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2013年度日本映画監督協会新人賞インタビュー

2014年08月10日

2013年度日本映画監督協会新人賞インタビュー

(市井昌秀 監督 × 島田隆一 監督)

構成: 佐々部清 / 立会人: 佐々部清・井坂聡・日笠宣子・天野裕充

 去る6月24日(火)監督協会にて恒例の対談(バトントーク)が行われました。2013年度日本映画監督協会新人賞受賞監督・市井昌秀さん(受賞作『箱入り息子の恋』)に2012年度の受賞監督・島田隆一さんがインタビューというスタイルです。

市井昌秀 監督 プロフィール
1976年4月1日、富山県出身。
関西学院大学在学中より芸人を目指し髭男爵を結成。1999年、髭男爵を脱退。その後、俳優・柄本明が主宰の劇団東京乾電池を経て、ENBUゼミナールに入学し、映画製作を学ぶ。長編2作目となる「無防備」が第30回ぴあフィルムフェスティバルにおいてグランプリと技術賞、Gyao賞を受賞する。
13年には、初の商業映画「箱入り息子の恋」が公開。同年のモントリオール世界映画祭「ワールドシネマ部門」に正式出品。
島田隆一 監督 プロフィール
2003年、日本映画学校卒業。卒業後、映像制作会社にて、フリーランスとして、多数の企業用 VP 制作に携わる。
ドキュメンタリー映画 「 1000年の山古志 」 (09年公開/監督: 橋本信一) に助監督として参加。「世界の夜明けから夕暮れまで ~東京篇~ 」 (12年公開) の一部を監督・撮影。2011年より日本映画学校(現・日本映画大学)にて非常勤講師。
2012年、「ドコニモイケナイ」で監督デビュー。渋谷ユーロスペースにて公開。2012年度日本映画監督協会新人賞を受賞。2014年、編集としてドキュメンタリー映画「いわきノート」に携わる。渋谷アップリンクにて公開。

【初々しい対面〜商業映画と自主映画】
島田: 先ずは受賞、おめでとうございます。
市井: 有り難うございます。
島田: 最初にお聞きした時はどんな感じだったのですか?
市井: そうですね。まず本当に監督さんから選ばれるという事で、言い方は悪いですけど信じられないって言いますか...、僕の中で監督っていうのはしたたかなイメージというのがあるので(一同笑い)、なんて言いますか「本当かな?」ってところが強かったです。
島田: ホームページで授賞式のお写真を拝見させて頂いたんですけど、相当緊張されていて...。僕も緊張したんですけど。
市井: やはり言葉は悪いですけど、どこかさらされているような感じが凄くありまして。(笑い)お褒めの言葉とか頂くのは凄い嬉しいんですけど、結構何か本心は違うんじゃないかとか、どうしても疑ってしまうと言いますか、今日は丸裸にされると思って来てるんで...。本当にそう思ってましたね。今でも、はい、心の底からこの作品を良いとは思ってないのじゃないかという風に思ってます。(島田さん大笑い)
島田: でも満場一致で受賞されたって言うのを読んで...。で、僕は2票だったんですよ。ほかの方の作品が1票で、まぁしょうがない2票なら...って言う事で僕になったので、それが市井さんは満場一致という事で、非常に多分皆さん推されていたんじゃないですかね。
市井: はぁ、とは言え...。有り難いという気持は勿論、はい、ありますねぇ。
島田: 「箱入り息子の恋」を拝見して、結構有名な役者さんも出ていて、規模も大きいと言うか、そういう意味ではこういう言い方は正しいのか、商業映画という枠組みっていうのは初めてだったんですか?
市井: 商業映画と自主映画の境界線をどこにするかっていうのはあると思うんですけど、その前の映画で「無防備」という映画を創りまして、それは自主製作ですけど、公開までは漕ぎ着けたので...。ですけど百戦錬磨のプロの方と一緒にという事では「箱入り息子の恋」は初めての経験ですね。
島田: どうでした?実際にそういった現場を踏んでみて。
市井: プロデューサーの方々も僕がそういう現場が初めてであるという事もあって、まず交流を図るというところからやって頂いて、距離感は縮まった上で現場に入れたのが大きかったのと、自分自身がまだまだ無知で無能だと自分の中で認めた上で現場に入ったので、沢山の方の才能を、アイディアを、拝借したという感じが強いです。ただ監督としての決定権というのだけは・・・そこさえブレなければ成り立つのではないかと思っていたので、自主映画の時より独りよがりの自分だけの才能とかだけではなくって、スタッフのアイディアを拝借するっていう事、逆にどんどん下さいというような感じで臨めました。

【俳優たちへの想い】
島田: 「無防備」と今回の「箱入り息子の恋」を観させて貰って、「無防備」には奥さんが出られているとか、そういった気心の知れた方とやってらっしゃるけれども、今回の役者さん、皆さんその道のプロというか、そういった方達に芝居をつけるというか演出をしていく上で何か困難だった事とか、逆に良い事とか何かあったんですか?
市井: 役者さんに関しては本当に皆さん、意図も含め、シナリオ全体の方向性みたいなものも全て把握した上で来て頂いたので、非常にやり易かったです。演出という事においては本当に微調整の部分だけだった。僕なりに吸収出来た事として、例えば(脚本の)柱がダイニングとかになっているんですけど、でもまぁ役者さんのアイディアで玄関からやってみようとか...。まぁ、盲目の女性という設定もあって動きが多くある映画ではなく、結構会話が多い作品だと思うので、そういったところで動きを付けるという、役者さん側のアイディアで玄関から居間を通ってダイニングに来るとか、現場で結構変わって行った部分もありました。それはそれで自分も面白いと思って選択していったことが、そこでまぁ当然自分が考えて来たカット割りとかが崩れて、その場でまた考えるっていう恐怖はあるんですけども、非常に現場の空気を感じ取って柔軟に対応していく事も役者さんと一緒に学べましたね。
島田: 拝見させて頂いて、凄く緻密なユーモアと凄くシリアスな部分と、そのバランスというか・・・。蛙という要所々々に出て来るモチーフであったりとか、あと後半ですよね、あっ、こういう形で終わるのかな?っていう予想に対して常に裏切り、裏切るけどまたその次にまた、こうかなって予想が生まれて来て、で、またそれを壊してっていうような構成になっていくところが、僕からすると凄く緻密...。練り込まれたシナリオだなぁって。それはどれ位現場で変わって行ったんですか?
市井: 正直、そこの部分は自分の想像に近い部分ではあったんですけど・・・。昔、妻とホテルの一室で凄い喧嘩をしてしまった時に、凄く真剣に喧嘩をしている時に、隣りの部屋から喘ぎ声とか聞こえてきたり・・・。
一同: 大笑い

(c)2013「箱入り息子の恋」製作委員会
市井: 何て言うのですか?人間って、現実ってそうだなって思うことがあったんですよ。高校生の時に先生に凄く叱られていて、僕はもの凄くシュンとしているんですけれど、怒っている先生を見ると鼻毛が出てたりとか、凄くシュンとしたままなんですけど、その鼻毛がどうしても面白いなっていう・・・(笑い)、傍目シリアスだけど実際凄く面白くなっちゃっているとかって...。何かそういう要素を入れたいなって思ってました。
島田: 人物一人一人についてもその嫌な部分って描かれてはいるんですけど、決して嫌いになれないっていうか、全員が全員他者を思って行動したり考えてやっている事がすれ違って行ったりとか、何か笑えて来てしまったりとか、でもやっぱりそこに結構グサっと来る一言があったりとかっていう、何かその感じが、それでも監督は多分この登場人物を含めた世界を肯定していらっしゃるんだろうなっていうのが、作品全体を通じて、観終わった後に凄く感じた事だったんです。だから普段から人を見られる時にとか、何かそういう風に物事をみてらっしゃるのかなって。
市井: そうですよね。相当な裏切りがない限り全面的に信用してしまうところはありますね、人を。あぁ、まぁそうです(笑)。
島田: あの蛙のモチーフは最初からあったんですか?
市井: 蛙の鳴き声を真似するという事と、それが伏線になっていて最後のベランダのところで奈穂子が健太郎と分かるという事はシナリオ上にあったんですけど、キャスティングで星野源さんや平泉成さんに決まって、お二人が蛙に似ているなぁと思ってですねぇ、本当にまさにインの一週間位前に蛙を飼うっていう事を入れたんです。
島田: そうなんですか!餌をあげてるガラス越しのショットがもう蛙にしか見えなくって凄いなと思って・・・。非常に良いバランスっていうか感じで使われているなぁって思ったんで、是非お聞きしたかったんです。
市井: 蛙を飼うに関しましては今村昌平監督の「うなぎ」とか好きだというのもあったんで、どこかその心情を、蛙を飼っている事で表せられるなぁって思いまして、はい。でも二人が似ていたっていうのが一番大きいですね。
一同: 大笑い
島田: そうですねぇ、似てますね。一番大変だったのはどこですか?
市井: そうですね、ええ、大変という事とはちょっと違うのかも知れないですけど、星野源君の事故になる前、黒木瞳さんが大杉漣さんを叩くところなんですけど、手持ちで多少長回しで撮っていて、殴った後にカメラの位置がちょっと悪くて、撮れてはいるんですけど、カメラワーク的に及び腰な動作に見えてしまったんで、途中でカットしたんです。周りのスタッフからこういう長回しは取り敢えず最後まで撮った方が良いよみたいな事を言われて、で、大杉漣さんも殴られてカットになっているんで・・・、ちょっとムッとしているところがありまして、それでヤバい!という位に現場が凍り付きまして・・・。でももう一度やって頂いた時に凄まじく綺麗に撮れてですね、現場が一気に盛り上がって良かったんですけど。なのでカットを切った事に対しては何の後悔もないんですけど、一瞬凍り付いたなというのはありましたね。
一同: 笑い

【演出論】
島田: おこがましい事なんですけど、僕が演出するんだったらって事をちょっと考えながら観ていたりするんですけど、あのシーンは一番難しいなっていう風には感じていたんですよ。というのはあの後事故になるじゃないですか?偶然なんですけど何か必然性を持たせるっていうか、説得力を持たせる事って難しい演出だったんじゃないかなって・・・。
市井: そうですねぇ、あそこ・・・、まさに事故のところですよね。はい。逆に変にスタントマンを使うとかそういう流れにはしないでおこうとした、予算うんぬんとか関係なくあそこはしないでおいて、やはりラストの落ちるところにアクション的なところとしては持って行きたかったので・・・。スミマセン、そこまで難しさは・・・。
島田: ゴメンナサイ、僕ドキュメンタリーなので良く分からないですが、そういう事かなぁって・・・。
市井: どちらかというと編集で苦労したかなぁと。音とかで事故というのを出していったので。どの音が一番合うのだろうかという感じですね。ちょうど事故の後に雨が降って来て、実際の雨をそのまま生かしてるんですね、あそこだけは。そういったところは非常にラッキーだったなぁと思います。で、その後の病院のシーンはその事故より前に撮っていたんですけど、窓向けのカット、外が晴れてるところを切って雨の設定にしてしまっている。実際キーワードとして雨は大きかったので、偶然降ってくれて良かったなぁって。
島田: 森山良子さんが「あなた目だけじゃなくて耳まで悪いの?」っていう一言をグサっと言うじゃないですか?何か今まで割とほんわかとした息子想いのお母さんだった方がパッとあぁいうものが出て来るっていう、さっきもちょっとお伝えしましたけど、シナリオの中にその人の両面性というか、そういうのがやっぱり凄く効いているというか、笑った後に凄くドキッとする瞬間みたいなものが常にありましたね。
市井: 「あなた耳まで悪いの?」と言うのは、まぁこの母親ならその言葉を・・・とは思ったんですけど、いざお見合いで会った時に、盲目の女性と分かった時「それは遺伝性のものなんですか?」という言葉も非常にキツいというか、ある種非常に自分勝手な言葉だとは思うんですけど、そこに関しては切るか切らないか、入れるか入れないか、単純にそれを言うか言わないか、現場でも編集時でも凄い悩みましたね。どこかやはりユーモアな部分というものは僕の中では勿論入れていきたい要素なんですけど、一番描きたい部分って言うのはそういう人の心の痛みの部分の方が強いんで、ユーモアとのギャップというか、その上で痛みを強調させたいっていうところはあります。
島田: ちょっと踏み込んでお話をお聞きしたいんですけど、そうすると主人公の作り込みのところで言うと、確かに引き籠もってはいるんですけど、夏帆さんと出会ってからは割と良い人というか非常に優しい青年っていう事に描かれているって気が僕はしたんですけど、何かそういった事っていうのは彼を作って行く上で気をつけた事なんかあるんですか?
市井: ゲーム好きであったり、お城のプラモデルとか蛙とかが部屋の中にあったりで、まぁ仕事は仕事でしてはいるんですけど、対人関係が上手ではない男として描いていますが、引き籠りイコール自分がないみたいな事にはしたくはなかったんですね。ステレオタイプにはしたくないと言いますか、殻に閉じこもっているけれど自分をしっかり持っている男という風に思ってました。あくまで恋をして、奈穂子と会う事によって自分の殻を外して、結果自分が持っていたものを人と会う事で出していくという・・・。なので元々持っているものが、殻が割れた事によって出て来たと言いますか、そういう事を健太郎には感じていて、それを星野源君と擦り合せていった感じですねぇ。あと、情熱的ではあるんですけど、変に凄い作られたかのようなハッピーエンド感は出したくないと思ったので、恋という魔物に取り憑かれて壊れていく一人の男の姿を描きたいなぁと思いました。
 
(c)2013「箱入り息子の恋」製作委員会
島田: 今回〝触れる〟というのをテーマにされているっていうのを読みまして、こういう場であれですけど、エッチをしたじゃないですか?単純に二回映画の中で・・・。一回目の描き方とかも割と女性の方から来るような感じであったり、それを男性の方が割とすんなり受け入れてみたいな感じで描かれていて、なんて言うのでしょう?初々しいなんていったら凄く変かも知れないんですけど、清々しい感じがしたんですよね。何故〝触れる〟という事を今回テーマにした、というか一番気にかけていらしたんですか?
市井: はい、会報にも書きましたが、丁度震災が起こって3ケ月後、6月に陸前高田市にボランティアで10日間行ったんです。実は、僕は阪神大震災を95年の時に被災していまして、その時にいろんなボランティアの方から助けられた経験があったものですから、何か恩返しをしたいという気持もありました。で、2011年の6月にボランティアに行ったんですけど、当時ボランティアっていう定義自体が揺らいでいると言いますか、ボランティア同士の恋愛があったり、犯罪的な事もあったり、結構上から目線のボランティアが多いとか、そういった事が結構取沙汰されていて。で、行ってみたら、被災地の方々は上から目線だとかそういうのはどうでも良いと、ここにあるガレキをここに移動して欲しい。ただそれだけだっていう事を仰有る。余り器具とかもなく本当に手作業で僕も周りの人たちもずっとガレキを動かしていたんですけど、復興が遅々として進まないとかっていうのは良く言われますけど、僕は目の前で人の手によってちょっとずつでも進んでいく姿を見ていたので、やっぱり復興していくのは人の力だなというのをまざまざと感じました。
 で、東京に戻って「箱入り息子の恋」のお話を頂いたんですけど、盲目の女性と代理お見合いと引き籠りの男性という原案はありまして、その上で好きなように書いて良いっていう事でした。そこで震災があった事っていうのは、僕の中ではもう必ず何を創るにしても影響はあるだろうなと思っていたので、そのボランティアをした経験も含めて自分のフィルターを通すとどうしてもこのどこか〝人の手〟で、手をモチーフにと言いますか繋がっていく姿っていうのを描きたいなと思ったんですね。
 それは殻に閉じ籠っている健太郎自身が新しい世界に踏み出すために自分の手でぶち破るといったところもありますし、また物理的に手が触れ合うってこともありますし・・・。健太郎のパソコンのキーボードだったり。で、奈穂子はピアノの鍵盤だったりという事で要所々々、指というか手というところは入れてますね。なので最後、ハッピーエンドではないですけども、手紙のやり取りっていうのもやはり点字で紙を通して指で触れるというようなのもそこから考えました。
島田: 最初に三つのモチーフを頂いたと言うお話があったんですけど、シナリオに最初のそういった決まりがあってやっていくのは初めてだったんですか?
市井: そうですね、はい。原作モノは過去にもありましたけど、結果映画化にはなってないので、そうですね、そういったお題を持ってっていうのは初めてでした。
 三つのお題を下に書かれた、別の方の台本もあったんです。ただ、シリアスと言うか残酷なお話で奈穂子も最後亡くなってしまうというようなお話だったんです。それとまた全く別にですね、奈穂子が盲目でないというものとして、今共同脚本になっているんですけど、田村孝裕さんが書かれたかなりコメディータッチのものがありまして、プロデューサーからどっち側に持って行っても良いし、中和するのかどちらでも良いので、ちょっと改めて書いて下さいという事がありまして・・・。
島田: どうですか?それをまた新たにやっていく上では、ご自身引き寄せ方というか何かリサーチされたりとかしたんですか?
市井: そうですね、盲学校に行ったりとかですね、代理お見合い、実際にあるので、そういったところを取材させて頂いたりという事はしました。
島田: 難しいですね、僕はそういう経験がないのであれですけど、そういう三つのモチーフから一本また別で自分が創るというか、そういうの難しい作業だなぁと思いますけど。どれ位の期間だったんですか?シナリオ・・・。
市井: シナリオはここ最近まで勤めていた会社で働きながら、時間がある時に書いてっていう感じで2ケ月半位ですかねぇ。

【俳優行政】
佐々部:一番センターになる監督の想いじゃないところからスタートしている訳ですよねぇ、その盲目の女性と引き蘢りの男性の大恋愛みたいな括りが。でもそれはやっぱり市井さんの力があったっていう事ですよね。それからもう一つ茶々ついでに、僕は助監督時代に黒木瞳さんと2本お仕事をした事があって、井坂さんは1本、主役ですよね?
井坂: 僕は「破線のマリス」の時に、自分が監督で黒木瞳さんと・・・。
佐々部:で、僕が助監督の時は割りと大変な女優さんだった・・・。その辺を市井さんは新人監督っていう括りの中で、でも井坂さんもそうか、最初は。
井坂: 僕はね、3本目だった。
佐々部:3本目か・・・。でも井坂さんは助監督のキャリアが凄くて、市井さんはそんなに助監督も沢山やってらっしゃる訳ではないですよね。
市井: はい。
佐々部:その中で黒木瞳という大女優を、あんなに上手に撮れただけで、もう監督協会新人賞ものだって・・・。
井坂: 新人賞の授賞式の日に市井さんに直接申し上げたのは、とにかく黒木瞳と大杉蓮さんが良いなって思った事・・・。
佐々部:とにかく黒木瞳が最高に良かった、で夏帆さんも良かったでしょ。良く大女優のあれを引き出したなって、そのご苦労をちょっと聞きたいなって思ったんですね。
市井: カットしなきゃいけない事が多いと思うんですけど・・・
一同: 大笑い
 井坂 聡 監督
市井: もう普通に僕はビビってまして、お会いする前から。特に黒木さんには正直かなりビビってまして。最初お会いしたのは衣装合わせ。異常に張りつめた空気だったんですが、その後にタバコを一緒に吸ったんですけど、そこで凄く距離感が・・・、一対一になると凄い距離感を縮めて下さって、あっ大丈夫かも知れないと。
 黒木さんは脚本自体を非常に気に入って下さっていて、そこが結果的には自分で言うのも何ですけど強みだったのかなぁと思うんですが、現場に入ってからも非常にスムーズでした。後、役者さんに合わせてシナリオを書き直したり、役者さんの意向が僕としても良いなというところでしたら取り入れたいと思って、そういう姿勢で最初から製作を始めたので、例えば公園で黒木さんが夏帆さんに「自由に生きて良いのよ」みたいな事を言って、夏帆さんが「お母さんはどうなの?」って言って、「ちゃんと生きてるわ。自由に生きてるわ」と言う、その時に障害の子を持つ母親としての苦悩を出すシーンがあるんですけど、その部分っていうのは実際最初にお渡ししたシナリオにはなくて、黒木さんの方からの提案もあって「そういう二面性を出しませんか?」って。そういうやり取りがしっかり出来た上で現場に入れたので、演出上のやり取りとかも特に混乱はなかったです。
佐々部:今、黒木さんが提案された障害を持つ子を持ってる苦悩みたいなものが凄く良く出てて、だからあのキャラクターが何時ものスッとした黒木さんよりも何かたおやかな、穏やかな黒木瞳っていうのが良く表現出来てたって気がしたんですよね。そういう意味では平泉成さんは、割とパターンを持って現場に来られる方ですよね。「こういうパターンもあるけど・・・」っていうのを提案される方で・・・。どうでしたか?
市井: えぇ、実際そうなんですけど、ただ平泉さんはお母さんに対してビシッと言うところ。最後に事故後の健太郎との病院のくだりがあった後のお父さんがビシッと言うところで、その時2パターン的な事はあったんですけど、あのビシッと言うパターンでお願いしますと言った時には、もう僕はお芝居を見た時に本当に心が震える位に良かったので、そういう意味ではパターンがどうというよりちゃんと心を込めてやって頂けているなぁって事は思いました。
 あと、結果的に良かったんですが、「ホモか、ホモなのか?」って言うあの二度出るところ、実際「ホモなのか?」とシナリオには一行書いてあるだけなんですけど、平泉さんが「ホモか?」って言ったんですね。で、「ホモなのか?」のパターンも撮らせて下さいって言ってシナリオ通りのものも撮らせて頂いて、で、編集上で健太郎の星野源君の顔のところで「ホモか?」を入れて二度言うっていう、二度言う面白さみたいなところっていうのは平泉さんがセリフを間違えなければ発見出来ませんでした。
一同: 大笑い
市井: そういう結果的に良かった事もありますし、後、僕は震災を機にボランティアでっていう先程の話のくだりを読み合わせの時に、その時黒木さんと大杉さんは来られてないんですけど、他の4人のメインの方にはお伝えした上で読み合わせをしたんですが、その後に平泉さんがもう少し震災に引きずったものを何か入れたらどうだ?みたいな事の提案がありまして、僕はちょっと震災を直接的に描くのは嫌だったんですけど、一考した時に余り震災にはちょっと遠いんですけど節電というのを壁に貼ったりというのはありまして、最終的にブレーカーを落とすくだりに関しては当時計画停電とかがあって、僕自身はちょっと東京電力に対して非常に不信感があったので、結果遡れば震災っていう事もあって電気全部落としてしまえみたいなような感じでブレーカーを落とすシーンを入れたんですけど、やはり役者さんとのセッションで生まれていったなぁと思いますね。
佐々部:もう一つキャストの事でお聞きしたいんですけど、4人の大人たちはプロデューサーサイドでキャスティングされたと言ってましたが、星野さんと夏帆さんに関しては市井さんの意向で・・・?
市井: そうですね。星野源君に関しましては映像系のものは殆ど観ていまして、非常に素直に感情を吐露するというか爆発させる魅力のある方だなぁと思ってまして、それでお願いしました。夏帆さんは「天然コケッコー」の時から大好きで、以前映画祭で一度僕が勝手にお見掛けしたんですけど、凄くきれいな顔をしているんですけど、お人形さんみたいな、足がそんなに細くもなくO脚なんですよね。
一同: 大笑い
佐々部清 監督 
市井: そういうところが凄い惹かれるんですよ。何かこう完璧じゃない、一個だけどうしようもなく人間臭いところがあるみたいなところが凄い好きでして、そういう事で夏帆さんにお願いして・・・。やっぱり夏帆さんが決まった事によって、左利きだって事に気付きまして、それで左と右の吉野家のシーンだったり、公園でストローを鼻に刺すところも、意図としては鼻に刺してそれでも笑う健太郎なんで、どこか障害者とか健常者とかそういう目で見てないっていうか距離感が縮まるシーンとしてそこは創ってるんですけど、敢えて夏帆さんと決まってそこのシーンをシナリオに書いたんですが、結構僕が一番したかったのはあの綺麗な顔をストローで崩したいっていうところがもの凄いあったんですけど、余りそんなに歪むような顔にはならなかったんですけど・・・。
井坂: 市井さんはどういう風に基本的にお芝居をつけているんですか?僕なんかは例えば現場に行って取り敢えず最低限の位置関係を決めて、取り敢えずそのシーンを全部通しで動いてもらって、それからカット割りを決めていくんですけども。そこで、当然色々ディスカッションしたりとか・・・。役者さんが何を持って来たのかを見て芝居を付けてるっていう・・・。
市井: あぁ、でも僕もその形に近いですね。先程の玄関からにしちゃおうみたいなところは、当然芝居を見る前に話し合う事ですけど、基本的には一度動いて頂いて、セリフ言って頂いてっていう・・・。そうですね、一度全面的にやって下さいっていう感じですね。
井坂: 特に事前に本読みだとかリハーサルだとかを組んだりはしない?
市井: 本読みだけはしました。全員揃ってはいないんですけど。
井坂: 最初の本読みの時は何をやって良いかちょっと分からなくて。今は何となく本読みでやるべき事は分かって来たんだけど、最初は全く分からなかった。本読みって何をするのかなぁって。
佐々部:僕はね、必ず本読みだけはやらしてもらうんです。通してやるとそれぞれの俳優達が自分のポジションとかを把握してくれるんですね。どうしてもシーン数の少ない俳優さんは自分のところで頑張っちゃうんですね。
井坂: それは確かにそうですね。
佐々部:主役の人の本読みのトーンに脇の人は合わせてくれる作業をそこで一回やってくれると、現場は非常に楽になる・・・。
井坂: 成る程、成る程。
佐々部:僕はそのためだけで本読みをやる・・・。
井坂: 本読みでどこまで演出しちゃうんだろうって最初は真面目に考えちゃった。芝居のトーンは・・・とか、それを突っ込み出したら終わらなくなっちゃう・・・
佐々部:ついでにもう一コ良いですか?僕はあの吉野家のシーンで泣いちゃったんだけど、あの吉野家は何か思いがあって吉野家だったのかなぁ?
市井: 僕自身が単純に経済的な理由もあって吉野家、僕は吉野家よりも実際はすき家の牛丼の方が好きなんですけど、牛丼を良く食すので・・・。素朴なデートみたいな事、で、実際僕好きな女の子と本当に吉野家でデートした事があるんですけど、実際その恋は叶わなかったんですが、やっぱりどこか背伸びしないデートをしたいなって。健太郎に合わせていくと昼飯のデートっていう事はあの経緯からするとあり得るなぁと思いまして、それで吉野家だったり立ち食い蕎麦屋だったりっていう選択になりました。
佐々部:でも凄くリアルで、僕、大昔、今のカミサンに「どこか飯食い行きたい?」って言ったら、最初に行きたいっていわれたのは「立ち食い蕎麦屋か吉野家に行きたい」って言われたの、一人で行けないからって。そんな20数年前の事も思い出しちゃって、とっても素敵なシーンで・・・。そういう事がリアルだって思うんですよね。引き籠もった彼と目の見えないヒロイン、どっちかって言うと異質な事をリアルに見せるって、大変じゃないですか。けど、そういうさりげないところがきちんと出来ているから支持されるんじゃないかなぁと思ったりして。・・・島田さん、そろそろ戻って下さいよ。

(c)2013「箱入り息子の恋」製作委員会

【劇映画とドキュメンタリー】
島田: 劇の現場の事だと僕よりも皆さんの方が良く知ってるんで・・・。そうなんですよね、僕はドキュメンタリーなんで。
井坂: だけど、ドキュメンタリーのアプローチの中にも劇のアプローチって一杯あると思うんだよね。さっきのお題を与えられてって・・・、ドキュメンタリーでも自分が立てた仮説に対して実際撮って行くと変わって行って、それを再構築してコンストラクションを作っていって作品にするっていう意味で言うと、取材して脚本を作るということと同じ、自分のお題があるけどお題通りに撮っても面白くないし、かと言ってお題から外れても主題を何にして良いか分からない人ってね、色々ある・・・。
島田: これもネットで読んだんですけど、「キスをもう一回して良い?」って、星野源さんのアドリブだったって読んだんですけど、そういうのはどれ位あるんですか?
市井: そんなに多くはないんですけど、モンタージュのところですね、音楽が鳴ってデートするシーン、お蕎麦屋さんとか初めて手をつなぐ所とか。手をつなぐ所は、ちょっとこけそうになるってあぁいうのとかはアドリブですね。お蕎麦屋さんは要所々々でこういうセリフ言って下さいみたいな事はホント当日決めたって感じです。
 キスシーンの「もう一度して良いですか?」っていう所は、単純に僕がこの後どうなるんだろう?ってずっとカット切らなかったら、そうしてくれた・・・。だからちょっと躊躇があるんですよ、眼鏡も戻そうか戻さないか「あれっ、切らないのかな?」みたいなのが若干見える。
島田: その感覚だけは少し分かる気がしていて。というのはドキュメンタリーも割とカメラマンとか録音マンにこれはまだ切らないで欲しいなっていう、耐えるって言うか、実際に何か行っているんですけど、何かもう撮ったでしょ?みたいな感じで、もう終わったでしょう?みたいな感覚になっている時に、あっでもこれ何か出て来そうだなっていう時に耐えて欲しいなって思う瞬間。そういうのって僕は割りと気心が知れた、映画だけじゃなくてVPとかもずっと同じカメラマンでやっているので、その人だと凄く分かるんですけど、そういう意味でいうと、劇映画ってそういう風になる瞬間っていうのがあるんだなぁって観ながら思ったっていうか・・・。でも何かそういうところが多分面白くなるというか、僕はあそこで笑ってしまったので・・・。
井坂: 役者が素には完全に戻ってないんですけど、どこか無防備になっている瞬間の、そのリアリティ・・・。要は生の感覚。僕の師匠の一人の東陽一さんは元々岩波映画出身でドキュメンタリー出身。東さんもわざとテストと本番の時にカットをかけないんですよ。台本のセリフは全部終わっているんだけど、じーっとカットかけない。その後のカット尻のパッとしたところを使っちゃったりしてね。そこの生の、やっぱりドキュメンタリー出身の監督なんで生っぽさを捉まえようとする。成る程なぁって思って僕も時々やるけど。

島田: 学生時代に東さんに一度だけ授業に来て頂いて、授業受けた事があるんです。「劇映画を撮る時にはドキュメンタリーを撮る感じで撮っていて、ドキュメンタリーを撮る時には劇映画を撮る感じでやっているんだよ」って言われて、学生時代には僕、何を言ってるか分からなかったんですけど。最近、劇映画観ていても、一瞬素が見えそうで見えないけど、でもそこに行くような感じの演出とかを観るとドキッとしますね。
佐々部:市井さんの今回の映画に関して言うと、キチッと創り切れてないっていう言い方は失礼だけど、何か余白みたいなノリシロが無防備に編集されているみたいな面白さがあるじゃないですか。「えっ、このシーンこんなに要るの?」っていう位のところがあったりするんだけど、それが楽しいっていうのがね。
井坂: だから、完成度の高さというよりはやっぱりその人の人となりの持ってる面白さかな?結局観てて、これはちょっと自分じゃ撮れないかも知れないけど、なんか面白いよなっていう、まだざらついている感っていうのが・・・。
市井: 編集の方に僕の生理的な間の感じというのをお話して、それで一度作って頂いた。ただ一回だけもう少しウエルメイドっていうかカット尻を切ったパターンも一回やってみない?って言われまして、やってもみたんですよ。でもやっぱり自分の中では全然早くてスパスパ切れてる感じで、「見易いのかも知れないですけど、やはり戻して下さい」っていう事にしたので、一度試してはみたので、僕の中ではもうこの間じゃないといけないんだなという事は思いましたねぇ。自分の映画じゃないと思ったんですよ、切って観た時に。ここは結構闘っても我を通すべきところだなぁと思って戻して貰いましたね。
島田: そこと繋がるかどうか分からないんですけど、映画を観ていて、僕も吉野家のところは凄く良かったんですけれど、そこで結ばれるのかな?と思うと、カットバックで切り返すとおじさんが居たりとか、その後市役所に戻って、いざ一念発起でパッと走り出すとカメラがそのまま追い越してしまって、で又戻ってまた一緒に行って・・・みたいな。予定調和を常に裏切って行きたいという、結構この監督は天の邪鬼なのかなぁという、凄くコンパクトに納まるところを敢えて全部裏手裏手にされてるのかなって感じたんですけど、どうなんですか?
市井: いやぁ、そうですねぇ。そこはありますね。正直、話全体で見るとベタな感じというのはあると思うので、そこでどうカメラワークや演出上でその感情を持たせないか、裏切っていくかという事は注意してやってましたねぇ。まぁ実際、天の邪鬼なところはあると思います。やっぱりどこか入り口は広くマジョリティに入って、最後は狭くというかマイノリティに・・・。何となく見易い感じにしたたかですけどしておいて、最後は凄い細い出口に連れて行きたいなみたいな思いは凄くあります。
 島田隆一 監督

【過去と未来】
佐々部:授賞式の後の懇親会の時にプロデューサーの方が「引く手あまたで、もう次の作品が控えてる」って仰有ってて、・・・今話せる範囲で良いんですけど、市井さんの作品が次にどんなところに行こうとしているのかなぁって。
市井: 詳細としてはちょっと・・・。WOWOWさんのドラマはあるんですけど、それはまだ言えないのですが。これちょっと「箱入り〜」と似通っているところがあるんですけど、人と繋がる事で自立して行くお話なんです。他に映画として自分の中で脱稿して、今動いているものっていうのがありまして・・・。
佐々部:オリジナルですか?
市井: オリジナル一本と原作ものもありまして、どちらも共通項は人が集まって行く、一人の・・・人が集まって来て「七人の侍」的な仲間が増えて行く。そういった物語ですね。
佐々部:それはやっぱりCG満載ってのではなく、人間ドラマですか?
市井: そうですね。娯楽映画で良くありますけど、最初は凄い仲が悪いのに何かのキッカケで同じ目的に向かっている内に凄く距離感が縮まっていってという、邂逅してってというようなシーンって、もの凄い僕ぐっと来るんですけど、何かそういう部分を描きたいなぁっていうのはありますね。
島田: 2本、次は決まってるってことですか?
市井: そうですね。まだ時期と言いますか、今はキャスティングだったりお金集めだったり・・・。
島田: 大変ですね。でも凄い・・・。「無防備」を拝見して思ったんですけど、トラウマと言う程大変な事は起こってないんですけど、ちょっと社会から孤独を感じるというか、自分の中での居場所が定まってない人みたいな事の描き方って言うんですか?もの凄く辛い事があって・・・という事ではないけれども、何か皆が皆、日常的に感じている孤独の中のちょっと抽出した部分みたいな事を描くのが非常にお上手だなっていう風に、前の作品を観ても思ったんですよね。今回の主人公の男性の引き籠りの感じとかっていうのも、全然出て行かない訳じゃない、だけども何かやっぱり上手くいかないっていう位の、それが凄く現代的だなって思うし、非常に上手いなぁって思いました。感想になっちゃいましたけど、スミマセン。
市井: 人と接して行く事自体、僕自身が非常に苦手なんだと思います。かなり地味な学生生活だったという事もあるんですけど、どこかそういう地味な人にスポットライトを当てたいなというところはまずありますね。
島田: 散々聞かれて来ただろうから聞かないでいたんですけども、そもそも何故映画をやろうと思われたんですか?〝ヒゲ男爵〟に居られたって事が凄く面白いなって、その後に劇団にも行かれて、そのあとに映画っていうその流れみたいなものってのは何かあるんですか?
市井: 富山の出身なんですが、小学校から中学校の時に両親共働きで、鍵っ子で結構テレビ好きだったんです。ドラマなどを良く見てまして、映画のレンタルビデオ店が出来たのが中学校2年生の時ですけど、そこから映画も見て行くようになりまして、最初はジャッキー・チェンが凄い好きになったんですが、今でも「ポリス ストーリー」とかは現場に入る前に必ず見る位です。
 で、高校の時にようやく民放も3局になって、〝お笑い〟が好きになりまして、お笑いとドラマと映画だったんですけど、どちらかというと僕はベタですけどダウンタウンさんが大好きで、安直ですけど大阪に行けばお笑いが出来ると思いまして。どっちかっていうと富山は関西寄りなんです。けど皆は東京に行くんですけど僕だけ関西の方に行きまして、大学内で〝髭男爵〟を5人で結成しまして、最終的に大学を卒業してからも東京で活動したんですけど、5人の内、僕と樋口だけが同じ大学の中では東京に行きまして、経緯として山田に東京で出会って3人で始めたんですけど、新たに新生〝髭男爵〟っていうのを始めまして、僕はお笑いは好きなんですけど、どちらかというとDVDにしたいというか職人肌というか・・・、他の二人はテレビ、テレビって言うんですけど、僕はコントを徹底的にやってそれをDVDに残して行きたいっていう記録マニアみたいなところがちょっとありまして。
 よくよく考えると、そういうのが映画の流れだと思うんですけど。コントを作るにあたっては映画とかドラマを見始めて、特に映画を観ていると僕自身が笑いという部分だけではなく色んな感情の部分を表現したいなぁって思って来て、〝髭男爵〟の中でのネタの方向性の違いというものもあったんですけど、そこから映画に出演したいという気持の方が強くなりまして、最後の頃は山田と僕が本当に取っ組み合い位の喧嘩が結構ありまして。僕も山田もネタを作るので凄い喧嘩になるんですけど、仲裁は樋口がするんですけど樋口はネタを作ってないんで全然仲裁出来ないんですね。全くそれでうまく行かなくなりまして、それで僕が一人で脱退して、その後劇団乾電池の研究生になったんですが・・・。柄本明さんがいらっしゃるところで一年間お芝居しまして、結果本劇団員に残れなかったんですね。今までは自分の意志で選んできましたけど、本劇団員に残れないと他人からNGを受けたのは初でして、そこからどうしたら良いんだろうって色々思ってまして、2年間位サラリーマン生活をして、その間に小説なり映画なりっていうのをもう一度蓄積をしまして。その時に武監督の映画だったりサブ監督もそうなんですけど凄い好きでして。武監督が好きってことで黒澤明監督とかどんどん観まして、武監督やサブ監督に共通しているのは二方とも役者さんでもあるって事で、自分で映画を作れば自分で出演出来るんではないかと思いまして、それでENBUゼミナールっていうところに27歳の時に入りまして、映画の裏側というものを27歳の時に学び始めて・・・。ただ結果、自分が出演してみたいな事は全然出来てないんですけど。
市井昌秀 監督 
島田: 今もご自身が出演するってのは、やられる可能性と言うかやりたいと思ってらっしゃるんですか?
市井: やりたいんですが、プロの役者さんと接すれば接する程、自分には無理だな・・・と。「箱入り〜」にも一瞬は出てるんですけど、エキストラ出演。
島田: 一瞬出てらっしゃる?えぇーっ!何処なんだろう?
市井: 市役所で暴れる前に、星野源が吉野家から市役所に帰って来る時の市役所の表に・・・。ロビーのところで立ってるんです、立ってて通り過ぎて行くんで「何だよぉ」みたいな一応芝居はあるんです、一芝居あるんですけど。
島田: 「箱入り息子の恋」も小説も出てるんですよね。表現が、演じるという事とか監督っていう事とか小説を書くっていう事の垣根を越えられるのは何故ですか?っていったら変ですけど・・・。
市井: 演じるのは本当に厳しい状況ですけど、小説に関しては映画を始める前の2年間のサラリーマンの時に書いてみて挫折した事があったんです。志が低かったんだなぁと思うんですけど、書ききれずに終わっているので、「箱入り息子の恋」にインする前後位に撮り終えてから小説を書かないかとプロデューサーの方から言われて、正直言われないと書いてないですね。でも撮り終えた後に凄く書きたいと思ってきまして、そんなに横に手を広げて行く人間ではないんですけど、小説に関しては一度ヤメてしまったって事があったんで書いてみたいと思って。妻の力も借りたんですけど、共作で一緒に書きました。
佐々部:「箱入り息子の恋」って最初からタイトルはそうだったんですか?
市井: 音楽もついてから、劇伴もついてから「箱入り息子の恋」に決まりました。
佐々部:ホント言うとダサいタイトルだなぁと思った、何が良いって代案はないんだけど。だけど映画を観たら愛おしくなって・・・。
市井: 本当にそうだと思います。最初は「Familly Matters」って英語のタイトルで、邦題としても「家庭の事情」っていうので何かピンと来ないなぁって感じであって、「最終的に決めましょう!」という事にはなっていたんですけど、タイトル案は僕も含めプロデューサーも含め100個以上出したんですよ。最終的に劇伴が決まった後に、実はプロデューサーが一番最初に出していたものってのが「箱入り息子の恋」だったんです。
 僕はそんな・・・、本当に嫌だって言ったんです。ただ、あれってある時ちょっと思って、「この『箱入り息子の恋』っていうのは、息子って言うのは男の一物で、それを箱入りって事で童貞って事とダブルミーニングですか?」って聞いたら、「そうよ」って言われて、アッそれは面白い・・・、実はそのカラクリに気付いてなくて、それで「これ良いじゃないですか!」っていう、今僕は凄く好きなタイトルです。若干のダサさも好きになってるんです。
佐々部:いわゆる映像派みたいなシャープでピッていう作品ではないじゃないですか。人の気配がいっぱい伝わってくる、「箱入り息子の恋」ってのが成る程ってマッチしてて・・・。何か失礼な事を僕は言ってますけど。
島田: 僕は何かそのダサさに惹かれたんですよね。星野源さんの風貌とかもそんなにシュッとした二枚目役者さんではないじゃないですか。その感じと凄くマッチしている感じなんですよね。
佐々部:夏帆さんがあんなに綺麗で、最初に観た時、主人公がこの顔かよって・・・。でも何かあの主人公、段々好きになっちゃうし。普通主人公が市役所の職員ってなかなか設定しないじゃないですか。それを見ているうちに可笑しいし、何か愛おしいんですよね。そうすると何かダサいタイトルまでが愛おしくなっちゃうと思うんだけど。ダサいって(笑い)、言いたい放題。
・・・もうそろそろ良いんじゃない?
井坂: そうですね、じゃ、記念写真をとりましょう!

 3時間近くに及んだ対談。いつ果てるともないので、私、佐々部が、突然にプツリと切り上げました。もうノドも乾き、ビールも飲みたくなったのが一番大きな要因かも知れません。対談のスタート時から雷の鳴る雨模様でしたが、終わった頃には雨も上がり、二人の受賞監督と、井坂さん、日笠さん、天野さんと私の6人で居酒屋に向かいました。三十代という本当に若い世代の監督二人との出会いは新鮮で刺激的なものでした。