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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第4回 『役者』

高山由紀子 「中村福助さん」

高山由紀子.jpg 「もう一度踊らせて、鈴を落としたの」

 京都南座を借り切っての四日間の撮影。その最終日、舞踊「京鹿子娘道成寺」の山尽しから鈴太鼓、鐘入りへと至るクライマックスを福助さんは完璧に踊った。否、はるかに完璧を通り越し、鬼気せまる舞台を見せてくれたのだ。だが最後の一瞬、手にした鈴が後見の手に渡った瞬間、するりとすべって床に落ちた。それはほんの一瞬、舞台の観客だったらまず気づかないだろう。しかしカメラは全てを残酷にとらえてしまう。福助さんはそれを思い「もう一度踊る」と云ったのだ。踊りも凄かったが、その言葉も強かった。私は頭の中が真っ白になり、モニターの並ぶ後部座席へ花道を走った。

 踊りのシーンは三日間、いくつかのシークエンスに分けてさまざまに撮ってきた。そして最後の山場、私は何十年も歌舞伎を観、「道成寺」も何回となく観ている。しかしこの時福助さんの踊った「道成寺」はかつて一度も観たことのないものだった。

 そのエネルギー、その気迫。

 カメラは三台、同じシークエンスは他に手持ちでも撮っている。編集すれば一瞬の出来事など問題ないはず。しかし彼のエネルギーに押され、そしてそれをもう一度踊ってみせるという迫力に私は圧倒されてしまったのだ。結局私は少々冷静に戻ることができ、OKとなったが。

 歌舞伎舞踊を日本の伝統美ととらえることもできるだろう。けれど私はその華やかさにすごいパワーを感じる。格闘技のように撮ってみたい、それが私の、この作品を企画した時からの思いだった。 カメラマンの加藤雄大さんもこの思いに非常に賛同してくれて、私たちは何度も打ち合せを重ねた。彼自身「道成寺」を踊れるほどにテープを見て研究した。

 福助さんの舞台を観る時、美しい女を演じれば演じるほど、何故か私は彼の男らしさを感じていた。

 美しく、可憐で、婀娜っぽい、けれど私はその裏に流れる男らしさに感動するのだ。そしてこの思いが「娘道成寺、蛇炎の恋」の主人公、富太郎を創造させた。 美しい女形の役者さんに男らしいという言葉は失礼なのかもしれない。けれど富太郎の男らしさを福助さんは見事に演じてくれたと思う。私の中で富太郎は福助さんに重なり、福助さんは富太郎となる。それほどに福助さんは演じてくれたのだと思う。



高山由紀子(たかやま ゆきこ)


45・4・4生 東京都

慶応義塾大学文学部卒。シナリオライターとして作品多数。96「風のかたみ」で監督。 99(T・ド)人間劇場「凛として高野山に生きる」 03「娘道成寺~蛇炎の恋」 (賞)ポルトガル・フォズ国際映画祭批評家大賞受賞。 「娘道成寺~蛇炎の恋」