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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第9回 『カット』

望月六郎 「カットについて」

望月六郎.jpg  監督が「ヨーイ、スタート!」と声を掛けるとカメラが回り「カット!」でカメラが止まる。僕の初めての現場体験は、やはり思った通りに事が進んだ。
 で、その数年後、初めて監督をやる時、なぜだか僕は「ヨーイ、ハイッ」「ハイッ、カット」と言う掛け声になっていた。この「ヨーイ、ハイッ」は、「スタート!」と双璧をなす掛け声で、日本の監督はほとんどどっちかに属するのだと思うけど、僕の師匠や先輩に、この「ハイッ」タイプはいなくて、どうして自分が「ハイッ」を選んだのか、今となっては謎なのだが、思い出してみると僕は「スタア―ト」と英語風にRを舌を巻いて発音したらいいものか、それとも堂々と日本風に「すたーと」と言っていいものかを悩み、きっと、それだったら日本語の「ヨーイ、ハイッ」の方がいさぎいいと自分の進む道を決めたんだと思う。それにしても「ヨーイ」ってのはどこから来た言葉なんだろう。あっ、用意か・・・

  緊張した「ヨーイ、ハイッ」だったが、言ってみると実は「カット」の方がはるかにドキドキする言葉だった。自分が「カット」を掛けないと時が止まらないのだ。「スタート」で時が始まるのか?と聞かれれば、まぁその通りなのだが「カット」とは単に終わりを意味する以上の価値がある言葉なのである。「その時間を受け止める」「その時間に起きた事を見届ける」その結果に「オッケー」やら「もう一回」が待っているのだ。 
誰に言われた訳じゃないけど「カット」と発声する迄は余程長いショットの時は別として、まず息は止めている。単に止めているばかりじゃなくて、腹筋のうんと下の奥の方をしぼっている感じ、つまり<たんでん>に力をこめているのだが、これは多分監督を業とする者誰もが、自然に行っている事だと思う。そうやって考えると、動かない割に腹が減るのも良く解るというものだ。

  数年前、奥田瑛二氏がパリ映画祭グランプリ作品「少女」撮影の直前、知り合いの監督に初監督する際の注意点を一つづつ聞いてるんだけど、と連絡があり酒を御一緒した。「例えば?」と聞くと「例えば、根岸(吉太郎)さんは、カットは随分ゆっくり掛けろとかさ」とまことに的確なアドバイスだと思った。

 僕は何を言っていいのか困っていたのだが、話を聞き進むに従ってどうやら奥田さんは「少女」に全てを掛けて禁酒する事にしていると解り、僕は「これだ!」と思った。「お酒は飲んだ方がいいですよ。へたに飲まないとベッドの中で反省やら構想やらにやられて眠れなくなりますから。どうせ、疲れて飲んだら即眠くなりますから深酒の心配はありません。早く起きた方がいいスよ」と、なにやら生活の知恵みたいなアドバイスになっちゃったのだが、一度現場に遊びに行くと、奥田さんはすっかりペースを掴んでいて、後で「毎日飲んでる」と笑ってくれた。

 これなんかも大きい意味では「カット」の話だと思います。



望月 六郎(もちづき ろくろう)


57.9.5生
慶応義塾大学文学部中退後、イメージフォーラム付属研究所に通う。金井勝に師事し脚本の指導を受ける。85『本番ビデオ・剥ぐ』で監督。90『スキンレスナイト』自主製作で、ベルリンほか10数カ所の映画祭に招待される。(映)93『極道記者』95『新・悲しきヒットマン』『でべそ』96『新・極道記者』97『鬼火』00『皆月』02『かまち』