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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

こんな映画祭に行ってきました

シッチェス・カタロニア国際映画祭レポート   光武蔵人

(この文章は、監督協会会報「映画監督」2014年11月号に掲載されたものです。)

150213mitu.jpgシッチェス・カタロニア国際映画祭オープニングパーティのレッドカーペットにて。
(左から光武監督、主演の亜沙美さん、プロデューサーの柳本千晶さん)


拙作「女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN」がスペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭で上映されることになり、出席して来ました。1980年代にビデオ小僧だった自分としては、シトヘス恐怖映画祭と訳され、ホラー雑誌に紹介されていた当時からの憧れの映画祭であります。(Sitgesをシトヘスと訳したのはスペイン語読みだからとの説を聞きました。シッチェスという発音はカタロニア語だそうです。)

シッチェスは、地中海に面した美しい避暑地です。バルセロナ国際空港から車で30分、バルセロナまで電車で40分という立地です。町の規模は小さく、数日間歩き回ってほぼ全貌が掴めたかなと思えるぐらいのサイズ。観光地としての顔と地元の人のリアルな生活圏が程よく共存している印象を受けました。ゲイ・コミュニティーが存在感を持っている町ということでも知られているそうで、もともとリベラルな場所なのでしょうか。映画祭に併せて町を挙げて「ゾンビ・ウォーク」なるイベント(老若男女がゾンビメイクをして深夜まで町を練り歩くお祭り)を開催するぐらいに自由な印象のところでありました。(自由と言えば、映画祭の拠点となるホテルのすぐ脇にヌーディスト・ビーチがあります。宿から町に出るにはこのビーチの横を通らなければならないのですが、地中海の温かい海水を全裸で楽しんでいるのは9割方、ゲイのおじいちゃんたち。開放的な土地柄に感動するものの、残念ながら目の保養にはなりませんでした。)

シッチェス・カタロニア国際映画祭は、毎年10月に開催されます。10日間の期間中に300以上の映画が上映される大規模な映画祭です。非常に親日的なプログラムのようで、毎年多くの日本映画が上映されます。今年のメイン・コンペティション部門には中島哲也監督の「渇き。」が出品され、役所広司さんが最優秀男優賞を受賞しました。大作が世界中から集まるメイン・コンペ以外に9つもの部門があり、拙作はMidnight X-tremeという過激なジャンル映画ばかりを集めたセクションで上映されました。このMidnight X-treme部門は、シッチェス名物とのことでしたが、連日深夜1時からの上映で3本立てという朝までコース。僕の「女体銃〜」は、井口昇監督の「ライヴ」と吉田浩太監督の「ちょっとかわいいアイアンメイデン」に挟まれるカタチのスケジュールでした。スペインでは、お国柄なのでしょう、電車も時刻表どおりではなく、遅れ気味で運行しています。ですから当然、映画祭の進行も慢性的に遅れています。前のプログラムが押して、結局僕らの上映が始まったのは、深夜2時近く。誰もお客さんはいないんじゃないかと思うぐらいでしたが、なんと劇場の前には長蛇の列。Midnight X-tremeの深夜上映はシッチェス名物、という前評判には偽りがありませんでした。熱狂的な映画ファンに囲まれて上映は大成功。地元のお客さんとも交流でき、とても楽しい時間が過ごせました。

さすが1968年からつづく老舗映画祭、ゲストケアもなかなかです。しっかりした日本語通訳の方がアテンドしてくれますし(もちろん個人差はありますが、思っていたよりもスペインの方の平均的英語度は低かったです。込み入った話をするには、スペイン語通訳が必要でした)、地元メディアなどの取材のスケジューリングもゲスト担当の方が仕切ってくれます。僕と主演の亜紗美が受けた取材で印象的だったのは、スペインのアジア映画専門誌「Cineasia」のインタビューでした。編集者のエンリケさんは本当に日本映画に造詣が深く、楽しいインタビューとなりました。インタビューが終わってエンリケさんにスペインにおいて日本映画およびアジア映画のファンは多いですか?と聞いてみたところ、数は多くはないがとても熱心なファンばかりだ、との答えでした。

シッチェス・カタロニア国際映画祭は、僕が今まで参加した多くのファンタスティック系、ジャンル系映画祭の中でも一番ホラー色の強い映画祭でした。上映作品はホラー物が圧倒的に多く、観客もホラー映画を見たくて集まって来るという印象です。僕の作品は、スプラッタ要素は満載ながらホラーではなく、アクション映画なので若干のアウェイ感がありました。古くはポール・ナッシーの狼男映画や「ザ・チャイルド」といった革新的恐怖映画、近年ではマンネリ化したゾンビものに新風を吹き込んだ「REC/レック」などがスペインから発表されています。この国は、ホラー大国と言っても良いのかもしれません。(今年のオープニング作品も「REC/レック4アポカリプス」でした。)ホラー大国になったのは、ゴヤの強烈な残酷絵画の影響か、はたまたフランコの独裁政権の反動だったのでしょうか。いずれにしても、シトヘス"恐怖映画"祭という旧訳に相応しい、ホラー作品中心の映画祭でありました。僕も次は、本格的なホラー映画を持って、シッチェスに戻って来たいと思いました。また戻って来たいと思わせてくれる美しい町、美味い料理の数々(地中海の魚介類が最高でした。イカスミのパエリアは絶品)、そして夜通し元気な映画ファンたち。シッチェス・カタロニア国際映画祭は、素晴らしい映画祭でした。