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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第14回 『映画を学ぶ/映画を教える』

井口奈己 「映画を学ぶ/映画を教える」

井口奈己.jpgのサムネール画像 ある日電話が鳴った。映画監督協会で広報をされている緒方明監督からで、エッセイを書きませんか?という依頼だった。はい、いいですよと返事したもののタイトルが「映画を学ぶ/映画を教える」というので困ってしまった。
映画を学ぶにはどうすればいいのか? この答えを私も知りたい。はたして映画はどのように学べばいいのだろうか?


 映画とは何か?何が映画なのか?という問いに明解に答えられる人が、現在世界中にどれくらいいるのか知らない。私は答えられないときっぱり言える。でも素晴らしい映画を観ると、これが映画だ!とワナワナと震えながら興奮して一緒に観に行った友達の膝を叩いたりしているので、なんとなくぼんやりと「この辺が映画」と思っているらしい領域があるようなのだが、だからといって、その領域に自分が映画を作っている時に容易く踏み込めるかというと、そんなことは絶対にないのだ。


 初めて映画を監督した時、映画をまったく知らないということに打ちのめされた。何が映画で、映画とは何かまったくわからないのに、映画を作らなければならない状況に毎日泣いていた。運転の仕方を知らないのに満員のバスを高速で走らせているような気分で、目の前が真っ暗という経験を人生ではじめてしました。


 そんな経験の後、映画に近づくにはどうしたらいいのかと考えた時、映画史の初めから映画を観てみればいいかもと思いついた。とりあえず、沢山観ればもっとはっきり楽しい映画、面白い映画、良い映画ってこんな感じというのがわかるかもしれないと思ったのだ。


 と、いうわけで映画を観ることにした。隙あらば映画を観る。映画に詳しい人達からこの映画いいよと情報を聞く。チラシを集めて上映情報を調べると、東京でも沢山の古い映画が上映されているのがわかった。1日2本、できれば3本観ようとすると、映画を観ているだけで人生がいっぱいいっぱいだ。なのに"名作"と言われているのにまだ観ていない映画が沢山ある。ハワード・ホークスの映画をまだ観ていなかった時に、映画好きな友達が「あなたまだまだ人生のお楽しみが残っていていいねぇ」と言った。本当にそうだと思う。最高に楽しい映画を観て、映画の秘密に近づきたい!綿々と映画の奥義を伝えていたであろう撮影所システム亡き後、映画を観る事以外に映画に近づく方法はないのではないかと思ってしまう。


 実は泣きながら作った映画が公開された後、映像系の学校から講師をしませんか?というお誘いがあったのだけど断った。映画について何も知らないと体感したあと、映画について教えるなんてそんなことできなーいと思ったのだが、お金を払って学校行くより、映画観に行った方がいいよとこっそり生徒に耳打ちしてしまいそうだったので。



井口 奈己(いぐち なみ)

1967年、東京生まれ。
『三月のライオン』(91/矢崎仁司)、『地獄の警備員』(92/黒沢清)、『裸足のピクニック』(93/矢口史靖)などの現場に録音助手として参加後、自らシナリオを書き演出した初の自主映画『犬猫』が、PFFアワード2001で企画賞を受賞。8ミリ作品としては異例のレイトショー公開で話題を呼び、日本映画プロフェッショナル大賞・新人監督賞を受賞。
そして2004年、『犬猫』のリメイクで商業映画デビュー。第22回トリノ国際映画祭で、審査員特別賞、国際批評家連盟賞、最優秀脚本特別賞を受賞。
女性初の日本映画監督協会新人賞を受賞した。

新作『人のセックスを笑うな』は2008年1月19日よりシネセゾン渋谷ほかにて全国順次ロードショー