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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

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2004年度新人賞

2005年07月02日

第45回 2004年度日本映画監督協会新人賞

受賞記念インタビュー

ゲスト◎2004年度新人賞受賞者井口奈己監督

インタビュアー◎佐藤 真監督、坂本 礼監督

(坂本監督が遅れそうとのこと。まずは佐藤監督によるインタビューから始めることに)


 

04sin01.jpg井口奈己(いぐち なみ)
1967年、東京生まれ。イメージフォーラムで学んだのち、録音助手として自主映画や一般映画の現場に参加。初脚本・初監督の『犬猫』(8ミリ版。2001年)で、PFFアワード2001入選、企画賞。日本映画プロフェッショナル大賞・新人賞。2004年製作の『犬猫』(35ミリ版)で、第45回日本映画監督協会新人賞を受賞。
 

04sin02.jpg佐藤 真(さとう まこと)
1957年、青森県生まれ。PR映画、テレビ番組を数多く手がけたのち、1992年、初の長篇ドキュメンタリー映画『阿賀に生きる』を監督。ほかに、1998年『まひるのほし』、2000年『SELFAND OTHERS』、2001年『花子』、2004年『阿賀の記憶』などの作品がある。ニヨン映画祭銀賞、芸術選奨新人賞ほかを受賞。
 
山田さんと榎本さん

佐藤このたびは、おめでとうございます。

井口 ありがとうございます。

佐藤 この日本映画監督協会新人賞というのは、すごい賞でしてね。つまり、「監督が監 督を選ぶ」という行為には常にどこかで「自己矛盾」がつきまとうので、「映画とは、なにか?」ということについて突き詰めて考えたうえで選んでいる。そうしたときに、井口 さんの、あの『犬猫』の"不思議な、だらだらとした時間"が力を持った、ということだろうと思うんですね。それで、その『犬猫』ですけど、あれをつくることになったのは、 どういう経緯から?

井口 経緯はですね・・・どこから話せばいいのか・・・(笑)。

佐藤 まず、もともと、8ミリ版の『犬猫』がありましたよね、僕は拝見していますが。 あれは何年?

井口 2000年に完成して、2001年に公開したんです。偶然に(笑)。中野武蔵野ホール (*1)がなくなる直前に、あそこに口を利いてくれた人がいて。PFF(*2)に入選してたんですけど、それとはぜんぜん関係なく決まって。それで、私、その8ミリ版を つくったときに、"映画がよくわかってない"ということが、自分でよくわかったので、『ヒッチコック、トリュフォーの 映画術』(*3)という本を読んで。映画撮ってから 読んでも、しょうがないんですけど(笑)。そしたら、"私が知りたかったことが、全部書いてある"と思って、びっくりして。で、公開のときは宣伝は自分たちでやったんです けど、試写状を(『~映画術』の訳者の一人で、映画評論家の)山田宏一さんに送って。それで、普通、一回ぐらいじゃないですか、試写状送るのって。毎週送ったんですよ、ス トーカーのように(笑)。

佐藤 ははあ(笑)。

*1:東京・中野にあったミニ・シアター。日本のインディーズ映画の新作を中心に、 任侠映画など名画も上映した。独自編成に定評があったが、2004年5月、閉館。

*2:ぴあフィルムフェスティバルの、自主映画監督の登竜門であるコンペティション部門「PFFアワード」のこと。緒方 明、黒沢 清、利重 剛らを輩出した。

*3:『定本 ヒッチコック 映画術 トリュフォー』(晶文社)。ヒッチコックの創作術にトリュフォーが迫ったロング・インタビュー(訳:山田宏一、蓮實重彦)

井口 そしたら、すごいいい人で、お手紙をくださって。どうして来られないかが書いて あって。

佐藤 へえ!

井口 すると鈴木さん(*4)が、「じゃ、フィルム持って、(山田さんの)家に映写に 行こう」って言いだして。

佐藤 ははは。  井口そしたら、制作の、文芸坐 (*5)で働いてるSさんが、「え~っ!」って言いながら、でも、手紙書いてて(笑)。「上映しに行ってもいいですか?」って。

佐藤 うん、うん!

井口 そしたら電話が来て、「困ります」って。

 

04sin03.jpg佐藤 あはは!  
*4:8ミリ版『犬猫』では撮影と録音、35ミリ版では撮影を担当した鈴木昭彦さん。

*5:東京・池袋にある名画座「新・文芸坐」のこと(以下、同じ)。名画座の老舗、文芸坐の歴史を継承。充実した特集企画のほか、新作邦画封切りにも取り組む。

井口 「そりゃ、そうだ」という話になって(笑)。まあ、それで充分満足だったんです が。"なんて、いい人なんだろう!"って。そしたら、どうしてお忙しいのかというと、特集上映を毎日観に行く約束を文芸坐にしてるから、という話になって。で、Sさんが、 「私、文芸坐で働いてるんですよ」って。それで、なんか、お知り合いになれて。公開の一週間前に観てくださって。でも、そのときは、とくにご感想とかお聴きすることもなく て、試写室前のケーキ屋さんで一緒にケーキ食べてコーヒー飲んで、帰ったんですけど。そしたら、公開が終わったころ、ネット上に評論を書いてくださって。それをたまたま読 んだのが、山田さんを尊敬してる、テアトル(*6)のプロデューサーで。

佐藤 榎本さん?

井口 はい。で、それがまた、私、その榎本さんの元・部下で。テアトル新宿(*7)で バイトしてたもんですから。

佐藤 はあ!

井口 榎本さんは榎本さんで、「元バイトが山田宏一さんに褒められてる。え~っ!」。

佐藤 あはは!

井口 で、しかも、ちょうどテアトルが新人発掘の企画(*8)を動かそうとしてるとき だったので。そんな、いろんな偶然が、あいまって。

佐藤   はあ~。じゃ、(きっかけは)山田宏一さんなわけですね。

井口 と榎本さん。

佐藤 うん、うん。なるほど。

*6:東京テアトル株式会社。映画の製作から配給、興行に至るまでを行なっている。
*7:東京テアトル株式会社が運営する、東京・新宿の、日本映画専門封切り映画館。
*8:「日本映画の新レーベル」と銘打って始めた新企画、「ガリンペイロ」のこと。




04sin04t06.jpg井口監督とスタッフたち 

佐藤 2000年製作の8ミリ版『犬猫』は、どのぐらい時間がかかったんですか?

井口 撮影が1年半、編集が1年、もろもろの仕上げが半年。3年ぐらいですね。

佐藤 3年!? すごいね。劇映画で3年ってのは、ちょっと、とんでもない時間だよね。

井口 ええ。でも、8ミリが写んないんですよ。はじめの1ヶ月ぐらいは、(現像に出し ても)真っ黒なフィルムが戻ってきたりして。あと、照明も自分たちでつくりながらやってたので。そんなふうにしてたんで、時間がすごくかかって。

佐藤 なるほど。8ミリ版『犬猫』は、"8ミリ映画として、音がここまでできるんだ" というサンプルとしても観てほしいと、僕、ある人にすごく薦められて。「8ミリというジャンルで、これだけ丁寧につくっている作家がいる」って。そのへん、どういうふうに 意識されてますか?

井口  実際は8ミリのほうが、音がいいですね、35ミリ版よりも。マグネ・コーティング (*9)なので、光学(*10)より遥かにレンジ(*11)が広いので。

佐藤 でも、(サウンド・トラックが)ちっちゃいじゃないですか。

井口 ちっちゃいですけど、でも、ぜんぜん。「SD25」という映写機で映写すれば、 という条件でですけど。フジの最上位機種で。それでやると、もう、すごいいい音なんです。なので、自分たちで上映するときは、映写機も持っていって。
*9:マグネチック・コーティング。磁気録音方式のために施される磁気塗布のこと。 *10:光学録音方式。オプチカル・レコーディング。音の強弱を光に置き換えて記録。*11:ダイナミック・レンジ。最大値と最小値の比率によって、音の再生能力を示す。

佐藤 僕が(8ミリ版を)初めて拝見したのは、シアター・キノで(*12)。10周年か何かで。で、お酒を飲んでたら、「東京からワゴン車で来たグループがいる!」って。それが、「犬猫軍団」で。8ミリだけじゃなくて、いろんな荷物持ってきて。スタッフも一緒に来てましたね。総勢6人ぐらい。いや~、衝撃でしたねえ(笑)。

井口 京都とか北海道とかだと、みんな行きたがるんですよ(笑)。


 

04sin07.jpg*12:札幌のミニ・シアター。札幌市民出資によるNPO型の映画館として知られる。

佐藤 僕がすごく面白かったのは、もちろん映画もなんですが、スタッフ・ワークがね。 僕もドキュメンタリーやってるから、どこか家族みたいな感じで、"お金はないけれど、みんなで寄って集って共同生活をして"というところがあるけれども、劇映画は、映画を つくるときには擬似家族をつくるけど、撮影が終わっちゃえば「家族」は解消して個人の生活に戻る、でも、『犬猫』はそうじゃないという感じが、すごくしたのね、上映も含め て。"続いてる"っていうか、スタッフが。

井口 8ミリをつくったときの一番のプレッシャーは、"自分がやろうとしてる映画に、 関係ない人たちが巻き込まれてる"ってことだったんですけど。でも、ちょっとでも"申しわけない"とかって思うと一緒に映画つくれないんで、途中から、たとえば鈴木さんに 対してもそうですけど、"その人たちが、呼べば現場に来るのは、それは、その人たちの問題だ"と思うようにしたんですよ。私のために来てるわけじゃなくて。自分がスタッフ のときにはそう思ってたんで。"監督のために映画つくってるんじゃなくて、映画のために自分が居る"っていうふうに思ってたんで。だから、なんていうか、そんなに家族みた いなふうでもなくて、じつは、なんていうんだろう、なんか「対等」、「映画をはさんで対等」みたいな感じなんですけど。「やりたいから居るんだよね」という感じで。

佐藤 うん、うん、なるほどね。それは、井口さんの感覚では、映画が勝手に呼び寄せて くれてるって感じですか? "私は、べつにそんな「家族」の関係を、ずっと続けるつもりはないけども"と。

井口 そうですね。「情が薄い」って、よく言われるんです、私は(笑)。でも、なんていうのかなあ、「なかよしグループ」じゃないんですよ。仲が悪いわけじゃないんですけ ど。「居る目的がある人たちが、居る」っていう感じなんですけどね。

佐藤  うん、うん、なるほどね。



04sin08t10.jpg8ミリと35ミリ

佐藤 で、山田宏一さんの批評がきっかけとなって、テアトルで新人作家発掘という企画の中での話があったときに、最初から「『犬猫』を」という話だったんですか?

井口 そうです。「『リメイクなんてやりたくない』なんて生意気なこと言わなければ、 映画を撮らせてやる」って言われて(笑)。  

佐藤 おーっ、ハハハ!

井口 で、「言いません」って。

佐藤 はあ~。それが、プロデューサーからかかってきた最初の電話なのね。そのときはどう思ったんですか、井口さんとしては?

井口 いやもう、さすがに、(8ミリ版を)公開まででいうと4年ぐらいやってたんで、やることはない、思い残すことはない、と思ってたんで(笑)、"もう一回か!"って。スタッフは、みんな、「やめたほうがいいんじゃない?」って。「ある程度、評価もされて、公開もして、それで、もう一回やるってのは、どうなの?」って。私も"どうかな"って思ったんですけど、ちょうどそのころ文芸坐の「マキノ雅弘映画祭」を毎日観てて、するとマキノ監督は、たくさん(自作の)リメイクをされ てて、"ああ、こうやるんだ"と思って。で、やろうかなと(笑)。 

  04sin12.jpg                                     新人賞選考の対象となった『犬猫』

 

佐藤 山田宏一さんのつぎは、マキノさんね。日本映画史の王道を行ってますね(笑)。はじめから「リメイクを」という話だったとのことですが、しかし最初の映画は、ほんと に、役者とはいうけど、ある意味、素人の、自分たちの周辺にいる女の子たちによって、ま、自分たちの生活を映画の中で再現してるって感じじゃないですか。それがやっぱり、 すごく、なんか生な感じがあってね。しかし、リメイクとなると今度は35ミリで、まったく違う。役者も、もう、ある程度は決まってて、スタアの人たちを使う、と。そのへんに 関しては、どういうふうに?

井口 榎本加奈子さんは決まってたんですよ。私が「やれ」と言われたときには、もう。 たぶん、それで企画が。予算も組んでたと思うんで。でも、はじめは、加奈子ちゃんには「スズ」という、男の子を取っちゃうほうの役で話が行ってたんですけども、なんかこう"人生ままならない"ほうが似合いそうかなと思って(笑)。それで「ヨーコ」のほうの役でお願いし直してもらって。あと、小池栄子さんも決まってたんですけど。ほかは自分で、"この人がいいんじゃないか"って決めさせてもらって。

佐藤 8ミリ版に出てくる女の子も、出てきますよね。コンビニで偶然会う子とか。

井口 あと、段ボールのところで「このへんの」って言ってる子も。あの二人が、(8ミリ版の)スズとヨーコ、主役の二人で。

佐藤 うん、うん。なるほど。




04sin13t15.jpgスズとヨーコ

佐藤 もともと『犬猫』というのは、つまり、スズとヨーコ、この二人の物語は、井口さ んにとっては、ずっと温めてきたものなの?

井口 いえ、ぜんぜん。私、映画をつくろうとするまでは、映画監督になろうとは思って なくて、その前は録音助手をずっとやってたんですけど、スタジオ・ワークがすごい嫌いで(笑)、"録音助手のまま行くのは、つらいかなあ"と思って。

佐藤 スタジオ・ワークが嫌いな録音助手じゃ、そりゃつらいよね、ハハハ。

井口 それで、記録(=スクリプター)になろうと思って。先輩で記録の仕事をやってる 人のとこに「記録でやっていきたいんですけど、助手にしてください」って頼みに行ったら、「あんたみたいな生意気なやつは無理だ。自分で映画撮りな」って言われて(笑)。 "え~っ!"とか思って(笑)。そしたら、ちょうど、8ミリの(『犬猫』の)髪の短い眼鏡のほうの子が、たまたま、「映画に出たい」って電話かけてきて、で、「じゃあ、撮 ろうか」ってことになって、そこから1ヶ月ぐらいで書いたホン(=脚本)なんですよ。それで、すぐイン(=撮入。撮影を開始すること)しちゃったんですけど(笑)。

佐藤 あ~、じゃ、その彼女の「映画に出たい」ってところから?

井口  そう、「私を映画に使え」ってとこから、ハハハ。

佐藤 じゃ、あの「二人の女性のルーム・メイト」というあたりは、その、やりたいって言い出した役者の女の子が持ってたモチーフなの?

井口 いや、"一緒に住む"というのは、フィクションですね。で、"男を取り合う"というのもフィクションで。"中国に行っちゃう"というのは、ともだちの本当にあった話で。で、"アパートに戻りたいから、間借りさせる"というのも、本当の話で。そういう"身近な出来事"を、よく女の子同士で話すじゃないですか。こんなことがあったとか、こんな目にあったとか、こんなひどい男に引っかかったとか。ともだちのそういう話を適当にこうやって(と、つなぎ合わせる身振りをして)。で、フィクションを入れて、適当につくったんですけども、はい。

佐藤 なるほどね、それを聞くと、なんとなく、すっと氷解するとこがあるんだけども、あの不思議な、だらだらとした時間が流れる中での女の子たちの感覚というものが、もちろん「つくりもの」は「つくりもの」なんだけども、とくに8ミリ版のときに感じたんだけども、なんか、すごくリアルな感じがしたんですよね。リアルっていうか、"ああ、女の子の部屋ってこんなふうで、女の子ってこういうふうに暮らしてるんだなあ"って感じがあってね。化粧を落としたというか、"男に向かわない、女の子同士の会話"というものに、ちょっとドキドキするところがあってね。それは、やっぱり、井口さんの周辺のいくつかの細かいエピソードがモザイクのようになってる、ということなんですね

井口 そうですね。自分のじゃないんですけども。自分のエピソードは、道に迷うところぐらいで(笑)。あとはぜんぜん入ってないんですけどね(笑)。

佐藤 あの、道に迷うエピソードは、8ミリ版でも同じ(ロケ)場所ですよね。

井口 はい。(ほかにも)いくつか同じところがあるんですけど。階段を走り降りていくとこなんかもそうですし。あのう・・・8ミリ版のときにやって、"もう一回、できる"と思うとこは(35ミリ版でも、同じことを)やっていて、8ミリ版のときに、まあ、「すごい、いいですね」って言われていても、"もう一回、できない"と思うとこは(35ミリ版では、同じことは)やってないんですよ。リメイクで、まあ、タイトルは一緒なんですけど、でも、まったく別の映画として撮ってるんで。"たまたま(タイトルが)同じ"って感じですね。

佐藤 うん、うん、なるほど。

 

04sin16t18.jpgピンとポン佐藤 35ミリ版『犬猫』については、井口さんは、自分としてはどんな感じを持ってるのかな? つまり、前の映画は置いといてね、今度は一般の劇場用映画として勝負したわけじゃないですか。すると、いままでの"自主製作で、自主上映"といったスタイルとは、かなり違ってくるので。そのへんに関して言うと、どんな感じ?

井口 う~ん、どうだろう・・・。私は撮影よりも編集のときのほうが、たいていは大変なんですけど、だいたい8パターンぐらいつないでて、で、あれが最終形なんですが、もう、やるだけやったんで、"世界中の誰に観せても大丈夫"って感じで。

佐藤 あ、35(ミリ版)も8パターンつないでみたの?

井口 はい。今回、パソコンがあったんで(笑)。8ミリのときは、(編集用の)ビデオをピンポンでつないでたんですよ。だから、一年半かかって(笑)。

佐藤 ピンポン?

井口 こっちをラン(=再生)させたら、すかさずこうやって!(と、ビデオ・デッキAを再生させた直後にビデオ・デッキBの録画ボタンを間髪入れずに素早く押す、しぐさ)

佐藤 あは~っ! ピンポンって、そういうことね! そりゃまた、すごいねえ! ジョグ・ダイヤル(*13)なしでやってたってことですね!(笑) そりゃ一年かかるわね、8パターンつくるのに!(その場の一同、爆笑) 1パターンつくるのに、一ヶ月ぐらいかかるんじゃない?

*13:プロ編集用のコントローラー。1フレーム(1コマ)単位の精密編集ができる。

井口 いや、もっとかかってましたね(笑)。1シーンつなげられないんですよ、一日で。もう疲れちゃって。なんか、その機械の癖をつかむだけで、一日終わっちゃうみたいな(笑)。

佐藤 はあ~(爆笑)。

井口 ですけど今度は、パソコン使わせてもらえたんで(笑)。 一日でだいたい一本、無理すれば つなげられたんで。それで8パターンつくって。で、これ以上にはならないというところで出してるんで、 何言われてもいいし、誰にでも 観せられる。まあ、自信持ってます、 はい(笑)。



04sin19.jpg佐藤 その「8パターン」というのに興味あるんですけどね。シナリオがあるじゃないですか、8ミリのときよりも、もっと、今回の35ミリの作品の場合は。そのシナリオの順番も崩してる? その8パターンでは。

井口 崩してます。もともと、"崩すだろう"というのを前提にしていて、だから衣裳も「一番」(*14)なんですよ。みんな、同じ衣裳をずっと着てて。テレコ(*15)があるだろう、ということで。

*14:映画の衣裳は、「何番」と数える。「一番」は、「1タイプのみ」を意味する。

*15:交互の状態。また、そういう状態にすること。ここでは、「場面の入れ替え」。

佐藤 なるほど。シナリオ上では一応、日付の経過とかがあるけども、もう完全にアタマから確信犯的に(「編集で構成を入れ替える」ことを想定して)──

井口 そうすることもあるだろう、と。

佐藤 それは、すごく正しい、いい選択というか。物語って、たぶん、撮った段階で考えてたことが、つないでみると、"これ、順番を逆にしたほうが、絶対いい"ってことが、必ず出てくる、という気がするのね。とくに『犬猫』の場合、"男と暮らして、別れて"という大きな流れさえあれば、あとはべつに、その日の朝と夜の話が逆転しても、ぜんぜん問題ないんだからね。

井口 ええ。いろいろやってみましたね。

佐藤 編集でそうやって、あるひとつの「映画の時間の流れ」をつくっていこうと思ったのは、それはやっぱり、8ミリ版の編集のときから?

井口 8ミリのときは、じつは衣裳がつながってないんですよ(*16)。それで──

佐藤 あ~!

*16:衣裳がつながっていない=着衣の状態が、場面転換などに連動していないこと。

井口 でも、「(観客は)人間(の芝居)を観ているから、いいだろう」と。「ちょっとぐらい違ってても」と(笑)。

佐藤 それもね、極端な話、いいんだよね。わかんないもんだからねえ。撮ってるほうにとっては、大変なことだけども。

井口 たまに指摘されますけどね。でも、たいていの人は、そんなこと、あんまり気にしませんから。

佐藤 なるほどね。

 (ここで、もう一人のインタビュアー、坂本監督が到着し、早速、インタビューを開始)



04sin20.jpg坂本 礼(さかもとれい)
1973年、東京都江戸川区生まれ。日活芸術学院在学中から、ピンク映画の現場に助監督として参加。その後、瀬々敬久監督、サトウトシキ監督に師事。1999年『セックス・フレンド 濡れざかり』で、監督デビュー。ほかには、2001年『18才 下着の中のうずき』、2003年『豊満美女 したくて堪らない』の監督作品がある。

撮影フォーマットとフレーム・サイズ

坂本 遅くなりまして。じゃ、早速お訊きします。あれ(35ミリ版『犬猫』)、フィルム撮りでスタンダード(*17)ですよね。(ほかの)ガリンペイロ(の作品)はHDで撮ったりしてますけど、そういったことの選択というのは?

井口 (自分が)無理矢理。

坂本 あ、そうなんだ、アハハ!

井口 ほんとはHD24P(*18)でやんなきゃいけなかったんですけど。「フィルムで、スタンダードで」って言ったら、「え~っ!」って言われて。

*17:スタンダード・サイズのこと。オーソドックスな画面サイズ。縦横1:1.37。

*18:毎秒24フレーム順次走査でフィルムとの親和性を高めたデジタルハイビジョン。

坂本 フィルムにしたいと思ったのは、なにか井口さんの中で──

井口 色や暗部などを考えると、24Pでは、この映画の世界観に合わないかと思って、粘りに粘って。

坂本 スタンダードも邦画では最近あまりないですが、スタンダードを選択した理由は?

井口 家の中(の場面)が多いので。人物を(キャメラ・フレームの)いいところに収めようとすると、ビスタ(*19)だと、ちょっと脇が甘い。それが、すごい厭なんですよ。そうすると、もっと(キャメラが、うしろに)下がんなきゃいけなくなってくるんですけど、スタンダードで限界なんですよ。空間と人の位置関係という観点からスタンダードにした、ということです。

坂本 なるほど。

*19:ビスタビジョン・サイズ。1:1.85比。ヨーロッパ・サイズは、1:1.66。



04sin21t22.jpgオンとオフ

ここで、取材に立ち会っていた広報委員会副委員長・福岡芳穂監督が、井口さんに質問。

福岡 僕も役者に"力を抜いて、そこにいてほしい"とか"だらだらしてて"とか言ったりするんですけど、そういう演出するときに、さっき、「ひと月かけて体操させる」っておっしゃったでしょ(開始前の雑談時に出たお話。井口さんは役者に"力を抜いた芝居"をさせるため、それ用の体操を一ヶ月間、役者にさせたという)、でも役者って、どうしても「オン」になりたがる、そのへんを(訊きたくて)。体操のほかに、なにか井口さんなりの方法論ってありますか、「オン」になりたがる役者に(対処するための)。

井口 今回の役者たちはすぐわかってくれまして、つまり、「オン」の芝居をしてもOKが出ないので、"ああ、それは求められてないんだな"って。それで、だら~っと。「だら~っとすることに、すごく力を入れてくれた」というか(笑)。カットの間は(出番の合間は)、本当に寝てたし(笑)。すごい協力的だったので。役者の力が大きかった、と思いますね(笑)。それと、スタッフ・ワークでがんばったので。女性(スタッフ)が多かったっていうのと、あと、声がでかくない人を選んでもらって(笑)、怒鳴り合わないようにして。緊張感が、みなぎらないようにしてたんです。

福岡 そうね、そういうのってありますよね。「本番~ッ!」とか言っちゃうと、もうそれだけで──(一同、爆笑)

井口 ええ、言わないようにして。(ゆったり、まったりした口調で)「じゃ~、よろしく~」みたいな感じで(一同、爆笑)。「気合いを入れない方向で行く」と、皆さんに言ってあったので。でも、やっぱり、はじめは(役者と)目線がぜんぜん合わなかったですよ。信用されてなかったみたいで(笑)。体操も、はじめは厭だったみたいだし(笑)。

(記事担当) それは、どんな体操なんですか? 「オン」にさせるための(=気合いを入れるための)体操ならわかるんですが、「だら~っとさせる体操」というのは?

井口 「骨盤を調整すると、力が抜ける」という「骨盤調整体操」というものと、あと、「肩の力を抜く体操」というのを、専門の先生に教えてもらって、それをやってたんですけど。あと、「ゲームをしながら台詞を言う」なんてことも(笑)。そうするうちに、だんだん(主役の)二人が、お互いが居ることに慣れてきたり、仲よくなってきたりして。すると、あとは、とくに何も言わなくても──

福岡 ある種、そのへんで、もう"演出は終わってる"というか──

井口 そうですね。本番ではもう、「だらっとしてください」しか言ってなくて(笑)。あと、「走って」とかそんな、動作の指示しか、してなかったですね(笑)。

福岡 なるほど。

 

04sin23t25.jpg犬と猫

  坂本 『犬猫』というタイトルは、どういうところから? 

井口 ホンを書いたのが1997年なんですけど、そのころ好きだった曲に『犬と猫』ってのがあって、それで。・・・とか言って(笑)。

坂本 はあ(笑)。タイトルって、わりと先につけるほうですか? シナリオ書いてて。

井口 いや、無理矢理つけたんですよ、あとから。はじめからあったわけじゃなくて。

坂本 『犬猫』は少人数でドラマが展開しますが、井口さんは、ごちゃっといっぱい人が出てるのより、かぎられた人数で織りなしていくようなドラマが好きなんですか?

井口 いえ。人がいっぱいいるのは、いまは、ちょっとできないかな、と。だから、やらない、と。戦争映画なんか好きなんですけど、人がバカスカ死ぬ映画が(笑)。でも、そういうのを自分がやるには、ちょっと、まだ。現場をコントロールできるぐらいに経験ができたら、やろう、みたいな。で、"いま、やれるとすると"って考えて、最初は8ミリだったんで、まあ、二人ぐらいの女の子とその周囲の芝居を、撮影が延びても文句を言わなそうな人たちで、と(笑)。そういうとこから逆算して考えたのが『犬猫』なんです。

坂本 なるほど。井口さんは女性で、女性を主人公にした映画をつくられましたが、それは、"男性よりも女性を主人公にしたものをつくろう"という、なにかご自分なりの、映画づくりのお考えがあってのことなんでしょうか?

井口 いえ、ぜんぜん。たまたま、自分が出たいからって言ってきたのが女の子だった、というだけの理由で(笑)。もし男の子が言ってきたんだとしたら、男の子の話になってたと思います。

坂本 あ~。すると、最近、ほかにも女性の監督で撮られてるかたが何人かいらっしゃいますけど、「女性監督として」というか、「女性監督の役割」じゃないけども、そういうようなことって、なにか考えるところってありますか?

井口 ないですね。「女性だから」ということを意識することもないですし、まわりの人たちについても、「男性だから」って、それを意識することもないですし。

坂本 はあ~。

 

04sin26t28.jpg日常と非日常

  坂本 井口さんにとって映画づくりは、日常ですか、非日常ですか?

井口 そりゃあ、もう、非日常ですよ!(笑) 「人柄が変わる」って言われますしね。

坂本 ど、どうなるんスか?

井口 写真を見てもわかるんですけど、顔もなんだか違う感じになって。自分でもよくわかんないんですけど、ふだんはぼんやりしてるんですけど、映画のときだけは、なんか暴走族みたいな気分になるみたいで(笑)。もう、なんか、「邪魔するやつは、ぶっ殺せ~ッ!」みたいな感じになるらしくて(一同、爆笑)。そういう顔になってるんですよ、キツくなっちゃって。みんなに嫌がられてます、はい(笑)。

坂本 その「邪魔するやつは、ぶっ殺せ~ッ!」ですけど(笑)、たとえばどんなことがあったんですか? "邪魔だなあ"って思った、というのは?

井口 撮影現場って、いろんな思惑の人たちがいるじゃないですか。それで、「こうしよう」ってことで進めてるときに、ちょっとストップをかけたりする人って、いたりしますよね。そういうときに思いますね。(見事にヤンキー口調を真似て、めいっぱいドスを利かせ、ねちっこく)「ぶ・っ・こ・ろ・す!」。(一同、大爆笑)

坂本 今回の(35ミリ版)『犬猫』においても、そういった"ここはちょっと突破しないといけないな"という局面があったんですか?

井口 役者に対してはなかったですけど、スタッフとは毎日そうで。ロケ地選びからしてそうでしたし。毎日、喧嘩してましたね、あらゆることで(笑)。




04sin29t31.jpg「これまで」と「これから」

坂本 今回、(35ミリ版の)『犬猫』をつくられて、8ミリのときと比べて、変わったことって、なにかありますか?

井口 形はリメイクですけど、8ミリと35ミリでは「まったく、べつの体験」という感じだったので、"同じものを、もう一回やってる"って感覚は一切なかったので、編集にしてもそうですけど、前の経験がなんの役にも立たないって感じだったんで、「前こうだったから、こう」みたいなふうにはぜんぜんなってなかったんで、「新作をやってる」って感じでしたね。

  坂本 いや、(35ミリ版を)つくったことの結果における、なにか変化なり発見は?

井口 ああ。まず、映画を観てくれる人の数が、8ミリのときより多い、ということですね。私たちで独自にアンケートをとってるんですが、すると、たとえば、同じシーンについて、うまいって言われたりヘタって言われたり、長いって言われたり短いって言われたり、と、いろんな、あらゆる種類の意見が返ってくるんですよ。そういうのって、「映画が出来上がる瞬間を体験できている」という感じなので。「(映画は)お客さんが観て、完成」みたいな。あと、その、観る人が多くなったことで、たとえば「次のを撮りませんか」というような、映画がまた撮れるかもしれないってことがあったりしますので。そういうチャンスが広がることにつながったらいいなと思ってます、はい。

坂本 うん、うん。井口さんにとって、自分の映画を観てくれる人たちというのは、どういう存在ですか?

井口 誰が観てくれてもいいし、どんな意見があってもいいし、好きに観てくれればいいんですけど、なんというのか、ほんとにいろんな意見が返ってくるんですが、映画で私たちは、たしかに何かを一本つないだはずなんですけど、それ以外のとこを観てる人がいっぱいいて、たとえば「『犬猫』を観て、泣いた」っていう女の子がけっこういるんですけど、泣くとは思ってなかったんですよ、さすがに。「泣かせる映画」じゃないと思ってたんで。やっぱり、そういう、思いもよらない反応があるのが、面白いですね。

坂本 うん、うん。それから、『犬猫』の中で、土手(のシーン)でグイーッと(キャメラが)上がりますよね。あそこで「おっ、動いた!」って、僕なんかは観てて思うんですけど、井口さんにとって「最も映画的な瞬間」というか、あるいは「映画的な事柄」、物語でも、キャメラがとらえるショットでもいいんですけど、そういったことというのは、なにかありますか?

井口 すっごい難しいですねえ(笑)。「映画的な瞬間」・・・。「映画的な瞬間」しか狙ってないんですけどね、全篇。いつもそういうふうに。「だらだらしてる」と言われるんですけど、無駄なショットは撮ってないと思ってて。あと、たとえば、悲しみを表現するときに、なにか「悲しいエピソード」を積み重ねなきゃ私は厭で、ただ「まったり悲しんでる」みたいな思わせぶりなカットは厭なんですよ。「そういうものは入れない」というのもまた、私にとっての「映画的」ですね。

坂本 井口さんが映画を撮るうえで、"これだけは"と、いちばん大事にしていることって、なんですか?

井口 「写ってる人が魅力的であること」を阻害しないこと、ストップをかけないこと、それだけですね。「この役者でいきたい」ってときには、その人が何をしても素晴らしいだろうと思って選んでるんで、なんていうのかな、その「良さ」みたいな、「勢い」みたいな──

坂本 そこに自分が、あまりいろいろ手を加えたくない、という──

井口 そうですね。"人間がよけりゃ、いいだろ"みたいな(笑)。

坂本 う~ん、なるほど。

佐藤 最後に、監督協会新人賞受賞をどう受け止められたかということと、次回作のことだけお話しいただいて──

井口 どう受け止めたか・・・。驚きました。いつも「最後の一本」に残らない感じなんで、『犬猫』っ て。「いいよねえ」って誰か一人が すごい好きで、あとはみんな、わかんない人もいっぱいいるって感じの映画なんで、最後の何本かには残るかもしれないけど、選ばれるとは思ってなかったので。選評を読ませていただいて、すごい真剣に選んでらっしゃったことに感動しました。



04sin32.jpg佐藤 なるほど。次回作は?

井口 準備中で。冬に撮れるといいなあ、と。

 (つねづね「次は」と抱負を述べていた)「暴力映画」ですか?(笑)

井口 えっと、「暴力映画」の前に、やんなきゃいけないのが、一本あって(笑)。

  あっ、お話(オファー)が来たんですか?

井口 そうです。

  ほう。それは楽しみですね。

井口 ありがとうございます(笑)。

佐藤 楽しみにしてます。

坂本 どうも、ありがとうございました。



04sin33.jpg取材を終えて

監督というものは皆すべて、そのだれもが、それぞれなりの強烈な個性を持っています。そうでなければ、監督という困難な道を選ぶ意味もなく、また、それが務まるはずもありえません。映画に対する考えかたや、映画のつくりかた、監督としての「ありよう」が、それぞれ違っているのは、それゆえ、あたりまえのことです。そうであるからこそ、そんな、日々、創作において個々に苦闘している監督たちが、さまざまな「考えかた」の違いを乗り越えて出会い、対話をすることは、なににも増して重要なことである、と私は考えます。

映画の世界に新しく参加された、若い、みずみずしい感覚に満ちた井口監督との出会いと対話は、私にとって、とても新鮮で、また貴重なものでもありました。当日参加された、ほかの広報委員の皆さんも同じお気持ちではないかと思います。私たちは、それぞれなりに、井口監督と自分との違い、そしてまた共通点について思いを致し、それによって自らの「監督としてのありよう」を見つめ直し、その立脚点を再確認する大切な機会を得る、そんな豊かな収穫があったことと思います。当初お願いしていた設定を変更して変則的インタビューとなったことを快く受け入れてくださり、お忙しい中、長時間の取材に応えてくださった井口監督に、心から感謝します。

(記事担当:檀 雄二 記)
現場フォロー:福岡芳穂  映像・音声記録/採録/記事構成:檀 雄二
(2005年6月8日 日本映画監督協会事務所会議室にて)