから。どうせなら全員一致で『馬先生の診療所』にした方がカッコいいね(笑)。
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| ジャン |
改めて2本を比べると、いやあ、本当に難しいな。
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| 恩地 |
完成度というか、2つ並べてどっちがいいかって言ったら、多分、『母』って言う奴が多いんじゃないかと、客観的にはね。ただ、監督協会賞として「アジア頑張れ」とかそういうことから行くと、『馬先生の診療所』でもいいかなあという気がするんだけどね。
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| 山崎 |
(資料をめくり)ツォン・フォン監督の経歴は面白いですね。気象センターにいて、新聞の文化欄の編集者で、写真家で、詩人で。
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| 恩地 |
何歳?
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| ジャン |
37歳。映画を作り始めてから4年。
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| 恩地 |
そういう人にあげるって、いいんじゃないかな。
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| 山崎 |
見るからに、誠実そうな人ですね。
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| 恩地 |
何か馬先生に似てない?
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| 山崎 |
似てます。
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| 恩地 |
似てるね。
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《雑談に突入!》
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馬先生の人柄と中国の現状(新妻の保証期間?)について しばし語り合う皆さん。
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| 斉藤 |
委員長、決まったってことでいいんですか?
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| 恩地 |
まだ結論出してないんだ。まだいいって言うからさ。10時半までに出せって言うなら出すけどね。
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| 斉藤 |
いや、いいです。午前中かかっても大丈夫です。恩地さんが原稿を書かれる時間からの逆算でOKです。英訳はジャンさんにお願いしますから、そこは30分もあれば。
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| 恩地 |
ま、だいたい流れは決まって来てるけどね。最終的に『母』と『馬先生の診療所』って中では、2人が『馬先生の診療所』に行ったから、圧倒的多数は『馬先生の診療所』。それで、山崎さんも『馬先生の診療所』でいいわけだから、全員一致に、そろそろしますか。
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| 一同 |
(笑顔のうなずき)
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| 恩地 |
じゃ、決めます。
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《全員一致で無事終了となりました》 |
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2009.10.14 Wednesday 編集責任:斉藤信幸 写真/収録:瀬川正仁 竹内英孝 |