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日本映画監督協会 会員名鑑

作品インタビュー

ぼくんち

  bokunchi[1].jpg映画が公開され、マスコミに、さまざまな情報が溢れる。映画紹介、評論、インタビュー・・・ 公開本数が激増した今日、映画の宣伝も激しさを増し、さながら情報合戦の様相を呈す。そんな中、監督協会のサイトならではの「情報提供」とは一体何なのだろう? 
辿り着いたコンセプト。ひとつに、それは「監督が監督に聞く!」ということ。マスコミなどではなかなか取り上げられることのない、監督同士だからこそ話せるスリリングなインタビューとなるかこう御期待! ということで、記念すべき初回は、新作『ぼくんち』の公開を控えた阪本順治監督に、同世代の望月六郎監督がインタビュアーとして挑むという、豪華対談となりました。家族、子ども、女性といった『ぼくんち』に内包されるテーマから、映画監督という職業に対する思いまで、熱き監督同士の濃密な言葉のキャッチボールをお伝えします。

 

●子どもが主役の映画

望月六郎監督(以下望月)

「きなくさい時代に、こういう映画が必要だな、という映画が『ぼくんち』だと思うんですけど、(阪本作品としては)初めて子どもがメインの作品ということですよね。」

阪本順治監督(以下阪本)

「そうですね。子役は使ったことあるんですけど、メインキャラクターとしてはやったことなくて。結局(主役の)二人は素人なんですよ。子ども劇団の子たちに会っても、何かこう、出たいというアピールが凄く激しくて、逆にこっちが冷めてしまうというか・・・ ま、将来木村拓哉やりたいとかね。そういう子たちと面接してても、あまりピンとこなかった。で、素人。一般公募の中から選んだんです。」

望月

「一般で公募っていうと、結局親が応募するわけですよね。」

阪本

「そうですね。」

望月

「例えば、(どんな親かも)採点の中に入ったりした?」

阪本

「ま、貧乏がテーマやからね。例えば、応募の写真で後ろにグランドピアノが写っていたらパーン(笑)。で、この二人は、オーディションやって、『実は、ここに来たくなかった人』って聞いたら手あげた二人なの。『お母ちゃんが、行け言うから』っていう。『いつまで芝居のテストさせんの?』とか、『はよ帰らせてくれよ』っていうような子だった。親に対してはどういう態度とってるか知らないけど、ちょっと、大人を見る時にね、見方っていうか、まあ、いっぱしの見方っていうかね、そういう感じがしたんですよ。大人をなめているわけじゃないけど、こう・・・」

望月

「自分の言葉で大人をしゃべれるみたいな」

阪本

「そうですね。」

望月

「子どもはどんな感じだった? 撮影ということを(どう)捉えていました?」

阪本

「彼らも一ヶ月、映画人の中で、おっちゃん、おばちゃんの中で暮らしたようなもんですよ。友だち一切いないとこで。学校から程遠い所でね。保護者は現場に入れなかったんで」

望月

「(大きく頷く)」

阪本
「彼らはほんとに僕らとこわごわつき合いはじめ、段々、『このおっちゃんはこんなことしたら喜びよる』とかね、手練手管がわかって来るようになって。何らかのこう、彼らの心の変化があって、それは一太と二太(子どもの役名)の役に自然にスライドしていったっていう感じだよね。一太君は特に、30日の中で彼の成長みたいなものがあったんですよ。(監督への呼び方が)最初、『おっちゃん』だったんだけど、『カントク、あれよねぇ、ボクね、大人に対して怒ってんよねぇ。大人ずるい思ってんよねぇ』『そうやそうや』っていう。段々こう、自分なりの解釈が。それは面白かったですよ。二太君の方はあんな感じで。ちょっと大変な撮影があってね、『二太なあ、おつかれさん。ありがとうなぁ。しんどかったやろ?』って言うと『いや、仕事やから』(笑)。」

 

bokunchi2[1].jpg● 原作ものの映画化


望月

「今回は、『新仁義なき戦い』に次いで、いわゆる依頼の企画?」

阪本

「そうですね。」

望月

「(阪本監督作品の場合)だいたい自分の企画じゃないですか。まして、今度の場合は原作もあると。そのへん、依頼の企画と自分の企画の差とか、原作のあるなしの差とかで感じたことはありますか?」

阪本

「意外と依頼って来ないんですよ。今回は『ぼくんち』っていう原作のマンガが面白かったからやりたいと思った。逆に、面白すぎたんで、これは映画化しない方がいいマンガだなって思って・・・しんどいなって。(でも)しんどいなって思ってリスクを避けて断わったら、ま、他の監督がやるんだろうなと思うと、嫉妬がわくわけですよ。他の監督がやるんだったら(自分が)やろうと。」

望月

「(うなずく)」

阪本

「『ぼくんち』の原作は2ページ読み切りで、ストーリーがつながっているようでいないんで。逆にそういう読みきりマンガみたいなものをね、3巻あるんですけど、その3巻を映画にするために整理したら面白くなくなるんじゃないかっていう。整理整頓をしたらね。」

望月

「原作物を今後も考えていたりします?」

阪本

「いや、原作っていうか・・・ 普段自分で本読んでてもね、何か映画の原作になるものを探している訳じゃないし。面白い書物に出会ったら、もうそれで終わってるっていう。映画にしようっていうようなことは、ほとんど思ったことないんで。何か、あんまり何に対してもこだわってないですよ。」

● 男性であること、女性であること

望月

「阪本さんていうと、何か『男性映画の阪本さん』みたいなのがある中で、『顔』に続き今回は二本目の女性主演じゃないですか。若い女性が主人公の映画ってのは初めてって言ってもいいだろうし。」

阪本

「あの、女を描くのが下手だって言われているから言うわけじゃないけども、自分でも不思議なのは、男を主役にしたら、憧れの男みたいな描き方になるんですよ。豪放磊落でも。何でも。このくらいね、人に迷惑かけて愛されればいいなあとか。そういう、同性の憧れみたいなものを描くんだけど、女性を主役に置くと、まあ急にフェミニストになってもなれないし、なってもしょうがないし、逆に女性を一個の人間として考えるんですよ。だから、こういう時は女はこうするよな、っていう発想じゃなくて、こういう時って人間ってこうするよな、っていう。そっちの考え方になるんですよ。それは意図してるんじゃなくて。何か自分でも、後で気付いたんだけど。自然に。」

望月

「こないだの阪本さんの試写会も、お客さんも殆ど女性だったじゃないですか。」

阪本

「ちょっとね、俺も客層広げたいですからね(笑)。何かいつも俺の映画やってる映画館って、こう、友だちいない者が一列ダーッと並んでるっていう。カップルで見に来ないからね。そのために観月ありさをキャスティングした訳じゃないけど、いろんなことが重なってこういうキャスティングになったし。いわゆる、シネスイッチ銀座っていうね、俺からは割と遠い無縁の小屋だった所でやる訳で。」

望月

「デートコースですよね。完全に。」

阪本

「銀座のOLがよく来る場所。そういう意味では、この映画で客層広げられるかなって。『ぼくんち』っていうタイトルだけ見ればすごくアットホームな感じで、何か間違って来る人も沢山いるんじゃないか・・・。やっぱり、答え、出てこないですよ。女性ってこういう時どうすんだろう、って考えても、自分にいろんな実体験の引き出しがあればいいですよ、でも、そういうものはないっていうか、そういうことに関しては欠落してるから。」

望月

「映画監督ってえらい中性的な存在だって思ったことない? 自分の中には女もいるな、みたいなことは、俺なんかよく感じちゃうんだけど。」

阪本

「どうだろう。そんなこと考えたことないけど。映画監督っていうポジションでですか?」

望月

「うーん・・・」

阪本

「ま、ちょっと、他人を見る時、男とか女とかっていう判断じゃないよねえ。うん。この人という(判断)。」

望月

「何か、お芝居つけていると、俺って女だなーって思っちゃう時あるんだよね。」

阪本

「へー。俺はまだ、そこまで経験ないですね。」

 

bokunchi3[1].jpg● 『ぼくんち』という世界

望月

「この作品の中には、二組の素晴らしい男関係があると。一太とコ-イチ、二太と志賀さん(鉄じい役の志賀勝さん)、すごく二つの男の関係が描かれていて、すごく阪本さんらしいというか。」

阪本

「子育て放棄してね、虐待するとかね、いろいろあるじゃないですか。そういう時に、やっぱ子どもは可哀想で弱い存在なんだっていう発想でものを考えますけど、今回は、そういう時はこどもから親を見限っていいんだっていう。子どもは可哀想で救ってあげないといけない存在っていうのを、一回取っ払ってね。大人の社会をちゃんと見てるし、関係性の取り方も実はわかっていると。」

望月

「今回の話って子どもの話だから、例えばボクシングの話とか、事件の話っていうよりも、基本的に衣食住の話って感じがするのね。何かこう、実際食ったりとか、住んだりとか、そういうことがちりばめられている映画だなあと。」

阪本

「そうですね。この映画に出てくる有象無象は、誰一人として自殺するということを発想したことがない人たちだと思うのね。どんな貧乏で、どんな辛い目にあっても、生きてることが自然というのかね。そういう意味で言うと、所詮人間って、上からもの入れて下からもの出すだけの存在っていう。それで生きてる実感を持てるっていう。それ以上、何もなくてもいいと思いましたね。まあ、衣食住って言ってもいいんですけど。一種ユートピアみたいなところのひとつの生活を、いろんな人の生活を見せていくという。そこで、それ以上、何も高尚なことは描く必要はないという感じではいましたよね。」


さらに、舞鶴で行われたロケの様子、関西の気鋭のミュージシャンの楽曲を『選曲』して全体を構成した『ぼくんち』の音楽のつけ方など、話題は多岐に及びました。また、阪本監督、望月監督ともに、監督協会の理事を務めていることもあって、協会のサイトの目指す方向性についても熱い意見の交換がありました。

 


一時間にわたって、望月監督の熱い質問に答えて下さった阪本監督。そこから垣間見える誠実さが、望月監督をはじめ、若手の監督からの信望の厚さとなっていることを強く感じたインタビューでした。阪本監督の次回作は、戦後まもない闇市の時代を舞台にした若きジャズメンたちのストーリー。監督いわく、「その後有名になった人ではなくて、何か、欲だけ持ってて、その後楽器置いちゃってるよねっていういい加減なジャズメン」たちの話だそうです。間もなく撮影も始まる予定。このサイトで阪本監督の撮影現場にお邪魔する日も、遠くはないと思われます。
なお、阪本順治監督の12本目の作品『ぼくんち』は、シネスイッチ銀座などで現在絶賛上映中。サイトをご覧の皆さんへの阪本監督からのメッセージは「観月ありさの度胸を観に来てほしい」でした。
(阪本順治監督インタビュー)
[インタビュアー/望月六郎監督]
[取材年月日/『ぼくんち』舞台挨拶2003年3月3日於ヤマハホール/インタビュー2003年3月18日]
[協力/アスミックエース/キノ]
[採録/山本起也

 

 


望月

「あと、いかにもっていうのを聞かなくてはいけないんですけど(苦笑い)、協会会員監督として、このサイトをご覧になった方へ何かメッセージを。」

 

 

阪本

「(しばし沈黙)まあ、監督のイメージってみんなあると思うんですけど、十把一からげに監督って言っても、個々の監督は皆、気質も違うし、思想も違うし、当然、個性もみんなバラバラなんだと。そういう、監督というひとつのイメージがいい意味で、『あ、こんな風に考えてる人もいるんだ』『あんなことを言う監督もいるんだ』っていう風に、個々の監督に興味を持ってもらえればと思いますね。」

 

 

望月

「映画監督を応援してくれよ、と。個別に応援するのは、阪本さんのファンとか、誰々のファンとかあるんだけど、監督って存在を応援してほしいっていうのが、僕なんかあるんですけどね。」

 

 

阪本

「やっぱ、なかなか日本ではね、映画監督イコール、アーティストみたいな捉え方されないじゃないですか。子どもたちに将来なりたい職業は? ってアンケートとると韓国ではベスト5くらいに映画監督って入るわけですよ。憧れの職業としてね。そういう意味では、映画監督というものをもっとよく知ってもらって、まあ、変な言い方ですけど、もっと認知されたいな、と。やっぱ僕らが何でこんなしんどい思いして映画作ってんだと。そこには夢があったり、憧れがあったり、素敵な職業なんだと。すぐ、映画監督って好きではないとできませんよね、って言い方あるけど、そういう意味じゃなくてね。」

 

 

望月

「何か、好きじゃなきゃできないとかさ、食っていけないとかさ、ハードルがあるとすると、高いハードルを越えた人間が監督になるというよりも、ものすごい奈落みたいな谷を越えた人間が監督になるっていう。何か、谷を前にして『飛べ!』って言ってるような感じがあるんだよね。」

 

 

阪本

「何で僕らはこんな粘って意地になってね。儲かんないのに映画を作ってるのかっていうのをね、このサイトで発信していくから、それを受け止めて・・・何かこう、憧れを持ってもらいたいですよね。」

 

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一時間にわたって、望月監督の熱い質問に答えて下さった阪本監督。そこから垣間見える誠実さが、望月監督をはじめ、若手の監督からの信望の厚さとなっていることを強く感じたインタビューでした。阪本監督の次回作は、戦後まもない闇市の時代を舞台にした若きジャズメンたちのストーリー。監督いわく、「その後有名になった人ではなくて、何か、欲だけ持ってて、その後楽器置いちゃってるよねっていういい加減なジャズメン」たちの話だそうです。間もなく撮影も始まる予定。このサイトで阪本監督の撮影現場にお邪魔する日も、遠くはないと思われます。
なお、阪本順治監督の12本目の作品『ぼくんち』は、シネスイッチ銀座などで現在絶賛上映中。サイトをご覧の皆さんへの阪本監督からのメッセージは「観月ありさの度胸を観に来てほしい」でした。
(阪本順治監督インタビュー)
[インタビュアー/望月六郎監督]
[取材年月日/『ぼくんち』舞台挨拶2003年3月3日於ヤマハホール/インタビュー2003年3月18日]
[協力/アスミックエース/キノ]
[採録/山本起也