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2014年度日本映画監督協会新人賞インタビュー

2015年09月15日

2014年度日本映画監督協会新人賞インタビュー

(小林啓一 監督 × 市井昌秀 監督)

構成:天野裕充 立会人:日笠宣子

6月4日(木)監督協会にて対談が行われました。2014年度の日本映画監督協会新人賞 受賞監督・小林啓一さん(受賞作『ぼんとリンちゃん』)に2013年度の受賞監督・市井昌秀さんがインタビューします。

小林 啓一(こばやし・けいいち)監督 プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。テレビ東京のオーディション番組『ASAYAN』のディレクターを経て、ミュージックビデオを手掛けるようになる。これまで、DA PUMP、DREAMS COME TRUE、ミニモニ。などの作品を監督。その後、2012年に『ももいろそらを』で長編映画デビュー。第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門にて作品賞を受賞、第50回ヒホン国際映画祭にて日本映画として初のアストゥリアス賞(グランプリ最優秀作品賞)を受賞。新聞各紙はじめマスコミもこぞって、「青春映画のあらたな名作」と絶賛した。監督第二作となる『ぼんとリンちゃん』で第55回日本映画監督協会新人賞を受賞。

市井 昌秀(いちい・まさひで)監督 プロフィール

1976年4月1日、富山県出身。関西学院大学在学中より芸人を目指し髭男爵を結成。1999年、髭男爵を脱退。その後、俳優・柄本明が主宰の劇団東京乾電池を経て、ENBUゼミナールに入学し、映画製作を学ぶ。04年に、ENBUゼミナールを卒業、初の長編作品となる自主映画「隼(はやぶさ)」が06年の第28回ぴあフィルムフェスティバルにおいて、準グランプリと技術賞を受賞。長編2作目となる「無防備」が第30回ぴあフィルムフェスティバルにおいてグランプリと技術賞、Gyao賞を受賞する。そして同年開催の第13回釜山国際映画祭のコンペティション部門にてグランプリ受賞、翌年の第59回ベルリン国際映画祭フォーラム部門にも正式出品され、国内外から高い支持を得た。13年には、初の商業映画「箱入り息子の恋」が公開。同年のモントリオール世界映画祭「ワールドシネマ部門」に正式出品。
14年、日本映画監督協会新人賞受賞。15年、初のTVドラマとなる「十月十日の進化論」(WOWOW)を監督。同年、ギャラクシー賞のテレビ部門において奨励賞受賞。

【なぜこのテーマを選んだのか】
市井:監督協会新人賞受賞、おめでとうございます。
小林:ありがとうございます。
市井:僕は、フェイスブックとかツイッターで映画の感想を上げるものは、大御所の監督だったり古い映画だったり海外の映画だったりなんですけど、実は同世代の人の映画って割とチェックしていて、その感想を上げないのは勝手に嫉妬しているからなんです。小林監督の作品を観た時に、一番強く思ったのは女子高生や女子大生の感覚を言葉や行動に的確に表現しているなぁと。実際のリアルかどうかは分かりませんが、本当にこれは起こっている、今の女子高生ってこうなんだなっていう説得力がしっかりあって、その部分に嫉妬しました。前作の「ももいろそらを」もそうですけど、その点がもの凄く嫉妬しましたね。今、43なんですよね。
小林:はい、43になりました。
市井:43のおじさんが、女子高生・女子大生という人物に何か投影してると思うんですけど、何故その女子高生・女子大生に着眼したのか教えて頂けませんか?
小林:前作の「ももいろそらを」もそうですが、元気のある人達を取り上げたと。ただ、その辺の人たちって何か映画とかドラマとかだと大体何か良く分からないものとして扱われる事が多いと思って、そういうのを変えてみたくて。今回は、いわゆる『腐女子』(※男性同士の恋愛をテーマにした漫画・小説などを好む女性たち)という人達ですけども、彼女達は回りの眼を気にしつつ自分の価値観をしっかり持っていて、自分はこれが好きだというある種のエネルギーがあると思ったんです。
市井:今回の「ぼんとリンちゃん」のぼんもそうですし、「ももいろそらを」の女子高生も独り言が多いじゃないですか? 独り言が凄く自然で、それって何かエネルギーが発露する瞬間に、自然と出ちゃうからですかねぇ。凄い自然ですよね。別に説明的とも感じず、やはりキャラクターから来るものもあるんじゃないかなぁと。
小林:余りそこの辺、考えた事はなかったんですけど、日常的に意外と独り言って言うかなんて、勝手に思ってたんですけどね。

【ストーリーについて】
市井:今回「ぼんとリンちゃん」で腐女子を中心に置いて、ストーリーを広げた過程というのは?
小林:元々モデルがいるんですね、性格は違うんですけれど友達以上恋人未満みたいなカップルみたいなのがいて、友達になって話を聞いたら、あぁ面白いみたいな事から始まって。始めは、その子達が上京して、トラブルにどんどん巻き込まれて行くような物語にしようと思ったんですけど、全然展開が思いつかなくて。友達を救出するという話を思いついて、書き進めて行ったらこういう風になったんです。
市井:どこか理想は高く、現実とも闘っているんだなぁと僕は思いました。アニメやゲーム、ネットに依存して、たとえ他人の言葉を借りてもぼんちゃんっていう人は闘っている人だなぁと。人物を掘り下げて行く上で出たテーマだったんですか?
小林:そうですね。腐女子とかオタクって言われている人たちは割と世間的に見ると中身がないとか非社会的みたいなイメージがあると思うんですけど、彼らと話すとそんなことはないんです。ただ、ちょっと甘い部分があるなぁって思っていたんです。一方で、それは持ち味になっていて、あの人たちは楽しく生きていて、このままでいいんだという思いもありました。だから、その印象の葛藤みたいなものをキャラクターに落とし込んでいきました。
市井:本当に人物が魅力的でしたよねぇ。リンちゃんもそうですけれど、べびちゃんの存在も良いアクセントになっていますよね。
小林:(笑い)オタクのオールド・スクールというか、ちょっと前の文化の人たちとも対比してみたくて、そういう人を入れてみたんですけど。

【2回目を鑑賞して】
市井:2回観ると色々気付く事があって、最初に出てくる字幕は、説明というより分かりづらくしている意図もあるのかなって気がしたんですよ。本当にいやらしいというか、したたかだなって。「肉便器の救出」とか、「べびちゃん」というあだ名だったり、「とらのあな」(※秋葉原に本店を構える同人誌・同人ソフトを中心にした販売店)っていうのも一般の人には分からない単語じゃないですか。(友人を)救出する為に東京に来たっていう大前提は、ぼんやり分かるんですけど、誰が何をっていうところを、具体的な呼称を使うことによって分かりづらくしていて、それは結果的に観客に「覚悟しろよ!」と言ってるのかなと。
小林:そうですねぇ。いきなりクライマックスから始まるようにしたかったんですよ。気になるワードを何の説明もなく出して、映画を観ながら、この人がアレなんだとかこの人がコレなんだとか、色んなキーワードが後で分かってくれたらいいなぁと思っていました。なるべくオタクの人なんで過剰に語るだろうっていう気持もあって。
市井:キャラクター出ていますよね。2度目は一層見えて来て、例えば歩いているところの長回しとかでもカツアゲする二人をちゃんと演出しているじゃないですか。望遠でボケてるんだけども、コレ一人見張らせてカツアゲしてるんだなとか、とても丁寧に作ってるって思いましたね。
小林:やっぱりワンシーンでやるとどうしてもそういう風になってくると思うんです。よく観ると最初の方から‥‥。
市井:彼らの後を付けてますよね、一回消えますけどもね。
小林:そうなんですよ。画面に映るものは疎かにしてはいけないのかなっていう気はあるんで、役者が納得して動くために、いちいち設定をつけてるという感じです。

【台詞について】
市井:ぼんちゃんやリンちゃんのセリフなども、取材を重ねてできたものって多いんですか?
小林:いや、二人に関しては完全に僕のイメージというか思いつきみたいなもので。ただ仕草とか考え方はかなりリサーチしました。BL(※ボーイズラブ)本に関しての思いも、色々話を聞いたり。けど、台詞にはそこまでリサーチが反映している訳でもないですね。
市井:リアクションで擬音が結構出るじゃないですか? ガガガッとか、あの辺とかは、アニメやゲームから来るものかと。
小林:いや、余り意識しなかったです。アニメも最近になって観はじめたんで、全然詳しくないです。
市井:あくまで、その腐女子と会ったということで。
小林:はい。教わったんですね。これ観た方が良い、あれ観た方が良いとアドバイスをもらって。
市井:冒頭から、アニメの世界やゲームの世界を余り知らない人からすると、引いてしまうくらい強烈ですけど、それは意図的なんですよね。
小林:そうですね。僕の経験上ですけど、何か無理だなって思った映画を観たりして、新しい価値観を得る事ができていたんで、新しい価値観を世の中に提供していくのも自分の仕事なんじゃないかなぁと思ってまして。けど、興味がない人には上から目線で語られている気分になると思いますが、まぁ良いかって。

【偏見をなくすねらい】
市井:やはり見せ切ってしまう力は、主要人物がオタクであっても、あの年代の普遍的な心情を描いているからなんだなぁと思いました。僕にはない言語でも凄く楽しい仲間だなっていう、三人の距離感も芝居を通してしっかり分かります。実は観ている時に、去年の夏頃に電車の中での出来事をふと思い出したんですよ。電車で僕が座っている時に同じ車両の離れた所で「殺す」とか「死ね!」とか騒いでいる知的障害の若者が居たんですね。かなり言葉が乱暴だったんで乗客がどんどん他の車両に流れて行ったんです。ただ危険な言葉を発しながら、何か数字や地名をずっとぼそぼそ言っているんです。そして、遂にその彼が僕の方まで来て僕の前に座っているカップルにいろいろひどい言葉を言い出したんです。するとその隣りに座っていた高校生くらいの男性がすくっと立ち上げって地名と数字を重ねて「何とかだよね」みたいな事をいきなりその知的障害の若者に話しかけると、その彼がすーっと落ち着いていったんですね。それで僕、興味を持って録音を始めたんですけど、結局電車の話だったんですよ。電車オタクですね。電車の話をその立ち上がった若者がする事によって知的障害の彼が落ち着いていって、心が凄く通じ合う瞬間が見えたんですね。
小林:へえぇ!
市井:だから、わかりやすいセリフめいた言葉を使わなくても、その人達の共通言語を通して、心の距離が近づいていく瞬間は誰しもがあるし、「ぼんとリンちゃん」は、そういうものを観ているんだなと思いました。
小林:そういう事あるかも知れないですねぇ。
市井:映画の最後に、ぼんちゃんがBL好きなのもそこは疑問を持っていたんだってリンちゃんに突っ込まれるじゃないですか? 余り映画と関係ないですけど、BL好きって何ですかねぇ。同性同士の方が感情移入できるんですかねぇ。
小林:それは、やっぱり分かんない。何か色んな結論があって、一括りにしない方が面白いのかなっていう。
市井:その一括りにしないっていう事がこの映画でも語られている感覚ですよね。
小林:そうですよね。偏見が無くなる事もテーマの一つでもあったんで、偏見を無くした方が面白い世界があるっていうのもあったんです。
市井:僕が去年新人賞を頂いた「箱入り息子の恋」で描きたかった事と根底では近い部分があって、障害を持っていても恋はするし、恋をすれば当然肌も重ね合わせたいというところを敢えてやりたかったんです。
小林:そうですね。今好きなもの、趣味趣向とかで差別されたりする時代でもあるので、昔からそうかも知れないですけど、それは世の中的にはどうなのかなとは思うんですよね。

【ロールプレイング・ゲームのような舞台】
市井:パンフレットのインタビューでも仰ってましたけど、ロールプレイング・ゲーム感覚がありますよね。中ボスに会いに行って、その後大ボスに‥‥靴の中にお金が入ってるとか、凄くロールプレイング感があるなぁと思いました。その辺はシナリオを書きながら意識されたんですか?
小林:一泊二日の冒険というイメージはあったんですね。ロケハンしている時に、場所の設定なんかをロールプレイングっぽくしようみたいに。で、よくよく考えてみると中ボスがいて、かつての親友が最強の敵みたいな、そういうのはゲームのままだと後から気付きました。
市井:中ボス=小説家も良い感じでしたねぇ。
小林:彼はホント素人さんというか初めてで。面白いですよね、雰囲気が。
市井:部屋がキャラクター造形にも役立っていると思うんですよ。小説家もそうですし、べびちゃんもそうですし、最後の部屋はリンちゃんの部屋ですか、ラブホテルの一室は生々しい現実の場所っていうか。部屋作りにあたって気遣った事はありますか? この質問、我ながら監督視線だなぁと。
小林:気を遣いますよ、結構こだわって。全体的に何か本物じゃなきゃいけないんじゃないかって気がして。で、場所とかも含めて一から作ってるんですけど。アイテムとかも本物、ゲーム会社に連絡してお願いして、商品を全部送って貰って作り上げたんですよ。
市井:あのべびちゃんの部屋のものも?
小林:えぇ、そうです。
市井:結構な種類ですよね。
小林:はい、そうです。プロデューサーやら制作やらがゲーム会社に電話して、結構大手のところが協力してくれる事になったんで「あっラッキー!」みたいな。すごく協力的に莫大な量を送って貰って。小説家の部屋は廃品回収の人から、本が大量にあるって聞いて、それを送ってもらって、とか。

【撮影について】
市井:次は撮影的な事を。僕の勝手な想像では、余りアドリブがないのかなと思ったんです。皆すごく自然に喋ってるけれども、かなりリハーサルしたんじゃないかなぁと。
小林:そうです。2〜3ケ月くらいリハーサルをして、撮影に臨むような感じでした。アドリブはほぼないです。台詞に関しては、その場でこういう風にやって、みたいに付け足したり引いたりとかはあるんですが。
市井:すごく台詞が緻密だなって思ったんです。きっと「ももいろそらを」もそうですよね。
小林:そうです。
市井:2ケ月のリハーサルって既にロケハンで決定した現場でやってるんですか?
小林:いや、全然普通の公民館みたいな所で場所を借りて、ちょこちょこやっている感じですね。一回、実際の撮影場所に主演の二人を連れて行き、普通のお客さんとしてお芝居をやってみよう、みたいな事はしました。周りもオタクばっかりなので、気付かれずに普通に違和感もなしに同じ会話を繰り返しやりました。
市井:実際に「ぼんとリンちゃん」を演じた二人は、劇中のような言語を使ったり、話し方をする訳ではないですよね。そもそもオタクになるという事でリハーサルが多かったということですか?
小林:そうですね。それも結構重要な点ですね。何か普通のリアリティとかいうものとは違うと思うんですけど、やっぱり身体に染み付いて貰わないとその人なりのリアリティっていうものが出ないと思うんで、なので動きだとか息遣いだとか手の振り方だとか、そういうのはホント固めてもらわないと本物感が出ないかなと思ったんで、それはしこたまやりましたね。
市井:普段からリハーサルをする方ですか?
小林:まだ二本だけですけど、二本ともリハーサルはやってます。多分次もやると思うんですけど。
市井:ぼんちゃんの妹の女子高生の子たちもやってるんですか?
小林:やりました。妹達はホント結構やりましたね。台詞も台本にあるものと違って来たりして、書き換えてって感じで。
市井:それは同世代の30、40代の身近に居そうな方のお芝居だとしても、リハーサルはやりますか?
小林:なるべくやりたいですね。自分のイメージも固まって来ますし、現場だけでやって良い場合も勿論あるんですけど、僕の場合はそうじゃない方向でやって行こうかなと。自分がカメラをやるっていうのも一つの理由かもしれません。やらないと落ち着かないというか、不安というか。
市井:どっちもある気がしますよね。鮮度がなくなってしまうというマイナス点があると思うんですよ、リハーサルし過ぎて。今回の映画の中の人物は身近にはあまりいないタイプだと思うので、その人物におとす為のリハーサルとしては絶対必要ですよね。
小林:リハーサルやらないんですか?
市井:やった事ないですね。現場でやるっていう感じ。2ケ月ぐらいリハーサル重ねて来ると、現場ではそこまで演出しなかったりするのですか?
小林:いや、言いますね。こうしてあぁしてみたいな感じで。
市井:現場でもテイクを重ねるんですか?
小林:はい、テイクも重ねます。自分のカメラのワークも余り上手くいかなかった時もあるので、それをごまかす為に「ちょっと今のは良くないんじゃないの?」みたいな感じはたまにはあるんですよ。
市井:(笑い)いや、そこは大事ですよね。立場がやっぱりあるからね。
小林:失敗したときは「すみません」みたいなのもあるんですけど、朝から晩まで同じヤツをずっとしているので、役者のテンションを下げないためにというか。ワンシーンに3日かけるときもあったんで。
市井:そうですか! 一番かかったのってどのシーンですか?
小林:もつ鍋屋のシーンがあると思うんですけど。あれ本当は12分ぐらいのショットだったんだけど編集で半分ぐらいにしちゃって。それは3日間で撮りました。一番初めっていうのもあったんですけど。
市井:3日間! すごいですね。総日数は?
小林:29日だったかなぁ。
市井:累積で29日間って事ですか?‥‥本当にすごい!
小林:かけ過ぎって事ですか?
市井:いやいや、そうじゃないです。こだわりが強いという意味です。
小林:海外の作品とかって滅茶滅茶時間かけてるじゃないですか? 半年とか。そういう人たちがやってるのに、予算がないからという理由で短く撮っても良いものかっていうのがあるんですよ。やっぱりその人たちに勝てないような気がして、撮影には時間だけはかけてやっています。
市井:もつ鍋屋のシーンで3日って、1日どの位?
小林:7時とか8時位に入って大体9時位から「やろうか?」みたいな感じでやって17時で一応終わります。
市井:でも1日目撮ったけど、もつ鍋しかやってないんですよね。
小林:そうです。で、次の日もう一回やって駄目で、一応良いかなみたいな感じだったんですけど、ちょっと納得いかなくってプロデューサーにお願いをして、もう1日っていう感じです。
市井:ちなみに何が駄目だったんですか?
小林:まぁ、グッと来ないみたいな感じ、最終的にはその一言になっちゃうんですけど。
市井:ぼんちゃんが演じるじゃないですか? もつ鍋屋の途中で。あぁいう劇中芝居の技術的な難しさもあっただろうと思うんですけど、べびちゃんに対しての、ぼんちゃんの思いみたいなものが上手くいかなかったのかなっていう事ですか?
小林:そうかもしれませんね。
市井:リンちゃんは余りしゃべってない、ずっと聞いてる。
小林:えぇずっと喋ってない。前半は喋ってるんですけど、そこをばっさりカットしちゃったので。
市井:やはりあれだけの長回しですと、一回づつチェックして行くって感じになるんですかね?
小林:そうですね。一回やってみて、つまらなかったらもう一回やろうっていう。良さげだなっていう時には皆で観るんですけど、観るうちに冷静になって「やっぱり駄目だ」って感じになってきたのが多かったですね。
市井:役者さんの芝居も見なきゃいけない中、カメラもやっていると、絵自体に意識が行き過ぎるんですかね。
小林:あぁ、一応両方には気を配っているつもりなんですけど、その辺はちょっと慣れみたいなところもあるので。
市井:両方気を配りつつも、どこかでカメラマンとして立っちゃうとか? フィックスだとそうならないと思うんですけど、あれだけ長回しで移動しているとお芝居を見切れないところも出てくるとか。
小林:長い時はチェック・ポイントみたいなところがいくつかあって、それを「良し、行った!良し、行った!」みたいな感じで、自分もそれに合わせて、本番の時はお芝居の方を見ながら、上手く行ったポイントを通過して行くようなイメージですかねぇ。
市井:長回しにこだわられている理由は?
小林:余りこだわってないんですけど、今回は肉眼で見るサイズと同じサイズにしたかったんですよ。隣りのテーブルで話を聞いているような感覚の絵が映したかったんで、そうなったらカットはあの方が良いのかな、みたいな。カット割った方が楽だったかなと思うんですけど、ただお芝居のテンポでぐいぐい引っ張って行くような狙いもあったんで。
市井:大ボスのみゆちゃんに会いに行く時に、実はその時「凡庸な話に落ち着くのかな?」って思った部分があるんですね。それがあのラブホテルの一室での長回しがすごく僕には響いて、そういった嫌らしい目線は消えました。あそこの長回しは、ずっと引きだった他のシーンと違って、割と人物に寄ってるじゃないですか。あれは現場で決めたんですか?
小林:そうですね、動きは全部現場で決めました。
市井:人物の動きも現場で決めた?
小林:そうです、何となくイメージはあったので、じゃ実際そこでやってみようって現場でやる感じですね。
市井:ぼんちゃんとみゆちゃんの対峙シーンで、正座しているべびちゃんが同じワンカットの中に入ってるんで、シリアスの中にユーモアが入っている構図がすごく良かったなぁって思います。

【今回、切り替えたこと】
市井:「ももいろそらを」から今回「ぼんとリンちゃん」を撮るにあたって、当然被写体も変わるしテーマ性も変わるとは言え、何か切り替えた事とか挑戦した事ってあるのですか?
小林:まぁモノクロからカラーになるというのはありますけど、特になかったかも知れません(笑い)‥‥あった方が良いですよね。
市井:下世話な話、予算的には変化は?
小林:いや、そこまで変わってないです。
市井:古今亭志ん生さんが割と出て来ますよね、ぼんちゃんの話の中に。べびちゃんを演じた方も落語の方ですよね。落語はお好きなんですか?
小林:いや、そうでもなかったんですけど、何か人生の要所要所にそう言えば落語はあったな、みたいな。落語大全集が家にあったりとか、高校の時に立川談志さんと山本晋也さんの高座をたまたま聴いたりとか、仕事で落語DVDの編集だけやったんですよ、そのうち桃月庵白酒さんが面白いな、この人と一緒に仕事をしてみたいっていうだけだったんですけど、でも要所要所にはそういうのがあるのかなって。
市井:白酒さん、「ももいろそらを」でも良い味だしてますよね。
小林:「白酒さん、映画の誘いとかないんですか?」って言ったら、「いや、ないですよ」って言ってましたけど。良いと思うんですけどねぇ。面白いし。
市井:そうですねぇ。何かやっぱり落語家さんと言う事もあって間も絶妙ですよね。すごく的確だなぁと思いました。
小林:僕も驚いたんですよ。しみじみやるシーンで意外としみじみしてるんで、面白いなぁと思いました。そうなると滑稽な部分がなくなって来るんで、ちょっと軌道修正したんですけど。
日笠:内藤忠司さんがfacebookに「ぼんとリンちゃん」の講評を書いていて、それが納得!って感じだったので、会報にも同じような論調で原稿をお願いしたのだけど、お読みになりました? 内藤さんは落研だったとかであのぼんちゃんの長い台詞も、落語の語りだったら15分でも何でも覚えられるのだとか、随所に落語への造詣が感じられるという事を書かれていて、なるほどって思ったんですよね。私、最初の5分位は知らない言語が続いて参ったなぁと若干引いて観ていたんだけど、その内ぐんぐん引き込まれて行って不思議だなぁって思っていたんですよね。それは語り芸の所為なんだ、なんて妙に腑に落ちたりして。どう? そういう見方って。
小林:やっぱり音楽で誤摩化さないで言葉のリズムだけで会話を表現しようって思ったんで、そういう意味ではすごく、間とか影響を受けています、僕自身も。
日笠:志ん生の出囃子を使っているなんて、そんなの全然分からなかったので、もう一回観てみたいなぁって思わされました。
市井:もつ鍋屋のシーンでしたっけ?
小林:そうです。で、白酒師匠って、一応金原亭って流れなんですけど、元を辿ればは古今亭なんです。師匠の師匠が志ん生さんの息子さん、金原亭馬生って方、志ん朝さんのお兄さんですけどね。そういう白酒さんが「志ん生って何?」みたいなせりふを言うの大丈夫なのかなぁと思ってましたが、でも「全然大丈夫ですよ」みたいな(笑)

【最初に映画を撮るまで】
市井:そもそもPVから始められたんですよね。ASAYANとか。どちらかというとバラエティをやってらして、そこからPVになって、どの時点で映画を意識されたんですか?
小林:映画は何となくずっとやりたいというか、映画を撮ってみたいなという憧れを持ったまんまテレビ業界に入って、始め自分とはかけ離れた世界だと思ってたんですけど、色々映画を観て映像の勉強とかするようになって行ったら、どんどんどんどん想いが強くなって、映画やってみたいなって感じになったんですよね。
市井:「ももいろそらを」の前に、何か長編でも短編でも撮ってらっしゃるんですか?
小林:Vシネみたいなのはやりました。脚本も別の方が書いて、僕は撮るだけみたいな。
市井:では、本格的に脚本を書いたのは「ももいろそらを」が初ですか?
小林:そうです。仕事しながら青山のシナリオ学校行って、書き方を教わったりして。それが30前半から中間にかけて位で。
市井:あれが一本目の脚本って、すごいですよね。完全に初なんですよね。
小林:はい、そうです。
市井:「ももいろそらを」の冒頭の女の子の顔から始まり、実際見ている視線が落ちている財布じゃないですか? 細かいですけど、あぁいうの凄い良いなって思いました。あの辺もシナリオ上でそういう風に?
小林:そうですね。まぁアップとかは書いてないですけど。
市井:でも何かに気付いている、その何かは後で出て来る‥‥というような書き方なんですか?
小林:あぁ、そうです、そうです。
市井:映像を切り取りながら書かれているような感じですよね。
小林:どういう風に書かれているのですか?
市井:無意識に脳内で映像は作っているんでしょうけど、もう脚本は脚本って感じで書いていますね。
小林:結構カット割りもされるんですか?
市井:はい、やります。最終的にイン直前に大まかにして、インした後は全然変わっちゃうんですけど。現場で変わります。
小林:現場でけっこう演出される方ですか?
市井:いやぁ、どうですかねぇ。(かなりの間)他の人の現場に行った事がないので、する方なのかしない方なのか余り分からないんですよね。
小林:確かにそうですよね、僕も分からない。
日笠:えっ? 助監督経験ないの?
市井:自主映画で手伝って、みたいな事はあるんですけど、殆ど制作的な事をやっていたんで。
日笠:小林さんも助監督経験はないの?
小林:はい。バラエティのADはありますけど。ADと助監督は多分全然仕事が違いますね。
市井:最近知り合いの監督のホラー作品に出演しまして、「こんな霊が映ってしまったんです!」ってスマホを持って行く役を演じたんです。で、僕元々劇団東京乾電池で芝居していたんですけど、その時以来、15年振りに演じまして、監督からアドバイスというか演出を貰えて新鮮でした。
小林:へぇえ! 良いですねぇ。
市井:でもモザイク掛かるんで。本当にあったかのようなフェイク・ドキュメンタリーです。廃墟の神社に。
小林:怖いですねぇ。役者かぁ。

【対談の終わりに】
市井:最後に、小林さんの今後の予定は?
小林:一本撮る事になっていて。40代の男の人が冒険するっていう話。職業は無職っていうか、お金を借りるのが上手い男の人、それで生活している人。
日笠:詐欺師?
小林:詐欺師とも又違う、幇間=フリーの太鼓持ちみたいな感じなんですかね。来年の夏位に、随分先ですけど。
市井:夏で。公開としては再来年の春ぐらいですかねぇ?
小林:はい。
市井:楽しみにしています。今日は有り難うございました。
小林:こちらこそ、有り難うございました。


リハーサルに2ヶ月、自らカメラを回す、手持ちなのにフィックス‥‥新しい手法で映画制作に取り組んでいる印象を受けました。

市井監督が嫉妬したという言い方をしていましたが、嫉妬する秘密を余すところなく聞き出してくれた対談だったと思います。アフターの席でもすっかり盛り上がり、時間と共にへろへろに。この日、「ぼんとリンちゃん」のプロデューサー原田さんも同席されていましたが、彼は内容に関しては口を挟まないとのこと。監督は良きプロデューサーと出会って、力を発揮できるのだなと羨ましくも実のあるバトントークでありました。

オフィシャルHP
http://bonlin.jp/