第4回 『役者』
渡辺 護 「スクリーンに映るもの」
十メートル先に住んでいる人は何している人だ? 分かんない? コウサン? 教えてあげようか? ネ、ネ、カントク、コウサン?」
その娘は私にナゾナゾの答など求めていなかった。早く自分で答を言いたくて仕様がないといった感じだ。だが、それが何とも可愛いので、笑って「コウサン」と返事をすると、彼女は得意そうな顔をして言った。
「センセンチ。先生の家」
その撮影に入る前、私はあまり乗り気ではなかった。と言うのも、注文が「ストーリーはどうでもいい。とにかく主演女優に男たちが蜜を求めて群がるようなベッドシーンをふんだんに撮ってくれ」というようなバカらしいものだったからだ。しかし、主演女優の事務所で打ち合わせをしていたときだった。セーラー服を着たその娘を紹介された途端、私は、この映画、乗った!と思った。

そうして撮影の合間にナゾナゾをしながら撮ったのが『禁断性愛の詩』(75)だ。ただし、作品は注文通りとはいかなかった。内容はルルーシュの『パリのめぐり逢い』をヒントにしたセーラー服もの。谷ナオミ主演のはずが、ナゾナゾが好きな東てる美主演となっていた。しかし、映画はヒットしたのだから、誰にも文句を言われることはない――と思っていたら、東てる美のマネージャーから文句を言われた。「ナベさんには、ビシビシやって仕込んでくれってお願いしたのに、こう甘やかされたんじゃ、何にもなんねえや」
だが、私は役者についてはこう考えている。スクリーンに演技力など映らない。スクリーンに映るものは役者の人柄であり、存在感だ。だから、新人を起用するとき、私はその娘が持っている魅力を引き出すことを第一に心がける。それは東てる美に限ったことではない。『制服処女の痛み』(81)の美保純のときも、『セーラー服色情飼育』(82)の可愛かずみのときも、そうだったのだ。
ところで、ついこの間、私は『片目だけの恋』という新作を撮った。主演は新人の小田切理紗。彼女を見た瞬間、私は『禁断性愛の詩』のときのように、この娘だ!と直感的に思った。私の好きな可愛いすばらしい女優だ。五月にユーロスペースで公開されるのでぜひ見てもらいたい。それにしても、七〇才を過ぎても、まだ懲りずにセーラー服ものを撮るとは! まったく成長や成熟とは無縁の人生だな、と我ながら呆れてしまう。

渡辺 護(わたなべ まもる)
31・3・19 生 東京都
54早稲田大学卒。58八田元夫演出研究所退団。60学研で教育(映)(T)を池田浩郎、西條文喜、小林桂三郎に師事。65(映)「あばずれ」で監督。81藤本義一作「好色花でんしゃ」は(賞)大阪映画祭。(映)70「夜のひとで」「大久保清・セックス縦断」「女地獄唄、尺八弁天」83「セーラー服色情飼育」84「冷血」92「紅蓮華」。作品数210本他。