第3回 『表現の自由』
黒木和雄 「生と死の映画」
映画をやることになるまでにみた唯一の記憶に残ったドキュメンタリーであった。たしかベネチアで賞をもらった。
ベネチアといえば、『座頭市』である。銀獅子賞は溝口健二以来の快挙といわれる。
さて、これはともすれば牽強付会の謗りを免れないかもしれないが、『民族の祭典』と『座頭市』に似たものを私は感じたのである。
前者は、肉体をとおした生の賛歌をうたい、後者はやはり肉体をとおした死の賛歌をうたっているというか、生と死の表裏があるけど、両者が奇妙に通底し共鳴しあっているようにみえた。それはスクリーン上に、人間の生と死を、自在にあやつり懐柔している作り手側の突出した才能を不吉なまでに感じるからであろうか。恩地日出夫監督の『蕨野行(わらびのこう)』は、死から生への賛歌である。同世代の監督の久しぶりの新作である。あきらかに『楢山節考』を連想させるが、これは棄てられた者達の未来を描いた。現地ロケの辛酸が身にしみる作品であった。いま撮っている新作にCG部分がある。気になって張藝謀(チャン・イーモウ)の『英雄』(ヒーロー)をみた。なるほど、さすがは白髪三千丈、圧巻である。ワイヤーアクションがすごい。しかしすでに『グリーン・ディスティニー』をみてしまった私達に新鮮味はうすれ、始皇帝評価に首をかしげる。むしろ黒沢さんの『七人の侍』の手づくり感が懐かしい。自戒の思いをこめてみた。このところでは、新人池谷薫監督のドキュメンタリー『延安の娘』がよかった。
中国の文革時代、革命の聖地に下放された少年たちの現在を描く。ヒロイン海霞(ハイシア)はそのとき生まれた。娘からその親達をたどり、映画はダイナミックに展開する。作り手の人間への丹念な洞察力、骨太の構成に感服した。
「表現の自由について」という課題をあたえられたが、私なりに標題について考えてみたのだが最近みた映画の感想となった。

黒木和雄(くろき かずお)
30・11・10生 宮崎県
54同志社大学を経て、岩波映画製作所に入る。62フリー。 63(記)「あるマラソンランナーの記録」(映)66「とべない沈黙」68「キューバの恋人」74「竜馬暗殺」75「祭りの準備」88「TOMORROW/明日」90「浪人街」00「スリ」02「美しい夏キリシマ」などを撮る。(賞)88キネマ旬報日本映画監督賞、88イタリアサレルノ映画祭最優秀監督賞。