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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

あなたの台本見せてください

本木克英監督 『ゲゲゲの鬼太郎』

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【本木克英監督】プロフィール
1963年、富山県生まれ。早稲田大学卒業後、1987年に松竹に助監督入社。森崎東監督、木下恵介監督、勅使河原宏監督などに師事する。1997年『てなもんや商社』で監督デビューし、第18回藤本賞新人賞を受賞。主な作品『釣りバカ日誌イレブン』『釣りバカ日誌12 史上最大の有給休暇』『釣りバカ日誌13 ハマちゃん危機一髪!』『ドラッグストア・ガール』『ゲゲゲの鬼太郎』など

今回は「ゲゲゲの鬼太郎」を監督された本木克英監督に台本を見せていただきました。「映画監督って何だ!」の撮影の時、本木監督パートの助監督をやらせて貰ったいまおかが、インタビューします。よろしくお願いします。



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【台本を作る】

本木「台本を書き上げたのが、撮影の一週間前だったんですよ」
いまおか「ええ!」
本木「もちろん、前の準備稿はいくつかあったんですけど、結局決定稿がないままクランクインせざるをえなくなって・・・」
いまおか「それはどういう理由からですか?」
本木「キャストのスケジュールも含めて、その時期にフィックスされてしまったので、どっちかというと見切り発車的にやらざるをえなかった。」
いまおか「台本はどんな感じで作られていったんですか?」
本木「羽原大介さんという脚本家が書いた準備稿は既にあったんですよ。だいたい大枠はいいなと思ったんですけど、水木プロからなかなかオッケーがでないというんで、それから僕が入った。羽原さんが忙しくてできないから、結局僕が頭から全部書き直さざるをえなくなった。だけど、現場の準備はこれだけCGがたくさんある作品なんで、早めに進めなくちゃいけないから、ロケハンをしながら書き進めるいう事になったんですね。この映画は水木しげるワールドを僕なりの解釈で再現する事だろうと思ったんで、漫画を読み直し、撮影場所は、時代劇の撮影で長く通った京都映画をベースにしようと決めたんです。


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『しんどそうなことを笑顔で話す本木監督』

京都近辺、遠くは大阪や三重県とかその辺りまで足を伸ばして、今も妖怪がいるなっていう雰囲気を持ってる場所とか、妖気が喚起される場所を探した。それはまあ、自然の中でだったり人工物だったり、それを見ながらどんどん台本を変えていったんですね。後は、鬼太郎ファミリーの妖怪それぞれに活躍の場を作ってやろうと思ったから、羽原本を下敷きにしつつ、結局アタマからおしりまで全て書き直してしまいました。だから、段取りとしては、台本ができました、スタッフを集めました、はい、クランクインです。という風にはならなかったんです。要するに脚本が未完の状態なのにCGスタッフも美術スタッフも準備が待ったなしだから、どんどん集まって来て、皆で手探りのような状態で進めていったということなんですね。それと特殊造形物はさらに早めに作らなきゃいけないんで、台本ができてないのに、着ぐるみ系の妖怪と特殊メイクを必要とする妖怪数十体を、適当に決めて発注しました。ロケハンには、チーフ助監督や、カメラマン、美術監督、照明技師と一緒に、VFXスーパーバイザーとアクションコーディネーターにも、常にロケハンに一緒に行って貰って、アイデアを出し合い、日々イメージを共有することを続けて、それを本にまとめていったんです」

【ゲゲゲの鬼太郎】

いまおか「子供の頃は、ゲゲゲの鬼太郎のどこが面白かったですか?」
本木「思い返すとね、僕は、70年代の鬼太郎をみてたんですけど、ヒーローなんだけど、めんどくさがり屋でずぼらで、昼寝ばかりしているんですね。そこがとっても良かった。僕なんか共感が持てたわけですよ。ダメでいいんだみたいな。髪の毛針とかリモコン下駄とか色々な事やって戦うんですけど、結局悪友だけども親友でもあるねずみ男に騙されたりするところとかね、お人好しでやる気のない鬼太郎が僕はとっても好きだったんで、あまりスーパーヒーローとか天才少年にはしたくなかった。妖術にかかって、こんな団子みたいに丸まったり、いろんな危機に簡単に陥るんですけど、それを擬似家族的にいる砂かけ婆や猫娘に心配され、目玉おやじに助けられたりして、何とか生きながらえてるっていうところ。何より向上心のない少年が、人間の子供に頼まれて仕方なく立ち上がる、あるいは事件に巻き込まれてしまうところが面白かった。しかし、ゲゲゲの鬼太郎もアニメでは、80年代後半から流行りのアクション映画やゲームの影響受けちゃって、どんどん正義の味方になっていくんですよ。スターウォーズのライトセーバーみたいなの振り回しちゃって、女の子を守り、時にはねずみ男まで真面目に戦う。これは違うと。単純な正義の味方じゃないんですよ、それが水木ワールドの素晴らしいところじゃないですか。そこに、ガキとしては新鮮さを感じ、夢中になったんです。仮面ライダーとかウルトラマンとか、特撮ヒーローものが大好きでいっぱい見てきたんですけど、そうじゃないヒーロー像が出てきたっていうのが、良かったんですよね」

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『映画のキーイメージがこれです』

【2種類のエンディング】

本木「実は、エンディングが2種類あるんですよ。」
いまおか「ええ!そうなんですか?」
本木「全体のなかでは後日談みたいなところなんですけど、最後にね、実花ちゃん(井上真央)という女の子と彼女の弟が、鬼太郎と出会って過ごした時間の記憶を消されるんですよ。人間に恋心を抱いた息子を案じた目玉おやじが差し向けた、モノワスレという妖怪の術で。あれは、僕は絶対、鬼太郎が忘れた方が良いと思ったんですよ。鬼太郎が、彼女と出会った記憶を消される。だけど、人間の女の子は、鬼太郎という妖怪に出会ったことによって目に見えないものも信じられるようになったという話に、どうしてもしたかった。妖怪と違って人間は死にますから、彼女の経験は消したくなかった。だから、台本はそう書いたんです。ところが、大勢のプロデューサーたちからもの凄い反発を受けまして。「ヒーローが記憶を無くすのは絶対やめてくれ」とか、「せつなさが出ない」とか、「あの鬼太郎が妖術にかかるわけがない」とかね。結局「人間が記憶を消される」パターンの差し込みを書きました。これがその号外なんですけど。(本木監督、号外を取り出す)・・・・

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『意地を感じる差し込み』

いま思うと、僕も2種類のシーンを撮ってしまった時点で、監督としては「負け」なんですね。編集していくうちに、「監督のパターンは鬼太郎が何本か成功したらやって下さい」と説得され、スニークプレビューしてどちらがいいか決めようという話もあったのですが、プリント代も莫大にかかるし、本筋には影響しないからまあいいかと諦めました。ただ、DVDでは必ずディレクターズカットを出すということを条件に、仕上げでは、外したシーンの音とCGはすべて作っておきました・・・どんなシーンかって?元の台本だとね、昼寝している鬼太郎の部屋に、モノワスレの谷啓さんがそーっと入ってきて、「忘れ花」と言う妖怪花をかざす。そして「ガチョーン!」の仕草をすると、花粉が飛散して鬼太郎に降りかかり、実花たちとの記憶が消えるの。で、シーンが変わって、通学途中の実花(井上真央)ちゃんが、消えた携帯のツーショット写真を見て「鬼太郎さん、見えないけどいるよね」とつぶやいて晴々と自転車に乗っていく。さらに、こういうエンディングを加えて、こうなったんですね。まあ、見た人から言わせると、どっちでもいいというんですけど(笑)後日談としては、僕は今上映されているものよりも、自分が台本で書いたやつの方がいいと今でも思ってますけどね。」

【カット割り】

いまおか「カット割りはどういうふうにやってるんですか?」
本木「最初はオーソドックスに割ります。どこで状況を見せるかじゃないですか。ワンシーンごとに。それを最初に見せるのか、終わりに見せるのか、真ん中で見せるのか、ということをまず考えて、後は、ここは寄らなきゃいけないなとか思ったり、芝居が割りにくいところは流して長めにダブらせて撮るとか。それはしつつ、今回楽しみだったのは、CGチームが延べ200人ぐらいいたんですよ。アニメを作ってるスタッフが多かったんで、彼らのコンテにとても興味があった。で、お願いしたら、CGシーンのカット割りをどんどん提案してくれました。アクションコーディネーターの諸鍛冶さんも自分で割るっていうから、じゃあコンテ出してよって言って、字コンテを考えて貰ったんですよ。そしたら助監督たちを使ってビデオコンテまで作って提案してくれて。とても助かったし、刺激になった。僕が、撮影しながらも台本を書かなきゃいけないっていう危機的状況をみんなわかってくれていたからね。余裕がない時に、力のあるスタッフがアイデアを絞り出してくれたから、総合的に良かったんじゃないですか。おかげで僕は、芝居部分を中心に考えることができたかなって、今回思ってるんですね。」

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『芝居部分のカット割り』

いまおか「芝居とCGがまじってるとこっていうのは、どんな感じになるんですか?」
本木「例えば、鬼太郎ハウスの中とかは、僕のカット割りなんですよ。お芝居、やりとりありますよね。後は、妖怪大法廷のシーンがあるんですけど、お芝居部分は僕が割っていくんですね、アクションが始まると諸鍛冶氏が、事前に打ち合せ済みの絵コンテを元に、こんな事やります、監督、こんな事やりますって確認しながら動きを付けていく。そのコンテは、こうやってスタッフに分かるように絵にしてくれているのが、CGチームだったんですけどね・・・妖怪大法廷のシーンでいうと・・・(本木監督、台本をめくる)

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『芝居とアクションとCGの融合』

ずっと前半のお芝居部分は自分でカット割りしていって、例えば、ここから、「裁判長!」って言って目玉おやじが走り出てくる、カラスが出てくる、この辺は、やってみてくれって言ってお任せしたり、そうするとこうなって(台本に細かくカット割りされている)だーっとこうなってくるんですよ。張り切ってやってくれるわけですよ。で、また戻ると僕のカット割りになるわけです。芝居が一番大事ですよね、そういう共通認識がある上で、芝居とアクションとCGが交ざり合っていくんです。あくまでCGは誇示するものではない、凄いだろうっていわんばかりの、アメリカの洋画みたいに誇示するものではない、誇示せずにさり気なく描く、そういうふうに行きたいなと。」

【不安】

いまおか「現場で何か不安はありました?」
本木「やっぱり不安だったのが、人間と、人間に近い妖怪と、着ぐるみを来た妖怪と、フルCGが交じるわけじゃないですか、それがどう馴染んでいくのか、融合するのか、ちょっと間違えたらすぐウソだと思われちゃうんですよ。今回に限っては、いつもより観客の視点が要求されてるかなって。一見して離れられたら終わりだなっていうのがありました。まあ全体はウソなんだけど(笑)・・・特殊造型物と人間と、人間が扮装した妖怪と、着ぐるみが一堂に会すると、とたんにウソっぽくなるんですよ。「ヤバい!」という雰囲気が漂う。これを現場でどこまで処理できるか?ポストプロでどこからどこまで馴染ませられるか?どう統合していくかの判断が、常に迫られました。例えばポストプロでは、造形物の目玉を多少動かしてみたり、微妙に口を動かしてみたり、その辺をCGのスタッフがとってもねばり強くやってくれたので、助かりましたよね。造形物の妖怪の目玉ひとつとってみても、ちっちゃいごまみたいな黒目の部分が少しゆらゆら動くだけで、本物っぽく見えるんですよ。・・・目玉に、向き合っている人を映り込ませたりね。「細部にわたる質感と馴染みかたの追究」ですかね。それが勉強になりましたね。」

『不安こそ勉強の種』

【面白い】

いまおか「撮ってて面白いと感じることはありますか?」
本木「現場に入って、今まで考えたことが全て崩れる時ですよね。それが面白いんじゃないですか。そこからどう作っていくかっていう時が、一番スリリングですよね。例えば、前日までに一生懸命カット割りして行くじゃないですか、ところが現場に入って全然状況も、俳優の雰囲気も芝居も違って、全然違う方向に芝居が行ったとしても、最終的に当初考えていたカット割りに戻ることが結構多い。だからイメージを持っておくっていうのは大事なんですね。段取りやったり、芝居やっていくうちに、違う違う、俺の思っているのと違うって思いながら、俳優に引っぱられて全然違う方向に行ったり、揺れ動くことが結構多いんですけど、結局当初のカット割りに戻るって多いんですよ。だから絶対考えておくべきものでしょうね。教科書的にいうと、ワンシーンでいうべき事はひとつだ、ワンカットの中にも意味を持つようにって、カット割りしながら考えを深めていくわけだから・・・そこが面白いところかな。」

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『細かい・・・わたしにはできません』

【芝居】

いまおか「今何を思いますか?」
本木「CGもアクションも特殊造形物もとにかく色んなものを駆使して、映像を作ったんですけど、やっぱり一番興味深いのは、お芝居かなという。妖怪であれ何であれ、僕が見たいのは、どんな性格のヤツが置かれた状況で何をするか、しないか、言うかってことだな、というのが分かりました・・・ねずみ男が一番面白かったと僕は思って・・・ねずみ男が一番自由だったなあって思ってね、ひどい目に遭ってもやりたい放題やってる自由なやつっていうのが、一番映画では僕が見たいし好きなんだなあって思いました・・・水木さん原作の妖怪映画を撮ってみて感じたのは、声高に正論吐いて、「何かを守るために俺は戦う」なんていうキャラには、自分は全く興味ないんだなってことです。・・・人間の脆さとか弱さが出て、それが面白おかしければ、僕の場合、イケてる映画って思えるんで」

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『笑顔がすてきな本木監督』

本木監督、今回の取材に協力して頂き、ありがとうございました。勉強になりました。
[取材・構成 いまおかしんじ]
[取材サポート 檀雄二]
2007年6月11日監督協会事務局にて