
審査
10月11日 13:00
審査開始時間ギリギリまで候補作を観た審査員たちは、山形市中央公民館5階会議室に集合した。
昼食を摂る時間さえも惜しむように、パンを齧りながら論議が始まった。
まず、審査委員長の伊藤俊也監督が口火を切った。(以下、敬称略)
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伊藤『まず単純に1・2・3位と作品を挙げてみよう。監督協会賞の論議はその後でするとして、あえて個人として1,2、3と』
山本『そうですね、まあ、3から4本ぐらい。無ければあえて多くは言わなくて良いけど』
伊藤『ただ、私としては「5頭の象と生きる女」と「アルマジロ」はなんとなく外しておきたい気がするのだけど』
林『1・2・3位からですか?』
伊藤『いや監督協会賞の枠から』
ジャン『外してもいいけど、多分だいたい皆、「5頭の象...」がベストワンだと思うけど』
一同『(笑い)』
山本『外しといて、監督協会賞はどんな作品が相応しいか、後で論議すればいいんじゃないですか。またその作品が浮上してもいいし』
伊藤『うん、そうだね。まぁ、私の考えとしては、監督協会賞はベスト1に与える賞ではなくて、どんな分野でも良いから果敢に新しい地平を開こうとしている作品、それから将来的に応援したくなる監督の作品が良いと思うね』
一同『(頷く)』
伊藤『じゃあ、協会賞は後に置いといて、私のベストスリーは・・・「密告者とその家族」「5頭の象と生きる女」「アルマジロ」。たださっきも言ったけど、2番目と3番目はちょっと棚に上げておきたい』
ジャン『難しいけど、一番目が「5頭の象...」次が「アルマジロ」大きく段があって「監獄と楽園」「密告者...」が4つ目と言う感じで』
伊藤『あ、僕の4番目に「監獄...」を入れておいて』
大森『僕はあえて順番を付けるなら「監獄と楽園」・「ソレイユのこどもたち」・「5頭の象...」・「密告者とその家族」にしておいてください』
山本『私は「5頭の象...」・「密告者とその家族」・「監獄と楽園」・「私を生きる」かな』
林『「密告者とその家族」・「監督失格」・「監獄と楽園」・「川の抱擁」・「ソレイユのこどもたち」の順番。「ソレイユ...」と「川の抱擁」は順番逆でも良いんですけど。それで「ソレイユ...」を入れたのは、この映画祭の他の賞と被らないだろうと思って。 他の作品は強いので被る可能性がありますから』
伊藤『他の賞の事を気にするのはどうだろう?』
林『うーん、あんまり被り過ぎると、協会独自の賞と言う点で良くないと思いますが...、例えば全部の賞が「5頭の象と生きる女」になってしまったら...あ、逆に凄いか!』
一同『(笑い)』
林『全部はそうならないと思うけど、今の結果だと、「5頭の象...」が圧倒的に強いですよね』
伊藤『「5頭の象...」は監督協会があえて推す感じじゃないな、もう今更って言う』
一同『(頷く)』
伊藤『果敢に攻めている点でも、その国の製作状況を考えてみても「監獄と楽園」は候補としてあるんじゃないのかな』
ジャン『あー、その国の製作状況ね』
伊藤『これは山形映画祭のグランプリにならないし(※インターナショナル・コンペティションの候補作品ではない)』
ジャン『うん、あるとしたらアジア千波万波部門』
林『でも、他の賞を全部外して、僕らだけの賞を出すって相当大変ですよ』
伊藤『あえて外したら変な作品しか残らないか?(笑い)』
林『考えすぎてもだめですね』
山本『ただ作品としてのある程度の完成度はないと』
伊藤『私は「5頭の象...」のクオリティーを超える作品はないと思う。ところが「密告者...」を観た時に、私の言葉でいうと正に【カフカ的世界】をこの状況下で実現したのは素晴らしい事だと思う。許可証を永遠と待っている所は【城】の世界、どうにもならない子供達は毒虫に【変身】するしかないのではないかという感じ。 そういう意味で言うと「5頭の象...」は正統派だね。 一方「密告者...」はどうしようもないリアリティーにカメラを向け、パレスチナ問題を密告者の立場から描くのは今までなかった形式だと思う。ただこれも他で賞を獲りそうだなあ』
林『いや、これは穴目ですよ。昨日の情報だとまだ候補には挙がってないですよ』
大森『僕は今日観たのですけど、実はあまり驚きはなかったんですね。東京でもある一部の所では働くことが出来ない、子供は学校に行けないみたいなひどい状況もあるし、もちろんパレスチナにこんな人がいるのは初めて知ったけど、そう驚きはなかったですね。ただ家族の絆の強さは良かったですね』
伊藤『東京の状況と違うのは、青年たちが次の密告者に仕立て上げられようと狙われている所だね』
山本『私なんかだとドキュメンタリーは、今の社会とどう向き合うかっていうのが一番欲しいわけね。 そうすると「5頭の象...」は、今の状況と言う事とは少し違う非常に文学的な世界なんですよね。 それに比べ、さっき伊藤さんが仰ったように、密告者の連鎖と言う事はすなわち暴力の連鎖とイコールなのね。だから私はこの作品をもっと多くの人に見て欲しいと思う!』
林「中学生が集団で観てましたね」
山本『そうなのよ、学校で来てるみたい。ああいうのが必要よね』
ジャン『パレスチナ問題の傷の深さを感じたね』
山本『地球には難民とか私たちの知らないいろんな人が生きている訳じゃない。それを知らせることは大切なことよね。と言う事で、今私の中ではこの映画と「監獄と楽園」とで迷っています』
一同『(頷き)』
山本『「監獄と楽園」も加害者と被害者と言う両面から描いて行くって珍しいよね。子供たちの可愛さにウルウルするところもあるし、どっちかなって』
ジャン『製作状況から言うとイスラエルよりインドネシアの方が厳しいと思うけど、まあそれを別としても「密告者...」の完成度は高いと思う』
林『僕はドキュメンタリーをあまり見慣れているわけじゃないので、監督協会賞と言う面から言ってもドラマチックな作品の方が良いかと思って「川の抱擁」とか入れたんですが、改めて見ると「密告者...」はとても良くできたドラマでしかもドキュメンタリー。 そこが凄いですよね。 例えばあれを脚本で書けと言われても無理ですよ。それからカメラの存在感の無さが凄いですね。まるでカメラが無いかのような撮り方に監督の力量を感じます』
山本『よく撮影に何年もかけたとか言っちゃうじゃない、でもこの作品はそんな苦労話は一切しないで、作ったものはそのまま見せて、後はお客さんの判断でって感じが潔いよね』
林『そう、多くを語っていないのに、充分伝わって来る。今、候補に入って無い作品の中には素材に引きずられちゃっているのも多いですから』
ジャン『でも、これも他で賞を取る可能性があるね』
林『他の賞を全部予想してみる?』
一同『(笑い、そして暫し考える)』
ジャン『今晩7時には他の賞の結果が出ます』
林『じゃあ、我々の1・2・3位を決めておけばいいじゃないですか』
伊藤『うん、我々の中ではもうだいたいまとまっているしね』
林『「監獄...」か「密告者...」ですね、我々的には』
一同『(頷く)』
伊藤『両方の監督の履歴は分かる?』
ジャン『「密告者...」の監督は二人とも(共同監督)37歳ぐらい、「監獄...」の方もそんなに年を取っていないですね。基本的に新人と思っていい』
伊藤『監督協会として応援するにもちょうどいい頃だね』
大森『「監獄と楽園」は被害者・加害者両方の目線で撮っているのが素晴らしいと思います』
山本『やっぱり人間が描けてるかどうかが大切ね』
ジャン『インドネシア国内で被害者に取材をするのは大変だったと思う。森達也が「A」「A2」(※オウム真理教信者達の日常を追うドキュメンタリー)を撮った時のように』
林『新しい感じのする作品だけでなくちゃんと心に残る映画でしたね。...本当は日本の監督に獲って欲しいけどしょうがないですね』
伊藤『...うん、監督協会が推すのにふさわしいと思う』
一同『(頷く)』
伊藤『では「監獄と楽園」で行こう』
同日 14:30
1時間30分の論議の末、全員一致で終了。
終了後、未観の作品を観に行く審査員たち。
どれだけ観れば気が済むのか!?
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