第12回 『映画監督って何だ!』に巻き込まれた人々
ガイラ=小水一男(文化庁次長 安達健二役) 「消せない記憶回路」
帰り際にそそくさと「ガイラちゃん、これ読んどいて」と、協会の大封筒を置いていった。
開封すると『開封後の返却はお断りさーっ!』と、雄之助とフクちゃんの声が嬉しそうにハモりながら逃げ出ていった。
入っていたのは、例のこれのあのそれの台本と配役。
まあ、強いて断る理由もないし、蚤の心臓の割には『臆した』とか『逃げた』とか言われるのが人一倍いやな性格だし、安達健二さんと亡父が同じ大正七年生まれというのもあって、台詞を精読もせんと・・・さあ大変!今までに一度も使ったことのない官僚お言葉の台詞回しと量の多さに唖然愕然茫然自失。タンカーを座礁させた船長の心境:後悔してます。
これイジメに違いない!謀ったな雄之助ーっ!
初めての読み合わせのとき、協会のエレベーターで乗り合わせた南場さんに「出演経験の多さや、カメラ馴れした印象が人選の決め手でしたよ」と聞かされた・・・?ウーン確かに若松プロ時代にはちょこちょことスクリーンに顔を出してはいたが、それはC・P(コスト・パフォーマンス)を誇る若松監督の、出来るだけ役者代を倹約するという姿勢の表れに他ならなく、出演といっても、演じた役は脱獄囚、チンピラ、白痴と言ったようなものばかり、まれに台詞のある役をやると『ガイラは訛ってるからアテレコだ』と、自分の台詞に磨(赤児)さんを呼んだ。これってドーヨ!?
さあ、来る日も繰る日も一語一行づつの音読、音読。「映画の著作物の著作権の・・・」店の常連たちの台詞覚えの早いこと!
音読に関しても、ただ座っての状態よりもうろうろと歩いたり、注文された料理を作るような、立ち仕事をしながら所謂身体を動かしての音読が効果的でした。撮影が終わり肩の荷が下りたと思いきや、今度は台詞が抜けない、消えてくれないんです記憶が・・・。あのような演技でよかったのだろうか、監督は納得して OKを出しているのだろうか?「もう終わったんだけどな・・・」と呟きながら今でも時々夢の中で、あの長台詞に冷や汗をかかされています。
天本さん亡き今、死神博士の役、こないかな・・・
(※編集部註 文中「成田雄之助」は成田裕介氏、「フクちゃん」は福岡芳穂氏、ともに創立70周年記念事業実行委員であり、若松プロにおけるガイラさんの後輩にあたる)

小水 一男(こみず かずお)
宮城県生まれ。
67、若松プロダクションに参加。若松孝二、足立正生などの作品の助監督や脚本を担当、70『私を犯して』で初監督。その後、写真家・長濱治のもとで写真、CFなどをてがける。80『ラビットセックス・女子学生集団暴行事件』で映画界に復帰。90には北野武プロデュース・主演による『ほしをつぐもの』を監督。成人映画監督作品16本。脚本は70本以上。他の主な作品に93『XX(ダブルエックス)/美しき凶器』94『極道の姐―玲子』、脚本に88『キスより簡単』97『GOING-WEST・西へ』等。最近は初台で、コズミックレストラン「ガイラ」(03-5388-8437)も経営。今回の映画では実在した人物「安達健二」役!