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日本映画監督協会 会員名鑑

監督協会 声明文

細野辰興監督作品『シャブ極道』の問題を契機に映倫・ビデ倫批判の声明を発表

当協会員細野辰興監督の『シャブ極道』(大映製作・本年3月大阪、5月東京で劇場公開)は、映倫の成人指定を受けたが、ビデオ発売に先立つビデ倫(日本ビデオ倫理協会)の審査過程で、題名の変更を強要された。いったん映倫の審査を通って劇場公開した直後に、ビデ倫からこのような変更指示が出ることは異例であり、細野監督はこれを看過すればフリーの監督の自由がいよいよ狭くなることを危惧し、協会理事会に提訴した。

2月の理事会で検討し、当協会には1979年の『「刑法第175条」ならびに「映倫」に対する基本的見解』があり、表現の自由を守る見地から刑法175条(わいせつ罪)が違憲であること、昭和31年に改組された映倫が検閲代行機関であることの認識は変わらず、当然ながら細野監督の抗議に賛同することを決め、念のために理事が『シャブ極道』の試写を見ることを決定した(当協会の『基本的見解」は,前事務局長柿田清二氏『日本映画監督協会の五○年』207頁参照)。

3月初旬に行われた同映画の試写を何人かの理事が見た。また3月の理事会では、映倫・ビデ倫両機関の現状等も調査したうえで当協会の声明を公表する方向で小委員会を設置することになった。

4月18日の小委員会には,千野専務理事、井上・山際・若松各常務理事と細野氏が出席し、最近の映倫・ビデ倫の審査事例、今回の問題がもつ意味などを討議した。4月の理事会は声明の文案を検討した。

5月1日に、細野氏がビデ倫を相手取っての訴訟を提起し、日本弁護士連合会の会議室で記者会見が行われた。協会からは,井上・山際・帶盛・後藤・成田各理事と南場事務局長が出席して声明を発表した。

声明の全文は次のとおりである。

自主規制の名目による検閲に反対する日本映画監督協会の声明

業界の自主規制という名目がとられてはいるが、最近の「映倫」(映倫管理委員会)および「ビデ倫」(日本ビデオ倫理協会)の審査は、あいまいな基準により強権的な傾向を強めており、検閲以外のなにものでもない。日本映画監督協会は、表現の自由を守る見地から、強く、「映倫」「ビデ倫」を批判する。

日本映画監督協会は、表現の自由を守るために不断の努力を重ねてきた。とくに、取締り当局が映画の表現に関して強権を発動し、映画監督など関係者を処罰の対象としたときには、断固として処罰に反対して、裁判で被告とされた人々を支援し、表現の自由への侵害を民主主義への挑戦として批判し闘ってきた。

(1)『黒い雪』裁判
1965年、アメリカ軍基地周辺の売春宿を舞台として反米・反戦をテーマに作られた映画『黒い雪』(武智鉄二監督)が、刑法175条(わいせつ)違反容疑で警察の捜索を受け、武智監督らが起訴された。監督協会は、総会で抗議声明を採択した。裁判の結果は1審無罪、検察の控訴は棄却されて無罪が確定した。

(2)日活ロマンポルノ裁判
1972年、藤井克彦監督・山口清一郎監督らの作品が上映中、警察は刑法175条により捜索を強行し、フィルムを押収した。監督協会は抗議声明を警視庁につきつけた。その後、近藤幸彦監督の作品にも摘発の手が入り、監督3人ほか、日活の責任者および映倫審査員3人らが起訴された。裁判の結果、全員無罪、検察控訴は棄却されて無罪が確定した。

(3)『愛のコリーダ』裁判
1977年、大島渚監督『愛のコリーダ』の脚本・スチル写真などを収録した単行本が刑法175条で摘発され、大島監督と出版社社長が起訴された。監督協会は抗議声明を出して支援し、裁判では第1審無罪、検察控訴棄却で無罪が確定した。

こうした経緯をみても、取締り当局の強権発動は明らかに間違っていたのであって、猥褻の基準なども時代とともに変化し、より開放的になっていくのは当然である。青少年健全育成などの美辞麗句をかかげて、非行や犯罪の原因が映画やビデオにあるかのように喧伝し、その表現を規制しようとする動きは、あまりに短絡的・低次元であって、息苦しい情報管理型社会の到来を感じさせる。真に民主的で自由な社会は、多様な表現を受け入れ、それを次の他代に伝えていくのであって、悩める青少年が、映画によって救われたり、教えられたりすることも確実にあるのであって、そうした文化の作用を許さない社会は、決して健全とは言えない。

最近「映倫」「ビデ倫」の審査において、性(猥褻)の規程のほか、法及び正義(暴力等)の規程によるとしているが、全くあいまいな基準により、従来は考えられもしなかった問題についての"指示"が出されるようになった。たとえば、毒薬を注射しての殺人方法が"オウムの犯罪"を連想させるからいけないとか、暴力団・麻薬・覚醒剤関係のカット"指示"、また、どこをカットしろというのではなく全体(テーマ)がいけないと言ったり、さらには、シナリオの段階で題材が悪いから審査の対象にもしないという"脅迫"などさえ行われている。"監督とは議論しない"とうそぶいて、居丈高に製作会社に"指示"の実行をせまるケースもある。

監督協会の協会員である、細野辰興監督の作品『シャブ極道』(大映製作・本年3月大阪、5月東京公開)は、読売新聞(96年1月28日付・西沢正史記者)によって、性ではなく暴力の要因により"公序良俗に反する"として成人映画指定第1号となった映画であるかのように報道され,"暴力否定の姿勢"をとった「映倫」の"英断"とまで評価されているが、こうした記事は、取締り当局と癒着する報道の典型であって、はなはだ不当である。

『シャブ極道』は、ヤクザに題材をとっているが,特別の暴力場面があるわけではない。時代を生きる人間を描いた力作であって、この映画に暴力団や覚醒剤肯定の雰囲気を感じて反発するのは、取締り当局の恣意的な憶測にすぎない。

「映倫」が同映画を"成人指定"にしたことも問題だが,このたび「ビデ倫」が、内容を吟味することもしない段階で題名だけをとりあげて、題名を変更しなければビデ倫審査を通さないと暴論を吐いていることは、重大な問題を含んでいる。監督はじめ同映画の著作者が同意していないにもかかわらず、ビデオ配給での題名変更を強要することは、著作者人格権・同一性保持権の侵害(著作権法第20条違反)である。

「ビデ倫」は、業界全体の自主規制を建前としているが,街のビデオレンタル店にはビデ倫マークの付いていないビデオソフトも多数置いてある。いったん映倫審査で"成人指定"あるいは"R指定"を受けて上映された映画をビデオ配給する場合、その会社は、暗に"ビデ倫マークがないと警察の摘発を覚悟しなければならない"との不安感をもつために「映倫」「ビデ倫」二重の審査を受けざるを得ないのが実態である。

「ビデ倫」の事業報告書をみると、警察への通報・捜査協力などを日常的に行っており、「ビデ倫」が警察の出先機関になっていることが明らかである。また、「映倫」の事業報告書をみても、行政や警察との打ち合わせ・共同行動(盛り場視察)などが頻繁で、とても業界の自主・独立性を保持した組織とはいえない。

自主規制をかくれみのとして、まさに憲法が禁止している検閲がまかり通っているのである。

日本映画監督協会は、改めて自主規制の名目による検閲・表現の自由への侵害・著作者の権利無視を、断固として糾弾し、映画『シャブ極道』に関する細野辰興監督の抗議を支持する。そして、現状のような規制をつづけるかぎり、「映倫」「ビデ倫」は解体されるべきであることを声明する。

1996年5月1日
協同組合日本映画監督協会
理事長  大島 渚

細野監督の仮処分申請

細野監督が提起した訴訟は、題名の変更を強要した日本ビデオ倫理協会を相手取っての仮処分申請ということになる。申請の趣旨は「債務者(ビデ倫)は件外大映株式会社に対し、『シャブ極道』のメインタイトルに「シャブ」の文言を使用するのを規制してはならない、との裁判を求める」というもの。

日本ビデオ倫理協会は法人ではないが、民事訴訟法上の要件を満たす社団として訴訟当事者であり、大映は、ビデ倫の会員会社として公開された倫理規程に基づき審査を受ける権利を有しているにもかかわらず、今回ビデ倫は規程にはない理由で題名の変更を指示してきた。これはビデ倫が大映に対して負っている義務に違反し、監督である細野氏の著作者人格権を侵害している。よって大映の権利を細野氏が「代位行使」する?という構成になっている。

これはビデ倫が、大映など多数の会員会社が共同で設立した機関という建前をとり、大映がビデ倫に対して審査を依頼したことになっているためで、法的には間接的な「代位行使」ということになったわけである。むろん、著作者である細野氏は憲法で保障された表現の自由をも侵害されたわけで、この点では直接の被害者ということになる。

『シャブ極道』のビデオは、大映により 『大阪極道戦争・白の暴力』と改題されて、東映ビデオから6月14日に発売される予定。それを受けて、仮処分訴訟の審理は5月13日、29日に両当事者を呼んで行われることになっている。

仮処分申請のその後

1996年5月13日の第一回目審尋にビデ倫側が証拠として提出した「平成7年度版事業報告書」に記してある「反社会的な行為を誘発するもの」をタイトルにすることを禁止する旨の条項は、『シャブ極道』審査時には存在せず、しかもその時点では、まだ理事会で承認すらされていないことが判明した。この証拠捏造ともいえる行為の後、5月29日の第3回目審尋に裁判官から和解が提案され、双方の和解条項案をもとに、7月2日の第4回目に裁判官から折衷案が示された。

和解条項には、「一 債権者は、別紙目録記載の映画のビデオ作品について、今後発売及びレンタルされるビデオのタイトルに「劇場公開名シャブ極道」との付記(ビデオパッケージヘの記載を含む)がなされることについて異議を述べない。」(その他の和解条項は省略)という内容の条項が含まれていたため、細野辰興氏は和解に応じ、決着した。