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日本映画監督協会 会員名鑑

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5年後の宿題

2016年04月05日

みやこほっこり映画祭を経て
市井 昌秀

岩手県宮古市に行くのは二度目となる。

一度目は、3.11の震災後の6月に陸前高田市にがれき撤去のボランティアに行った帰りに、さらに北へ車を走らせ、宮古の友人を訪れた時だった。

破壊された防波堤。壁が崩れ落ち、室内がむき出しとなった家屋の数々。海水を浴び、使い物にならなくなった無数の電化製品。復興までまだまだ時間が掛かるだろうと思わざるを得なかった。

しかし、そんな状況下でも友人宅の美容院だったり、いくつかのお店が細々ながらも営業を再開していたことが印象的だった。丁度再開したばかりの宮古でもっとも有名なラーメン店「多良福」にも友人に連れていってもらった。

そして、2015年12月4日、およそ4年半振りに僕は宮古の地に立った。「みやこほっこり映画祭」に参加するためだ。

宮古駅到着後、マリンコープDORAというショッピングセンターの二階にある、映画祭の基点となる劇場「みやこシネマリーン」を訪れた。前夜祭の直前に通常作品を上映している時間に下見に来たのだが、驚くことにお客さんはゼロだった。既に本編が始まっていたので、規定の時間を過ぎると上映を止めるとのことだった。

映画祭中は、「みやこシネマリーン」の櫛桁支配人始め、迎えてくれたスタッフの皆さんは、とても温かく、映画の話となると熱く語り合い、さらには、4年半振りに友人とも再会し、近況を報告しあった(ちなみに友人は映画祭スタッフがよく訪れるというバーで働いていた)。

だが、何よりも僕がもっとも衝撃を受けたのは、下見に来た際にお客さんがゼロだったこと、つまり宮古市民の中に日常に映画館で映画を観るという習慣を取り入れている人が極端に少ないと感じたことだった。

映画の役割とはなんだろう?

映画館でどれだけのお客さんと共に映画を観ようとも、映画館で映画を観るという行為は、一人でスクリーンに対峙することだと思う。

4年半前、道端に転がっている物の中には、失くした者にしか価値のない物も沢山あったはずだ。それは、家族や友人と撮った写真かもしれないし、幼い頃から使っていた傷だらけの椅子かもしれないし、はたまた一見なんの価値も無いネジのような物かもしれない。

周りにとってはなんの価値も無い物でも、当人にとっては、大事な物であったりする。そのように自分にとっては特別という感覚は映画にもあると僕は思う。お気に入りの映画は、自分が一番共感しているという錯覚を起こし、常に自分を勇気づけさせてくれる。

3.11以降、映画では何も出来ない、映画で世界は変わらないと、自分の無力さを棚に上げ、映画作りに失望しかけたこともあったけれど、今は違う。

少なくとも映画に勇気づけられている一人として、映画を作ること、映画を上映しお客さんに観て頂くことで、勇気や希望を僅かでも持ってもらえることを信じて、映画を続けて行きたいと思う。

映画祭中、もちろん「多良福」にも行った。素朴で優しい味は健在だった。

この記事は、監督協会会報「映画監督」2016年3月号からの転載です。
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