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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

こんな映画祭に行ってきました

富士町古湯映画祭  緒方 明 

(この文章は、監督協会会報「映画監督」2013年12月号に掲載されたものです)

 山あいの小さな温泉地で今年も富士町古湯映画祭が開かれました。今回は30回記念ということでこれまでにこの映画祭を訪れたことのある監督がゲストとして招待されました。以下、参加した監督たちです。(敬称略、上映順)井筒和幸、降旗康男、大林宣彦、周防正行、入江悠、阪本順治、小林政広、佐々部清、緒方明、石井岳龍。通常は華やかな俳優さんをゲストにして集客を見込むのに対してここまで「監督」にこだわった映画祭は珍しいのではないでしょうか。古湯映画祭の歴史の中でも初だそうです。私たち監督にとって映画祭の一番の楽しみは出会いだと思います。映画ファンの方々との出会いはもちろんですが、ふだんあまり会うことのない監督同士の出会いの場にもなるからです。今回一番の若手、入江悠さんは初日にいきなり初対面の井筒さんにつかまり朝まで痛飲したそうです。途中から参加した私も降旗さんや大林さんと杯を交わしながら先輩たちの歩んできた映画道を聞くのは至福の時間でした。かつて自主映画の現場で一緒だった佐々部さんと石井さんはなんと30年ぶりの再会だったそうです。
 JR佐賀駅から福岡との県境に向かって車で約40分、山間の道を走ると古湯温泉があります。標高200メートルの地に旅館は十数軒。この地で映画祭が始まったのは今から30年前のこと。それに先立つ数年前。佐賀市内で2館あったピンク映画館を名画座にしようという動きがありました。その時に地元の映画好きの有志10名足らずが作ったのが「シネアスト佐賀」というグループ。このグループを中心に閑古鳥の鳴いていた映画館を再生しようという映画館オーナーの計画でした。そんな彼らの活動を知った当時の富士町町長が「町おこしのために映画祭をやれないか」と持ちかけたのが始まりです。同じく温泉地である大分県の湯布院映画祭の成功も意識したようです。当初彼らが考えたのは「8mmから35mmまでを網羅した映画祭にしよう」というものでした。こうして1984年、第1回富士町古湯映画祭が開かれました。上映作品20本のうち15本が8mm自主映画。九州の大学映研や自主制作グループの作品がメインでした。記念すべき第1回のゲストは石井聰亙(岳龍)さんと当時上板東映支配人の故小林紘さん。2日間の開催で観客数は600名というささやかなものでした。それでもスタッフは手応えがあったようで翌年第2回からは地元の青年団、婦人会、旅館組合なども巻き込んで町の一大イベントとなります。地元出身の映画評論家、西村雄一郎氏をオブザーバーに迎え自主映画だけではなく黒澤作品やスピルバーグ作品も上映。ゲストも女優さんや脚本家などの映画人を招待して動員数は3000名を超えました。それから30年。今ではすっかり老舗の映画祭として定着し、日本全国から毎年駆けつける映画ファンや地元のお年寄りや家族連れでにぎわっています。
 この映画祭の一番の特徴は会場にあると言えます。地元の公共施設で開かれるのですが会場の前半分は「ゴザ席」なのです。(後ろ半分はパイプ椅子です)地元の人たちは家から座布団やクッションを持ち寄り「寝そべって」映画を観ます。初めてゲストで訪れた映画人はこの光景にまず驚きます。しかもこの会場、施設内に温泉があります。ひと風呂浴びて、タオル片手に寝転がって映画を観る。場内は飲食自由。ロビーでは地元の食材を使った美味しそうなお弁当やお菓子が売ってます。お客さんは遠慮なしに飲み食いしながらの観賞。中にはいい気分になっていびきをかく人も。なんとも大らかな映画祭です。
 さて私は佐賀市の出身と言うことでこれまでこの映画祭には6回参加しています。
3度目に参加した2004年第21回から地元役場の要請があり「顧問」として参加することになりました。作品の選択やゲストの交渉、地元のマスコミに出演して宣伝活動も行い、映画祭期間中はゲストの送迎や部屋割り、シンポジウムの司会など忙しく動きました。その甲斐があってかその年は観客動員数も良かったようです。しかしその翌年2005年第22回。前年に引き続き地元に入ってスタッフたちと一緒に仕事するうちに違和感を覚え始めました。「こういうことをやってはいけないのではないか」と思ったのです。確かに私が入ることで映画祭の段取りはスムーズになり、ゲストも機嫌よく帰っていくのですが、これでは私の映画祭になってしまいます。ホストは地元の人であるべきだし、彼らは私の部下ではないはずです。それ以来私はこの映画祭と距離を置くようになりました。それから数年。昨年2012年、第29回に久々にゲストとして参加したのですが、とても嬉しいことがありました。スタッフが育っているのです。ゲストの送迎の段取りやアテンドなどに格段の成長のあとが感じられました。「俺、映画ってあんまし観らんとですよねー、休みはだいたいパチンコやし」と言っていた役場の若者が、会場狭しとキビキビと動き「緒方さん、このプリントけっこう状態よかですよ!」と言ったのは嬉しい驚きでした。彼がゲストの仲代達矢さんに「『切腹』ってすごか映画ですね~」と言い、『サイタマノラッパー』を観た地元のおばあちゃんが喫煙所でタバコうまそうに吸いながら横にいた入江さんと俳優陣に「元気のあってよか映画やった!これからもがんばりんしゃい!」と肩をポンと叩く。こんな素敵な光景が見れるのも古湯映画祭が続いているからだと思います。協会員の皆様、これからも富士町古湯映画祭をよろしくお願いします。