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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

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2005年日本映画監督協会新人賞 インタビュー

日本映画監督協会新人賞受賞作

「ある朝スウプは」

監督/高橋泉インタビュー

日本映画監督協会新人賞受賞作「ある朝スウプは」監督/高橋泉インタビュー

<日本映画監督協会新人賞を受賞した「ある朝スウプは」監督の高橋泉さんにインタビューを行った。聞き手は、昨年度の新人賞受賞者の井口奈己さん。お二人ともお忙しいところ時間を割いてくださり、夏の暑い盛りに監督協会の事務所を使った物静かなインタビューが始まることとなった>



聞き手:井口奈己
構成/DV取材:天野裕充



<高橋泉プロフィール>


1973年、埼玉県生まれ。2001年より廣末哲万とともに、 05sinin01.jpg映像ユニット「群青いろ」を結成し、自主制作で20数本の映像作品を製作。2004年ぴあフィルムフェスティバルコンペティション部門「PFFアワード2004」で『ある朝スウプは』が、グランプリ&技術賞(IMAGICA賞)を受賞。海外でも2004年バンクーバー国際映画祭でグランプリ【ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワード】他多数受賞している。

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<井口奈己プロフィール>


1967年、東京生まれ。8ミリ版「犬猫」がPFFアワード2001入選、企画賞受賞。その後中野武蔵野ホールでレイトショー公開され、日本映画プロフェッショナル大賞・新人賞を受賞。2004年商業映画デビューとなる35ミリ版「犬猫」をリメイク。 05sinin02.jpg2004年トリノ国際映画祭で「審査員特別賞」「国際批評家連盟賞」「最優秀脚本特別賞」を受賞。第45回日本映画監督協会新人賞受賞。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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天野:受賞おめでとうございます。同業のプロの映画監督が選んだ賞として、すばらしいものと思います。

高橋:ありがとうございます。

井口:さっそくですが、映画製作をはじめるきっかけは?

高橋:僕は最初、脚本から始まって、脚本のコンクールに脚本を応募して、たまたま今回主演してくれた廣末哲万(ひろすえひろまさ)と出会ってから、監督もするようになったんです。

天野:同じメンバー(映像ユニット「群青いろ」)でやってきた感じですか?

高橋:そうですね。顔が広くないので(笑い)上映会をやりながら、見てくれた人が面白いって言ってくれた人に「出演してみませんか」とメール送ってみたり。完全に素人で、なんとなく僕らの感覚を理解してくれる人であれば、呼び集める感じでけっこう増えてきました。最初は三人ぐらいで。

井口:すると長らく自主映画を作っていたんですか?

高橋:そうですね。2004年の賞を獲るまでに4~5年。

井口:一緒に見た友人がミヒャエル・ハネケ(※ドイツの映画監督「ピアニスト」「隠された記憶」等)を思い出したと言っていました。影響を受けた監督とかは?

高橋:特にこの人からというのはないと思うんですけど、ハネケ監督は好きですね。でもどっちかというと市川準監督が好きで、表情の抜き方とか、無意識のうちに真似していたり。そういう意味では一番影響を受けていますね。

天野:作風的に、市川準さんとは気づきにくい。

高橋:市川準さんの映画って淡々として日常的で、ちょっと柔らかい感じがあるじゃないですか。でも時々すごい深い闇みたいなのがちらっと見える、僕はそっちが好きっていうのがあって、けっこう似てるなと自分でも思っちゃうんですけど。「東京マリーゴールド」とかで、話に関係ない酔っぱらいを、突然主人公の男性が捕まえて自分の感情を吐露するようなとこなんかに、僕は同じようなものを感じたりするんですけど。

天野:前触れもなくキレたり、感情的な表現なんですかね。突然燃え上がる激情というか。

高橋:ええ。

井口:ご自身がパニック障害だったんですか?

高橋:今は軽減しましたけど、一時期は電車に乗るのもヤバいぐらいでしたね。高円寺から新宿に行くのに、東中野あたりでもうダウンしておりたこともあったりして。自分の経験も多少は入ってますけど、僕は過呼吸とかの発作まで行ったことはないので、ネットの中で調べたりして。

井口:すると映画を作るときのアイテムみたいな感じで(題材を)選んでいるということですか?

高橋:そうですね。外に出さないためのアイテムですね。それを訴えたいんじゃなくて。

井口:映画を見て、テーマが重いわりに見やすいなと思いました。思い入れが過剰でなくて、フラットに描かれている感じがしました。自然な演技って言われると思うんですけど、ゆるい感じではなくて構成がしっかりしてますよね。脚本ですかね? もともと脚本家でいらしたということで、脚本に時間をかけてやるんですか?

高橋:今回、一回、リハを男女逆でやっていて‥‥女の子が宗教に入って行ってっていう形でやって、大枠だけは頭にあったんで、二人に相手がどういう行動をとるかわからないように紙を渡してやってもらったときに、出てきた言葉とかを拾っておいて。アパートから出ないんで、宗教のどういう状況とか台詞で全部言わなくちゃいけない。そういうとことか、なるべく普通の会話の中に忍び込ませるとかして。

井口:女性の役のほうがパニック障害になりそうな感じのキャラですよね。

高橋:そうですね。ミイラ取りがミイラになりかけている。

天野:題材的にこれを選んだという、そのモチベーションは?

高橋:基本的には男性と女性の痴話喧嘩でも良かったんですけど、問題になっているのは宗教がいけないのかどうかっていうことの論点さえ合えば、もう一度うまくいくようなもんなんですけど、そこを選んだというのは、これを作るちょっと前に村上春樹の「アンダーグラウンド」っていうのと、その次に「約束された場所で」っていう二冊を読んでいて、その中で新興宗教の中に確かに悪いものもあるんだけど、例えばパニック障害とか、メインシステムからこぼれ落ちちゃった人を救う人を、拾い上げてくれるのは宗教しかないのは事実だって書いてあって、実際にそうなんだって思って、でも僕もオウムの事件もリアルタイムで見てるし、やっぱり良くないよって思うけれども、二人で答えを出させたいというのではなくて、やらせてみたいっていうのはありましたね。それは核になりましたね。

天野:断定的、肯定的にとらえるのでもなく、自分自身迷いながら。

高橋:はい。ただそれを突き詰めると違ってきちゃうんで、そこは核なんだけど、さっき言ったアイテムのところで留めておいたんですけどね。

井口:画格がスタンダード(4:3)なのには、何かこだわりがあるんでしょうか? というのも、私もスタンダードが好きなんですけど、シネコンでかからないので、上映機会が減るからビスタにしてくださいって言われるんです。「ある朝スウプは」はアパートのワンシチュエーションで芝居が続くので画格を切り取りにくいのでスタンダードにしたのかなって思ったんですけど。

高橋:まったく何にも考えていなかったんです(笑)、普通に撮ったらスタンダードだったっていう。

天野:カメラは何を使ったんですか?

高橋:デジタル8っていうのがあったんです。普通のハイエイトのテープにデジタル方式で記録するっていう、デジタルが17万とかしている時代に8万ぐらいで売っていて。店の人に聞いたら「こんなの大スクリーンで見なければ変わらないよ」って言われて、そのときは劇場で上映するって思っていないから、安い方を買って。結局それを引き継いで、2004年ぐらいまで。

天野:スタンリーキューブリックの「アイズ・ワイド・シャット」が久しぶりのメジャー作品のスタンダードですかね。あとガス・ヴァン・サントの「エレファント」とか。でもカメラワークというか、カット割り等含めて、井坂監督をはじめ審査員の方々が「考え抜かれて」「計算されていて」と評価されていましたね。どうですか?

高橋:部屋の中で、初めて二人でばーっと喋っているところなんかは、二台のカメラで回していて、広い画と寄った画で撮っていたんですけど、いい顔しているところは寄りとかやってて、ぜんぜん計算はないですね。他のところはけっこうマメに、編集するぐらいの気持ちでコンテ(絵コンテ)書いてるんで、割と計算は立っていますね。シナリオを書いた後は、すぐ撮影なんで、シナリオ書いて撮影する間にコンテは書いちゃうんです。

井口:その前にリハーサルなんですか?

高橋:リハーサルっていうか、試しに一回やってみたっていう。いつもはそういうことやらないですけど。それを台詞に生かすような形で。

天野:そういうアプローチをした時に、役者さんが話す言葉っていうのは、高橋さんが期待した通りですか? 逆に予想しない展開なんですか?

高橋:ぜんぜん予想しない展開になってきますね。あくまで様子見なんで、まったく違うとこに芯がずれちゃうってとこは、リハでやったのも本当に出てきた言葉でも使わないですけど。やりないなっていうことを予想通りに言葉を返してくるところなんかは、どんどん使って行きますね。

天野:役者さんにしてみれば、一度頭の中で設定に基づいてキャラを作りますよね。それで一度吐き出して、シナリオになったそれを見て、もう一回それを演じるような形になりますね。

高橋:なるんですけど、基本的にあんまり役は作ってないみたいで、できるだけその場所、その場所にいるっていうことを考えてもらうっていうのが僕らのやり方で、素人さんとか使っているのが多いので、役作りまでしちゃうとプロの領域になるので、しないようにしているんです。その場所にいるっていう風にすると、けっこう柔軟に体が動くみたいで。

天野:役作りというより、もっと自然にというか。

高橋:そうですね。廣末のほうは自分でも監督するんで、インフィールドというか自分で雰囲気を作って行っちゃうんですね。いつも問題はなくて、女優さん(並木愛枝)は舞台上がりなので、台詞を忠実に言おう言おうと。例えば台詞の下に!マークがついていたら強く言うとか、そういうところまで忠実にやろうとするので、それは僕が勝手につけたことだから、自分の感情でムカッと来たら言っちゃっていいし、あんまり脚本に感情を乗せないでくれって、その時その時でやってくれって。そしたらあんな男を相手にしている訳だから、突然ムカッときたり、母性本能が出てきたりとか、化学変化がけっこう起こって。

井口:(主演女優の)並木さんはもともとは?

高橋:舞台を一緒にやったときの人です。オープニング映像をやったんですけど、ぼくらの映像を気に入ってくれて、僕らは舞台からはなれて映像を撮っていくって言ったらついてきてくれて。

井口:「主演女優賞をあげたい」とおっしゃっていた審査員の方がいましたね。

高橋:ネットなんかでも言われていました。観客からですが、ブログなんかに書き込んでいました。香川照之さんも言ってくれていました。

天野:並木さん、ワカメ食べたり着替えたり、なんでもないところがよかったですね。その加減は本人が?

高橋:最初の方は若干こうしてくれとかやってたんですが、途中からは全部おまかせで。どんどん勝手になっていっちゃったみたいな。

井口:衣装もおまかせなんですか? 着替えるシーンで久しぶりに女の人がシミーズ着ているのを映画で見ました。OLの人が着ているんですかね。それが興味があったんです。あれは彼女が?

高橋:そうです。面接に行くための着替えをしてほしいとだけ言って。衣装合わせとかはないですね。



 

05sinin03.jpg<現場について>



天野:どんな現場だったのかなって、とても興味があります。どんな風に進行を?

高橋:普通に立ってもらってから、アングル決めて、本当に流す程度に台詞を言ってもらって、覚えているようだったらそのまま「行きましょう」と撮影に入っちゃいますね。

天野:順撮りするんですか?

高橋:できるだけ順撮りしてましたね。ただ夜のシーンが入ったりとか、ヒゲの長さを間違えて剃っちゃったりとかして、「今日はこっちはできない」なんてことがあったりして。でも順撮りしたほうが役者さんもやりやすいですしね。順撮りできるのが自主映画の良さでもあるから。

天野:一日にどれくらい撮影したんですか?

高橋:どのくらいなんですかね。そんなに大急ぎってイメージもなかったし。時間的には、けっこう普通のサラリーマンと同じ、八時~五時とかですかね。冬だったんでもう四時ぐらいになると、部屋の明かりがギリかなっていう。

井口:照明はしていないんですか?

高橋:僕ら工事現場なんかのハロゲンライトで、昔は使ってみようかってやってたんだけど、巧くないから完全にアテてるって感じになっちゃって。逆にみっともないかなと。

井口:食事がいつも朝ご飯っていうのは印象に残りましたね。そしていつも卵を食べているっていう。

高橋:音の出る食事をさせたいっていうことで、納豆でも良かったんだけど廣末が納豆を食べられなかったんですよ。じゃあ、卵かけごはんっていうことで。

井口:ずるずるって。

高橋:いろんな人に言われたんだけど、セックスシーンがとにかくないって。どっちかっていうと倦怠ぐらいの感じの、あとはもう結婚するだけっていうぐらいのカップルにしたかったんで、あんまり上品に食べるものよりも、平気で男性の前でずるずる音を立てて食っちゃうぐらいのものが欲しかったんで。

井口:最後の、キュウリの漬け物も?

高橋:音が欲しかったんで。

井口:なんか音設計が面白いなって思いました。ロケ地の問題があったかも 知れないんですけど、病院の窓抜けをフィックスで押さえてて、台詞で先生と話しているっていう、まったく同じ構図が何度かあるじゃないですか。カメラが振り向かないんですよね。主役の男の人が薬を取りに行かなくなって、ガールフレンドが取りに行って、こっち側で子供がギャーッて泣いていると、オヨヨってあやすところとか、反対側の音だけ聞こえる。

高橋:あれはちゃんと子供の声を、友達のうちの赤ちゃんのところで録ってきて。

井口:でも、後から入れているんですよね。そういう画格の外の音をわざと入れているっていう感じがありますね。

高橋:たまたま入っちゃったのもあるけど、そうですね。

天野:トイレに閉じこもった時とか。他にも大事な場面が。そのまま我慢して据え置きにして、音だけで乗り切ってしまっている。印象に残りましたね。狙い?

高橋:そうですね。やっぱり撮らなくちゃいけない顔と、撮らなくてもいい顔があって、顔を撮らなくていいんなら、何にも写っていなくても支障はないっていう感じはあるんですよね。昔から感じていたんですけど、人が遊びにきて人が帰って行くと、部屋の中に変なものが残っていますよね。ジュースとかお菓子とかじゃなくて、なんか空気が残っているじゃないですか。そういうものも映像に写るんじゃないかって気持ちでやってますけど(笑)。人がフレームから外れちゃっても、そこに何か写っているんじゃないかって、求めていたりしますけどね。

天野:伝わるもんだと確信をもって表現しているんですか。

高橋:確信を持ってるかどうか微妙ですね。自分はあると思っているところですね。誰かがそこを言ってくれたら、「あるんだな」と思うかもしれないですね。物に対しては、卵だったりとか、雪解けだったりとか、スニーカーとかは写真感覚で写していましたね。基本的に自主映画ってロケ地がなかったりするじゃないですか。一つのことを説明するのに、いろんなことを仕組んだりできない。そういう時のために、雪解けとか全然関係ないときに撮っているんです。12月に大雪が降った日があって、撮影は一ヶ月後だったんですけど、これは絶対使えると思って撮ったりとか。写真感覚で現場でおさめちゃって。

天野:昼間だけの撮影で、ぜんぶで何日ですか?

高橋:9日。土日とか、日曜日だけとか。1月の半ばから2月の終わりぐらいまで8日間、桜を待って1日っていう。

井口:9日間って、短いですね。私(犬猫で)1年半撮ってたんですよ。

高橋:それは季節をぜんぶ撮るとか、そういうことじゃなくて?

井口:全ッ然! しかも毎日撮っていましたね。

高橋:!!!(大爆笑)

天野:完成まで4年かかったんですよね。

井口:やめたかったんですけど、みなさんにどうやってお詫びするんだとか怒られて、やめられなかったんです。(8ミリフィルムを)400本近く回していますね。

高橋:そのモチベーションの方が凄いですね。

天野:飛び飛びの撮影って言うのはあるかも知れませんが、テスト本番テスト本番でカットを稼ぐというやり方だと、ハヤ撮りってできると思うんですよ。だけど役者さんの呼吸まで大事にしたりすれば、もっと時間がかかる気がします。

高橋:ずっとその前にも何本も一緒に撮ってきて、何度も何度も芝居をしている間柄だし、だから簡単に回して、最初の頃は注文をだしていたんですけど、だんだんはまってきちゃうと言うことがなくなっちゃうんですよね。それをわざわざ止めて、監督らしいことを言うってこともなく。普通に甘えたように聞こえたので「今、甘えたように聞こえたけど」って聞いたら、「甘えたかったから」「あ、そうですか」って。

井口:ワンシーンは1日でやってるんですよね。

高橋:そうですね。分かれていることはないですね。

天野:見ていると、男性の心がここにあらざる、気持ちが他の方に行って、うつろになっていく様とかリアルだし、分かるなって感じられましたね。一番ぐっときたのは、40万の使い途を問い正された後の「ちょっと集中しようか」っていう部分、あれは来ましたね。こんなこと言われたくないだろうなって。

井口:モデルの方とかいるんですか?

高橋:いないですね。ただ本は「幸福の科学」から脱退した人をサポートしている人が書いた本「新興宗教からの脱出」があって、参考にしました。

井口:今回、お部屋が男臭い部屋だな思いました、美術が。

高橋:廣末の部屋です。

井口:この部屋には女の子は住んでないだろうと、ちょっと思ったんですけど(笑)映画をやってる友達の家にそっくりなんですよ。3、40代男子みたいな。パソコンもすごいデカイやつで。女の影がないって感じ。

高橋:最初、カーテンすらなかったんですけど、せめてカーテンぐらいはって。総予算のほとんどが、テープ代とカーテンですよね。

井口:そうなんですか! 黄色いソファも?

高橋:半年ぐらい前に買ったんですけど、僕そのとき車の仕事していて、ハイエースのワゴン車で、作業用なんで後ろなんにもないんですよ。そのままロケ車で使っていいって言われていたんです。そこに三人がけのソファがすっぽり入る。それで前のがボロくなったので、三人がけのものを買いに行ったら、あれが一番安かったんです。あれはどこに家にあっても浮くんですよね。気持ち悪いなと思う。

井口:うまい具合にハマってましたよね、あの部屋にパカッて。

天野:家に帰ってきて座ってみた時の衝撃たるや、伝わってくるようでした。

井口:座る? 座る、座らない?ってそんなに嬉しいのかなって、あの男の人が嬉しそうだったのが面白かったですね。

高橋:!!(爆笑)



05sinin04.jpg<映画が完成するまで>



天野:編集は、ご自身で?

高橋:はい。やっぱりリズム感ってありますもんね。一番、ノーマルなタイミングで切る分には誰でも同じように切るんでしょうけど、人それぞれのリズムがあるんで。人の映画見ても意味わかんないですよね。なんでこんな長いのかとか、なんでこんな短いのかとか、やっている方にしてみれば、ベストなリズムで切っていると思うんですけどね。

井口:映画やり始めて、始めからパソコンで編集されているんですか?

高橋:そうですね。iMacの中にあるiMovieが最初です。今はプレミアですね。バージョン6かな? もうないですけど。

井口:2000年に入ってから、やり始めたんですか?

高橋:その前から演劇をやって、そのときに廣末と演劇のオープニング映像とか作っていたんですよね。昔、鴻上尚史がやっている番組(WOWOWの「鴻上尚史のシネマde晩餐」という番組のワンピースコーナー)でワンカットものとか、編集がいらないものとかはずいぶん前からやってましたけど、編集してつなぐのは2000年とかですね。

井口:その辺で差がある。ファイナルカットとか、プレミアが民生ででるようになって。私がやっていた時は97年とかで、まだすっごい高かった。

天野:パソコンだとエフェクトも掛けられますしね。今回もけっこうイジってますね。

高橋:ええ、いわゆるフィルム調にしているんですよね。僕のパソコンは古いっていうのもあるんですが、当時4分間の映像の処理に24時間かかるから。セットして夜寝て、バイト行って帰ってきて、またセットし直して。だから一ヶ月ぐらい、夜中にずうっとパソコンの音が聞こえていたんです。

天野:音はパソコンでミックスしているんですか?

高橋:ええ、プレミアの中だけで。

天野:音は、高橋さん効果的に使われるので、劇場で見たとき音のフェードとかちょっとぎくしゃくしていたし、音だけはスタジオに入ってしっかりやれば、格段に良くなると思いましたね。

高橋:ええ。音声は大変ですね。今はマイク一本ですけど、ピンマイクとか使えばもうちょっと良くなるかと思うんですけどね。



05sinin05.jpg<これからについて>



天野:「ある朝スウプは」は何を目指して作られたんでしょう?

高橋:PFF(ぴあフィルムフェスティバル)入選です。そこまでいけばいいなって。一般公開することとかは、考えてないですね、まったく。

井口:去年、質問されたことを質問します。自分の映画を見て欲しい人たちっていうか、観客を想定して作ってますか?

高橋:ないですね。編集になってやっと、これ切っちゃうとわかんないとか。観客のことを意識しますが、撮り終えるまでは、自分がやりたいところでしかやれないですね。

天野:今後もそう考えていきますか?

高橋:今、制作会社に企画を一本出しているんですけど、それも思い通りにいかないなら自主でやるっていう感じですね。やっぱり職業として監督になりたいわけじゃないんです。脚本は職業として、自分が演出するわけじゃないんで、何でも書いちゃいますけれど。実際、監督になると演出できるものとできないものがあるじゃないですか。

井口:じゃあ、脚本家としてプロという意識が?

高橋:脚本家としてはありますね。監督としては、もしやらしてくれるんならやるけれども、条件を突きつけられたりとか、それをやっちゃったら僕がやる必要がないようなものだったらやらないっていう。

井口:映画は作っていくんですよね。

高橋:ええ、自主映画でもぜんぜんいいと思っているんで。

井口:次回作なんですけど、脚本の仕事のほうが先に、次回作として世に出る可能性があるんですかね。

高橋:そうですね。一番早いのは共同脚本なんですけど、山田悠介原作の「親指探し」っていう。あとはツイテナイのか分かんないですけど、必ず第3稿、第4稿ぐらいまで書いているのに話がなくなって。それって普通なんですか?

井口:途中で無くなるのって普通にあるみたいですね。脚本って、同時に何本も受けたりするんですか?

高橋:ええ。文章にすれば割り切るってできるんですね。演出で忙しい人って、何本もかぶっているわけじゃないですか。演出で切り替えができるって難しいと思うんですけど。

井口:シナリオ学校とか行かれていたんですか?

高橋:いえ、独学です。僕は、仕事でくる脚本は、途中まで書いて、後は監督に書いてもらいたいぐらいですね。第5稿ぐらいまでは書いてもいいですけど、そのあとの細かい部分は「監督が書いた方が良いんじゃないのか」っていう。

井口:脚本に関しては、作家としての自己主張はないんですか?

高橋:もちろん作家性は出していかないと、特別僕に回そうっていう仕事はなくなってくると思うんで、出していますけどね。ただそれがどう映像化されるとか、そういう演出のところは監督のものっていうか。

井口:今後、大きい作品をプロとしてやっていくんですか?

高橋:やりたいことをやらしてくれるところがあれば、やっていきます。

天野:メジャーから声をかけられて、キャストやホンなんかがいろいろ決まっていて、あとは監督するだけ、という状況ではやりますか?

高橋:やんないと思いますね。それをやることで僕の表現にプラスになると思っていないですね。表現は続けていきたいです。ぶっちゃけアルバイトでもいいんですよ。たまたま今、脚本の仕事が回ってきているのでやってますけど。一番、自分の表現に適している場所やシステムの中でやりたいです。商業映画のシステムが適している人っていっぱいいるんですよね。ただ僕はどうかな。今出している企画で、いろんな折り合いを付けて撮ってみたりして、やっぱり違うって思ったらもうそういうところではやらないですね。実際はやってないんで、何とも言えないですが。

天野:その高橋さんの適した場所やシステムとは何ですか?

高橋:映画って、僕の中で何かを固めて映画を撮るというよりも、カメラがあって役者がそこにいるというもっとミニマムな世界が、僕に合っているような気がするんですよね。それが今の場所ではできるけど、それ以上のこともロケーションを増やしたり、キャスティングの幅を広げたりっていうことになってくると、多少の手を借りなきゃできないってことで今企画書を出しているんです。二人芝居だったら、絶対一人でやりますね。

天野:予算が何千万、何億となればできることも増える。その可能性を探るためのアプローチなんですね。

高橋:そういうことですね。

天野:本日はありがとうございました。


05sinin06.jpg<右から高橋泉、井口奈己、天野裕充>

<新人賞の授賞式のあと、戸惑いながらも力強くインタビューに応じてくださった高橋泉さん、話しは静かでも心の芯に揺るぎないものを持っている感じがして頼もしい。また昨年の受賞者としてインタビュアーを快く引き受けてくださった井口奈己さん、雑談に花が咲き、いつまでも話していたかった。お二人に心から感謝したい>

■インタビュー/平成18年8月9日/於:日本映画監督協会■