第4回 『役者』
すずき じゅんいち 「役者」
昔、助監督で山口百恵さんの映画に何本かついたことがあったが、制作のホリプロの人たちが俳優さんたちのことを「タレント」と言っているのが僕には違和感があった。撮影所の人たちで俳優をタレントと言う人はいなかったから、テレビ中心の世界の人たちとの違和感をカルチュラルショックとして感じた。
「では『役者』とは一体なんだろう」、という疑問がその頃からずっとあった。
それが氷解したのが、6、7年前招待されて参加した中国のアカデミー賞に当たる金鶏百花映画祭だった。そこに参加している女優さんたちが集まるパーティで、一角にたむろしている彼女らを見たとき、彼女らが街角で客を引くため、たむろしている娼婦に見えたのだ。「そうか、役者というのは娼婦なんだ」僕はそんなことをパーティで老酒かなにかを飲みながら考えていた。確かに役者のはしり、出雲の阿国にしてもそんな娼婦的性格もあったではないか。
確かに考えてみると、どんな清純派の女優さんでも、その本質はやはり異性の心をくすぐり、寝てみたい、と思わせる何かをもっているような気がする。それが清純派だけにストレートに色気で迫っているのではなく、変化球で男の心を捕らえるのだ。勿論男優でも同じことだと思う。
あの頃の山口百恵さんも、妙な色気を発散していた。その時、監督をしていた西河克己御大に「色気とはなんですか?」と聞いたところ、「色気は媚です」と言われたのを記憶している。でも色気が媚だというのは半分わかった気もするが、いまだすべては納得出来ていない。
我が妻の榊原るみさんは、どちらかと言うと、タレントと言われてきた方が多かったかもしれないが、僕は彼女に役者の要素はあると確信している。・・・でもこれって、ほめているのでしょうかね?
すずき じゅんいち
1975年東大卒。日活の助監督に。1981年「婦人科病棟」(おおさか映画祭新人監督賞)で監督昇進。以後現在までに20本の映画を監督。 主な作品に「マリリンに逢いたい」「砂の上のロビンソン」「秋桜」など。プロデュース作品に米映画「インザスープ」(サンダンス映画祭グランプリ)など。2001年より米国在住。