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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

こんな映画祭に行ってきました

初めての映画祭、初めての海外一人旅   島田隆一

(この文章は、2013年8月、監督協会会報「映画監督」に掲載されたものです)

 僕はルフトハンザドイツ航空LH711のシートに座り、そわそわと落ち着かなかった。緊張しているのは飛行機のせいではなく、人生で初めての海外一人旅と、人生で初めて映画祭に参加するためだ。今年の6月4日からドイツのフランクフルトで開かれたニッポン・コネクションという映画祭は、日本の130以上の短編、長編作品をドイツで上映するというもので、今年で13回目を迎える。
 僕は4日の昼にフランクフルトに到着したのだけれど、前日までのフランクフルトは嵐が来ていて大変だったらしい。飛行機から見えるメイン川も増水し、土色になっていた。僕が到着すると台風一過のように風雨は収まり、すがすがしい晴天だった。
 映画祭の期間、僕はホームステイをすることになっていて、映画祭のボランティアスタッフがホストファミリーの家まで道案内をしてくれた。ボランティアスタッフは大学生が多く、日本への留学経験も豊富だ。日本語もとても上手で、ドイツの事、日本の事などを話しながらホストファミリーの家へと向かった。
 ホストファミリーのお宅に荷物を置き、すぐに映画祭の会場へと向かう。夕方からレセプションパーティーが開かれ、ゲストの人たちで会場はいっぱいになっていた。

131130a.jpg                    上映終了後のトーク風景


 映画祭に6日間滞在して、参加当初は映画をいっぱい観るぞ!と意気込んでいたものの、結局連日のように昼間からビールを飲み、フランクフルト観光をしてしまった。情けない限りである。しかしそれでも、私と同じようにインディペンデントで映画を制作している人たちが多く集まっており、彼らとビールを飲みながら映画について語り合うのはとても楽しかったし、大阪や京都の人たちの制作状況や、アニメや劇映画の人たちとの交流は刺激的だった。
 そして、この映画祭のもうひとつの良いところは、ボランティアで参加している人たちが本当に気さくで気遣いがあり、なんだか昔からの友人のようになっていくことだ。映画祭の会場では、映画を観終わった人たちがビールを飲みながら談話している。その中には、映画関係者だけでなく、現地のボランティアの方たちも混ざっている。このアットホーム感はなかなか他の映画祭では味わえないと、皆口々に言っていた。
 映画祭で色々な作品を観ていると、どの映画にも共通するのは、エンドロールが始まると客が半分くらい帰ってしまうのに驚いた。また、様々な映画の感想を聞くと、日本の映画は面白いのだけれど、1カットが長くて、映画自体も長いという意見があった。初めて映画祭で映画を観た時には、上映終了後に監督などへのQ&Aがあるにも関わらず帰ってしまう観客に驚いたけれど、何本か観ていくうちに「そんなものか」と思えるようになっていた。

131130b.jpg          仲良くなった監督たちとランチ

 拙作『ドコニモイケナイ』は、ニッポン・ビジョンという部門に出品され、上映は6日の夜22時30分からだった。この時間は不利だな、と最初にタイムテーブルを見たときに思った。これでは映画を観終わったら終電の時間である。Q&Aをやっても誰も残らないのではないか。いや、それ以前の問題として、客が来るのだろうか。上映当日はずっと心配ばかりしていた。
 いよいよ、自分の作品が上映される番になった。会場は150名ほど入るが、7割が埋まった程度だった。満員にはならず、少々がっかりしたが、気を取り直して舞台挨拶をした。通訳の人を介して、なぜ自分がこの映画を作ったのかという話をして、是非、皆さんの感想をお聞きしたいと伝えた。
 上映が始まる。僕は一番後ろの席に座り、観客の反応を見る。まったく何の反応も無い。映画の内容が非常にシリアスなので仕方無いかと思いつつ、途中退場者が出ないことを祈っていた。
 映画が始まって40分ほど経った時、一人、席を立って出て行ってしまった。これが呼び水となってパラパラと出て行ってしまわないか?と心配だったけれど、結局映画が終わるまで、もう一人退場しただけだった。
そして、エンドロールになった。きっと多くの人が帰ってしまうだろうと思っていたのだけれど、誰も席を立たなかった。エンドロールが終わり、会場が明るくなると観客から拍手が起こる。映画祭で上映後に拍手が起こることは珍しくない。しかし、エンドロールで誰も席を立たなかったことは、僕の中で映画が届いたなと感じた出来事だった。
 質疑応答では、日本とあまり変わらない反応が多かった。ドイツでも同じような若い世代の子がいるという反応や、あの映画で描かれている世界は、今はFacebookなどに場所を変えて世界中で起こっているのではないかと言ってくれる感想があった。そして、この映画を撮ることで主人公に対して何が出来たのか?という本質的であり、非常に応えづらい反応もあった。
 上映終了後、終電間近にも関わらず何人かの人が僕と話すために残ってくれ、その中にドイツで上映したいと言ってくれる人がいた。その人は今、ドイツの大学で上映できるよう調整してくれている。帰国後には、ドイツで知り合った監督たちと東京で朝まで酒を飲み、いろいろと話ができた。また、映画祭で知り合った沖田修一監督とは、8月6日の渋谷アップリンクでトークイベントを行うことになった。そして、ドイツで大変お世話になったホストファミリーが、今、日本に遊びに来ている。僕はこの原稿を書き終えてから、ホストファミリーと一緒に東京観光に行く約束をしている。たった一度の映画祭でさまざまな出会いがあり、今でもそれが続いていることが本当に嬉しい。それでは、行ってきます!