このページの先頭です


特集

日本映画監督協会 会員名鑑

エッセー

第8回 『インターナショナル』

横山 誠 「ハリウッドと日本のアクション現場」  

横山誠.jpgはじめまして、僕は監督協会に入ったばかりの新参者です。映画界には日本でスタントマンとして始めて約10年、その後95年から約9年間、ハリウッドで「POWER RENGERS」と言う日本発のTV子供番組を中心に、アクション監督、時折本編監督として仕事をしてきた者です。


日本とアメリカのアクションシーンの撮影について、現場レベルでの違いは経験上、最も詳しい方だと思います。


ここでは、それらの違いを、現場レベルの視点からお伝えできればと思います。つたない文章ですが、何かの参考になれば幸いです。


 

先ず、ハリウッドはアクション撮影に慣れています。


アクション物の数は日本とは圧倒的に違うので当たり前なのですが、特にカースタントについては、その段取り準備等、とてもシステマチックに進みます。


彼等にとってカーチェイスは僕らの時代劇の殺陣シーンのようなもので、竹光や大八車が当たり前に用意できるように、パイプラム(車をジャンプ回転させる道具)、ロールバー(車が潰れない様にするパイプ)、アイモカメラ(カメラを入れてぶつかっても壊れないように保護する箱)等、すぐに手に入ります。


 

演出上では、どこかで見たSHOTになりがちですが、アイデアを出し合い、過去のマイナーチェンジを繰り返して、ゆっくり進化しているように思います。


 

また、見たことあるスタントでもその危険度には変わりは無く、失敗すれば大怪我する経験をスタッフも含め、一年に何度も経験するのですから、そのKNOW HOWは必然的に上がっていきます。


 現場での日本との大きな違いは、テストをしっかりやる事。


180度回転してカメラギリギリで停車のショットを撮る場合、まず劇用車のコンディションを確認する為にドライビング。ブレーキや空気圧を調整して現場舞台で全ての機材や人をどけてテスト。バミリをし、何が危険か把握し、責任者が全スタッフに伝える(ビックバジェットでは説明を聞いたという書類にサインをする)。でもカメラは一番迫力ある場所にかなりのプロテクトをしてリスクの高いショットを狙います。


本番は、テストどおりのドライビング(多少のやりすぎ有り)で少ないテイクでOK。


そして、どんな小さなスタントでも、スタッフ一同、拍手で称え(儀礼的な拍手もあります)、現場のテンションを維持して一見準備に時間が掛かっているようでも全体としては迫力あるショットを、確実に撮っていきます。


バイクのジャンプはその日の最後に撮る(=壊れる可能性が高いため)。そういった番定を助監督が自然に準備する。全体的にやはり慣れているといえるでしょう。

もちろん全部がこの通りではありませんでしたが、概ねこういった方向性です。

スタントマンのテクニックは日本人も決して負けているとは思いません。しかしその撮影方法と経験を積みやすい環境がジワジワと差を作っていっていると思います。


 

では役者同士のファイトシーンに関してですが、これは別でした。


95年僕が行った当初は特にハリウッドは遅れているなと感じました。


一分のファイトシーンがあれば一分間のマスターショットを複数のカメラで撮る。基本的にはこの手法のみでした。


この手法は、作品によっては有効ですが、娯楽性の高いアクションのテクニックを見せる作品においては、テクニック毎に短くアクションを撮って行くアジア流のやり方のほうが、効果的で、ヒットにつながっていると思います。


この手法は、香港スタッフの台頭も伴い、僕らパワーレンジャーチームも地味ながらハリウッドに影響を与えたのではないかと思います。


僕らと一緒に仕事をした、多くの現地スタントマンが今年の夏の映画でも沢山活躍していました。嬉しい反面、ちょっと悔しいですが・・・。


 

立ち回りアクションはある程度チームワークの演技ですが、アメリカ人は個人での練習しかしません。よって現場で初めて会ったパフォーマー同士では信頼関係に限界があり質の高いアクションにはなりえません。


結果、複数のカメラの素材をミュージックビデオ風につなぎ、テンポはあるが何をやっているかわからない画になりがちです。



僕ら、日本人スタントチームは、マスターショットを撮らず、アジア方式で撮影を続けました。その上、前述の準備をしっかりやるというアメリカ方式も加わり、きちんとサポーターを入れる時間や、地面を掘り返し柔らかくする時間等がとれ、迫力あるショットを少ないテイクで確実に撮っていくのに成功し、さらにワイヤーや火薬等仕掛けに時間が掛かるショットも効率的に準備する手段が自然に生まれていきました。


また、カメラマンをはじめアメリカ人スタッフも日本流のやり方を新鮮に感じ、明るく楽しく現場を進む事が出来ました。


ラッシュのチェックも小さなスタントでも「クール(かっこいい)」とわざとらしいほどのリアクションで自分達の仕事を解りやすく褒めていました。


日本との一番の違いは、この「明るい」と言う部分かもしれません。


 


根本的なゆとりの差もあるのですが、日本では必要以上に心配したり、時間が無いという焦燥感から、不十分な準備で本番に挑み、結果テイク数を重ねたり、OKでも質の低いショットになったりしがちです。


どこか日本の現場は「暗い」部分があるようにも思います。


一番怖いのは、現場のアイデアが出にくい環境を作っている感が日本の現場にはあるように思えます。


国民性の違いもありますが、時間が無いと言う焦燥感が蔓延しがちな日本は、良いアイデアがあっても言い出せないでいる。もしくはあきらめているように感じる現場のグチを時折耳にします。


敬語の無い英語のためか、アメリカ人たちは遠慮せずアイデアを言ってきます。

慣習の差になってしまうのかもしれませんが、ライブアクションと言う「生もの」を限られた条件の中で撮影する場合、厳しく根性論で行くよりも、各スタッフのテクニックを尊重し、明るく、楽しく進めるやり方のほうが、全体的には効率的に感じました。


 

「マトリックス」以降、役者とスタントマンが撮影前に1ヵ月以上練習を積むことが常識となり、アメリカ人にかつてなかった、チームワークも自然と生まれてきています。


また、1つのキャラクターを監督の考えの元、役者とスタントマンたちみんなで作っていく考えがハリウッドでは主流になってきていると思われます。


「日本アクション」という分野は残念ながら確立されていない現状ですが、センスやテクニックで負けていないのは確実です。


根性論だけでは無く、各スタッフのテクニックを尊重し、役者を旨く乗せて、明るく楽しく、少しづつでも全体的な経験値を上げて行ければ、娯楽性の高い日本のアクション映画は沢山作れると思います。以上、取り留めの無い文章でしたが、僕がハリウッドで感じた一部をお伝えできていれば嬉しく思います。

横山 誠(よこやま まこと)


1967.8.26生 1988年映画「未来忍者」に主演・白怒火役でスタントマン、アクションコーディネイターとしてプロデビュー。1995年「パワーレンジャーズ」出演の為アメリカに移住。以降、約8年間、約400話を手掛ける。2001年、米映画「シャドフューリー」(日本公開2002年)で監督デビュー。2002年「パワーレンジャーズ」の製作がニュージーランドに移動し2nd.unit監督として1シーズン38話制作。2003年帰国。有限会社AAC、STUNTS、代表取締役社長就任。映画、TV、ゲーム等のアクションシーンの監督を行う。現在テレビ朝日「shi15uyaシブヤフィフティーン」アクション監督。