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2013年度日本映画監督協会新人賞特集 選考レポート

2014年07月25日

2013年度 日本映画監督協会・新人賞選考委員会報告

2013年度の日本映画監督協会新人賞受賞者は『箱入り息子の恋』の市井昌秀監督に決まりました。以下、選考委員会からの報告です。
(日本映画監督協会の会報「映画監督」2014年4月号に掲載されたものです。)

 2月5日、監督協会にて、第一回選考委員会。

 選考委員(敬称略・50音順)香月秀之、金田敬、中村義洋、浜野佐知、松島哲也、利重剛。この6名より選考委員長の選出。それぞれ目の前の仕事に追われる身、自分でいいのか......という遠慮もあり、率先して委員長を買って出る委員はいない。暫く譲り合いが続いたが、最終的に撮影を終えたばかりの香月氏が引き受けて下さる。13年度の選考委員会は香月選考委員長の下、進められることとなる。

 南場事務局長より過去の選考過程などをお聞きするが、明確な基準はなく、毎年、選考委員の裁量に委ねられているとのこと。まず、2013年度版の選考方法をどのように設けるか?を議論する。「エントリーされた作品全部を観るのは正直辛い」「第一回目の選考に限り、取捨選択をある程度(他の委員の見識に)任せていいのでは?」などの意見が出る。勿論、全員が全作品を見て選考してゆくのがベスト、"選ぶ側としての義務"であることは各委員とも承知の上だ。(以下、会員の方々の異論もあるかと思いますが)結局、A班(香月、金田、中村)B班(浜野、松島、利重)で、エントリ―作品16本を等分して選考し、委員それぞれがナンバー1(+α)を持ち寄り、中間選考会でA班から挙がった3本をB班が、B班から挙がった三本をA班が選考。最終選考会にて新人賞を決定することにした。

A班(香月、金田、中村)担当8本
〇自分の事ばかりで情けなくなるよ
松居大悟監督
〇神奈川芸術大学映像学科研究室
坂下雄一郎監督
〇旅立ちの島唄~十五の春~
吉田康弘監督
〇TOKYOてやんでぃ
神田裕司監督
〇チチを撮りに
中野量太監督
〇Sweet Sickness
西村晋也監督
〇戦争と一人の女
井上淳一監督
〇箱入り息子の恋
市井昌秀監督
B班(浜野、松島、利重)担当8本
〇蠢動-しゅんどう-
三上康雄監督
〇インタ―ミッション
樋口尚文監督
〇ゲバルト
山鹿孝起監督
〇凶悪
白石和彌監督
〇ももいろそらを
小林啓一監督
〇ゆるせない、逢いたい
金井純一監督
〇ジ、エクストリーム、スキヤキ
前田司郎監督
〇約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯
齊藤潤一監督

 尚、自薦されていた、三浦淳子監督作品『さなぎ~学校に行きたくない~』に関しては、3本以内という規定は満たしているものの、既に協会員でもあり、監督歴の長さなどから、新人監督としての枠を越えているのでは?との見解で選考対象から外れて頂くことにしました。

 2月25日、監督協会にて、第二回選考委員会。

 A・B両班、それぞれの選考委員が各一本を持ち寄る。概ね、「見続けるのが結構辛かった」との正直な感想である。いつも評価の対象とされている立場の監督たちが他人の作品を評価することへの戸惑い、好みではない作品をどういう視点で平等に評価していくか等々、各委員の"本音の弱音"が伺えた。

 また、それぞれが担当した作品の総評として、"尺の長さ"についての意見が出た。「撮ったカットをすべて使っているようだ」「思いだけでつないでいる。その大切な思いが、ダラダラした編集で逆に見えづらくなっていた」「監督自ら編集も行っている弊害では?もっと客観的な視点が必要」「切ることの大切さ」等々―。

 選考に入る。各委員が推薦作を提示し、その理由を述べてゆく。

 A班からの三本

〇戦争と一人の女(推薦・香月)。
選考基準を"自分が絶対に撮らないであろう(撮れない)"として、この映画を選んだ。

〇旅立ちの島唄~十五の春~(推薦・金田)。
映画(テーマ)に対する襟の正し方が清々しく、好感を持った。

〇箱入り息子の恋(推薦・中村)。
登場人物がとても魅力的に描かれている。面白い映画を作るのだ!という監督の気概が伝わった。

 B班からの三本

〇ゆるせない、逢いたい(推薦・浜野)。
ラストの芝居に疑問は残るが、デイトレイプという重たい題材を真正面から描いている。

〇ゆるせない、逢いたい(推薦・松島)。
監督として観客へ、思いを伝えようと格闘した痕跡が見える。

〇自分の事ばかりで情けなくなるよ(推薦・利重)。
自分に振り分けられた8本からは選べなかったので、協会へ自分が推薦したこの作品を選ばせてもらった。この次も見たい!と思わせてくれる監督だ。

 以上、5本の作品が挙がった。B班の選考委員より浜野、松島両委員の作品が重複しており、両氏の次点だった『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』も是非選考の対象に......との申し出がありA班の選考に回すことになる。また、ナンバ―1ではないものの推す声があったA班担当作品『チチを撮りに』『神奈川芸術大学映像学科研究室』は(+α)として、B班委員へと回り、積極的に推す声があれば選考対象とする旨が決まった。

 3月11日、監督協会にて、第三回選考委員会。

 最終選考会である。尚、(+α)作品に関してB班からの積極的な推薦はなく、中間報告会で残った6作品についての最終選考となった。1作品を選ぶということは、5作品を落とすということだ。それぞれが選んだ作品ではあるが、あえて否定的にも検証していかなければならない。全作品に対して全委員が意見を出し合った後、挙手の数で本数を絞ることになっている。選考の決め手は、次もこの監督の作品を見たいか、だ。

〇ゆるせない、逢いたい
※堂々と確信を持って題材に挑んでいる。
※レイプした側とされた側の、心の変遷が見事に描かれている。(この意見には、ブレているとの反対意見もあった)。
※ラストの描き方で、「犯されたけどやっぱり好き」的な印象になってしまったのが残念。
※結局、ラヴ・スト―リ―に着地してしまった。

〇自分の事ばかりで情けなくなるよ
※映画だけでなく、この監督にはマルチな才能を感じる。
※俳優を活かすコツを既に持っている。
※短編の寄集めみたいで、まとまりがなかった。
※斬新なようだが、キャラクタ―造形などステレオタイプ。

〇旅立ちの島唄~十五の春~
※とても丁寧に上手く作られている。が、そこにこの監督でなければ!というスペシャル感がなかった。自分がデビュ―する前「お前にしか撮れない企画を持って来い」とプロデュ―サ―に言われたことを思い出した。
※力は認めるが、初々しさに欠けるのでは?次作を見たいかと問われれば、積極的に推すことが出来ない。
※悪いところが見当たらないのが物足りなかった。
※俳優陣と現地の人々の混成キャスティングが、とてもアンバランスな配置に感じてしまった。

〇箱入り息子の恋
※映画がラストに向かうにつれ話が混乱してゆくが、それがかえって面白さに対する監督の欲張りだと感じさせてくれる作品だった。
※どの登場人物たちも魅力的だった。監督の力量を感じる。
※盲目の少女の扱い方を不快に思う人がいるかもしれない。
※少々乱暴な作りではあるが、作品が醸し出す多幸感に嫉妬した。
※演出上の仕掛けがどれもチャーミングで、また成功している。

〇戦争と一人の女
急に各委員の歯切れが悪くなる。私的な感想であればもっと活発に言い合うことも出来るだろうし、切って捨てることも可能だろう。だが新人監督賞の選考の場である。何らかの結論を出さなければならない......。この時点で『戦争と一人の女』という映画は、単純な"善し悪し"は別にして、映画としてのパワ―を持っていたのかもしれない。だが、なぜ今この映画なのか?。愚問である。この作品だけに当てはめられることではない。でもそこを蔑ろにして通り過ぎることの出来ない作品だった。「......結局、この作品で監督は何がしたかったんだろうね」「正面から撮られている男と女が性器を出して日光浴するシーン。女のヘア―は映されているが男の方はサイズで切ってある。勿論理由はわかるが、いいシーンだっただけにもっと監督として撮り方を模索して欲しかった」等々、ポツポツと意見は出たものの、積極的にこの映画を推す声は挙がらなかった。

〇約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯
※事実の持つ力。見入ってしまった。
※監督の執念を感じる。是非、この作品以降も拘って撮り続けて欲しい。
※ドキュメント部分とドラマで構成されているが、どうしても実際の映像に芝居がのまれてしまった印象。TVの特番の域を越えていない。
※堂々とした風格ある作品。しかし作品賞ならわかるが、個人賞である監督賞としてこの作品を選ぶのは疑問が残る。

 最終選考に残った6作品すべてに対しての意見が出尽くした。香月委員長の仕切りで各委員が挙手、作品の数を絞ってゆく選考に入る。が、議論を交わす中で各委員の腹は既にある1作品に決まっているようだった。委員たちを映画を見る楽しさ、幸福感に包んでくれ、破綻を恐れず、果てしなく面白さを追求していた映画、次回作も是非見てみたい!と思わせてくれた監督......。

 香月委員長が取り決めに従って、一本目の『ゆるせない、逢いたい』の挙手を求めようとした時、どなたかが言った。「この作品から始めませんか?」その作品は市井昌秀監督の『箱入り息子の恋』だった。全員が手を上げた。呆気ないほどに、決まりだった。傍で一部始終を見ていた南場事務局長が、「こんなこと初めてです」と苦笑っていた。

 確かに選考の仕方について異論もあろうかと思います。が、今年の新人監督賞に市井昌秀監督が選ばれたことは、この選考に関わった6名の選考委員が責任を持つとともに、この作品に出会えて良かったと確信しています。思い起こせば初めて選考委員会に参加した時「選ばない、という選択肢もあるのですか?」などと斜に構えた発言をしたことを恥じ入りました。是非、来年の選考委員の方々、"選ぶ義務"を全うしてください。そして今年の選考委員の皆様、お疲れ様でした。(選考委員:金田敬)

監督協会新人賞選考委員をやってみて。
香月 秀之

 初めて選考委員をやらせて頂いて驚いたことは、決めるに当たっての規定と方法がなかったこと。選ばれた委員によってやり方は様々でいいという事に正直戸惑いを感じた。日本の映画産業で重要なポジションを担っている監督達の集まりである監督協会が決める賞に、規定がなく、ただ六人の選考委員の好みで決まってしまうわけである。しかも、候補作品も誰か一人の推薦があればいいわけである。せめて、選考基準でもあれば好き嫌いで選ばなくても済むわけだが・・・。

 評論家の賞であれば、客観的に好みでいいのかもしれないが、同じ立場の仕事をしている監督を選ぶのは正直、気を遣ってしまう。

 選ばれた作品は、一年間で日本映画監督協会が一番優秀だと認めた作品になるわけであるから。

 予算、俳優、製作条件など様々な理由が存在するのが映画である。

 それらの縛りを理解しないで賞を選ぶのは、選ばれなかった監督に失礼になるのではと考えてしまう。

 それも運と言ってしまえばそれまでだが。

 ヒット作品は、宣伝や俳優、映画会社の戦略など監督の力量とは違う所で生まれる場合も多いから、監督の運もあるだろう。しかし、この賞は純粋に監督の力量を選ぶ賞であるような気がする。

 今年は、16本の選考作品があったが、六人全員一致で「箱入り息子の恋」になって少しはホッとした。

 意見が分かれていれば決める規定がない方法では困ったことになる。

 どうせ規定がないのであれば、監督協会員全員で一人が2作品か3作品を選考して多数決にする方が公平な気がする。

 もし、規定を設けるなら、感動、カメラワーク、カッティング、俳優の芝居、演出的手法又は表現、その他いくつかの選考ポイントを決めて、そのポイントに評価点をつけて、最高点数を獲った作品を選ぶのがいいような気がする。

 まあ、そうは言っても映画は好みでいいと思うけど。最終的には観客に観せるものであるので・・・。

てめぇを棚に上げる
金田 敬

 よそ様の作品をあーだこーだ吟味するにゃ、てめぇを棚に上げるしかないのです。一日一本観る!と決めてこの選考作業に挑みました。私の担当は8作品、その中で『旅立ちの島唄~十五の春~』からは映画創りに対する真摯さを、『神奈川芸術大学映像学科研究室』からは情緒に流されない視線の的確さを、『箱入り息子の恋』からは破綻を恐れない貪欲さを、それぞれ受け取りました。未見の会員の方々是非ご覧下さい。三本ともとてもチャーミングな映画です。特に『旅立ちの島唄~十五の春~』の吉田康弘監督は、昨今流行りの素材取り風の撮り方で過多に編集へ依存することなく、オーソドックスにカットの使いどころを現場でキッチリと把握した演出ぶりに好感を持ち、私は一番に推しました。『神奈川芸術大学映像学科研究室』の坂下雄一郎監督、末恐ろしいです。この作品は大学の卒業制作とのこと。今度は他人の金でプロデューサーと喧々諤々、アウェイ感満載?の中での監督ぶり、ショウバイ映画でまた再会したいです。新人賞に選ばれた『箱入り息子の恋』の市井昌秀監督、おめでとうございます!自己中心的ではなく、ちゃんと観客を意識した"オモロさ"の追求に頭が下がりました。そして最後に選考委員のカネダ監督、棚に上げていたてめぇを早く下ろして戦闘態勢に入ってください。じゃないと新しい才能が次々にやって来ますよ。えっ、棚に上げてたてめぇを見失った?......そりゃ困りましたねぇ。てな私のズッコケ選考顛末でした。

新人賞選考
中村 義洋

 自分もこんな「新人賞を選考する」なんていう偉い立場になったんだなあ、などという思いを抱きながら選考に参加させて頂きました。選考方法や経過は香月さんや他の方々が詳細を書いてらっしゃるでしょうから省きますが、僕は受賞者の『箱入り息子の恋』をド頭に観てしまったんです。無類の面白さである上に「面白く見せる」という現場での冒険や煩悶、妥協の無さが伝わってきますし、こちら側の、オチはきっとこうか? という予定調和のごときヨミをことごとく外してくれるストーリーテリングと、これは完全に好みではありますが、泣かせるところであえて笑いを、というセンスが自分にはドンピシャで、とにかく「推そう」と決めました。後はもう、それを超えるか超えないかで、結局の目線は極めてシンプルでした。例年とは違って異常に短時間での決議と言われましたが、その中でも他の委員の方々と討議を繰り返したのは、どういう基準で選ぶのか、ということだったと思います。とても自分ではこんな演出はできない、あんな大女優を前に遠慮した痕跡がない、その監督が選んだ現代と切り結ぶようなテーマ性があるかどうか、などが挙げられましたが、結局は「次作が観たいかどうか」というのが大きな選考理由になったような気がします。先にも書きましたように『箱入り〜』には無類の面白さがある上に、この監督の次回作が告知されたら自腹で劇場へ行ってしまうだろうな、というのが僕が躊躇なくベスト1に選んだ理由です。

二つの愛を選んで
浜野 佐知

 第54回日本映画監督協会新人賞は、前代未聞の選考委員6名全員一致で「箱入り息子の恋」の市井昌秀監督に贈られることになりました。

 まずは市井監督、おめでとうございます!

 2013年度の選考作品は16タイトル。まず6名の選考委員が3名ずつ組になって、8作品を観ることになりました。その時点で私の一押しは金井純一監督の「ゆるせない、逢いたい」でした。デートレイプという難しいテーマを男性監督がどのように料理するのか、個人的な興味もありました。まさか「愛しているから許される」なんて男ならではの結末にならないだろうなあ、と半分ドキドキしながら観たのも事実です(金井監督、ごめんなさい・・笑)。ところが、主人公の少女のうまさも相まって、レイプという事実に真摯に向き合おうとする演出に心惹かれていきました。女の視点から言えば、決して許してはいけないことなのですが、そこに男性の視点が加わることで、少女の揺れ動く心の葛藤がよく描かれていると思いました。ただ、やはりどうしても引っかかったのが、レイプした少年が「どうして?」という少女の問いに「愛してるからだよ!」と答えること、その少年が天涯孤独の愛を知らずに育ったという設定であること、つまりこの映画は最初からこの少年を許そうとしていることでした。そして、ラストシーン、別れを決意した少女が去っていく少年の背を追いかけ抱きつきます。「愛しているけど、許せない」という少女の叫びなのですが、それは「許している」という結末にしか見えませんでした。おいおい、いいのか、それで、というのが私の心の声ですが、ともあれ、映像も演出も手堅く、テーマ性も伝わってきてこの時点では私の一押しでした。

 さて、別班から上がってきたのは、松井大悟監督の「自分の事ばかりで情けなくなるよ」、吉田康弘監督の「旅立ちの島唄~十五の春~」、井上淳一監督の「戦争と一人の女」、市井昌秀監督の「箱入り息子の恋」の4本でした。私は「箱入り息子の恋」を最後に観たのですが、それまではずっと「ゆるせない、逢いたい」を超える作品には出会えませんでしたので、もうこれは決まりかな(私の中では)と思いながら観はじめたのですが、あっという間に惹き込まれていきました。落ちこぼれの青年と盲目の少女。監督はこの二人に最初から最後までブレることなく寄り添い、大人の身勝手さに翻弄されながらも懸命に愛し合おうとする二人を包み込むように描いていました。その視点に弱者への差別はなく、社会に適応できないからこそ得ることのできる自由を未来への翼として描いて、その手腕にやられた!と正直脱帽しました。この監督に会ってみたい、と熱烈に思いました。

 今回の選考作品では「若者の孤独」を描いた作品が多かったように思います。ただその孤独さが私のようなおばさんには鼻につき、「え~、今どきの若者はそんなに孤独なの? 孤独だったら何をしてもいいの? 何をしても許されるの? みんな社会が悪いの?」と「孤独」を免罪符のように前面に押し出してくる作品にうんざりしていましたので、絶対的な孤独(オタクの引きこもりと盲目)をユーモアに変え、観客の心に愛することの優しさをストレートに投げ込んでくる「箱入り息子の恋」が選ばれて本当によかったと思います。

 市井昌秀監督、どうか次の作品もその次の作品も差別される側からの視点で優しい映画を作ってくださいね!

日本映画監督協会新人賞の選考を終えて
松島 哲也

 南場事務局長の一言が忘れられない。最終選考の席上、6本の最終候補についての個別検討を終え、第一回の決を取った際、6名の選考委員の手が上がり、全員一致、一発で新人賞が決定した瞬間、「私の知るかぎり、全員一致で決定した事は初めてですね」と微笑んだのだ。例年、何本かに分かれての多数決等で、満場一致は極めて異例であったという事だ。

 『箱入り息子の恋』の市井昌秀監督に第54回の新人賞は決定した。

 作品の内容は協会員がご自分の眼でぜひ確かめて頂きたいが、オリジナル、まさかありえないだろうという設定を納得させてプロットを進める感性、現代的なテーマを盛り込みながら、エンターティメントに仕立てる技量に感服した。香月選考委員長はじめ6名の選考委員の監督達は、どこかで決をとる前から「総合点ではこの作品だろう」と予感があった気がする。

 候補作は20本(協力映画評論家の参考意見で候補となった作品が11本、協会員推薦、自薦が9本)そこから、今更この監督に新人賞はないだろう、公開年度が規定外だ等、4本を除外して選考対象作は16本となった。各選考委員が二手に分かれて候補作を観たわけだが、選考委員が経験豊かな監督だけに、趣味趣向とともにそれぞれの新人賞の定義があり、各人が個性的な見解で自身が推す作品を決めていった。勿論観る事が苦痛に近い作品もあった。一長一短でドングリの背比べ的な作品群もあった。私に振り分けられた8本の中でこれかなと私が選んだのは『ゆるせない、逢いたい』の金井純一監督であった。デイトレイプを題材にした優れた作品であり、低予算の現場で監督として格闘した痕跡を残しながら、観客に何かを伝えようとする姿勢を感じた。次も観てみたい作家性が私の新人賞を選ぶ基準であるが、欠点もあるだろうが、瑞々しい感性を感じたのだ。

 そして、2回目の検討会を経て、別のグループから推薦された作品群を鑑賞したわけだが、後一本を残しての段階では、やはり金井監督を最終選考で推す事になるだろうが、先ほど記した各選考委員の選ぶ定義がバラバラなので、最終候補に残る作品は複数に上り、議論は長くなると予想していた。この時点ではぶっちぎりの新人に出会えていなかったという事であり、今年度は不作だなと感じていたのは事実である。しかし、最後の作品『箱入り息子の恋』を鑑賞した時間は、苦痛が多かった選考の疲労が吹っ飛び、この映画に出会えて良かったと心から思えるものであった。市井監督の次回作に強い期待を持ち、満場一致の新人賞受賞を讃えたい。最後に協会員の推薦が少なかった事(9本)、映画評論家の参考意見で対象となった作品の推薦理由がいまいち分からなかった事を記して、初めての選考報告としますが、皆様、ぜひご自分の推薦作を次年度は協会にお出し下さい。協会員が選ぶ監督協会新人賞をもっと充実させるために参加して、選考委員を困らせて下さい。参加しなければ分からない事は多いです。私も次回は推薦したいと思います。

選考を終えて
利重 剛

 映画や人を選考するなんて行為は嫌で、ずっとお断りし続けてきたのですが、とうとうやるはめになってしまいました。

 賞というものは、一番を証明するというものではなく、「励まし」のためにあるのだと思います。実際、僕も過去に賞を頂いた時、「これからもやっていていいんだ」と背中を押してもらった気がして、次回作への困難な道のりを再び歩いて行く勇気が湧いてきた思い出があります。

 映画を作ることは、困難です。逆に言えば、困難が嫌いなら、映画の世界にいる意味はまったくないのです。どうせ困難であるなら、できるだけそれを避けて通るのではなく、できるだけ多くの困難を積極的に乗り越えようとすることでしか、良い映画は生まれません。

 だからこそ、特に、新人監督には、励ましが大切だと思います。今回の「箱入り息子の恋」の市井監督には、僕たちの応援が少しでも力になり、次へ進んでくれることを望みます。

 作品の評や選考理由などは他の方と重複になるでしょうから、詳しく書きません。監督としての「やりたいこと」や、ある作家性を感じさせること。他の映画にはない独自の表現を作り出そうと努力していること。選考委員全員で、一生懸命それを見つめていたと思います。

 僕は、この作品の他に、「自分のことばかりで情けなくなるよ」を推しました。松居大悟くんも、やはり、これから突き出てくる監督だと思います。役者を活き活きとさせる能力を持ち、映像で語る工夫も怠らない。オリジナルでも原作ものでも最終的には自分の作品にして作り上げていけるだろう力を感じます。期待しています。