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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

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「複眼の映像 監督と脚本家のコラボレーション」

2007年05月01日

対談

山下敦弘×向井康介編

根岸吉太郎×加藤正人編

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2007年5月号『複眼の映像 監督と脚本家のコラボレーション』 編集長 瀧本智行

脚本の中に納得がいかないシーンがあったとする。しかし、自分にも脚本家にもそれ以上のアイデアが見つからない。打ち合わせの席は重い沈黙が支配し、お互いに息苦しくなる。「まあ次の課題にしようか」ってなことで、その日は酒を飲んで馬鹿話をして終わる。 
その後も、その課題はなかなか解決しない。脚本家は徐々にうんざりとし始める。細かいことを愚図愚図言う監督だなあという目をしている。段々物が言いづらくなる。
クランクインが近づく。こちらはどんどん追い込まれていくが、脚本家はそうでもない。そろそろ店仕舞いという気配が色濃く漂っている。結局「まあ、ここはこのままにしておこうよ」ということで押し切られ、決定稿が印刷される。脚本家はにっこり笑い「頑張ってね」と言い残し、次の仕事へと去ってしまう。
そのシーンのことは実は喉の奥に刺さった小骨のようにずっと気になっている。しかし、相変わらずいいアイデアが思いつかず、脚本家ももういなくなった。他にも考えなければいけないことはいっぱいある。現場で上手く誤魔化してしまうしかないかと諦めてしまう。

撮影当日、そのシーンの演出をしていてもどこか自信がない。役者の芝居を見てもどうも腑に落ちない。何度かNGを出したりするものの、どうすればいいという答えが自分の中にあるわけではない。時間に追われ仕方なくOKを出す、編集で何とか誤魔化そうと無理矢理自分を納得させながら。
しかし、編集の段になって、どうつないでみてもやはりそのシーンが気に入らない。音をつければ誤魔化せるだろうとダビングに一縷の希望を託すが、派手な効果音をのせても、音楽をのせても気に入らないものは気に入らない。スタジオのトイレにしゃがみながら「ああ、やっぱり映画は脚本だ」と呟いてみる。不意に「こうすれば......」という直しのアイデアを思いつく。よくよく考えればそれほど難しいことでもない。そう直していれば絶対にいいシーンになっていたはずだった。最後まで妥協せずに本を直さなかった自分を悔い、「何でもっと前に思いつかなかったんだ」と一人酒場で愚痴る。
初号を見ても、例のシーンのことばかりが気にかかる。作品の傷に見えて仕方がないが、悔しいから黙っている。打ち上げもそろそろお開きという頃、酔いの回った脚本家が隣に腰を下ろす。「今更なんだけど、あそこさ、こうすりゃあよかったんだよな」などと言いながら、直しのアイデアを口にする。自分がスタジオのトイレで思いついたアイデアと寸分変わらなかった......すべては後の祭りだった。

こんなことにならないように、たとえ脚本家に嫌われようと、納得がいかないところはしつこく直そうと思います。

編集長プロフィール
1966年、京都府生まれ。早稲田大学政治経済学部除籍。
1993年から助監督として数々の映画やテレビドラマに参加。
主に降旗康男、高橋伴明、佐々部清等の監督に師事する。
2005年、映画『樹の海』で監督デビュー。
同作で東京国際映画祭、日本映画ある視点部門・作品賞、藤本賞新人賞を受賞。
TBS「女タクシードライバーの事件日誌」シリーズ、連続ドラマ「弁護士のくず」などテレビドラマの脚本も担当している。
2007年秋、監督第二作『犯人に告ぐ』が公開される。