
特集『カット』 ~ カット割り座談会
2005年03月24日
「初めてのカット割り」
カットを積み重ねないと映画はできない。漫画だってカットの積み重ねだ。
漫画家のカネコアツシさんがオムニバス映画「乱歩地獄」の一編で映画監督に初挑戦した。初めて映画を監督するということ。初めてカット割りをするということ。
その作品「蟲」の山本英夫カメラマンと監督補としてサポートについたいまおかしんじ監督と、カネコアツシさんに話を聞いてみました。
【聞き手・構成/高原秀和】
【取材/檀雄二・坂本礼・福島拓哉】
1966年山形県出身。漫画家。「ロックンロール以外は全部、嘘。」(ワニブックス)でデビュー。
現在はコミックビーム誌にて「SOIL」を連載中。他にイラストなどの仕事も。
著作は、「BAMBi」「B.Q.」「R」「アトミック?」「hunky × punky」「ODD JOBBS」など。
山本英夫
1960年岐阜県出身。フリーの撮影助手として多数の映画、テレビの現場で経験を積む。主な作品に『中国の鳥人』(98/三池崇史監督/毎日映画コンクール撮影賞受賞)『HANA-BI』(98/北野武監督/日本アカデミー賞優秀撮影賞受賞、毎日映画コンクール撮影賞受賞)『ホワイトアウト』(00/若松節朗監督/日本アカデミー賞優秀撮影賞受賞)『ゲロッパ!』(03/井筒和幸監督)『着信アリ』(04/三池崇史監督)など多数。05年『パッチギ!』(井筒和幸監督)『鉄人28号』(冨樫森監督)『THE GRUDGE(THE JUON/呪怨)』(清水崇監督)『妖怪大戦争』(三池崇史監督)。
1965年、
◎主な作品 96「痴漢電車 感じるイボイボ」98「痴漢電車 弁天のお尻」99「愛欲みだれ妻」99「ぐしょ濡れ人妻教師 制服で抱いて」2000「OL性白書 くされ縁」01「高校牝教師 汚された性」01「濡れる美人妻 ハメられた女」02「したがる先生 濡れて教えて」04「たまもの」(04年度ピンク大賞第1位・監督賞/アップリンクよりDVD発売中)。
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高原 :監督する経緯についてお聞きしたいんですが。
カネコ :プロデューサーの方が僕の漫画を読んでくださってて、監督やらせたら面白いんじゃないかって事らしいんですよ。で、突然編集部の方に企画書が送られてきまして、これはどういうことなんだろうって。まあとりあえず会って話してみましょうかって事で、で、話して、監督してみませんかと、そういう経緯です。
高原 :もともと監督をしてみたいって気持ちはあったんですか?
カネコ :映画学校にも行ってたんでそういう指向はあったんですけど。漫画やってるうちに漫画がすっかり面白くなっちゃったんで。そういう願望がわりと薄れてきた頃にきた話だったんで迷いましたけどね。
いまおか:いきなり監督って話にびびらなかったですか?
カネコ :びびりましたよ。撮影中もびびってました。今でも初号試写に向けでびびってます。何度も罠にはめられてんじゃないかって思ってました。
高原 :画コンテの台本を作ったということは自分のやってきた漫画の方向にわかりやすく近づけようと思ったということなんですか?
カネコ :いや単純に現場でカットを割ったりとか多分できないだろうなって、前もってできる事はやっておこうって思って。後はシナリオを自分の中で整理していく過程の中で、実際にコマ割って画で発想していくのはいつもやっていることなんで、その段階を経ないと自分の中で固まっていかない感じがしたんですね。
高原 :山本さんはこういう漫画家の初監督っていうのは初めてなんですか?
山本 :初めてですね。まあ初監督の人っていうのは何本かあるんですけど、カネコさんの様に漫画家っていうのは初めてです。
高原 :この様に画コンテが描かれている脚本っていうのは?
山本 :あります。特に特撮が絡んだりデジタルが絡んだりするとやっぱり画コンテがないと作業が進まないので、最近は増えてきてますけど、芝居の画コンテっていうのは初めてかもしれないですね。
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高原 :全編に渡って画コンテが描かれてるじゃないですか?これ受け取った時はどう思われたんですか?
山本 :カメラマンによってサポートの仕方が違うと思うんですけど、僕の場合でいうと最初から画コンテは見ないですね。まず台本を読み込んでから自分なりの作品イメージをなんとなく固めていって、それで、金子さんの漫画を読んで、世界観というか、こういう思考の人なんだなって掴みつつ、画コンテ見ていって。一応それはあくまでで、一度会って実際現場に入ってみないとどういうスタイルでやるのかわからないじゃないですか? イメージに固執して撮る人なのか、あるいはもっと柔軟な思考を持ってて、現場で臨機応変に対応していくタイプなのか。
高原 :実際現場ではどうだったんですか?
山本 :漫画家っていう一つの大きな要素があると思うんですよね。画に対するイメージは普通の人よりもより強く持ってると思うんです。だから画コンテに描かれてる物をわりと忠実に再現していった方がいいんではないかっていう思いはありました。
高原 :現場をやられてみて、カネコさんとしてはどうでしたか?
カネコ :単純に予定していたカット割りがものすごく多くてですね。撮りきれないのに途中で気づいて。芝居は細かく切っちゃうとテンションがなくなっちゃったりするんだなぁとか、状況とかいろんなもの含めてまんまやってもしょうがないんだみたいのがわかってきて、段々その場その場に応じて変えていく様には必然的になりましたね。やっぱり漫画のカット割りと違ってアクションもしなくちゃだし、芝居もつなげなくちゃだし、役者さんの間もあるし、それをカットで緩急をつけていくのは難しいんだなってやっとわかりました。
高原 :撮影は何日間くらい?
いまおか:10日間くらい。
高原 :それがわかり始めたのはどこら辺なんですか?
カネコ :半ばくらいですかね。もうホント撮りきれないみたいな。
高原 :いまおかは監督補でついてるんだよね。
いまおか:補でついてますけどホント何もしてないです(笑)。
山本 :ホント何もしてないんだよ(笑)。
高原 :いまおかの作品って、カットというか、画の人じゃないじゃない。芝居から入る監督というか。だから、画から物語を構築しようとする人のサポートはしないんだな。
いまおか:......はあ。
(一同笑い)
いまおか:最初からカット割りがしてあって、俺はこういう風にはできないなっていうのは思ったんですけど、実際映画になったときに1カットでやった方がいいのか、割った方がいいのかっていうのはできてみないとわからないじゃないですか。まあ、実際、もう少しテストやった方がいいんじゃないかなって思いながら、でもそれは俺の場合だから、なるべく何も言わない様にはしてたんですけど(笑)。
カネコ :ラッシュ見て、ここでテストもっとやっておけばよかったなっていうのはすっごいありましたけどね(笑)。
いまおか:山本さんはいろんな監督とやられるじゃないですか?その度にやっぱりカット割りとかも違うじゃないですか?それはどうやって付き合っていくんですか?
山本 :何本かやったことある人ならお互いなんとなくわかったりするんですけど、そうでない場合は様子を見ますよね。その監督のスタイルっていうか、どういうアプローチで映画を作っていくのか、話してるだけじゃわからない。現場に入って、一日二日撮影して読み取って、そこの時点で見極めていくっていうか。僕なんかはカメラマンの立場ですから、1カット1カット撮っていく上でちょっと違うんじゃないかって思いもありますよね。でもそこは自分の中の生理とか感覚とは違うものを逆に面白がるみたいな、ちょっとこんな事でいいのかって思っていたものが一本の作品として面白い作品に化ける事も多々あるわけですよ。何がこうあるべき形というのはないんだなって思うんですね。それが成功なのか失敗なのかわからないじゃないですか、出来上がるまで。それにちょっとドキドキしながらかけてみようかなって思いをもってやってますけど。その監督がもってる人間的な性格っていうのは僕は全然気にしてないんですよ。もうどんな人であろうが関係ない。ようは面白いものを作る人なのかそうでないのかどっちかでしかない。面白いものを作る人ならめっけもんだなって思いはありますよね。
高原 :最近の若手の監督の作品を見ていると、画にだけこだわって中身がおろそかになってつまらなくなっている事が多いじゃないですか? カットを割る意味が希薄な感じがするんですよね。
山本 :僕もそう思います。まあ画から入るっていうのは別に悪いことじゃないと思うんですよね。ただ画を作る前の段階っていうのが映画にはあると思うんですよ。全体的な世界観を作り上げるっていうのは二次元のモニターの中では作れないと、生で見て、役者の息遣いであるとかそういうものを感じて、やり取りがあって初めて作れるものだと思うので、それをないがしろにしない方がいい。カネコさんの場合は職業監督ではないし、映画監督を生業とする人ではないので敢えてそういう事は言わなかったんですけど。例えば、この世界の新人の監督で一本撮るってなった時はモニターには固執しない方がいいんじゃないとは必ず言うんですよ。まずカメラの横に来て芝居を見なさいと、そこから感じるものが絶対あるはずだから、見た方がいいですよっていうのは一言いいますね。
カネコ :僕も最初現場入った時はやっぱり画が気になって、ずっとビジコンの前にいたんですけど、段々つまらなくなってきて、後半は山本さんの後ろに立ってみて、ああ、こっちの方が面白いなぁって思って、そうしたら参加してる感じもするし、何かライブ感を楽しめるなって思えてきました。
山本 :おそらくそういう見方した方がカット割りっていうものの道筋が見えてくると思うんですよね。例えば台本に書かれた一行の動作も俳優さんの動作や生理によって違うと思うんですよ。その動作の中で自分のイメージに合わなければ俳優さんと話して修正していく作業ができるわけじゃないですか。結局モニターだとその画の中でしか見えないから他のものが見えてこないと思うんですよね。生で見て初めて見えてくるカット割りっていうのはあると思うんですよ。
高原 :昔はビジコンもモニターもなかったから、初めて監督してラッシュを見た時に、全然イメージと違うんですよ。デビュー作なんか特に自分の思い込みでこういう画になってるだろうなあっていうのがあって、全然違っていたり、これもありだなと思ったり、ラッシュでの発見が沢山ありましたね。これは俺の映画じゃないと思ったりもしましたけど(笑)。不安だから画を確認してしまうというのもわかるんですが、でもそれ以上はみ出さないんですよね。はみ出した部分の何を捕らえるかっていうのが面白いのかなっていう気がしますよね。監督をやったことで漫画にフィードバックするところはありましたか?
カネコ :今のところはわからないですけど、この先あるのかもしれないって予感はありますけどね。
いまおか:編集でもだいぶ変えていってたじゃないですか? 現場でやった事をできるだけ忠実にって、僕は多分元に戻そうとすると思うんですよ。カネコさんは結構インサート入れてみたりとか、その辺は勉強になりました。僕は編集は大嫌いなので、すごい考えてるなって(笑)。
高原 :新人とかって編集でも、凝り固まっちゃって直せない事もあるじゃないですか?
山本 :今回の作品がそういう事ができる題材ではあったとは思うんですね。時間軸とかそういうわりと遊べるものがあったから。だから最初入る前に監督に言った事なんですけど、編集結構面白いよって。台本にそっていても、違う世界を作る要素があるよって。
カネコ :漫画だとページ数の制限があったりとかしてその中で色々いじくりまわしたりするので、普段やってる作業と編集はあんま変わらない気もしましたね。撮影の時間が押しちゃったりして、やむを得ず残りの芝居を山本さんが手持ちで1カットで撮ったシーンがあって、後で編集でどうにかしましょうって、そこで空気感がバッって変わるのが何とも気持ちよかったんですよ。カットを丁寧に割っては生まれない緊張感があって、これが映画的なのかなとか思ったりしましたね。
いまおか:スタジオの親父が出てけー!って怒鳴ってからキュッて現場が緊張感に包まれて、これだよやっぱり、こういう不測の事態が現場にはないと駄目なんだよ(笑)。
高原 :映画ってその付加価値がすごい生きるときと、まあ失敗する時もあるけど、そこが面白いんだなって。多分いまおかなんかそういう所ばっか見ている気もするしね、付加価値ばっかり求めてるんじゃないかって(笑)。
山本 :監督がいてカメラマンがいるって事は価値観も持ってるイメージも違うし、一つの物事を見ても確実に感じ方が違うと思うんですよね。その中で二つの主観的なものが合わさる瞬間があると思うんです。それを受け取れるのか、受け入れられないのか、おもしろがられるのかっていう事だと思うんですよね。僕がよくやる監督で、自分が望むものと全く違うものをこのカメラマンは撮るんだって言う監督がいるんですけど、その人はその人である意味それを楽しんでいて、自分には無いものをうまく自分の中に取り込んで生かしてるって事だと思うんですよね。
高原 :単純な足し算にならない方が面白いですよね。マイナスになったりしてもそれもありだし。
カネコ :まあ結果的に、実際想定していたカットを全部撮って全てを繋げていたら、単純に尺(時間)がオーバーして収まんなかった。結果オーライかなって思ったりもしますけど。
高原 :尺が関係ないとして、思った通りにカットが撮れていたとしたらどうなんですかね?
カネコ :結局切るんじゃないですかね。やっぱり全体のリズムだったり、バランスだったりは編集で繋いでみないとわからないんだなっていうのがありますね。映画のカット割りと漫画のコマ割りでは決定的に違うものがありますよね。同じだなって所もあったし、まあ、いろいろでしたね。一言では言えないですけど。
いまおか:どこら辺が一番違いでした?
カネコ :空気感とか芝居の間とか、自分以外の生理とかが入ってくるので、そこをどう自分の思う様に切りとるのかというのが重要ですよね。自分のリズムだけにしていくと違うものになっちゃうから。その場を重視した上で、いろんな要素を試みつつみたいな感じが違いですかね。
福島拓哉:(「蟲」のメイキングを監督)最初は画コンテを作って漫画のリズムで考えていて、現場の途中に編集でリズムが作れることが想定でき始めた瞬間があると思うんですけど。
カネコ :やっぱり現場の空気ですかね。ある意味開き直りに近いものがあって、予定された画コンテのまんまは不可能なんだなってわかってきて。とりあえずいい材料があれば、面白くできるんじゃないのって、それは漫画家としてやってきたからできたんだと思うんですけど。その先は漫画のコマ割りするのと同じだなと思って。
福島 :事件じゃないですけど出来事というか、覚えてるきっかけってありますか?
カネコ :最初スタジオ入って3日間ありましたよね。最後の日は24時間撮り続けるはめになって、かなりきついスケジュールで、あの辺ですかね、これは考え方を変えなければってのもあったし、その場その場で生み出されるものもあって面白かったんだけど、まあ決定的だったのはスタジオの親父が怒りだすところですね。
(一同笑い)
高原 :体が教えてくれたんですね。
カネコ :そうですね。危機感に教わったという感じです(笑)。
高原 :漫画の原作をくれって話がありますよね? 「BAMBi」が映画になるって事ですけど、漫画家として映画になる時のこだわりってありますか?
カネコ :むしろ全然違うものになって欲しいです。漫画をなぞろうとして失敗する映画っていっぱいあるじゃないですか?
高原 :いっぱいありますね。
カネコ :漫画にして6巻かかったとして、それは6巻かけて作った作品なのでそれを2時間でまとめようとする事自体無理があって、映画として面白いものであれば、全然違うものにむしろなってて欲しいですね。映画として面白い事を重視して、監督の作家性をストレートに表現してくれれば嬉しいですね。
高原 :それは元々そう思っていたんですか?
カネコ :そうですね。人の手に渡った時点で人のものっていう感じがしてるので。でも僕のなんか江戸川乱歩が見たら殴りかかってくるんじゃないですか(笑)。
【2005年3月11日 監督協会事務局にて取材】
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