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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第15回 『映画監督の発想についての考察』

小谷承靖  《ナルセ》式

kotani.jpgのサムネール画像雨が止まない。キャメラを覆ったビニールテントを叩く雨音が一頻り強くなってきた。『ハヤメシ! ハヤメシにします』
 助監督の声。マイクロバスの中で弁当が配られる。豚の生姜焼き、コロッケ、それに鮭。ごはんを黄色に染めて沢庵が二切れ...。成瀬さんは漬けものが嫌いだった。絶対に食べなかったし、制作部にとってそれは絶対の禁句だった。

40年以上前の砧のスタッフルーム。昼食を終えた成瀬さんは、いつものように、メインスタッフがおもしろおかしく話す、の組の噂話に、「オホホッ」と頬を膨らませて耳を傾けながら、その手は台本のページを一枚一枚、ゆっくりと捲っていた。決まって、毎日、同じようにそうして一ページ目から、撮ったシーンも、これから撮るシーンも同じペースでラストシーンまで目を通していた。鉛筆を持つ訳でもなく、唯、ひたすら黙読を繰り返すのである。今にして思えば、それは成瀬さんの映画が持つ、あの静かなリズムそのもののように-。『乱れる』『女の中にいる他人』で僕はカチンコを打っていた。
 弁当の空箱を分別ゴミのビニール袋に入れて、台本の一ページ目から捲ってみる。メークさん、衣装部さんたちが連ドラに出演しているアイドルたちの噂話。耳に心地よい...。『開始しまーす』 いきなり、マイクロバスのドアが開いて、束の間のうたた寝は終わった。ページを捲っていた僕の指はシーン5で止まったままだった。
 成瀬さんはカット割りを記録を含めてスタッフに見られるのを極端に嫌がっていた。もし、誰かが見たことが分ると全てを消しゴムで消してしまった、プッと頬を膨らませて。
 今、僕の台本のカット割りは全てのスタッフに出発前の車の中で写されてしまっている。そのカット数を知って制作部は夜食の数を計算している筈だが-。
 思い切って消しゴムを持ってみる。



小谷承靖 (こたに つぐのぶ)


35・12・21生 東京都生まれ・鳥取出身
60東京大学文学部卒。東宝入社、助監督となり、稲垣浩、成瀬巳喜男監督に師事。
70「俺の空だぜ!若大将」で監督。
(映)73「ゴキブリ刑事」75「はつ恋」79「ホワイト・ラブ」80「帰って来た若大将」
(米映画)76"LAST DINOSAUR" 78"BUSHIDO BLADE"他
(T)95~03「はみだし弁護士・巽志郎1~10」 00~「牟田刑事官29」等2時間もの多数
(ド)96「人間劇場」