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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

あなたの台本見せてください

池田敏春監督 『ハサミ男』

いけださんの台本見せて下さい

 

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 再掲載にあたって

 監督協会のホームページは、前回のリニューアルの際、情報の移行がうまくいかず、いくつかの記事(文字+画像ファイル)を失った。現在コツコツと元原稿を探しだし修復する発掘作業をしているのだが。
 先日、貴重な、私個人にとっても、じつにまったく感慨深いファイルが見つかった。この、池田敏春監督へのインタビュー記事である。望月六郎監督が記録したものだ。再掲載であるがたいへん価値あるものなので、注目してもらうために、公開日を新たに今日、2012年10月3日とさせていただく。
 インタビューは、2004年、「ハサミ男」が完成し、その試写が行われている頃に行われた。この日の池田さんは優しかった。自分が作った子(映画)をこれから世に送り出すという時期で、だから、ちょっと、そういう父親のようなご気分だったのじゃないかと思う。

 映画公開前にアップした記事なので、ネタバレになってしまう部分をだいぶカットしたのが今となっては少し残念。池田さんが話したことを、もっともっと読みたいと思う。・・泣けてくる。
 再掲載にあたりちょっとだけネタバレを書いてしまおう。
 「ハサミ男」は、幻と一時期共生する話だ。幻というのは実は存在せず、見る者の主観なわけだが、この映画はその幻である彼を客観カットで捉えてしまう。さらにその幻がものごとを考えたりするという設定で、そういうのは矛盾が生じやすく、撮るのはたいへん難しい。しかし池田さんは超絶テクニシャン。容赦されるギリギリのアングル、コンテを駆使し一度も鑑賞者を騙さず裏切らず、見事にストーリーを描ききってしまった。
 たとえば主人公達が公園で死体を発見するシーン。発見なのでト書き的には「死体を見る」なのだが、カメラアングルと編集により、「幻がものを見ることはない」という約束を見事に遂行しているのである。
 ・・公園に走る足もとの横移動。繁みの中の死体。そのカットバック。後にその場に現れたす主人公・・彼らがそこに到着する前に既に彼の「見た目」が挿入される!なんだそりゃ。素晴らしいアイディアだ。時間と空間が前後し、ねじくれる。魔術。頭がおかしくなるような快楽がある。
 さて、池田さんは俳優さんに「演技中ものを見るな」と言ったかどうか。目線をどう指示したか。自身が幻であるという心をどう説明したか。
 そのへんの秘密は謎のままだ。
 池田さんはなんて言ったのだろう。と想像し、演出中のあなたの姿を想像すると、・・また、泣けてくる。

                          ・・・・・・石川均

 

  -----------------------以下本文

 

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 年も押し迫った12月16日、夕方6時。監督協会に池田監督に来て頂いて、京橋の試写室から広報委員石川均、そしてゴッドマザー日笠宣子の到着を待っております私、望月六郎、三日前に試写済み。広報委員会会議で池田監督「ハサミ男」是非お願いしましょう、という事となって連絡、記事化を買って出たのですが、11月末、石川均と酒を飲んで事の成り行きを話しますと「インタビューは俺しかない」と力強い発言。望月がITコンプレックスス故に、日笠さんカメラマンとサポーターやってくれる事になりました、感謝。池田監督と二人切りの間、シャイな監督に聞き出したのは2つの事、池田作品、決定稿は常に黒地に銀の文字だそうで、まぁ色々準備稿までは遊んで試すそうなんですけど、いつの間にか池田組の定番になったそうです。台本はとてもきれい。これまた池田組の定番。少しずつカット割りを進化させて行き、今回持って来て頂いた台本はその3册目。現場で使われていた物です。あれこれ聞き始めちゃって、早く来てくれよ、石川均、日笠宣子! 2005年3月 シネマ メディアージュ公開決定だぁ。で到着、ありがとう。 

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石川「どういう事でこの企画が始まって、どう進んで行ったかあた
りから、聞かせて下さい」
池田「毎年、このミステリーがおもしろいベスト10読む事にして
るんだけど、全部読む事がまぁ正月の楽しみなんですけど。99
年に「ハサミ男」があって・・・。そいで、絶対に映画になんな
いだろうって気がしてね。原作って一人称で書いてある訳なんで
すよ。で、実は最後は!ってしてあるんで。まぁ普通に映像化す
るとすれば主観のカメラで撮るのが一番正しいような事なんです
けどね・・・、それじゃつまらなかったし、どういう風に映像化
するかっていうのがKeyでした。個人的な事なんだけど99年
 ってのは、ウチの親父が出て来た年なんですよ」
石川「えっ?」
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       "淡々と、真面目な語り口の池田監督"


池田「8才の時に親父が家出してて、四十年間居ないんですよ」
石川「!へぇー」
池田「春に京都の福祉事務所から電話がありまして"あなたのお父
さんが出て来ました"って。まぁ始めて親父と出会った年なんで
すよ。でまぁ、これは映画のネタばれに近いんでちょっと言いづ
らいんだけど・・・、あぁ自分も父親って存在をちゃんと撮れる
なって感じましてね」
(池田作品はこれまで父親の存在がなかった、理解不能と逃げてい
たそうだ。しかし「ハサミ男」では父親が重要な存在として登場し
ている。この辺りは是非劇場で確かめて下さい)
池田「まぁ例によって紆余曲折があって5年掛かるんですけどね」
石川「その辺り、どうやってお金出して貰ったのか教えて下さい」
池田「まず・・・、"シックスセンス"をやるって宣言して・・・、
 池田が"シックスセンス"やるなら面白いんじゃないかって何人
 かいる訳ですよ。まぁ、そこから始めてね。"シックスセンス"
 って騙されて面白かったじゃないですか。俺も「ハサミ男」を騙
 されて気持ちいい映画にしようと思って、それがずっとあったね。
 それとまぁ父への想いが重なったって所かな」
石川「観客と作り手の読み合いがある映画だなと感じて、・・・あ
 れコレちょっと変だぞ・・・とか、・・・ちゃんと見とかなきゃ
 ダメだぞ・・・って画面からメッセージがある様な映画で・・・
 刺激的だったんですけど」
池田「そう、最初から、あれ変だぞ、としとかないと・・・いきな
 りドンデン返しっていうんじゃね。映画って簡単に騙せる訳だか
 らね。なんかあるんだなってお客に思って貰って、あぁ、そうい
 う風に騙したのか、面白い!って映画をやりたかったんだよね」
石川「気持よくないとですよね」
池田「うん」
(ミステリーって事もあり内容に触れるのはなかなか難しい。脚本
化は思ったよりスムーズに進んだそうです。)

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 "台本に記された企画メモ。--観客を、気持よく騙す映画にしたいー
(ネタばれしないように一部ボカシを入れてます、スミマセン)"


望月「エンドロールに長谷川和彦監督、相米慎二監督の名前が出て
 来るんですけど」
池田「ゴジ(長谷川監督の愛称)は俺が映画撮る時には必ず意見を
 言って貰う。ゴジは俺にとって一番正常な観客だから・・・、ゴ
 ジの方も完全に観客として本を読んでくれるから。俺の場合、自
 分で本書いてるから、なかなか客観的になれないんですよ。で、
 ゴジには必ず読んで貰って意見を貰って・・・、いつもの様に延々
 電話で3時間、・・・あいつ話し出すと止まらないからね、一番
 ゴジに言われたのはラスト主人公がね、再び犯行に走るか、自首
 するか、自殺するか、その3つしかないだろう。その3つのどれ
 か選択しないと映画になんないぞとは言われてね。でこっちはそ
 れ以上にないのかって、事を言ってさ」
(またしても、言えない!もう言えない)
石川「そう、まぁどうやっても許せないだろう、最後どうするん
 だ!って所をね・・・、あぁ、これは許せちゃうわ、って終わり
 なんですよね」
(難しい。しかし池田監督にとって"ハサミ"は常に十字架のイメ
ージとしてラストに向かって映画は進んで行ったのである。十字架
・ ・・果たして人は許されるのか・・・十字架に消えた人の力によって・・・なんて感じでした)
池田「でね、豊川にね、"最後十字架のカッコしてくれ"って言っ
 てね。彼も"あぁ、そこで終わるんですか"って事になってね」

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望月「相米さんについては?」
田「相米はね、しゃべり方にしても科白なんかにしてもね(豊川
 悦司演じる)安川ってのは殆んど相米のつもりで作ってたんです。
 まぁ死んじゃったけど5年前だし、・・・まぁ、いいかって。生
 きてたら多分、怒るかもしれないけどね。俺の方は(麻生久美子
 演じる)千夏みたいな感じでね、バァーっと突っ走っちゃうタイ
 プで。相米は"おいおい"ってタイプで・・・だけどでかい事に
 なると、あいつがやらせるんだけどね・・・ディレカン(ディレ
 クターズ・カンパニー)なんか誘うのも、あいつなんだよね。前
 半で安川が"葬式行くだろ"って言うでしょう。あれなんか完全
 に相米。千夏の方は"ヤバいんじゃないの"って言っても「ディ
 レカン、行くだろ」って感じで。主人公二人の関係って俺と相米
 の関係に近いんですよ」
石川「なる程なぁ」
(もう言えねえよぉ)
石川「脚本でつじつまが合ってても映像でつじつま合わないと。コ
 レ、こういう映画は特にまずいですよね。その辺の写し替えにつ
 いて聞かせて下さい」
池田「難しかったのは・・・どこ迄出していいかって言うのがある
 訳じゃない。・・・例えば豊川の芝居をどこ迄出そうかっていう
 事があって、・・・こう出すと言い過ぎ、こう出すと解らなくな
 ってしまう、この辺りの加減の問題だよね」
(うーん確かに難しい。池田監督この後、いかに豊川さんとコラボ
レーションしてこの映画に向かい合ったか、とか、いかに豊川さん
が素晴らしい俳優であるかを語ってくれるのだが、やっぱりネタバ
レがマズいって感じだ!劇場でその点も確かめろ)
石川「歩いているだけでカッコ良かったですよね」
池田「うん、俺はね、俳優がほめられるのが一番うれしいんだよね。
 コンテなんかも役者の芝居の邪魔にならない事が一番だと思って
 るし、テンション下がらないようにね」
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   "これが『ハサミ男』のファースト・シーン"
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   "意外に綺麗な台本"
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 "しかし、血のりで汚れているページも" 

 望月「どの段階でまず、コンテに手をつけるんですか」
(3冊の台本の秘密を知っているので聞いてみました)
池田「撮影の2、3週間前にまず脚本の活字で割りますね。科白、
 ト書きで一回割ってみてね。で次にそれを、そう割らないでいい
 にはどうすればいいのか、って事を考える。そういう状態でロケ
 ハンして、・・・あぁこういう形の俳優の動きになって、カメラ
 が、別な対応をすれば、最初にやったカット割りにならないで済
 むものが見つかった時が凄く嬉しい。でその後に、だったら芝居
 をどうしようかって考える。・・・だけど、不安だからね、監督
 ってのは。最後の最後に変えられる分ってのを残しておきたい。
 撮影中は毎日、毎日コンテ割るんだけど、最後のやつはね出発7
 時だったら5時にようやくできる。コンテ割るってのは怖いよね。
 だってそれでスタッフが全部動いてしまうんだからね。さっき望
 月に綺麗な台本ですね、って言われたんだけど、・・・まぁ、皆
 んな見る訳だから、スタッフがね、"わぁ、また引き込み線だぁ"
 って事になる訳ですからね。しかし、線を引くって事は怖いよね」
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 "台本に書き加えられた何本もの線、これがスタッフ泣かせの[引き込み線]" 

望月「騙すって事で言えば、一方にありえない事が起きるCGって
 世界があって、今回の作品を見て『あなたの台本見せて下さい』
 ってコーナーにピッタリだなぁって思ったんです。まぁ、カット
 ワークで事実とは違う世界を作るというある意味古典的な作業の
 仕事だと思ったんです。ヒッチコックみたいですね」
池田「CG、よく知らないから。まぁ最近、東宝の特撮のやってね、
 CGでなんでも出来ちゃうのは解るんだけども、出来ちゃうから
 どこまででも引けちゃうんだろうけど・・・・。この間『スカイ
 キャプテン』見たんだけど、やっぱりスピルバーグの方が面白い
 よね、監督の力量って言うかね、CGで何でも出来ますよって言
 ったところで、何をやっていいか、解らない訳じゃない、スタッ
 フも。CGって技術はあるにしても、それをどう指示して、どう
 明確化して、ドラマの中でどう馴染ませるのかって言うのは、監
 督の仕事だよね」
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石川「まぁ、今日の作品の中で、どう写真のアップ一枚使うかって
 事で、映画が全く変わって来ますからね。最初の公園の死体発見
 のシーンなんかのカットも主観描写でいくのか客観描写でいくの
 か、そこら辺り、凄く気を付けてらして」
池田「うん、アレは映画学校の先生に怒られそうだな(笑)って言
 ってたんだけれどね、二人を横位置に撮って、死体を正面で撮っ
 て・・・相対しちゃうと・・・ダメなんだよな」
石川「ええ、そうですね」
池田「最初の方は二人の関係は成り立っているように撮らなきゃな
 らないしね」
石川「解らないように、でも後から考えた、絶対俺は嘘ついたワケ
 じゃないぞって結果になってないといけない訳ですよね」
池田「ビデオで見直した時、嘘ついてませんよっていうのをやらな
 いといけないって強く思っててね」
石川「だから、僕はこれ終わった瞬間に、あっこれ、もう一度見な
 くちゃいけないぞ!と思って」
池田「うん。だけどスタッフなんかは、監督そんなに気にしなくて
 もいいんじゃないですかって言うんだけどやっぱ嘘をついちゃま
 ずい」
石川「そうですよ、やっぱり観客は見てますからねぇ、ズーッとね。
 池田さんは騙す映画だと言ってますけど騙しはしてないなって思
 いますよ」
池田「フェアにしないと気持よく騙されてくれない」

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"台本に手書きされたユニゾンの文字。これは主役二人が声を合わせて同じ科白を語るところ"


石川「前から池田さん得意ですけどね、あの辺のやり方、得意です
 よね」
池田「・・・結構やってるね・・・そう言えば、そうだ」
石川「おかしな目線とかカットインで、段々空間がグチャグチャに
 ネジ曲って来るんですよ」
池田「犯人側と、まぁ追う警察側の配分が、できてれば、まぁ結構
 上手くいってるんだろうけど、もう一回観てみないと解らないな
 (テレ)」
石川「結構、歪まされますよ、コレ」
池田「まぁ集大成かもしれないよね」
   *     *     *     *     *
話は、ラスト迄細部のシーンに及ぶんですけど、ちょっとここでは書け
ない事、多いんです。ここ迄で勘弁して下さい。済みません。
   *     *     *     *     *
石川「最後になっちゃうんですけど、監督からのお客さんへのメッ
 セージを」
池田「うわーっ(シャイにテレる)」
石川「サスペンススリラーで推理もので、最後にヒューマンなアレ
 ですしね」
池田「僕は単純にね、ヒューマンさを感じて欲しい。・・・あまり
 にも殺伐とした事件が多過ぎるしね、だからヒューマニズムみた
 いな事をきちんと感じて欲しい気がするんですよ。俺がやろうと
 した事は、言わば贖罪みたいな事だから・・・・うん、こう言う
 サイコホラー観てる人って・・・一方に片寄りな所もあるけど、
 もう一方にヒューマニズムって軸を持ってないといけないと思う
 んだよね。・・・だから、ネタバレしたら、もう終わりの映画な
 のかもしれない。その方が、喜ぶ人がいるかも知れないのに、『ハ
 サミ男』のエンディングは、ヒューマニズムを感じて欲しいって
 事であって、・・・簡単な事言えば、人殺しちゃいけないよって・・・
 (テレ)映画から感じて欲しいかな」

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    *     *     *     *     *
そうです。そう言えば、池田さん、お父さんの話からこのインタビュー始まったんです。


        [インタビュー:石川均  記事:望月六郎]