
各審査員レポート 山本洋子
山形でこころゆさぶられた映画たち
--山本洋子--
【密告者とその家族】 映画祭、第1本目に見たこの作品は、衝撃的だった。いま、世界で最も注目を集めるパレスチナ、イスラエル問題への切り込みを、密告者となったパレスチナ人一家に密着して描いている。テーマ性といい、切り口といい、監督たち(ルーシー・シャツ、アデイ・バラシュ)の対象への、密着度と、程よい距離、かすかにみえる未来の光といいすばらしかった。私の中では、東京でみた【五頭の象と生きる女】と同列だった。この映画は年老いた女性翻訳家の妥協を許さぬ仕事ぶりを哲学的に、静謐に見つめながら、彼女の背負った戦争を含む現代史までを見事に描ききっていた。しょっぱなからすごい作品に出合い、これからどんな映画たちに出会えるのかワクワクした。
私たち5人は、毎朝食時をミーテイングにあてていた。
『昨日見たのは、全然だめ』『これは、ちょっと気にかかる』『絶対おすすめ』
『じゃあ、二度目の上映のとき見るか』『あっ、この作品今日しかないです』
『時間がバッテイング』『だったら、見ておきます』といった具合で、自分の見たい作品を優先しつつ、作品と時間と人をクロスワードパズルのように組みあわせ、できるだけ多くの作品をみるようにした。【密告者とその家族】をすすめみんなにみてもらったことはいうまでもない。
次の日から、なかなかこれぞという作品に出合わない。物珍しい事象を追った作品、監督の立ち位置が見えないただ出来事を追った作品、映像詩をねらったのかもしれないが、なにか訴えるものがない作品、時代を描こうとしているが、それをどう切り取ろうとしているのかが見えない作品____。
私の中では、作品を作る意味と、いまの世に訴えるべき確かなもの(決しておしつけがましくなく)、そして、未来への希望がいきづいてなくてはならないと思っているのに、胸におちる作品がない...ない。
そんな折、一度目の上映で見たみんなのお薦め、【監獄と楽園】(ダニエル・ルデイ・ハリアント)を見た。刑務所の中での撮影という‐いまの日本では考えられない‐のも驚きだが、バリ島爆破事件の実行犯のテロの論理にせまりつつ、元ワシントンポスト紙の記者を間に入れて聖戦とは違うとさばいていく手法も見事だった。なにより、やがて過酷な状況と向き合わねばならない加害者のこども、被害者のこども(おなじイスラム教徒)へそそぐ監督のあたたかいまなざしと、人々は平和にいきるという未来への希望が伝わってきた。
監督が選ぶという、協会の独自性を考慮しつつ、作品の高さ、訴えるゆたかさ、今後への期待をこめて、ハリヤント監督に決定した。もちろん全員一致で。
ちなみに、【密告者とその家族】は大賞を、【五頭の象と生きる女】は優秀賞を獲得した。発表を聞きながら、こころよく撮影に応じた人々たちの今を思いジーンときてしまった。
そのほか、私の心に残った作品は、日の丸・君が代問題から発する日本の右傾化への危惧を斗いを挑む3人の教師たちの個の生き方を静かな語り口で描きながら、あなたはどう生きると、問いかける【私を生きる】(土井敏邦)
【イラン式料理本】イランの7人の女性たちの料理作りをとうして、イラン社会の宗教、嫁、姑、夫婦のありかたなどを台所と居間と二つのシーンだけで描きながら、それぞれの生活を考えさせられる作品だった。
今回の映画祭で感激したことをひとつ。
【密告者とその家族】を見たとき、山形第四中学1、2年生が団体鑑賞していだ。この重いテーマの映画を、実に静かに見ていた。後日、山形市長に、中学、高校生たちは、映画祭の折必ず作品を見るようにお願いしておいた。
子供たちが映画にふれる、これこそ、未来への希望であると信じているから。
今も時々映画祭でであった映画の断片が、ふとよみがえる。世界中の映画人の映画によせる熱い思いに、私の心が揺さぶられているのだろう。
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