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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

わが映画人生

わが映画人生 黒澤明監督編

『わが映画人生 黒澤明監督』1993年製作

 

インタビュアー 大島 渚

担 当 佐藤静夫

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【一部抜粋】

大島渚「これまで黒澤さんは、ご自分で監督であると同時に企画から、脚本から、まあプロデューサーでもやってこられたと思うのですが、プロデューサー、あるいは製作会社との関係でご苦労があった時期もあったと思いますが?」

黒澤明「プロダクションを作ったのもね、『隠し砦の三悪人』でね意外と時間がかかっちゃったんですよ。あと、ごくわずかを残して快調に進んだわけ。最後、富士山のロケーションなんですよね。一週間か十日のつもりで行ったら百日かかっちゃった。台風が3回来てね、御殿場の町は晴れててもロケ地はいつも雨なんですよ。もう、困ったねこれは。会社は怒るしね。東京は晴れてて、御殿場も晴れてるんだよね。藤本(真澄プロデューサー)も来て「何してる!」って言うから、クルマに乗って現場に行くと凄い雨なんですよ。でも、どうも納得しないんだね。我がまま言って僕が勝手なことしてるみたいに...。成瀬さん(成瀬巳喜夫監督)が言ってたよ。「一番早く撮りたいのは監督だよね」って。そうなんですよ、早く撮りたいのは監督なんですよ。中略。その後で、プロダクション作れと。プロダクションでね、自分で金をあれしなきゃならないことになれば、頑張らないで、適当なところで妥協すると会社は思ったんじゃないのかな。それで作ったのが『悪い奴ほど良く眠る』」

大島渚「これも、お金がかかったんですよね?」

黒澤明「かかったですよ、そりゃ。プロダクション作ったからって、みみっちくなるなんてみっともないことはしたくないからね(笑)。一番難しいシャシンをやってやろうというんであれをやったわけだけどね。でも、プロダクションをやって本当に権利を主張してね、日本だけじゃなく外国ともちゃんとやらなきゃならないけど、これはどうしてもやらなきゃいけないことだね。日本の映画界の一番の弱点はね、会社に映画を撮らせていただいているというような気持で皆働いてきたことなんですよ。そうじゃないんだ。それで会社は儲けてるんだ、ちゃんとね。なんか、ありがたがってさ、ちっとも契約も何もしないでさ、サラリーマンみたいに働いてたってことが間違いの元なんですよね。中略。これから、本当に映画が伸びていくためには、監督の権利だとかね、主張をちゃんとするためにも契約をきちんとしなきゃいけないね」

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黒澤明「いつも僕が言ってるでしょ、映画は世界の広場みたいなもんでさぁ、スクリーンを見てね、色んな国の人の生活を見てね、その国の人の気持になって、一所懸命そこで一緒に泣いたりね、笑ったり、怒ったり、で本当にお互い理解していくんでね。しかし、本当にね、こんな大切な手法はないんですよ、政治的にもね。だから映画ってものが、本式に昔の隆盛を取り戻そうと思ったら、政治だね。政治がもっと(映画を)大切にしなきゃダメだね。フランスなんか大切にしてるでしょ。それでもダメなんだから」

大島渚「比較的、大切にしてますね」

黒澤明「みんな、各国、政治家が実に関心持ってますよね。で、みんなよく見てますよ」

大島渚「どうしたら、いいと思われますか、今、日本の映画の状況、あるいは、映画人におっしゃりたいことがあったらぜひ」

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黒澤明...まず、もっと自信持つ必要があるよね。で、やっぱり権利を主張しなきゃ。そういうところからも来てると思いますよ。で、本当に作りたいと思うものを作るべきだと思いますよね。中略。ある時期、(イギリスの国立劇場で質問に答えたんだけど)日本はある時期、凄い監督がずらっと輩出した、そんなことは他の国ではあり得ないことなんだけど、それは何故かって言うんだね。僕は何でもないって答えたんだ。あの時は、プロデューサーなんて者もいなくてね、全て監督のやりたいものを黙ってやらせてたんですよ。何も口を挟まなかったって言ったらみんなびっくりしてたけど」

大島渚「黒澤さんが思われる、その時期というのは大体いつからいつまでですか?」

黒澤明「だから、成瀬さんの全盛時代ね、溝口さん、小津さん、みんな、あの人たちは作りたい作品しか作ってないよ。まあ、会社がこれやってくれっていうものを、成瀬さんなんかたくさん撮ってるけども、少数ですよ。大体成瀬さんがこれでというのを撮ってるからね。ところは今はそうじゃないんですよ。中略。例えば息子に、親父、今度は少し大衆性のある、なんかこうヒットするようなさ、大当たりするようなものを作れと言われたってさ、そんなこと言われたら作れなくなっちゃうでしょ?(笑)。中略。作りたいものしかできないんですよ、本当のことを言えば」

大島渚「そう思います」

黒澤明「頑として、そうなんですよ。『七人の侍』とか『用心棒』だってね、(作りたいものをやって)偶然できるんでね。それを、ああいうものをといったって出来るもんじゃないんだよね、困ったことには(笑)」