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各審査員レポート 林海象

山形国際ドキュメンタリー映画祭 審査員レポート

         ---林海象---

 

随分前のこと(10月6日から)のことなので、詳細は忘れてしまったが、今回の山形国際ドキュメンタリーの審査は楽しかったことだけは覚えている。何が楽しかったかといえば、上映された映画はさることながら、審査員のメンバーがよかった。さすが根岸吉太郎監督の人選である。伊藤俊也審査委員長、山本洋子先生、ユンカーマン監督、大森立嗣監督、そして末席にこの私という、優しい先生3人と、ドキュメンタリーを知らない生徒2人のチームで、生徒である大森立嗣と私は、特に山本洋子先生から薫陶をうけ続けた。審査員たちは手分けしてなるべく多くの映画を観ようと心がけた。それぞれの担当は一日に3本~5本で、全員で100本以上の映画を網羅したのではないかと思われる。毎朝8時に全員で朝食をとり、その日観るべき映画を確認しあい、漁師のごとくそれぞれの海(劇場)に去っていく。そして夜まち集まってその日の獲物たちの話を共有し、みるべき映画の情報を交換する。山形の食物と酒は旨かった。
しかし懸命な審査員たちは飲みすぎることなく、翌日の映画鑑賞に体力を温存する毎日であった。その甲斐あって、私たちはいくつかの傑作映画に出会った。

その一本は「五頭の象と生きる女」であった。私は個人的にはこの映画は十年に一本でるかでないかの傑作であると思っている。この映画がグランプリを獲得しなかったのは、余りにも完成度がありすぎるためである。たぶんコンペ審査員たちもこの映画は少し眩しすぎて第二位にしたのではないかと思う。映画祭ではよくあることである。良すぎてグランプリをはずすというのは。監督協会賞はなるべくコンペや他の賞と被らずに選出したいので、コンペで絶対に賞をとるであろうこの映画は選からもれた。次の傑作は「密告者とその家族」という中東の映画で、この映画は、パレスティナからイスラエルに逃げてきた密告者とその家族を追った物語だが、監督とその家族はよほど密接な関係が築けていたとみえ、家族を追うカメラの深入り度は、まるでこの映画がドキュメンタリーであることを忘れてしまうほどで、まるで上等の劇映画を見ているように、家族を密に描いていた。でもこれも絶対に賞の対象になるのではずした。「監督失格」は私は好きであったが、審査員の何人かにはうけが悪く、それとこれも何らかの賞をとるであろうという理由で私たちの賞からはずされた。しかし上記の2作品はコンペで受賞したが、「監督失格」は観客受けが大変よかったにも関わらずなぜか無冠に終わった。夜の酒場でこの映画の無冠を嘆いていたファンが少なからずいた。その他にも賞に値する映画はたくさんあった。監督協会賞の選考にあたり、他の部門がどんな賞を選ぶのかをスパイ活動したが、敵もさるもので情報は入手できず、私たちは長い協議の末「監獄と楽園」というインドネシア映画を選んだ。爆弾テロ事件の犯人側と被害者側を対比させて描いていく手法、そしてその題材の選び方の冒険性と未来性を私たちは評価し、この映画監督に賭けた。そして私たちの賞は他の部門が選出することなく、独自で監督協会に相応しい映画を選定することができた。監督協会賞としては最も適切な映画を選んだと私たちは自負している。ぜひ公開してほしい。

私たちの長い闘いは終わり、審査員たちは家族のように親密になったが、別れがやってきた。別れの前に全員ではなかったが、伊藤審査員長、大森監督、そして駆けつけた成田監督、舞原監督、南場事務局長と蔵王温泉の湯に浸かり、
これからの映画について話しあった。というのは嘘で、只々湯に浸かり自然の雄大さに癒されるのであった。皆様お疲れさまでした。そして映画たちよ、いつもありがとう!