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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

私のこの一本!

鳥井元宏監督 篇

2016年04月23日


「打撃王」「草原」
                          鳥居 元宏

この記事は、監督協会会報「映画監督」2015年8号からの転載です。


 突如ガラス窓を突き破って、何かが飛び込んで来る。床に転がったのは野球のボールである。
 破壊された窓から見える野球場。そのダイヤモンドをゆっくりと廻っている、窓を突き破った大ホームランを打ったバッター。若き日のMBLの大スター選手ルー・ゲーリックである。ゲーリー・クーパーが主人公ルー・ゲーリックを演じるアメリカ映画『打撃王』のトップシーンはこんな展開だったと記憶している。
 痩せこけた中学生の私は、観客席の片隅で、息をのんでスクリーンを瞶めていた。
 『映画というのは何と凄いものなんだ!』
この瞬間、後年映画界に飛込もうと決心したのかもしれない。
協会から与えられたタイトルは、"私のこの一本"である。然し、私はこれと同じような経験をもう一度している。
 同じアメリカ映画『大草原』である。アメリカ大陸横断鉄道を建設する大工事を背景にした所謂西部劇である。移民して来た白人達が鉄道を作っても作っても、それに反撥する原住民アメリカ・インディアン(現在では差別用語として使わない言葉になっているが、当時は大っぴらに使っていたので使う)が破壊を繰返す物語だった。
 やっと復旧した線路を試運転列車で走る。その一輌に乗っている主人公のガンマン(役者が誰だったか忘れた)とその恋人。当然のようアパッチインディアンが襲う。線路は破壊され列車は転覆、客車の周囲を奇声を上げたアパッチが走り廻り、徐々に二人に迫る。捕らえられると生きた侭、頭の皮をはがされると言い伝えられている。主人公の拳銃はもう一発しか弾丸は残っていない。死ねば頭の皮ははがれないですむ。主人公は恋人を殺し、自分が頭の皮をはがれようと決心、恋人の頭に銃をあて引金を引かんとする。-その時-遠く、かすかに突撃ラッパが聞こえ、警備隊を乗せた列車が突っ走って来る。
 客席の痩せた中学生は、夢中で拍手をしていた。
 『えいがというのは何と凄いものなんだ!』
 この一本も、間違いなく私を突き動かしている。"この一本"ではなく、この二本になってしまうかもしれないが、若し、痩せこけた中学生の私が、この二本を見ていなければ、後年、映画界に入り、脚本家・監督として仕事をし、映画監督協会に入り、この短文を書くことになってはいなかったかもしれないのだ。そう考えると、やはり、
 『映画というのは何と凄いものなんだ!』