
Tokyo Noir
(聞き手・構成:天野裕充/DV取材:山本起也)
2001年度の日本映画監督協会新人賞を『PAIN/ペイン』で受賞した石岡正人監督の新作『Tokyo Noir』に、これまた『夜を賭けて』で2002年度の新人賞を受賞した金守珍(キムスジン)監督が、ヒロインの相手役で出演しているという情報を得、これは何か面白いことが聞けるのでは?ということで今回のインタビューとなった。
お二方とも、相当ハードなスケジュールの合間を縫って今回の取材に応じてくださったことに感謝感激。その内容はというと、時に過激な発言もあったりして大変に興味深いものとなった。
石岡正人(監督)
日本映画監督協会新人賞を受賞。
(※もう一人は熊澤尚人監督)
石岡:3話あって1、5話づつなんです。だから、金さんに出ていただいたところは2人の共同監督なんです。女の人2人の話なんですけど、その2人が会いそうで会わない話なんですよ。その女性1人に対し、パートを受け持っていくという。
石岡:ぜんぜんタイプの違う監督だから、面白いかなと。
石岡:ええ、僕が‥‥。金さんが受賞(日本映画監督協会新人賞)なさって、協会のウェブのビデオを撮らせてもらった時におおッとオーラを感じて‥‥僕が役者さんを見ていて常々思っていたのは、いるだけで伝わってくるのが弱いっていうか。構えてきちゃって、小手先でやられることが多かったので。いるだけで存在感がある人に出てもらえないかなって、金さんがポーンと(頭を指し)浮かんできたら消えなくなってしまって
石岡:僕が担当したのが新人の女の子だったんですけれども、小手先の芝居をちょこちょこってやるような子だったので、ガツンっていうのが欲しいなって。(金さんみたいな)ガツンタイプの人をぶつけたらどうなってくるのか、コラボレーションが見たかったという。その女性を描くという視点から言えば、ですね。
金 守珍(出演)
新宿梁山泊代表。03「夜を賭けて」で劇場用映画を初監督。日本映画監督協会新人賞を受賞。
石岡:結果は、もの凄くいいと言うか。かっこういいですよ、金さん(笑)。
金:(笑)そう言われると照れるだけでね。実は役者の方は、お休みしてるんですよ。自分の中で、両方の視点でやってると中途半端になるのがわかってきちゃったんですよね。昔は若さの勢いでできたんですけれども。今(監督が)おっしゃったように、役者というのは描くときの道具でもあるんだけど、石岡監督の場合は、決めた形じゃないものを、現場で滲みでるものを狙っている。『ペイン』見たとき、凄い新しい感覚でね。細かいヒダを描ける人で。僕の場合は、どっちかというと思い描いちゃうキャラクターに、キャスティングで当てはめちゃう。すると僕はどっちに属するの、みたいなね。ナチュラルとかリアリティとか考えていったら、だんだんと役者ができなくなっていっちゃうんですよね。一回ホン読んじゃうとどうしても離れなくて、ゼロにするのは難しいですね。その意味で、監督が一番うまいはずですよねえ、演技が。
石岡:それは‥‥ないですね!(一同爆笑)
金:知ってるわけだからね。でも演出とか監督とかは、役者をやるには一番シンドイとこにいるんじゃないかな。物を作って俯瞰して見ていますからね。その一部分で暴れるっていっても全体が壊れちゃう可能性もあるじゃないですか。どっちかでは思いっ切り暴れ馬を暴れさせておいてね、調教していくのが監督の仕事か、なんて映画監督やって初めて分かりました。今、石岡監督に学ぶのが多いのは、女性達の細かいヒダですね。どう動くか分からない曖昧さがあるじゃないですか。でもなんか一つスーッと通ってる。希望が持てるものがあるんだよね。女性と言うものを、石岡監督から学んでいこうかな、なんてね。『Tokyo Noir』なんか見ていると、凄いリアリティがあるんですよね。
Q:金さんから見て、石岡監督のそういう技術面での秘密、分かりましたか?
金:ちょこっとですね!(笑)まだまだ知りたいっていうのはねえ(ありますよ)‥‥例えば、ドキュメンタリータッチというのがあるじゃないですか。素材を的確に現場で捉えていく触覚は凄いと思いますよ。雰囲気と。何してるわけじゃないけど、ふっと‥‥環境つくっちゃうんですよね。空気を読むのがうまいですよね。
石岡:自分じゃ、ちょっとわかんないですよね。
金:変幻自在ですよ!
石岡:シナリオは設計図なので。僕の場合は人のシナリオでなぜできないかというと、現場で変えちゃうんです。雰囲気見て、現場で台詞をどんどん変えて、その現場にあう台詞を作り出さないと、雰囲気は(画面に)でないのかなって。
金:びっくりしましたよ。シナリオ読んだら、5行くらいしかない。行ったら2ページくらいあって、助監督も知らないんですよ!(一同爆笑)‥‥メイクしながら「大変だね、今からこれやるの?」って言ったら、相手の女優さんも知らない。みんな見にきて、「エーッ、知らないッ」って。
石岡:あれ、怒られちゃって(笑)
金:そしたらもう5分後には行くっていうわけですよ。これは凄いなーって思うなあ。だいたい頭に入っていて、その中で新鮮なものを捉えて、できるものとできないものを見ながら削いでいっちゃうんですね。それは俺にはできないなって。僕なんかシナリオを変えない方なんですね。長ければ一字一句変えずに圧縮する。蜷川幸雄の出身だからね。でも、こういう現場も楽しいと思ってね。
石岡:結局、金さんや主演の女の子たちが出してくれる台詞が、こういう言い方をするとか‥‥出てくると現場は回ってくるんですよ。役者の人たちが乗ってきてくれる。そうすると、僕の場合はうまくできると思ってる。逆に貰うっていうか、どういうこと考えているのかなって。台詞変えちゃってもいいからやってみると(頷きながら)「ほうほう‥‥」となるのが、また楽しくっていいっていう。そういう感じで助けられること多いですけどね。
金:駄目なときってあるでしょ?かみあわないっていうか。
石岡:駄目なときはですね‥‥(少し考えて)とにかく動かしますね。台詞を言う前に、とにかく動きを決めてみて、動きを決めてからそのときに「どういう台詞が言えますか?」って聞くと、すんなりいく場合が多いですね。で、「その動きができない」って役者が言い始めた時に、生の言葉が出てくると割とすんなり行く。ただ喋ってるだけっていうのも大切なんですけど、たぶん何かの動きっていうか、そういうのがないと映像としては難しいのかなって。
石岡:ぜ~んぜん!僕、もう芝居見ないと絶対カメラワーク、カット割りしない人ですから!カット割りする監督さんたちは、不思議!ある程度は決めないと駄目ですよ。アクションとか決めないと絶対できないですけど、僕はあんまりできないですよね。
石岡:カメラマンも慣れていて、僕がやっていると、勝手に構えてくれるから(笑)。役者さんは「表情」とか「空気感」とか捉えないと、意味ない。何を撮ってるのかしらってことになりかねない!

金:ビデオの質が良くなったんですかね。あれ、フィルムでやったら、あそこまでの機動性はないですよね。
石岡:35(mm)はないかも知れないですね。今回ハイビジョン(パナソニック)で撮っているんですけれども、撮り方が変わってくると思うんですよね。長回しができるんで、ベーカムくらいの大きさだからハンディでも撮れるし、僕はビデオ育ちなので、35なんかよりは、ぜんぜんやりやすいところがありますね。
石岡:今回は予算ですよね(笑)。それと今後に向けて、フィードバックする技術を今のうちに貯えておかないと、辛いなっていうのがあったので、とりあえずビデオでやってみて、技術的なことをフィードバックして、フィルムとの違いを自分の中でハッキリさせたいというのがありましたね。
石岡:技術的なことは分からないですけど、編集がものすごく楽なんですよ!(笑)ビデオですから、その場で瞬時にあ~だこ~だヤレる。ただ編集マンがいる意味っていうのがあるので、一概に言い切れないものがあるんですけれども。期間的には、いつもの編集の3分の1ぐらいでできるんです。
石岡:逆に混乱しましたね。安易にできる分だけ、いろんなことをやり始めますから。ただ、それも楽しいですよね。
金:いただけて嬉しいですよね。認めてくれたって言うのが大きいですよね。ただ、もう一本撮ってそれがちゃんと認められるようでしたら‥‥まだ実感がないんですよね。本当は『夜を賭けて』を完成してから(※映画は第二部で完成する予定)仲間に(協会に)入れてもらおうかと思っているんですけど。変わったことといったら監督したことで、世に残るものが一つできちゃったんですよね。演劇も確かにビデオで残していますけれど、それはデータだけであって、本当のいいもの、一番いい状態のものは残っていないんですね。映画は一番「いいところ」を残していくっていう。この違いは分かったかなって。
石岡:やってきたことが、とりあえず間違ってなかったかなっていうことの「支え」にはなりましたよね。このまま進めて行っても大丈夫かなっていう。次の作品を企画していて、持っていく時に、賞を取れたと言うことが一つの心の支えにはなりますよね。相手にどう思われても、絶対認めてくれる人もいるから通したいって、強気になれる(笑)。なかったらメゲちゃうこともあったと思うし。スポンサーに対しての1つのガードっていうか。
金:映画監督が選んでくれたっていうのは、励みですよね。
石岡:うん、うん!(と大きく頷く)
金:ボロクソに言われて終わることもあるって思っていたけど(笑)。これは、どの賞より嬉しいですよ!パーティで、石岡監督が司会やってくれて、そしたらお歴々がいて‥‥(思い出すように)山田洋次監督が、金大中の時計くれちゃってね。「君がはめたほうがいいよ」なんて!
石岡:僕も金さんも「自主映画」なんで!(一同爆笑)‥‥認められないと、世間の中の藻くずに消えていくっていう。興行会社や映画会社が、ケツ持ってくれるわけじゃないので。
石岡:僕の場合はちょっとズルイので‥‥Vシネとか、AVとか撮っていて、いろいろな題材を撮っていても、こぼれ落ちるものがある。映画会社とかクライアントから「これは入れなくていい」って言われても、実は大切なことだったりするから、それをすくい取るような映画が撮りたいっていうのがあったんです。お金の時期を見て、リサーチをかけて、海外でもなんとかいけそうかなとか目安がすんだところで「GO」と思っているんです。
石岡:いやあ、お金からんでますからね(笑)‥‥1千万、2千万の金がポンと動くわけですから。そこはリサーチかけますよ。
金:映画監督たちと、配給の世界って言うのは、まったく違うんですよね。純粋にモノを作っている者たちが、じゃあ公開っていったときにはすっごい苦労しなくちゃいけない。お金だけの世界になっちゃって、作品ではないんですよね。(今回も)怒りに近い空しさを感じたんでね‥‥若松監督がなぜシネマスコーレを名古屋に作ったか凄く分かってきて。せっかく新人賞もらって、いろんな紹介の仕方があると思うんですよね。それがないまま終わっちゃうと言うのが、もう一歩足りないかなって。ビジネスとビジネスじゃない中間で何かを作りたい。そういうの、あるんですかね?
石岡:若手の監督で、その辺をうまく嗅ぎ分けている監督さんいますよね。昔で言うコンセプチュアルではないけれども、例えば行定監督なんかは、女の子の空気感を捉えて次に進んでいくとか、岩井俊二監督なんかも、ある意味で岩井俊二ブランドについてくるとか。若者を惹き付けていく独特の売りみたいなのをしっかり持っている監督さんはいますよね。
金:塚本監督とかね。
石岡:ええ、塚本監督もそうですね。
金:彼の『鉄男II』とか、僕も出て現場見てますから。大きいのは『ヒルコ』だけだったっていうんです。あとは全部自分でやっているっていうんです、今でも。
石岡:最近の2作は違うところでやっているんですよ。すごくいい成績をおさめていますね。
石岡:演劇の動きで、タレントとかを引き込んでくるパターンてあるじゃないですか、あれはどうなんですか?
金:そこには文化は育たないですよね。消費でしかないから、脅威はないです。そこに来た者はまた散らばっていくわけですから。劇団のいいところは、そこから次に向かうものが何かというのが出てくるわけです。人が集まって、無駄な時間を過ごすというのに劇団の良さがあって、酒飲んで何を話すってわけじゃないけど、ポッとでる何かがあるわけです。タレントさんたちを使うと、もっと薄くなりますよね。退屈しのぎで見に行く分にはいいですけどね。劇団四季はその成功例です。シアターコクーンとか。
石岡:(今回の映画も)女性向けの映画って言うことで、20代、30代の女性を集めて見てもらったんです。その後に感想を聞いたら、映画を見なれていないんですよね。月に1本ぐらいしか映画を見ていない。じゃあ、どういう見方をするかというと、必ずストーリーを追うんです。筋を追って、それが面白いか面白くないかしかないんですよ。何を見てるの?っていう。だから少しでもストーリーが分からなくなるとパニックになる。テレビは何から何まで全部説明してくれるじゃないですか。ああいう過剰なものに慣れているので、説明してくれないってこと事態が「そっちが悪いんでしょ」っていう感覚なんです。お金を出しているんだから、全部分からせてよって。こっちからすると、それを想像するのが客だろうっていう部分があって。それは物凄く乖離しているなって。そういう女の子達が観客の動員数のなかでも大半を占めている。興行の側は、そういうのを気にしている。だからいい作品が生まれたとしても、興行に結びつかないのは、女性をどのくらいターゲットにできるのか、もしくはシニア世代。‥‥って話になってくる。おまけにテレビの語り口にみんな洗脳されているから。どう相手していけばいんだろうっていうの、ありますよね。
金:手強いよね。ハナっからうちは、ストーリーが追っかけられないようになってますから(笑)。派手に飽きさせないっていう方法もあるでしょうけど。
石岡:映画はお金がかかるから、僕や金さんみたいに自主制作して、自主制作の色を持ちながら作っていくっていう方法を選ぶ人たちって、少ないと思うんですよね。もちろんドキュメンタリーやっている人とか、そういう色は濃いんですけれども、商業映画の監督達って、どうしても役者から決まるんですよね。誰々もってきて、誰々もってきてと。すると、その誰々がホンに対して注文を付けるわけです。するとどんどん毒が削ぎ落とされてきて、監督も雇われているわけだから、どうしても波風たてないようにやっちゃうんだよね。
金:そうなんだよね。日本の政治と変わらないよ。骨抜きなんだよ!
石岡:そういう映画を、何本も何本も見せられている観客にとってみれば「つまんねえ日本映画は」って、ずっとなってきたと思うんですよね。
金:スポンサーありきのテレビドラマと、変わらなくなっちゃったんだよね。
石岡:おまけにテレビで売れている役者さんを使ってくれって話になる。すると、テレビで売れている役者さんが、テレビと違う芝居をしてくれるかっていうと、それもないわけだから。そうすると、テレビのミニ版みたいなのができてくる。
金:それは石岡監督の感覚と同じだね、俺もね。有名人はあとからついてくればいいんだ。ただ興行のためには有名人は必要かもしれない。でも最初に主役決めるっていうのはどうも‥‥かつて根津甚八が『黄金の日々』でお茶の間に石川五右衛門で出たときの衝撃ってあるんですよ。俺はああいう役者を出したい、みたいなね。そういう志ってありますよね。色ついたのなんていらねえやって。
石岡:ありますよね!(首をタテに振って大きく同意する)
金:ここから出てって暴れてくれよ、最後には帰ってきてくれよ、っていうのがあるんだけど‥‥役者って帰ってこないんだよね。悲しい思いだよね!(一同爆笑)
□撮影風景写真:望月六郎・日笠宣子
□インタビュー12.10(クルージンにて)取材協力:秋元けい子
□広報委員:天野裕充(聞き手・構成)山本起也(DV取材・カメラ)
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