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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

私のこの一本!

蜂須賀 健太郎 監督篇

2016年06月12日

冒険者たち

                            蜂須賀 健太郎

 僕は主にファンタジー映画を作っているのですが、ジャンルや、年代、国籍を問わずに好きな映画や、尊敬するたくさんの監督がいます。本当にいっぱいの映画を愛しているので、一本を選ぶとなると、深く悩んでしまいます。でもとっておきの作品は、ロベール・アンリコ監督の『冒険者たち』です。
 子どもの頃、たくさんの映画を観て、映画を作り始めたのですが、大人になったらいつか僕も『冒険者たち』のような映画を作りたいと思っていました。子どもの頃は、早く大人になりたくて、いつも自分よりも上の世代の人たちが作った映画に憧れていました。これは1967年の作品ですから、50年近くも昔の映画なのですね。
 レーシングカーのエンジンを開発する、ローラン(リノ・バンチェラ)と、飛行機クラブで教官をしているマヌー(アラン・ドロン)、そして芸術家の卵レティシア(ジョアンナ・シムカス)の三人の、友情。夢破れた三人が、海の中に沈んでいるコンゴの財宝を引き上げるために、アフリカへいく。しかし財宝をねらう一味が現れて...。
 初めて観た16歳ぐらいの頃は、他の大人たちと同じようにレティシアに憧れ、ローランとマヌーのような無垢な結びつきに感銘を受けました。何度も観ているのですが、もう細かいところを忘れてしまって。大人になった先日、ブルーレイでようやく再会。詩情溢れるジャン・ボフェティの美しい映像と、誰もが口ずさみたくなるフランソワ・ド・ルーベの甘いメロディ。時を越えて、やっぱり胸が熱くなってしまいました。
 ああ、毎回観るたびに、感情移入してしまうラストシーン。今にも死にそうなマヌーにローランは、「レティシアは言ったぞ、お前と暮らすって」というのです。「この嘘つきめ」とマヌーの最後の言葉。レティシアは、ハンサムなマヌーではなく、中年のローランに惹かれて、死んでいったのです。最後まで二人のことを大切にしているローラン。そして死んだマヌーを見守り、やがてローランがたたずむところで、空撮のキャメラが遠ざかり、海の孤島が小さくなって、あのメロディが流れ始めます。すると切ない気持ちが溢れてきて、泣かないと決めた自分がいるのに、どこからともなく目頭が熱くなってしまうのです。
 職業柄、いつもは映画を、物語だけでなく、つい撮影や編集といった技法や、構造そのものを考えて鑑賞してしまうところがあります。しかし自分にとって本当に良い映画とは、観ているうちに、完全にのめり込んでしまい、いつの間にか分析していたことすら、忘れてしまうものなのです。
 レティシア演じるジョアンナ・シムカスは、若くして俳優のシドニー・ポワチエと結婚して、映画界を引退してしまうのですが、このブルーレイには、何と歳をとった本人のインタビュー映像が、ボーナス特典で入っているのです! ジョアンナ(失礼!レティシア)は、映画の中では死んでしまったのですが、年齢を重ねましたが、彼女が生きていて本当に良かったです!(笑)
 ワイラーの『ローマの休日』などもそうですが、優れた映画を観ていると、いつも間にか映画の登場人物への想いが強すぎて、もう実在している人物かのように、「虚構と現実との境界」がなくなってしまうことがあるのです。我ながら困ったところです。そしていつも物語の結末の後、登場人物たちがどうなってしまうのか。そんなことを考えさせてくれる映画が好きなのだと思います。

この記事は、監督協会会報「映画監督」2015年12号からの転載です。