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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第6回 『時効成立』

橋本以蔵 「未必の殺意はあったけど...」    

橋本以蔵.jpg法律に引っかかるような悪いことは結果的に何もしていないんですが、一歩間違えれば時効を気にかけて怯えて暮らさなきゃならなかったかな、というようなことは幾つかあります。

若い頃の冒険は誰でもあることなので、取り立ててとやかく言うほどのことはないのですが、僕の場合、家庭を持ってからも結構色々ありました。 みんなはどうなんですかね?
たとえば京都で映画を撮っていたら、その留守宅に正体不明の相手から脅迫電話が入るようになって家族が怯えきり、警察沙汰になった時です。 僕のある弱みを掴んだ奴が金にしようとしたり、殺ってやると脅してみたり。
撮影が終わって僕が家に帰ってからは、僕が電話に出るようにしたんですが、相手は僕には一言も喋らない。警察は犯人は僕の知り合いに違いないと言うし、誰彼なしに疑っては神経をとがらせる毎日を送りました。でも、相手が楽しんでいると分かってから反撃に出ました。 脅迫の事実は警察も知っているし、僕が家族の安全を気にかけているのは担当の刑事も証人なので、誘い出して決着をつけようと考えたのです。 万一こっちが刺し殺しても、前科はないし、過剰防衛とみなされ、少なくとも実刑は喰らわないはず、と思い定め、電話で相手を挑発しまくったのです。やるべきことをやる気にさせてやろうと。一方で、事件の後は実際に殺人を犯した作家としての生き方をどうしようか、などとずいぶん思いを巡らせたものでした。でも、こっちの気迫が伝わったのか、僕が相手を下種の蛆虫の、人生の負け犬のと罵り続けていたら、だんだん電話の回数や時間が減って、とうとうかけてこなくなってしまいました。罵られて苦痛だったんでしょうが、腹の座った相手ではなかったみたいですね。それで用意しておいた包丁や何やかやを使う機会はなかったのですが、僕にははっきり未必の殺意はありました。十年前のことなので、これ、時効ですよね?ともかく、平和な状態を当たり前だと決めてしまうと物事には対処できません。ノイローゼになって相手を図に乗らせてしまうのが落ちです。 日常の向こう側に飛び込んで、そういう人生に陥ってしまうことを覚悟してしまえば、案外恐怖感には耐えられます。まあ、こんな流儀なので、子育てに関しても時効が成立するのかしないのか、ぎりぎりのやり方であれこれ対処してきたものです。そっちは気持ち的にちょっとまだ書けないから、つまり時効は成立していないと見るべきかもしれませんね。


橋本以蔵(はしもと いぞう)


54・2・21生  島根県

71島根県立津和野高等学校卒。独学の後制作集団サルボウカンパニー結成、自主映画「イサミ」で監督。「名門!多古西応援団」でメジャー デビュー。

(映)「CFガール」「死霊の罠2ヒデキ」「ドライビング・ハイ」「帝都 物語外伝」「陽炎2」(V)「ラッキースカイダイアモンド」。 現在、漫画「軍鶏」連載中。