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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

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新人賞選考委員・選評

【2007年度 日本映画監督協会新人賞・選評】

※2007年度新人賞選考委員
緒方 明(委員長)・斉藤 信幸・高橋 伴明・内藤 忠司・本田 昌広・山田 あかね

●選考を終えて   緒方 明

 最終選考に残った4本のうちの「ジャーマン+雨」「国道20号線」「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」。この3本の監督は誰が新人賞でもいいと思った。どの作品にもまぎれもなく「現代」が見えたからだ。心に何かしらの傷を抱えて居場所(決して行き場所ではない)を探して迷走する登場人物たち。誰かとつながりたいのだがうまくいかず生きることがヘタクソな人々。そのまんま今の日本人の有り様そのものではないか。しかもこれらの作品はどれも作り手が自らの意志で「作りたくて作った」ものばかりだ。どの作品も力強い魅力に満ちあふれていたと思う。未見の方はぜひご覧になることをおススメします。その中で「ジャーマン」の横浜聡子さんが新人賞になった理由を今、改めて自分なりに考えてみると、その演出力の未知数の魅力とでも言えばいいだろうか。富田克也さんも吉田大八さんもこれからもっともっと素晴らしい作品を着実に撮ってくれるだろうと思えるのだ。ただ横浜さんは失礼ながらどんな監督になっていくかが見えにくい。富田さんや吉田さんが「すでに映画と出会えている」のに対し横浜さんは「これから出会っていく」気がする。これこそまさに「新人の特権」なのだと思う。そういう意味で一番次回作が楽しみな監督が横浜さんだ。それから最終選考には残らなかったが協会員で選考委員でもある山田あかねさん推薦のオダギリジョー監督「帰ってきた時効警察」には驚いた。「売れっ子俳優の余技としてテレビシリーズの一話を撮らせてもらったのかな」と思って観たらとんでもない。そこには旺盛なる実験精神と既成のものを破壊して新しい何かを作ろうとする視線が明らかに存在したからだ。この人が映画撮ったらちょっとコワいなと感じた。

●ナイスな変わりもの   斉藤 信幸

 よく言われることだが、創作とは、すでにあるものとあるものを組み合わせ、新しい情報を作り出すことである。そして、その働きの多くを担っているのが脳にある海馬の1000万個ぐらいの神経細胞で、脳の細胞は1000億個ぐらいと考えると、いわば選りすぐりの少数精鋭たちだ。また脳の細胞は一秒で一個くらいのスピードで死んでいくのだが、海馬の場合、手近にある脳細胞と簡単に結びついてしまうダメなやつから死んでいくらしい。思いもよらぬ遠い脳細胞にパルスを飛ばして結びつくような「ナイスな変わりもの」は優れた神経細胞として生き残るのだという。
自分にひるがえると耳に痛い話だが、新人賞選考で求めるのもそんな異端の人なのだ。と思った。
 ヒンシュクをかうぐらいの「ナイスな変わりもの」に出会いたい。と思った。

『国道20号線』 シンナーとパチンコと消費者金融と、いたって激安でおバカな日常を撮しとっただけなのに、日本の消費社会の構造に問題あると一石を投じた力量には見るべきものがある。同棲しているオンナとのぐだぐだぶりの粘り強い演出もそうだが、かつての族仲間で闇金屋の小澤との絡みがいい。わたしたちの身近にある現代病理を、表層ではなく、確かな小澤の肉声でさばいた手際に、新人らしからぬ懐の深さを感じた。
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』 澄伽と清深の対立から逃げ出した宍道を突然襲う豪雨、炭焼きの炎の中での不慮の死、漫画のコマ割で描かれる澄伽の殺意、そして、回り出す壊れた扇風機など重要なシーンがポップな仕掛けにしか見えないのは、あきらかにそこに至るまでの情念が不足している。キレイに田舎を切りとったため閉塞感が薄れたこともあるが、劇的現象イコール人間らしさでは、あまりに順接過ぎないか。扇風機を回せたからゼロではない、何かが変わった、の順接では、ラストの姉妹の道行きのその先を見たいとは思えなかった。
『机のなかみ』 情けないヤツほど情けがあるという狙いは分かるが、あの大泣きはとてももたない。それを撮るのはアイドル映画のノリに見えた。
『ジャーマン+雨』 トラウマを扱いながら色彩と音とがあふれ、岡本太郎的ともいえるパワーがある。ぶつ切りに近い描写も、ゴリラーマンと呼ばれる強烈なキャラを浮き立たせるために考え抜かれたテクニックと思えた。観念的だが妙に生々しいシーンはあるが、決してヘタウマでもユルイでもない。その底に、しっかりと親子ドラマを這わせている。しかも、乱暴なのに前向き、その絶妙な距離感がよい。父ダンゴムシを殺してしまったと思いこんだよし子が慰めるまきを鼻血が出るほど思いっきりパンチで殴り、反撃するまきに「バイバイ」と別れていくシーンなど、スコーンと突き抜けているのに、そのよし子の心情に間違いないリアリティーがあった。
 最終選考では当初『国道20号線』を推したが、もっと遠くへと海馬が騒いだ。『国道20号線』にはどこかに70年代の既視感が漂う。ドッボーンと糞つぼに落下して、臭いけれど生き延びる'07年の「ナイスな変わりもの」へパルスは飛んだ。振り返れば、最終試写の直後から「あ。かわいそう。笑ってる」の最後のセリフのキュートさにやられていたのかもしれなかった。

●協会が選ぶとしたら・・・・   高橋 伴明

 まず、お詫びしなければならないことが、いくつかあります。その因なるものの過半は、自作のクランクイン直前に選考会が始まったということなのですが、候補者28人の作品のうち12本しか観ることができなかったこと、最終選考会に欠席したこと、緒方監督に強引に委員長を押しつけたこと(尤も、緒方監督のなかでは、その企ては、ヨミのうちに入っていたようですが)等々であります。本当に申し訳ございませんでした。
 さて、12本のうち、気分にひっかかってきたのは、吉田大八、横浜聡子、富田克也、安心して楽しめたのは、瀧本智行、松尾スズキ、各監督の作品でした。
 最終的に残った4人のうちに3監督が含まれていたので、自分は、そうズレてはいないのだと、正直ホッとしました。そして、この3人のうち誰が選ばれても異議は唱えないことにしました。
 横浜聡子さん、おめでとうございます。
 実は、この原稿を書くにあたって見直した候補者一覧表に、自分は早い時期から、横浜聡子監督に「V」マークを付けていたことに気付きました。これは協会が選ぶとしたら、この人なんだろうなあ、という気分だったのだと思います。
 協会が選ぶとしたら・・・・。
 自分勝手に分類すれば、作品には「衝撃系」と「安心系」があり、協会としては、どうも「衝撃系」に傾く空気があるように思えてなりません。これでいいのだろうか・・・・新人の職人技にも、もっと視線を・・・・いや、新人だからこその一瞬の輝きを・・・・、自問自答してみるのですが、まだ答は見つかりません。

●孤軍奮闘   内藤 忠司
 
候補に上がった29人30作品中、昨年、12本見ていた。今回選考するに当り、上映中の劇場で4本、DVD、VTRで9本鑑賞。
 その中でマイベストワンが、結果的に他委員の集中砲火を浴びた、吉田恵輔『机のなかみ』。
 前半、家庭教師の視点、後半、女子高生の視点で、物語が繰り返される。家庭教師役のあべこうじの芸人口調に、いささか辟易したが、それを補って余りある面白さに魅き付けられた。特に女子高生篇になってからの瑞々しいタッチ。コント風と見せかけながら、しっかり、片想いの切なさ、恋するときめき、等々を丁寧に切り取っていく。
 これはもう既にプロの演出力。カラオケデートのシーンなんか、恥ずかしながら、いい年こいてウルウルしてしまった。終盤、家庭教師、憧れの男子同級生含めての、男のずるさの露呈。それらを決して暗くなることなく、笑いも交えてまとめ上げ、ヒロインの凛とした再出発に拍手を送りたくなるラスト―誰も褒めないので、この場で絶賛!!
 既に完成している次回作を、最も見たいと思わせる監督ではある。
 この作品でなければ、封切りで見た『腑抜け』を推すつもりだった。が、劇場で見た際、前半、眼を見張ったものの、後半だれて嫌になった『ジャーマン+雨』を、今回、2度目に見ると、だれ場が気にならず、逆に個性が目に付き始めた。そんな訳で、『腑抜け』の良さは充分認めつつ、「新人」と言う意味で、最終的に『ジャーマン』を推す。
 最終選考に残らなかった作品で好みを上げると、『Little DJ 小さな恋の物語』『さくらん』『クワイエットルームにようこそ』『陸に上がった軍艦』。
 助監督出身者としては、今回、助監督出身組が振るわなかったのが残念。もっといいものが撮れる腕を持ってるだろう、と点が辛くなるのも事実なのだが。

●4人の新人監督のこと   本田 昌広

横浜聡子監督「ジャーマン+雨」
 無防備で、野方図。そして力強い。横浜監督は、よし子という「概念」をうまく放し飼いにした。「自分探しや内省する映画をつくりたくない」と言いつつも、娘と父の感情的な処理も怠っていない。企画と製作体制づくりにも、監督力を感じた。誰もが予想できなかった、誰にも真似のできない映画ではないだろうか...
富田克也監督「国道20号線」
 ちんぴら、シンナー、方言、やくざ、娼婦...ノイズまじりの断片集だが、読後感がよかった。淀んだ川のような国道沿いの街と、日本の街殺しを象徴するかのような風景に、ヒサシを閉じ込める。出口なし。富田監督はヒサシを、横浜監督のよし子とは逆に、緻密に、注意深く生け捕りにした、という印象。
吉田大八監督「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」
 CM業界では、その独特の作風で知られている。いつかは映画を撮るであろうと期待されていた一人。ショートフィルムにも隠れた名作がある。そして、その初監督作品は、とんでもなく、そつがない。圧倒的な数の精度の高い仕事歴の産物だろう。しかし、キャラクターの創出という部分では、小説と舞台というベースがあるため、判断に迷った。吉田大八オリジナルの次回作を観たいと強く感じた。
大島新監督「シアトリカル」
 リアルとリアリティは違う。そして、唐十郎は立っているだけで、物語である。リアルを切り取りながら、フィクションを仕立て上げようとした構成は面白い。大島監督は、リアリティの累積でフィクションを描こうとしている我々に、リアルとフィクションを織り交ぜた物語がリアリティを持ち得るか、という難題を提示した。ややこしいけれど。ラストのメッセージで、奇妙な後味となってしまったのが、残念。

● 監督の個性があふれる映画が好き   山田 あかね

 この世にはいろいろな種類の映画があるけれど、自分は、監督の世界観(=監督がこの世界をどう見ているか)が如実に伝わってくる作品が好きだ。なので、映画を一本も撮ったことのない身ですが、(テレビドラマはかなりたくさん撮ってますが)、監督の息づかいが感じられるような作品を選びたいと思って選考に参加した。最終に残った四作品のなかでは、完成度から言えば、吉田大八監督の「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」が圧倒的だった。原作のイメージにぴったりのキャスティング、よく練られた脚本、すみずみまで監督の演出がいきわたっていた。ヒロインの佐藤江梨子さんが、田舎道を自転車で悪態をつきながら漕ぐ姿に彼女が埋もれている田舎の閉塞感と彼女のやるせなさが強烈に表現されていて、なおかつ美しかった。あっぱれな作品。だから、作品を対象とするならこれが受賞すべきだと思った。
 が、問題は「ジャーマン+雨」だった。なんというへんてこりんな世界だろう。主人公はかわいくないだけじゃなく、性格も悪いのだ。日本映画のヒロインといえば、美形で性格もいいのがほとんどだ。その意味で「ジャーマン」と「腑抜け」は新しい時代のヒロインを感じさせる映画だけど、「ジャーマン」はさらに一歩先を行く。監督の個性としかいいようのない物語と登場人物たちの奇妙なキャラクター。これほど個性的で、シーンごとに裏切られていく映画をかつて一度も見たことがなかった。技術面や構成のつたなさはあるかもしれないが、まさにこの監督にしか撮れない映画だと思った。なので、横浜聡子監督が受賞することに異存はなかった。 
 「国道二十号線」について。四作品のなかではもっとも映画的な映画だと思った。台詞に説明させるのではなく、映像によって、国道二十号線という殺伐とした環境とそこに暮らす若者たちのよるべなさを描ききっていた。内容の悲惨さにも関わらず、見終わったあとはなぜかすがすがしかった。
 自分もいまだ勉強中の身、たくさんの新人監督の作品を見させてもらってとても幸福でした。横浜聡子監督の次回作に期待!です。

【2007年度 日本映画監督協会新人賞候補対象作】

石原真理子『ふぞろいな秘密』
岩田ユキ『檸檬のころ』
大島 新『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』
荻野欣士郎『ほのかの書』
奥田瑛二『長い散歩』
オダギリジョー『帰ってきた時効警察 第8話』(TV)
グ・スーヨン『プルコギ』
久保朝洋『富江VS富江』
ケラリーノ・サンドロヴィッチ『グミ・チョコレート・パイン』
佐藤圭作『人間椅子』
隅田 靖『ワルボロ』
大九昭子『恋するマドリ』
瀧本智行『犯人に告ぐ』
タナダユキ『赤い文化住宅の初子』
富田克也『国道20号線』
永田 琴『渋谷区円山町』
永田 琴『Little DJ 小さな恋の物語』
蜷川実花『さくらん』
廣末哲万『14歳』
福原 彰『うずく人妻たち 連続不倫』
藤田容介『全然大丈夫』
前田弘二『誰とでも寝る女』
松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』
三島ゆき『京都地検の女 第7話・毒薬とよく食う女』(TV)
山梶貴之『保健』
山本保博『陸に上がった軍艦』
横浜聡子『ジャーマン+雨』
吉田恵輔『机のなかみ』
吉田大八『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』
吉田康弘『キトキト!』

※最終選考は以下の4本が対象となりました。
・富田克也『国道20号線』
・横浜聡子『ジャーマン+雨』
・吉田恵輔『机のなかみ』
・吉田大八『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』