第9回 『カット』
松江哲明 「僕が「カット」と言わない理由」
それは「目の前の被写体に 撮影という意識を持たせたくない」という理由からで、しかも僕は自分でカメラを回す時、相手にも告げず勝手に撮影を始めている。で、案の上「アレ、撮ってたの?」なんて言われる始末。逆にカメラを意識させたショットが欲しい時は「はい、こっち見ながらね」と言いながら撮る。この時も「スタート」「カット」とは言わない。結局の所、こういう合図は、スタッフのいる現場でしか必要ないのだろうと思う。
僕は撮影中ずーっとカメラを回している。完成尺が20分の物でも最低でも4、5時間分の素材は集める。だから僕は現場であまりOK、NGの判断はしないし、当てにならないと思っている。現場で「いいインタビューが撮れた」と思うこともあるが、後で素材を見直すと、単に言葉だけの印象でしかないことが多かったりするからだ。逆に何気ない仕草だったりとか、ふとした一言にその人らしさが出ている場合が多い。
やはりOK、NGの判断をするのは編集の時だ。多分、こういう作り方はビデオでしか通用しないと思うが、今はこの方法論突き詰めたい。
以上、僕が「カット」と言わない理由を書いてきたが、この原稿を僕と同じ手法でドキュメンタリーを撮る友人に読んでもらった所、「オレはスタートもカットも言うよ」と指摘された。例えば被写体のいない風景を撮る場合でも、声に出すようだ。理由は「気合が入るから」だそうだ。
なるほど。今度、彼の現場を見せてもらおうと思う。

松江 哲明(まつえ てつあき)
77年、東京に生まれる。
99年、日本映画学校卒業制作作品として『あんにょんキムチ』を監督。韓日青少年映画祭監督賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別賞などを受賞。国内外の映画祭に参加。
以後の監督作に「ほんとにあった! 呪いのビデオ」シリーズ、「カレーライスの女たち(ハンブルグ日本映画祭2004、ハワイ国際映画祭2004他にて上映)」『2002年の夏休み ドキュメント沙羅双樹』。舞台脚本作に「ハルモニの夢」。また役者としての出演作に『ばかのハコ船』(山下敦弘監督)、『手錠』(サトウトシキ監督)、『花井さちこの華麗な生涯』(女池充監督)がある。最新作はAVとして撮られた「アイデンティティ」(ドイツ、シネアジア映画祭2004にて上映)。