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作品インタビュー

娘道成寺~蛇炎の恋

娘道成寺~蛇炎の恋』インタビュー 高山由紀子監督
(聞き手・構成:浜野佐知 / サポート:石川均)

takayama01.gif高山 由紀子    45・4・4生
 東京都 慶応義塾大学文学部卒。シナリオライターとして作品多数。96「風のかたみ」で監督。 99(T・ド)人間劇場「凛として高野山に生きる」
(賞)ポルトガル・フォズ国際映画祭批評家大賞受賞
「娘道成寺~蛇炎の恋」公式ホームページ:http://www.jaen.jp/

2003年の東京国際女性映画祭でクロージングを飾った『娘道成寺~蛇炎の恋』。本作で2本目の監督作品となる高山由紀子監督は、日本の数少ない女性監督の中でメジャーでの活躍が期待されている。広報委員の浜野佐知がお話を伺った。

浜野「高山さんが映画を意識しはじめたきっかけは何だったんですか?」


高山「父が映画好きだったんです。当時、貧乏絵描きで仕事もあまり無かったんで、年中私を連れて映画館通いでした。当時は近所に映画館もあったし、それこそ生まれたときから映画館に通ってたんじゃないでしょうか。そんな中で、今でも不思議と残っているセリフがあって、佐々木小次郎っていう映画でしたけど、3部作で1回が終る度に佐々木小次郎が出てきて、「また一つ消えた、俺の夢が」って言うんです。それが最後のキメのセリフなんですね。小さい子がそんな言葉にポーッとなるのも変なんですけど、私、その言葉にすごくシビレて、トロトローッてなるわけ(笑)。「一つ消えた、俺の夢が」で、ああ、ステキ、トロトロー(爆笑)。なんでそんな挫折的な言葉がいいと思ったのか解らないけど、考えてみるとこれが私のシナリオの原点かしら(笑)。」

浜野「シナリオ作品は時代劇が多いですが、時代劇がお好きなんですか?」


高山「もちろん嫌いではないけど、何故時代劇になったかっていうと、私がシナリオライターになった頃、女に要求されるのはホームドラマが多かったんです。ところが私、ホームドラマがうまくいかなくて、どうも女性のリアル感がないのか、台所に立ってる女の人とかイメージがふくらんでいかないの。それで、結局時代劇なんですね。」

浜野「時代劇だったら女性でも大丈夫だったんですか?」


高山「時代劇っていうのは未知の世界じゃないですか。私、時代劇もSFだと思って書きます。時間軸のどっち側も謎の世界。意外と想像たくましくいける気がするんです。」

浜野「監督に進出したのは、やはり自分の想いを込めて書いたシナリオをあのバカ監督が、という思いから?(笑)。」


高山「そんなこと思ったこと1回も無いです(笑)。逆に言うと、あの監督のせいで変な映画になったと思ったら、負けたって気がするから嫌なんです。負けたくないんです、私(笑)。・・」

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                         新作への想いを熱く語る高山監督

  

「・・・映画やるのなら監督だって心のどこかで思ってたとは思いますね。でも私の頃なんて女の監督なんかもちろんいないし、絶対ありえないと思ってましたけど、でも、万が一ってことがあるかもと思って、自分のシナリオが映画化される時はなるだけ現場行ってたんです。貧乏な映画ばかりでしたからシナリオライターが現場に行ったら嫌がられるばっかりで、現場で自分の場所を確保するっていうのはシナリオ書くより難しいことでしたね。監督の一挙手一投足、もし自分がこの作品を監督してたら、ってことばかり考えて見てたんで、監督に嫌がられました(笑)。でも、結局は村野(鐵太郎)監督は現場にいることを許してくれたんです」

浜野「それで、念願の監督になられて、1996年の初監督作品『風のかたみ』から2本目ですね。『娘道成寺~蛇炎の恋』の構想はどれぐらい練ってらっしゃったんですか?」


高山「『風のかたみ』で海外の映画祭に色々行きました。映画祭に行ってる中で、どういうものをこれからやっていけばいいのか、逆に迷ったんです。そんな時にたまたま本屋さんに入ったら、「娘道成寺」って文字がパッと見えたのね。それで、あっ、これだったら日本の美が一番表現出来るかも知れないって思ったんです。それが始まりですから、今から考えると6年くらい前から考えてました。」

浜野「昨年の東京国際女性映画祭で拝見して、本当にしっかりした正統派の映画だなあ、という印象を持ったんですが、この映画の一番の魅力はやっぱりキャステイングだと思うんですね。福助さんとの出会いはどういう出会いだったんですか?」


高山「私ね、この役のイメージは?って聞かれて、私は福助さんなんだけど、でも絶対ダメだと思ったわけね。歌舞伎の方だし無理だろうと思って。そしたら、福助さんが脚本を読んでくれてOKしてくださったんです。私、ほんとにたとえお金が出来ても何が出来ても福助さんがOKって言ってくれなかったらこの映画できなかったと思うんです。」

浜野「それほど監督としてほれ込んだってことですか?」


高山「惚れましたよ(笑)。私は男らしい人じゃなくちゃ嫌だったんですよ。普段は男で、そして、舞台に立ったら女、それがちゃんとある人。私の中ではまさに福助さん。そもそもシナリオを書いているときから、この富太郎という人物には惚れながら書いていたんです。それから、私は、歌舞伎が好きでずっと観てるんですけど、そういう中ですでに福助さんに惚れてるって部分もありましたね。でも、自分の現場に彼がいらっしゃって、本当に惚れましたわ(笑)。」

浜野「福助さんは、役でないときは男っぽい方なんですか?」


高山「男ですね(笑)。男って言い方はちょっとよくないけど、私は舞台を観てたときから、福助さんが美しい女の人を演じれば演じるほど、その後ろ側に男らしさを感じてたんですね。私、一生懸命何かやる姿っていうのをすぐ男らしさって言葉で表現しちゃうのね(笑)。私にとっての男らしさですよ。そういう意味では、彼は男の色気をすごく持った方だったんです。」

浜野「映画の中で、福助さん演じる富太郎が繰り返し言う「私は男を捨てた」というセリフなんですが、高山さんは『風のかたみ』から日本の女の情念を土壌と一緒に描いてこられた方じゃないですか。その高山さんが「男を捨てた」というのをテーマ的なセリフとして繰り返し出されるのは?」


高山「男を捨てるっていうのは、男じゃなければ捨てたって何の意味もないと思うんですよ。男の中の男が男を捨ててこそ意味があるんで、初めから半分捨ててるような人じゃ捨てたって意味がないわけですね。彼はなぜ男を捨てたかって言うと、それは、自分が舞台で本当に女になりきる為に男を捨てるわけですね。だから、牧瀬(里穂)さんであるお弟子さんに対しても、舞台に立つということは人間というものを捨てなければダメなんだ、という事を彼は言うわけです。牧瀬さんは、女が捨てられない。つまり、愛ってものは捨てられない。それはね、私自身も仕事をしてきた中で、自分がプロとして仕事をする時って、どこか自分では嫌だなって思うような、夜叉になると言うか、鬼になると言うか、自分の中の可愛い女は捨ててしまって、という想いが絶対あると思うんですね。・・」

takayama03.gif主演の中村福助さんに演技をつける高山監督



「・・・私は、牧瀬さんの役には自分が今まで仕事してきた中でのそういった想いを託してるんです。 浜野さんもきっとそうだと思うんですけど、女が仕事する時ってそういうのあると思うのね。まあ、今の若い人はそういうものがなくても平気でしょうけど、私達の時代はそういうものを感じるんですね。その自分の想いから作ってるのがこの作品なんです。」

浜野「高山さんの映画人として生きてこられた人生を込めてこの作品を撮られたんですね。」


高山「そうですね。ずるいですね(笑)。私の中にはやっぱり女を捨てるぐらいだったら死んでしまおうと思いたい部分と、捨てても鬼になってもやりたいと思う部分と、牧瀬さんを二役にして両方やらせたんですからずるいですね(笑)。女の人は、自分の中に制御できない自分というものを持ってるじゃないですか。そういうものを表現してみたかったんですね。」

 

takayama04.gif 福助さんと一緒に踊る高山監督。スタッフ全員「娘道成寺」が踊れるようになったとか。

 

浜野「牧瀬さんは自分が演じる二人の姉妹は監督の想いそのものだ、って解って演じたんですか(笑)?」


高山「そんなことは思ってませんよ(笑)。そんなこと誰にも言ってないですよ(笑)。今日初めてですよ、浜野さんには思わず言ってしまった(爆笑)。でも、何て言ってもね、牧瀬さんの頑張りと、牧瀬さんがこの映画を引きずってくれてるんです。それはすごい力だと思います。私は彼女の目が気に入ったんです。あまり感情を表に出したり、親しげによってきたりする人じゃないんですね、だけど、目がクっと強かったんですね、私はいい目だなあ、と思ったんです。」

浜野「高山さんは客観的に見るととても女性的でたおやかな感じがするんですが、この作品を見ていると現場は大変だっただろうな、と思いますね。美術部なんて死体の山だったんじゃないですか(笑)?」


高山「うちの現場、ものすごくいい雰囲気でしたよ(笑)。いつも岡本(みね子/プロデユーサー)さんが人に私を紹介するときは、何も言わなくてもいいのにこう言うんですよ。「ぱっと見るとこの人は私よりずっと女らしく見えるでしょうけど、私より男ですから!」(爆笑)。必ず言うんですよ、言わなくてもいいのに(笑)。せっかくね、こう、3枚くらいネコを被ってるのに(爆笑)。」

浜野「脚本はご子息なんですね。息子さんと一つの話を作り上げて行くのはかえって難しくないですか?」


高山「第一稿は私が書いてるんです。でも構成やなんかも自分の想いだけで書いちゃってるのでとても撮れないようなホンだったんですね。それで、自分は監督もしなくちゃならないし、監督とライターは頭が別々のところですからね、誰かライターの方お願いしようかなと思ってた時に息子が、お母さんの作品というのは普通の作品じゃないから、自分に試させてみてって言ってくれたんですね。それで、2週間くらいだったら時間捨てちゃってもいいか、と思ってまかせたんですが、実に見事に私の想いを分析して、構成をバシッとやってくれたんです。それから彼にだいぶ直してもらったんですが、もとは私の想いですから、そんなにぶつかることなくうまくいったんですね。両方の想いのところから始まると色々難しいと思うんですけど、想いは私のですから(笑)。」

浜野「南座では千人のエキストラを入れて撮られたんですよね。」


高山「千人のエキストラが入ったのは最後の日の半日ですけど。今回はね、すごくヘタクソな私しか解らない様な絵コンテを全シーン書きました。それも毎朝というか、帰ってきて夜中とかに次の日のを書くんで大変だったんですけど、それがあるほうがカメラマンとの話し合いがしやすいので、それもね、原稿用紙の裏とか、ホテルの便箋とか、ひどいものなんですけどね。南座は、カメラは3カメで、加藤雄大さんてカメラマンは手持ちがうまいんですよ。で、手持ちをずいぶん多用しました。カメラマンも助監督さんも皆道成寺踊れるくらい研究しましたよ。踊れますね、みんな。助監督のセカンドの人なんてセッティングしながら内股で踊ってましたよ(笑)。」

浜野「すごいですね、スタッフ一丸となってのめり込んで(笑)。踊りはどういう狙いで撮られたんですか?」


高山「私は、中継みたいな踊りはいらないと思ったんですね。踊りを格闘技のように撮りたいっていうのが私の想いだったものですから、かなりカットを決めておいてやりました。」

浜野「歌舞伎を格闘技のように撮りたい、というのはすごく面白い着想だと思うんですが、それはどういうイメージだったんですか?」


高山「とにかく私、歌舞伎の踊り好きですから、舞台よく観に行くんですけど、私にはものすごいエネルギーに満ち溢れたものに見えるんです。ただ、どうしても歌舞伎とか撮るとかまえちゃって何か芸術作品撮ってるっていうような形で表現されるものが多い気がします。でも私にとってはものすごいエネルギーの塊のように見えて、踊ってる人の息使いとか飛び散る汗とかね、そんなものが魅力に感じるんですね。そういうものに触れたいっていう想いだと思うんですけど。」

浜野「非常にセクシーなイメージですね(笑)。高山さんはシナリオライターとしてはたくさんの映画にかかわっていらっしゃいますが、監督としては『風のかたみ』が第1作で、この『娘道成寺~蛇恋の恋』が第2作ですが、高山さん自身この二つの映画の間で自分が監督として変わっていったということはありますか?」


高山「『風のかたみ』の時は、あれもやれなかった、これもやれなかった、っていう思いが多いんですよ。今回はそういう意味ではかなりやりたいことはやれたなあ、という気はします。もちろん映画っていうものが1回撮っておいてもう一度撮り直すチャンスがあればどんなにいいだろうと思いますよね(笑)。原稿だったら書き直せるのにって思いますけど、でも、それが出来たからって面白い作品が出来るかどうかは疑問ですけどね。」

takayama05.gif浜野「監督としてはこの映画をどういう人に観て貰いたいですか?」


高山「そりゃもちろん、どういう人にも観てもらいたいですけど、やっぱり女の人に観てもらいたいなあ、と思います。恋に命をかけるとか、愛するということを考えるとか、あるいは、全てを捨てて何かに向かうとか、そういうことは今の世の中ではもしかしたら死語かもしれないんです。でもね、やっぱりそれをすることによって、もう一つ違った場所へいけるってことがあるんじゃないかって気がするんですね、そういう意味で女の人に観てもらいたいなあ、って思うんです。」

浜野「上映の予定は?」


高山「もう少しするとマスコミ試写が始まって、試写会をたくさんやるようになると思います。で、いよいよ8月28日に東京は東劇で4週間、これがある程度終ってから地方の都市に行くと思います。今決まってるのは大阪と、名古屋と和歌山です。海外は今決まってるのではフランスのドーヴィルの映画祭に行きます。たくさん行きたいですね。映画祭に行くのはおまけの楽しみでしょうから。それに、やっぱりやってきてよかったなって思える瞬間でしょう(笑)」

浜野「高山さんはこの撮影中に40度を越える熱を出されて、それでも休まず現場に立たれたとか。」


高山「私ね、監督するチャンスなんて一生のうちでこれが最後かも知れない、そう思って、だから、このチャンスを、とにかく1分1秒といえども味あわないのは絶対にもったいない(笑)。たまたま運命のキラキラ星が私のところに光ってくださったけど、いつもいつも光るとは思えないし。」

浜野「そのキラキラ星、私に投げて!」(爆笑)


takayama06.gif高山監督はこのインタビューの後、フランス・ドーヴィルで開催された『ドーヴィル・アジア映画祭』に参加され、フランスの観客から「最高に美しい映画」
「あらゆる芸術の可能性を秘めた映画」と絶賛された。日本の美と伝統芸術を世界に向けて発信する1本の映画として今後の公開が期待される。
□インタビュー 3月4日(協会事務所にて)
□広報委員:浜野佐知(聞き手・構成) 石川均(カメラ・DV取材)