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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第9回 『カット』

片岡修二 【カットの記憶】

片岡修二.jpg 『長い船団』をDVDで見た。1963年製作というから、私が中学生時代に見た映画だ。当時、流行していたスペクタクル史劇だ。たった一度しか観ていない映画だったが忘れられないカットがあった。


 バイキングが敵に捕らわれ、奴隷として売られる。その中に美しい女バイキングが居て、奴隷市場で裸にされるという刺激的なカットだ。ストーリーは良く覚えていなかったが、そのカットだけは鮮明に記憶に残っていた。


 しかし、40年ぶりにDVDで見るとそんなカットはなかった。似たようなシチュエーションはあったが、奴隷市場のシーンもない。どうやら映画を観た後、妄想で勝手に作り上げたシーンだったらしい。良く考えてみると、その妄想のカットには、当時観た『スパルタカス』や『シエラザード』等も混っているような気がする。なんとも卑小な妄想だが、DVDを観て、それが妄想だったと分かり少し残念にも思う。見直した『長い船団』は記憶の中の『長い船団』に勝てなかったからだ。


 何度も見直した映画は別として、一回しか観ていない映画は、そのストーリーよりも、象徴的なワンシーン、ワンカットが記憶に残ってる場合が多い。

 初めて観た映画は(それが生まれて初めて観た映画と言うことも定かではないが)題名もストーリーも覚えてないが、洞窟の中で巨人が葡萄を踏みつけているカットだけは記憶に残っている。


  映画の最小単位は一コマだろうが、映画の記憶にはストップモーションはない。数百コマからなるワンカットが、記憶の最小単位だろう。
実際にワンカットを撮る際、そこまでの思い入れはないが、数多くの傑作群のカットの記憶に支えられて、撮っていることは事実だ。


 二月に、松方弘樹さん主演で、東映ビデオのVシネマを撮った。70年代の東映やくざ映画の記憶が蘇る。過去の傑作を持ち出し、ああ言う映画を撮りたいんだ、とスタッフや俳優に言うことがある。俺も好きなんだ、と乗ってくる時もあるが、記憶のワンカットが食い違う時が多い。打ち合わせそっちのけで、その映画について、あれこれ話し出す。そこで、過去の傑作の再認識することもある。



片岡 修二(かたおか しゅうじ)


50・11・23生。北海道出身。
関東学院大学経済学部中退。向井寛、滝田洋二郎らの助監督を経て、83「予告暴行/犯る!刺す!」で監督デビュー。(映)85~88「地下鉄連続レイプ」シリーズ。(T)91「飛ぶ男、墜ちる女」95「隠し続けた女」。(映)95「女囚処刑マリア」98「酔夢夜景」。(V)99~03「真・雀鬼」シリーズ等。最新作は『桜の代紋・血の報酬』(東映ビデオ)。