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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

こんな映画祭に行ってきました

『おやじ男優Z』ゆうばり国際ファンタスティック映画祭を行く   池島ゆたか

この文章は、監督協会会報「映画監督」2014年5号に掲載されたものです)

●はじめに
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に行ってきました。昨年に続いて二度目の参加です。
昨年は、私が出演した作品が2本出品されまして、この機会にこの著名な映画祭を覗いてみようと思ったわけです。またもうひとつ、来年は(つまり、今年)自分の監督作を持って乗り込んでみたいという気持ちもあり、その下見的な気分もありました。
そして今年、私にとっては初の自主映画となる『おやじ男優Z』、それに私のホームグラウンドのピンク映画2作品を持って参加してきました。

●『おやじ男優Z』の成り立ちについて
一昨年の夏、よみうりンドにあるミニシアター「グリソムギャング」での私の特集イベントで私の処女作である『ザONANIEレズ』(1991年/エクセスフィルム配給)が上映されました。
もはやプリントは失われていたのですが、私の熱烈なファンのO氏が日活と掛け合い自費でニュープリントを焼き、そのイベントのメインイベントとして上映とあいなったのです。(O氏は以後、『おやじ男優Z』のスポンサーの一人にもなってくれました)。
イベント後の懇親会の席上、突然私の前に一人の中年男性が近寄り「これを差し上げます。どうか出来ましたら映画を撮ってください」と、分厚い封筒を差し出しました。
「何ですか?」といぶかしく封筒の中を見た私は驚きました。なんと、300万の札束だったのです。
私はそれをいただきました。(世の中にはこんな信じられないこともあるとは思っていたものの、それが突然私に来るとは!)。
そして、『おやじ男優Z』がスタートしたのです。
勿論当初から『おやじ男優Z』と決まっていたわけではありません。正直なところ、若干途方にくれたものです。
「はて、俺はいったい何を一番やりたいのだろう?...」

それでも、一昨年の夏から昨年の春頃までにかけてはいくつかの企画が立ち上がり、準備稿までいった企画が2つほどもありました。
しかしそのどれもが、確かにやりたいものではありましたが、300万という予算を考えると、いくら自主とはいっても、とても無理だなと判断し、引っ込めざるを得ませんでした。
そこに浮上してきたのが、以前ピンク映画の企画として出したところ、会社からははねられた『おやじ男優Z』だったのです。
『おやじ男優Z』は緊縛師として著名な有末剛氏の手になる短編小説です。
有末さんとは以前から顔見知りで、短編小説集なども出版されていて、それを面白く読んでいた私でしたが、ある時、有末さんから「ピンク映画にしやすい短編もあるので読んで下さい」と言って渡されたのが『おやじ男優Z』だったのです。
一読、これはいい話だ、ピンクになると、早速プロットをおこし会社に出したところ、NGをくらい実現出来ませんでした。
そうだ、あれをやろう、ピンクでやるよりずっとグレードアップしてやれるはずだ、となりました。

●その内容とテーマ
妻から離婚を言い渡された中年男が都会を孤独にさまよううちにアダルトビデオの世界に出会い、汁男優というAVの世界でも最底辺の仕事に従事するようになる。そこで2人の中年汁男優と意気投合し、3人で一緒に暮らすようになる。
そこにある日、現場で何度か会ってるAV界の人気女優の女の子が半ば押し掛け女房的にやってくる。そして、男3人女1人のコミューンとでも呼べる生活が始まる。
この物語は、この4人の男女の出会いと人生模様、そして別れを描いたもの。

AVの世界って?汁男優って?...何?
という伊丹十三監督的なハウツー物の面白さ。
そして、山田洋次監督的な人情喜劇の面白さ。
つまり、笑いあり、涙あり、そしてエロあり(ここの部分は私)という娯楽作品にしたいというのが狙いでした。

●キャステイングについて
メインの中年男3人は、今やピンクの中心的役者のなかみつせいじ、牧村耕治、竹本泰志。
ヒロイン役に、超新星坂ノ上朝美。
他に主要な役が20いくつかあったが、ほぼピンクの役者で固めた。特に男優は、ピンクの男優で出てない人いないんじゃないというくらいだ。
スタッフも全ていつものメンバー。
つまり、この映画は、ピンク映画のオールキャスト、オールスタッフによる、ピンクパワーの集大成的な映画なのだ。

撮影は、昨年の9月下旬に8日間のスケジュールでやった。
仕上げは10月から11月にかけて。
11月下旬、一応の完成となり、関係者試写を二度やる。
完成尺、100分。

●そして、ゆうばりへ
『おやじ男優Z』は、2日上映されました。1日は、「池島ゆたか特集」として、『おやじ男優Z』と、ピンク映画二本の上映。もう1日は、『おやじ男優Z』のみ。

2月28日。
100人ほど入る会場にほぼ8、9割の入り。まずまずかとホッとする。
『おやじ男優Z』からスタート。
開始後15分すぎくらい、ホモ男役の世志男が登場し、主演のなかみつせいじとやり取りするくだりから客席には笑いがおき始める。
その後世志男は二度登場するが、彼が出るだけで客席には笑いが起きる。
世志男が受けたおかげで、客席はドンドン暖まり、色んなシーンで笑いが広がる。
ちなみに、ゆうばりファンタ前の東京での二度の試写で一番笑いを取ったのは、AV監督役で登場する私のシーンでしたが、ゆうばりではそれなりの笑いしか起きず。当然だ。関係者ばかりの試写と違い、ゆうばりでは私のこともピンク映画のことも知らない観客ばかりなのだから。その手の内輪受けは起きない。
笑い場がキチンと成立すると、泣き場が引き立つ。
後半からラストにかけての3度の泣き場。
客席からは泣き声がもれだし、中には身を折って泣いてる女性もいる。原作者の有末さんはたまたまその女性の隣にいたそうなのだが、その女性の姿に感動して、僕まで泣けてきちゃいましたよと、のちほど私に語る(笑)。
こうして『おやじ男優Z』一度目の上映は、予想をはるかにこえる観客のビビッドな反応に非常に励まされ、手応えを感じる。

トークショー挟み、次にいよいよピンクの上映。
まずは『月光の食卓』。この作品は、1998年のピンク大賞ベストワン作品で私の代表作のひとつ。内容は、美しきヴァンパイアの姉妹が暗躍する「血とオッパイのゴシックホラー」。ゆうばりファンタにピッタリと思いかけることにした。
すると驚いたことに、映画が始まるやいなや、客席からは波が引くように半分くらいの観客が消えていく。
次のピンク『夕凪のスカイツリー』(2012年ピンク大賞ベストワン。配給の大蔵映画の強烈なプッシュでかけることになる)では、さらに観客は消えていく。
なんで?
思うに、ゆうばりの観客のほとんどを占める40歳以下の世代では、ピンク映画というジャンル自体が知られていないのか?
または、ピンク映画という名前くらいは知っていても、ピンク映画=AVという認識が当たり前のようにあり、わざわざAV見なくても、他に見たい映画がゆうばりファンタにはあふれているからということなのか?
理由はどうあれ、個人的にはゆうばりでピンク映画!と意気込んでいただけに、いささかガッカリ、かつショックでもあった。

3月1日。
深夜0時より『おやじ男優Z』2回目の上映。会場は前日と代わり、ホテル内にもうけられた7、80席くらいのミニシアター。
深夜だし、土曜だし(翌日の日曜に帰る人たちが非常に多い)みんな飲みに行くしで、観客誰もいなかったらどうしょうとかなりマジにおびえていた。
しかし、なんと、上映前にすでに満席となる。私は椅子に座っていたが、満席状態になってきたので、立ち見に移動。嬉しかった。
主催者側から少し早めて11時45分から始めて下さいと言われ、15分開始を早めたせいか、始まってからも観客は入ってくる。当然立ち見。
開始後10分くらいで主催者側からストップがかかり、これ以上お客さん入れないで下さいというなんとも勿体ない事態となる。
つまり、満員札止め!
私は会場の一番うしろで床に座ったまま、半分以上は見えないスクリーンを見ていた。
狭い空間のせいか、客席の空気は前日以上に濃密なものを感じた。

深夜2時からホテル隣の居酒屋で打ち上げ。なかみつくんいわく、祝勝会(笑)。
我々関係者と映画を見てくださった3人組の女性なども交えての20人以上の宴会となる。
ここで驚いたのは、その3人の女性、なんと前日も見てくれていたと判明したこと。つまり、リピーター。ゆうばりファンタには映画があふれている。二度も見てくれるなんて!感激!
こうして深夜の宴は朝の7時まで続いたのだった。