このページの先頭です

特集

日本映画監督協会 会員名鑑

特集

特集・暑い熱いッ!あの作品の夏ゲンバ

2016年08月17日

『原子力戦争』夏の想い出 とりとめもなく...
内藤 忠司

『夏の現場の思い出』というお題を頂いた。助監督時代は、夏が来ると地方ロケで、合宿であったり、ホテル泊であったりの日々。

テレビ映画の助監督からスタートし3年目、初めて本編(劇場用映画)にカチンコマンとしてついたのが、1977年、お暑い盛りの8月。黒木和雄監督の「原子力戦争」。

福島原発近くの漁港、小名浜の、民宿だったか休業中の料亭だったかにスタッフは合宿。我ら助手は大広間に雑魚寝。俳優部は近くの旅館に泊まっていたのだが、早朝、泥酔した佐藤慶さんが「起きろぉ~!」と叫びながら顔を出す。

他の俳優さんのスケジュールの絡みで、撮影のない日の多かった慶さん、夜な夜な地元の居酒屋で飲み、酔っ払ったまま朝を迎えての乱入。そんな日の繰り返し。

一度、助監督と制作部にお声がかかり、慶さんに引き連れられて居酒屋へ。連日の脚本の変更で、その都度、台詞を覚え直さねばならず、苛ついていた慶さん、「黒木を殺せぇ!」と喚く。勘定を払うと、お釣りをくれたのが気に入らないと喧嘩を始める。まあまあとなだめ、次の店へ。そこでも子供が奥の部屋で泣いていると喧嘩腰に。そうやって何軒かハシゴをし、明け方近くの路上で、「皆、輪になれ!」と慶さんの号令。「チ○○を出せ! 小便をしろ!」

翌日、小さな港町では、佐藤慶が監督を殺せと喚いていたと町中の噂に。これを聞いた黒木監督、「問題です! 一体、誰と行ったんでしょうね?」私、手を挙げて、「は~い」すると、監督、「あ、助監督と行ったんですか。だったら大丈夫です」とニッコリ。慶さんも、助監督と制作部と、監督の悪口を言っても現場には持ち込まないメンバーを選んでの憂さ晴らしで、その日の現場には借りて来た猫のようにおとなしい慶さんが。

また地方ロケで、宿で飲むと、落研出身の私は必ず落語をやらされた。それを見ていた落語好きの慶さん、私のことを「師匠」と呼ぶようになり、主役で、やはり落語好きの原田芳雄さんも、「師匠」と呼び、それから数年間、現場での私の仇名は「師匠」となる。

撮影終了後、慶さんから、明治から現代までの落語家の10枚組LPレコードをカセットテープにコピーしたものを頂く。LPレコード10枚をDBする手間を考えると本当に有り難かった。

後年、酒の席で原田さんから久々に「師匠!」と呼ばれ、喜色満面、「はいッ」と答えると、「そこどいてくれ」と、まるで小咄のオチ。思えば、これが生前の原田さんとの最後の会話となってしまった......。

「原子力戦争」に戻ろう。この現場で、もう一人、忘れられない俳優が風吹ジュンちゃん。

アイドルとしてデビューするもスキャンダルに巻き込まれたりした後、役者に転身。正直、我々は、"失踪アイドル"が"女優"になるなんて、そんな甘いもんじゃねえよと、そんな目で見ていた。

ところが、原田さんとの出会いのシーンで、例によって原田さんはテストからアドリブを。彼女の衣装の長袖のサマーセーターを見て、「随分厚ぼったいの着てるねぇ」そこでジュンちゃん、「私、寒がりなの」ここまでなら、誰でも応えそう。が、それに続けて、「夏でも寒いの......」この一言で、この人物の置かれている不安定な立場が微妙に見えて来る!

後半の二人芝居でも、次々とアドリブを繰り出す原田さんに対して、互角にアドリブで返し始める。テストを見ていた私、「風吹ジュンが原田芳雄とタメ張ってる!!」と、ロケセットの外にいたスタッフを呼びに走った。

"失踪アイドル"なんてとんでもない、凄い"女優"になるぞ!と思った瞬間。

後年、ジュンちゃん自身からも、「私の25歳の夏がすべて詰まってる」と聞かされた。

5年後の1982年、夏。2時間ドラマの主演女優となったジュンちゃんとチーフ助監督になった私の、撮影たけなわのある日の昼休み。

「内藤さん、一緒に食べに行こ」と誘われ、現場近くのレストランへ。そこで、その作品の某ベテラン監督の演出に納得のいかない彼女から、どうなってるのよ!?と。嘗て"日本のルルーシュ"と呼ばれた監督の映像表現に現場で目を見張っていた私は、監督の演出意図を説明。結果的にジュンちゃん演じるヒロインが引立つんだからと話すと、「そうかしら」と納得したのかしないのか、その店の勘定を払ってくれ、私的には、単に「ラッキー!」と。

勿論、そのドラマは傑作となり、後年、DVDも発売された。

さて、月日は流れ、やがて私も監督に。

1997年9月、残暑の尾道。出会ってから20年を経て、拙作「マヌケ先生」にジュンちゃんに出演を願った。

「ここはああして、こうして」と演技指導をしていた私、「ということで、風吹さん、よろしく」と言った後、「あれ? 俺、今、『風吹さん』って言った?」

それまでずっと「ジュンちゃん、ジュンちゃん」と呼んでいたのが、何故か「風吹さん」と呼んだのに気付いた私、しみじみと、「ジュンちゃん、いい女優になったねぇ......」

それに対し、私が"いい監督"になったかどうかは、皆様のご判断に任せるということで、駄文の筆をば置くことに致しましょう。

123|4|5