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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第6回 『時効成立』

渡辺謙作 「YのQ」    

渡辺謙作a.jpg私は先日、一軒の牛丼屋に入った。仮りにその店の呼称をYとしておこう。
(ちなみにその頃、Yではさる事情により牛丼を販売していなかった)時は既に午前に入っており、Yの周辺に人影は無かった。私はさる事情により鯨飲直後でたいして空腹でもなかったが、酔いも手伝ってかためらいもなくYに入店した。店内にも客の姿は無く、また店員の姿も無かったが、私が腰掛けると、奥から一人の店員があらわれた。仮りにこの店員の呼称をQとしておこう。私は品書きを眺め、さる事情により未だ食したことのない豚丼並なるものを所望してみた。

 飯をよそう間も無く豚丼並がQの手によって私の前に置かれた。(ちなみに豚丼並はさる事情によりYで最も安い丼物だった)豚丼並には、牛丼並には混入されていないささがけ状態の牛蒡が入っており、それが私にとって新鮮な驚きであり、食感だった。私は飯を口に運ぶ間も無く豚丼並を完食し、立ち上がった。「ごちそうさん」私はQに美味だった由を表情と口調も合わせて伝えることに成功した。なぜならQが、ありがとうございました、と応えてくれたからだ。私は椅子から身を滑らせると表へ出、数間歩いた。(ちなみに私はその晩、さる事情により近くのホテルに泊まっていた)私はふと足を止め、振り返った。怖いくらいにその広い通りには誰もいなかった。「......」私は再び歩き出し、ホテルに戻った。

 サル事情により窮屈な衣服を脱いだ私は、ベッドに寝転がり、思い出した。六年ぶりのKい逃げであることを。同業のMが食券制なのに対し、Yでは食後会計制である。私はサル事情によりMの感覚でYを出てしまったのだ。狂G病、鳥Iフルエンザと苦境に立たされているYには申し訳ないと思う。が、それより私は猿事情によりQを気遣う。不慣れな土地で、夜中、酔漢を相手に豚丼並を売る。大変だと思う。思うがしかし私は心を鬼にする。Qが「○○円です」とさえ言えば、私もKい逃げなどしなかったのに。おまえは馬鹿だ、Q!

 Kい逃げの時効が何年なのかはわからないが、ただ私は逃げまわるだけである。猿 に2より私は逃げまわることに慣れている。それが幸いだ。


渡辺謙作(わたなべ けんさく)

71・1・26生 福島県出身

90製作会社・荒戸源次郎事務所に入社。同年『夢二』に助監督として参加。以後、鈴木清順監督に師事。98監督デビューを果たす。

(T)03『女と男と物語』(朝日放送)

(映)98『プープーの物語』(脚本 渡辺謙作 製作 リトルモア)00『ちんちろまい』(共同監督 大森一樹/祭主恭嗣/中嶋竹彦 製作MAF)03『ラブドガン』(脚本 渡辺謙作 製作 リトルモア/衛星劇場/ポニーキャニオン/フィルムメイカーズ)04/6/19テアトル新宿、7/3テアトル梅田にて公開。

http://www.lovedgun.com/