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日本映画監督協会 会員名鑑

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「芝居って何だろう?」

「僕には趣味がない。全てが仕事なんです。」
岸谷五朗×井坂聡

『芝居ってなんだろう?』第一弾は、先日テレビ版『愛の流刑地』でご一緒した岸谷五朗さんとの対談です。演技者として舞台・映画・テレビのあらゆるシーンで活躍中の岸谷さんの秘密(?!)に迫ってみました!と書くと何だか芸能記事みたいですが、岸谷さんの飾らないしゃべりにすっかり一ファンの気分になってしまったのでお許しを(笑)。
(文責・井坂聡)

【舞台しか頭になかった】

岸谷:元々、僕は本当に舞台俳優しかやるつもりがなくて、映画とかテレビとか全く頭になかったんですよ。舞台俳優になるためにこの世界に入ったというか。それで早くプロの世界に行かないといけないと思って劇団のオーディションを受けたんです。最初の頃は、自分を鍛えるためのレッスンとアルバイトでもう一杯いっぱいでした。かと言って、芝居もまだそんなに上手くないわけですから、劇団の中でも小さい役しかつかないんです。それでも芝居がやりたくてやりたくてしょうがない。だから、自分の表現の場を作るために、プロデュース公演を始めたんです。最初はなかなか自分のプロデュース公演を認めてもらえませんでした。もし失敗したら劇団の名前に傷がつくというようなことを言われて。でも、どうしてもやりたかったから、「もし駄目なら劇団を辞めます!」という条件で始めたんです。結果的には、評判もよくて、劇団とは別に定期的に岸谷五朗プロデュースという形で芝居がうてるようになったんですが。

井坂:その頃から、本も自分で書いていたんですか?

岸谷:ブレーンの作家の友人もいましたし、もちろん自分で書いた作品もあったし、その頃は決まった形があったわけじゃなくて、半分他の人が書いて、半分自分で書くとか、そんなスタイルでやっていましたね。演出は全部自分でやっていましたけど。

井坂:じゃあ、自分のプロデュース作品では演出する側、それ以外の場では演出される側ということになりますね。

岸谷:ええ。ただ、演出される側と言っても劇団の中だけですからね。劇団と自分の公演以外の舞台に出たことはないんです。そのうち、『地球ゴージャス』というユニットを寺脇康文と立ち上げて、様々な俳優たちと一緒に活動できるようにしました。

井坂:今度8月からその『地球ゴージャス』の第9回目の公演『ささやき色のあの日たち』という作品がありますね。台本はニューヨークで書かれたそうですけど。

岸谷:そうなんです。毎朝7時くらいから台本書いて、夜は舞台見てその後仲間と酒を飲んで。二十代後半にぎりぎりの金を握って踊りのレッスン受けるためにニューヨークに行ってから、ニューヨークという街がすごく好きになったんですね。今も一年半に一回くらいのペースで行って、ブロードウェイで十数本新作を観まくるんですよ。それ位の期間で行くと作品がガラッと入れ替わっていますから。作品の良し悪しがどうこうというより、雑多な人間、人種が集うあの街の空気を浴びるのが好きなんですよね。前回『HUMANITY』という舞台をやった時も、台本を書くつもりでニューヨークに行きました。その時は一行も書けなかったんですけど(笑)。今回は作品とあの街の空気が合っていたのか、書けましたね。

井坂:やっぱり、演出家としても俳優としても刺激を受けるわけですか?

岸谷:居心地いいんですよね、ブロードウェイっていうところは。芝居を好きな連中たちばかりがいて。すべてが演劇中心に動いていて、演劇を観るという目的だけで集えるんですよ。監督たちにとっての映画の撮影所にいるみたいなもんだと思います。

井坂:なるほど。そうですね、撮影所に行くと色んな組が動いていて、仲間が大勢いて。言われてみると、確かに居心地いいですよね。

【映画の世界への招待状】
 
井坂:岸谷さんが初めて映像の仕事をしたのって何だったんですか?

岸谷:何だったかなあ......ちょっと覚えてないんですけど......テレビの歌番組で歌手のバックダンサーとかもやってましたし、三宅裕司さんの番組で前説みたいなこともやっていたんですよ。でも、これが当時の俺たちにとっては結構おいしいギャラで、と言っても一回三千円とかですけど。お弁当は食べられるし、時には余ったお弁当を全部持って帰ってきて、芝居仲間に分けて回ったりして(笑)。そんなことがテレビの世界のスタートでしたね。そのうち、ドラマに出るようになったり、映画のオーディションを受けるようになったり。
『月はどっちに出ている』もオーディションだったんですよ。

井坂:『月はどっちに出ている』は面白かったなあ。すごくエネルギッシュなんだけど、感情がストレートに出ていて、変な力みが感じられなくて。

岸谷:崔洋一監督の中で溜まっていたものが爆発したような作品でしたね。ただの爆発じゃなくて、どこか繊細な爆発というか......すごくいい形で映画の世界への招待状をもらいました。あの作品に出たことで、完全に映画が面白いなって思いましたね。映画に出たいって思うようになりました。

井坂:ずっと舞台をやっていて、映像の世界の芝居に何か違和感を感じたようなことはありました?

岸谷:違和感というんじゃないんですけど......それまでは、一番優れた演技者がいるのが舞台だと思っていたんです。舞台の人間は、俳優になるための訓練をしっかりと積んでいますから。逆に言うと、映画やテレビドラマをどこかなめていたんですね。まあ、若気の至りというんでしょうか。だから、最初の頃はドラマなんかに出ても自信たっぷりだったんですよ。それが仕事をする上でいい風に作用していたのも確かなんですが、実は今の方が『このシーンは自分に出来るかな......』って震えたりすることがすごく多くなったんです。若い頃は勢いだけで乗り切れていたんだと思うんですけど、段々と色んな難しさを分かってきたんですね。今思えば、映画、ドラマ、舞台はそれぞれ全く芝居のやり方も違うし、役作りの仕方も違うんですが、まあ、それも十年以上この三つを行ったり来たりしながらやり続けてきたから気づいたことなんですけど。

井坂:演じる上で、映画、ドラマ、舞台の違いってどんなことなんですか?

岸谷:多分、役作りに一番時間がかかるのが映画だと思います。映画はその役としてリアリズムの中で存在しないといけないじゃないですか。例えば漁師の役なら、ある程度の期間漁師の暮らしを経験しないと、大きなスクリーンの中で存在感が出せないんですよ。テレビドラマの場合は、台詞を物凄く上手に喋れないといけないと思うんです。テレビって音がないとチャンネルを変えられるという悲しい性がありますから、確かに無駄な台詞も一杯あるけど、それを見ている人に自然に受け止めてもらえるように喋らないといけない、そのテクニックが必要なんですね。演劇の場合は、カット割りがないから観客はどこを見てもいいわけですから、舞台に飛び出てきた瞬間から観客の目を惹きつける存在感を持たないといけないんです。大騒ぎの存在感というんでしょうか......それに比べて、映画の場合は風景の中にポツンといるだけの存在感、ただそこにいる存在感が求められますから、そうなるまでは役作りに膨大な時間が必要になると思うんですね。

【監督にほめられたい】

井坂:今まで、映画やドラマの監督たちと上手くいかなかったことなんてありました?

岸谷:ないですねえ......どっちかと言うと、監督と一緒に作ろうという方なんで。どうすれば面白くなるかっていうことを、監督と同じ共同体の一員になってお互いに追求していくというやり方をやってきたと思うんですよ。だから、その芝居が違うという風に怒られたりみたいなことってなかったですね。

井坂:やりにくいタイプの監督とかは?

岸谷:やりにくいというのも......ないですねえ。人間って他の動物よりも沢山言葉を持ってると思うんですよ。サルもサル同士、象も象同士話をしていると思うんですけど、人間ほど言葉を持っていませんよね。疑問に思ったことは言葉で解決すべきだと思うんですね。だから、話せないと駄目かもしれませんね。(井坂)監督ともこのシーンはどうしようとか色々と話をしましたけど、そういうやり取りがあって、監督の意図とか狙いとかに納得して演じるわけで。もしそういう話し合いが出来ない相手だとしたら、やりにくいというか上手くいかないこともあるかも知れませんけど。

井坂:そうですね。監督と俳優のコミュニケーションってすごく重要ですよね。

岸谷:俺はね、一つはっきりと言えることは映像に関しては、実は観客よりも監督にほめられたいんですね。演劇の場合は自分の手で作っているから、やっぱり観客にほめられたいし、拍手をもらいたいと思ってやっているんですけど。映像の場合は、監督の『OK!』っていう声だったり、いい芝居だったと認めてくれたりということの方が自分にとって重要なんですよ、観客よりも。監督が考えていた合格点以上の芝居を生み出せたら、俳優としては一番幸せなんです。観客に何を言われても、こっちは監督のOKをもらっているんだって自信を持って言えるし、結果的にその映画がこけたとしても、監督のせいだし(笑)。

井坂:(爆笑)

岸谷:だから、映像の仕事は監督にほめられたいからやってるって感じですね。でも、監督って皆さん特殊ですよね。それぞれとてつもない個性とパワーを持ってるんですよ。よく、崔さんとか色んな監督が役者として出たりしますけど、ああいう個性って普通の役者じゃ出ませんからね。俺、監督だけ何十人か並べて集合写真撮りたいですもん。それぞれ個性があって、主義主張がバラバラな人間たちじゃないですか、すごい写真になると思うんですけど(笑)。

井坂:(爆笑)。監督協会で毎年総会をやって、終わった後に集合写真を撮るんですけど......やっぱり変かな(笑)。

岸谷:変でしょ、それ絶対(笑)。

【役になる瞬間】

井坂:俳優が台本を読んで、役が入ってくる瞬間というか、どういう風に役になっていくかということに興味があるんですけど。

岸谷:台本って不思議なんですけど、読み続けてその役のことを色々と考えてってことを繰り返していると、ある時台本が透き通って見えるようになるんですよ。今までは分厚くて、全く向こう側が見えない状態だったのが、そうですね......クランクインして暫くした頃には透けて見えるような瞬間が来るんですよ。

井坂:へえー(驚嘆)。

岸谷:本当に不思議なんですけど、台本が自分のものになってるんでしょうね。そうなると、どの頁を開いても安心できるというか。最初に読むときって、鉛のように重い感じがするんですけど、それがフワフワ浮遊しだすんですよ。そうなると芝居してても最高に楽しくなるんです。その役が自分のものになったということなんでしょうけど。例えば(井坂)監督とやった『愛の流刑地』の時も、撮影の後半なんかスイッチさえ入れればすぐに菊治という役になっているという感じだったんです。

井坂:それはやっぱり本を読み込んで、色んなことを頭の中で思い浮かべて動いてみて、ということをやっているうちに、ある日気がついたらその役を自分のものにしているという感じなんですかね?

岸谷:ええ、そうですね。登場人物に自分を近づけようとしたり、シーンによっては自分に寄せたりという作業をやっているうちに......逆に言えば、そういう風になっていかないと演技できないでしょうね。

井坂:日頃、芝居のために何かやっていることはありますか?

岸谷:監督もそうだと思うんですけど、みんな普段からあちこちにアンテナを立てていると思うんですよ。ひょっとすると、こういう職業じゃない人たちはアンテナ三本でいいかも知れないけど、我々俳優は十本二十本とアンテナを立てていないといけない職業だと思うんです。普段目にする何気ないことでも、ちょっと気にかかることは全部自分の中にインプットしておくと。そういうことは毎日やってる作業かもしれませんね。だから、趣味がないんですよ。全部が仕事になっちゃうんです。

井坂:確かにそうですね。読書も映画も芝居見るのも最早全部仕事ですもんね。

岸谷:ええ。大好きなことが全部仕事になってるんです。しんどいけど、すごく幸せなことですね。

井坂:じゃあ、最後に。岸谷さんが芝居をやっていく上で一番大事にしていることってなんですかね?

岸谷:結局何のためにやっているかっていうと、俺は人が好きで、仲間が好きなんだと思うんです。みんなで何かを作り上げることで、人と人との繋がりって深くなれますよね。そういうことが好きなんじゃないかなあと思いますね。どれだけの人間と本当に腹を割って頑張れたかというね......この仕事って格好つけていたら出来ないじゃないですか。対スタッフにしても俳優同士にしても、裸になって全部自分をさらして頑張らないと。時には頭にきて喧嘩することも、終わってみればすごく大事なことだし、それは人間を知ることでもあるし......俺は人間が好きだから、この商売をやってるのかなって最近思うんですよ。だから、一番大事にしてることっていうのは、ちょっと格好つけた言い方になりますけど、仲間なのかもしれないですね。

井坂:なるほど。自分のことで言っても、作品作るのってお祭りみたいなもんなんですよ。お祭りっていうのはワーッと人が集まってくるもんだし、そこでみんなのエネルギーもらってワクワクするって、いいですよね。

岸谷:井坂組も大ベテランたちが楽しそうに仕事してましたもんね。

井坂:それが監督としては一番嬉しいですね。

岸谷:またいつか、そういう仲間が集まって、世の中に向けて作品を生み出すって最高ですよね。現場はつらいことばっかりですけど(笑)。結局、そう考えれば、殴り合ったり喧嘩したりすることも含めて、やっぱり人間が好きなんですね。

以上

舞台『ささやき色のあの日たち』の取材の合間の時間を無理やりいただいての対談でしたが、私にとってとても濃密な時間となりました。最初にも触れましたが役者・岸谷五朗にますます魅せられてしまいました。と同時に一人一人の俳優と対峙する際の、監督の心構えあるいは覚悟は何なのか、という問いを突きつけられた気がします。なお『ささやき色のあの日たち』の公演情報ですが、以下のようになっておりますので是非是非お出掛けくださいませ!
東京公演:Bunkamuraシアターコクーン
        8月5日(日)~8月26日(日)
大阪公演:イオン化粧品 シアターBRAVA!
        8月30日(木)~9月3日(月)
新潟公演:りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館・劇場)
        9月8日(土)~9月9日(日)
名古屋公演:愛知県勤労会館
        9月22日(土)~9月24日(月)
(詳細は公演HP http://www.amuse.co.jp/chikyu/vol_9/ をご覧ください)

さて、パート2は「演じるって、演出するって一体何だろう?」という本質に迫る役者監督入り交じっての熱い座談会です。爆笑トークの中にも数々の珠玉の名言が散りばめられています。きっと皆さんの心を打つに違いないと確信しております。さあ、すぐに続きを読みましょう!
(2007年6月5日 銀座東武ホテルにて DV撮影 瀧本智行)