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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第6回 『時効成立』

野上正義 「時効成立?」    

野上正義.jpg 先日、何年かぶりにT監督から役者の仕事の出演依頼があり、4日間という短い撮影であったが、楽しく過ごさせてもらった。


 久しぶりと言うこともあって、お昼時などはどちらからともなく近くに陣取り、昔話や 何人かの監督さんや、役者さん等の消息を尋ねあったり、まあ言って見れば他愛のない世間話が話題の中心だったのだが、若い監督のKくんの事に話が及んで私はギクリとした。

 Kくんは、昔私の監督した映画の現場の手伝いに来てくれたり、ご自分の撮る映画に呼んでくれたり、映画好きの好青年で私の好きな若手監督の一人でもあった。

 何年か前に結婚をして、子供が一人産まれたのですが、その子が学校へ上がる頃何かの原因で離婚をし、奥さんが子供を引き取り、養育費として幾ばくかのお金を届けていたらしいのです。(あんたは偉い)お金を送らずに直に届けていたのは、「可愛い子供に逢いたい」というせめてもの親心であったことは容易に想像できるのですが、何回目か何十回目か判りませんが、別れた女房にお金を届けに行った時玄関先に出てきたのは知らない男だった。女の家に男が居たって離婚しているのだから、当然と言ってしまえばそれまでだが、Kくんは相当なショックを受けたようだった。「あの男をパパと呼ばせているのか?」

 以来映像関係の仕事からスッパリと足を洗ってしまった。子供に逢いたいというよりも、もしかしたら別れた奥さんに未練があったのか・・・?

 そんな話を語ってくれたT監督も実は離婚をしており一人息子を引き取って男手一つで子育てをしている真っ最中だという。

 かくいう私も、離婚経験者であり彼らの大先輩。

 幼子二人を連れて家を出たものの、掃除洗濯朝晩の食事、幼稚園に通う下の子の弁当作り送迎の後の食器洗い等々それこそ目の回るような忙しさで、仕事量も当然制約される。あげくには「クレイマー・クレイマー」などと囃したてられ、日に日に悪さを覚えていく子供達を叱りながら、それこそ蟻地獄のような生活に落ち込んでいく。

 T監督は今、付き合っている彼女が居るらしいが「息子との仲が極めて悪い」と聞いた。

  「息子のことで」二人はしばしば喧嘩になると言う・・・。やがて、息子の自我が目覚めて来たときのことを想像すると、老婆心ながら背筋の凍り付く思いがする。

 離婚ばやりの昨今だが、我々の仲間の離婚率は遥かに高いように思える・・・だから、この世界で、ずっと添い遂げるご夫婦を見ていると、なにか特別な秘法があるのかなあと思ったりもしてみる。まあ、我々の仲間の離婚は主に経済的な理由によるところが多いと

  (いや、異性関係なども)思うが、何とかならないものか?


 いま、日本にもやっと「文化芸術振興基本法」なる法律が出来て、各種助成も多少増えたようだが、欧米各国に比較すると例えばフランスの文化芸術予算は、国家予算の一割を占めて居ると言うし、韓国でも0.6%を占めている。

 日本の場合はやっと0.1%・・・、とてもお話にならない。寄付制度の進むアメリカでは、芸術家の住む公団住宅のような施設があり、住人は全て芸術家でしめられている住宅があると言う。

 3年前、私もこの法律を立ち上げると言うことで12万人以上の署名を集める運動に参加したが、これから先何としても、芸術家の社会的地位の確立が、欧米に少しでも追いつき追い越せるような態勢に持っていきたいものである。



 「鉄道員(ぽっぽや)」の原作者である作家の浅田次郎さんの話、・・・外国の(フランス)ホテルで『作家』と記帳すると支配人が出てきて、最高の歓待をしてくれたという。日本の場合はどうだろう、有名人はいざ知らず我々がホテルに行って、長期滞在など申し込みをした場合は、うさんくさく思われるのが関の山、文化芸術に対するスタンスの違いは、遺憾ともしがたい。

 私自身、45年以上この世界で生きてきて、いまなおこのていたらく。 でも、近い将来せめて韓国の0.6%まで行くと、6千億円となり、離婚も又悲しからずや・・・。「クレイマー・クレイマー」もまた・・・。

 芸術家志望の青年達が、希望の持てる社会に少しでも早く近づきたいものである。



野上正義(のがみ まさよし)


40・3・2生 北海道白糠町

58?現在まで役者で活躍中。71(映)「性宴風俗史」で監督。 (映)82「修羅の門」83?「愛の処刑」「褐色の標的」「虚飾の海」他。
(VP)93「東京ビジュアルアーツ」「専門学校」他。(V)99「新・痴漢白書3」