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2015年度(第56回)日本映画監督協会新人賞

2016年06月06日

2015年度(第56回)日本映画監督協会新人賞

既報の通り、第56回(2015年度)日本映画監督協会新人賞は「トイレのピエタ」で 卓抜した演出力を示された松永大司監督にお贈りさせていただきました。
選考委員会からの報告です。
この記事は監督協会会報2016年4月号からの転用です。
第56回 日本映画監督協会 新人賞選考委員会報告
原田 徹

創立80周年の大イベントを控えた2月22日、第56回新人賞の会合が事務局で開かれた。協会員からの推薦8本、評論家からの参考意見から選ばれた10本。計18本が今回の対象となる。

選考委員は朝原雄三、石岡正人、小中和哉、原田徹、本田隆一の5人。対象作品を既に見ているのはそれぞれ3本...から1本ということで手分けしてDVDで見る作業に入る。

新人賞選考対象資格、デビューより3年、あるいは3本目まで。を基準に確認し、選考委員長は、第42回新人賞受賞の石岡正人氏に決定。

事務局から送られて来るDVDを見る作業、なかなか辛い作品もある。3月16日、選考委員5人集まりまず1本ずつの評価を報告。この段階で1作品につき、3人か4人は見ている状況である。「特殊すぎて残さなくていい」「お金がないのに良くやってるが、話が解らん」「ムダなカットが多い」「笑えないコメディ」「内なるバケモノ、技術なし」「パズルが組み合ってない」等、対象作品を18本から7本に絞る。『トイレのピエタ』『ディアーディアー』『人の望みの喜びよ』『愛の小さな歴史』『お盆の弟』『私たちのハァハァ』まだ見ていない委員は残りを全作品見ることに。

3月22日、まずもう一度1本ずつ全員が作品の評価をしてゆく。

『トイレのピエタ』

「こういう形の映画を新人としては立派にやってる」「手塚原作にオリジナルを入れてドラマとしては見ごたえがあったが、深い感動はない」「彼の最後の絵は美術の仕事。あの女の子は何だったんだろう?死ぬところを飛ばしている」「もうちょっと分からせてよ!カメオ出演が多い」「監督はホントに窓拭きをやってたらしい」「セリフっぽいセリフ、芝居っぽい芝居でないのが上手」

『ディアーディアー』

「歯車のうまくいかない3人が上手で面白い」「鹿が現れるところで終わったらよかったのに惜しい」「田舎、兄弟... キレが悪い。20分切れる」「どこかで見たことある様な映画。あーこうなるなぁと今の日本映画のよくある感じ」

『人の望みの喜びよ』

「全体に大雑把で乗れない」「歩いてゆく向こうに希望がない」「キャメラ良い、好感がもてる」「汚い現実を突っ込んでない」「丁寧に撮ってるし、潔い。」

『愛の小さな歴史』

「音楽が絵に勝っちゃっている」「最後まで見るといい映画だなぁ、我慢すれば」「都合がいい」「父と娘はありか!しかし兄貴は表現悪い、納得しづらい」「ホントは金なんか借りていなかったんだとか全体の魅力を引きつけない。評価の分かれる監督」

『お盆の弟』

「小ネタがよく効いてる」「何でモノクロ?」「ねじふせて二人しか見えてこない会話劇」「いちおし!」「脚本の力で、演出の力は?プロの仕事だと分かるが、テンポ変わらず飽きてくる」「映画監督の日常、身につまされる内容だからだんだん暗くなってくる」

『みちていく』

「きちんとスケッチが出来ている」「正確で無駄がない」「なんかこう映画的な仕草が鼻について厭だなぁ」「息苦しい映画、楽しくなかった」「女子高生がちゃんと描けている」「噛まれて生きていける、その心理はワカランけど、人物がうまく凄い才能は感じる」

『私たちのハァハァ』

「この人は自分のやり方ででしか活動出来ない、才能は感じる」「これをスクリーンで見たらクラクラする。カメラ振り回し過ぎ」「心残りな...映画」「ここまで来たのに、糸が切れた様な結末」「エチュードを見せられている様な、監督の才能は?演出はどうなの?」

皆、個性があるので1人の委員がいちおしでも、他の2人が「認められん!!」と激論続く。

7本の評価が出揃ったところで「では3本ずつ選んでみよう」と委員長の指示に。

  • 『トイレのピエタ』5票、
  • 『みちていく』4票、
  • 『私たちのハァハァ』3票
  • 『人の望みの喜びよ』2票
  • 『お盆の弟』1票

この段階で2本が落ちる。そこから、何故『トイレのピエタ』より他の作品は優れてないのか? 他の作品の良いところを話し合う。新人賞の規定には、日本映画の向上に資するため、優れた成果を示した新人監督に贈る。と、ある、再び議論!!

で、結果、松永大司監督『トイレのピエタ』に決定。

3月23日、理事会で承認されました。

新人賞選考 寸評
朝原 雄三

候補にあがった作品のうち、特に面白く見せてもらったのは「トイレのピエタ」「ディアーディアー」「お盆の弟」「みちていく」「エンドローラーズ」「わたしたちのハァハァ」。基本的に用意していただいたDVDを自宅で、という形で拝見したのですが、「人の望みの喜びよ」「愛の小さな歴史」などは映画館で鑑賞することが出来れば、また違った感想を持ったかも知れないなあ、と思います。

「お盆の弟」「ディアーディアー」については、これはもう新人ばなれた安定感のある映画で、監督のお二人がプロの助監督としてしっかり経験を積んだことの感じられる、好感のもてる作品でしたが、一方、数多ある日本映画の水準から突出した魅力という、いわゆる「新人賞」らしさには欠ける憾みもあり、また監督自身の脚本の映画化ではないということもあって(もちろん脚本家を上手に使うことも監督の大事な仕事ですが)、強く推せなかったような次第。

「エンドローラーズ」の吉野監督の才気は長編でどう生かされるかが楽しみですし、「私たちのハァハァ」の松井監督はそのしたたかさで今後も大活躍しそうですが、個人的に一番感心させられたのは「みちていく」の竹内監督の演出力でした。あまり安易に才能などという言葉を使いたくはないのですが、その登場人物の配置のうまさ、性格・心理描写の精緻にして的確なことには脱帽しました。必要かつ十分、という懐かしい言葉を思い出させるコンテの素晴らしさにも舌を巻きます。監督の比較的身近と思われる世界から、さらに新しく広い世界に映画の題材が向けられるよう期待。

そして「トイレのピエタ」。上記の作品では唯一、公開時にスクリーンで観た映画でしたが、その完成度が高いことはもちろん、この作品を作り上げた監督の情熱に叱咤激励される思いで映画館を出たことを思い出します。負けてらんねえなぁ、と思わせられる作品が「新人賞」に選ばれて満足です。

2015年度監督協会新人賞
石岡 正人

例年7名の選考委員が、撮影所のメジャー映画で育った原田さん、朝原さんとフリーでやられている小中さん、本田さん、私の5名。立場で意見の違いがあるのかとも思ったのですが、じっくりと話し合う時間があり、終わってみれば納得の結果。私は「私たちのハァハァ」一押し。興行のことを考えての題材、一見アドリブ?と思わせる練られている台本、現代的なテーマ、斬新な撮影方法、女子高生達の描き分けが出来ている等を評価しました。一方、「みちてゆく」の正確で美しいショットが評価を受けて一押しの意見もあり煮詰まり気味のときに、全員が次に押していた「トイレのピエタ」が再浮上。7名だとここで駆け引きが有りなかなかスリリングなのですが、なぜこれだけの支持を集めるのかを皆で分析できて充実した時間を過ごせました。才気を感じる2作とは違い、皆に分かってもらいたいという開かれた感覚と視覚的に生命力を見せようとする安定した演出が、選考委員達の心を捕らえ始め、監督が大変な思いをして撮ってきたドキュメンタリー後初の劇作品であるとわかり、私を含め、皆が応援をしたいとの気持ちで一致!新人賞が決まりました。松永大司監督、おめでとうございます。これからも頑張って撮り続けてください!

新人賞選考に参加して
小中 和哉

自分に賞を選考するような資格があるのか疑問ですが、人の作品を見て刺激を受けることも必要と思い選考に臨みました。結果、今の日本映画界でも多様で個性的な作品が多く作られていることを感じられて楽しい日々となりました。

僕個人としては新人賞としてふさわしいと思ったのは「トイレのピエタ」「人の望みの喜びよ」「私たちのハァハァ」の三本で、それぞれ全く方向性が異なるので優劣は付けにくいのですが、どれが受賞してもおかしくない魅力ある作品だと思いました。強いて言えば見ている間最もワクワクしたのは「私たちのハァハァ」です。女子高生たちが撮り合うビデオやライン画面などを活用した手法は今風ですが、オーソドックスなロードムービーの骨格がしっかりしていて入り込めました。「人の望みの喜びよ」の子役は素晴らしかったですし、端正な画面とカット割りには力を感じました。でも審査員全員一致で票を入れた「トイレのピエタ」が新人賞にふさわしいと思います。シナリオも書かれた松永大司監督のイメージした世界をスタッフ、キャストが見事に支えた完成度の高い作品だと思います。

選考を終えて
本田 隆一

10年以上前の事ですが『トイレのピエタ』の松永大司監督と、高崎映画祭でお会いした事があります。当時俳優として活動していた松永さんと、同い年という事もあって意気投合し、僕ともう一人の監督が滞在するホテルの部屋で、朝まで熱く語り合いました。ただ、何について語り合ったのかは、多量のアルコールを摂取していた為思い出せないのですが、唯一覚えていたのは、松永さんが当時アルバイトでやっていた高層ビルの窓拭きの話でした。

『トイレのピエタ』は、絵の道を志して上京したものの進路は定まらず、日々、高層ビルの窓拭きをなんとなく続けている男が主人公の物語です。松永監督にとって初の商業劇映画という枠組みの中で、ぶれずに自分を表現している点に感銘を受けました。

が、『トイレのピエタ』は今回観た13本の作品の中で、僕の中では2番でした。松永監督、すいません。

1番は大崎章監督『お盆の弟』でした。これは次回作をなかなか撮れない映画監督が主人公のコメディー映画です。

いつまでも映画を撮れずに家にいる主人公に離婚を迫る妻の「私、主夫と結婚したつもり無いんだけど」などの台詞が笑えない程リアルで、演出も細部まで行き届いていると感じました。"落ち込んだりもしたけれど、私は元気です"という前向きなストーリーを中学生ではなく、中学生のマインドのまま中年になった映画監督を主人公に描いているのがユニークで、登場人物に対する大崎監督の愛と、丁寧さと奔放さが絶妙なバランスの演出に魅了されたのですが、他の選考委員の方々からあまり高い評価は得られず、特に「脚本家の力が大きいのでは?」というご意見は、台詞が面白い映画だけに否めない部分があり、最終的に『トイレのピエタ』を選ばせていただきました。