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特集

日本映画監督協会 会員名鑑

こんな映画祭に行ってきました

北海道ユニバーサル上映映画祭   佐々部 清


あまり耳に馴染みのない映画祭だと思います。函館に隣接した北斗市という町で行われている小さな映画祭です。函館市では毎年、〈函館港イルミナシオン映画祭〉が映画関係者や俳優達を招待して華やかに開催されています。一方、〈北海道ユニバーサル上映映画祭〉は数十人のボランティア・スタッフがコツコツと準備し、おそらく2日間で数百人を動員する程度の映画祭です。でも、僕はこの映画祭が大好きです。2年続けて参加させていただきました。

実行委員長は島 信一朗さんという全盲の方です。おそらく日本中の映画祭で全盲者が実行委員長というのはこの映画祭だけでしょう。この島さんが「とにかく映画を観たい!」という想いからスタートした映画祭です。ボランティアのスタッフ達は、その島さんという〈人(ひと)の魅力〉に惹かれて集った方々...とにかく熱いのです。僕もその一人かも知れません。

さてさて、映画祭の中身...ユニバーサル上映というよりは、バリアフリー上映といったほうが分かり易いでしょうか。つまりは目が見えない人、耳が聞こえない人、車椅子の人、もちろん健常者、すべての人が平等に映画を楽しもうという主旨の映画祭です。全ての上映作品に聴覚障害者のために日本語字幕が付けられます。視覚障害者のためには上映中ずっと音声ガイドが流れています。普通のバリアフリー上映では、ラジオなどを使用してイヤフォンでの音声ガイドですが、ここでは会場中に目一杯の音量で音声ガイドが流れます。そしてさらにスクリーンが映し出される舞台の下手には〈ミュージック・サイン〉というパフォーマンスをする若者達も登場します。彼らは、映画のBGMに合わせて、ギターやピアノなどの楽器を、肉体のアクションを使って表現します。また、馬の嘶きや蝉の鳴き声は、画用紙にその動物を描き、その画用紙を震わせながら表現します。ですから聴覚障害者は、字幕に音符だけが出てきても、これまではどんな音色かは分かりませんでしたが、彼らのパフォーマンスによって音色を想像出来るのです。

僕は当初、この字幕と音声ガイド、さらに舞台上でのパフォーマンスは上映の邪魔になるのではと懸念したのですが、15分もすると自分の頭の中でのチョイスで邪魔にならなくなりました。慣れてきたのです。それよりも、同じシーンの同じ箇所で、視聴覚障害を持つ方々も一緒に笑い、涙する...そんな共有が会場を温かく包み、何とも言えない感動を呼ぶのです。自作の上映だったのですが、ポロポロと落涙してしまいました。

上映後に何人かの観客とお話をしました。
「映画のラストのローリングタイトルに音楽が流れているのを初めて知りました」という聴覚障害の方...これはミュージック・サインの効果でしょうか。
「ある場面でお父さんが、娘の子供の頃の写真を見るシーン。アルバムのページをめくるときにセロフィンのパリパリという音は、久しぶりという感じを強調するためですか?」と尋ねてきた視覚障害の方。このアルバムの音なんて、ただのシンクロの音です。僕は気にもしていませんでした。ハッとさせられるようなことをたくさん聞くことが出来ました。

上映後のトークショーや催し物には、すべて手話通訳が付きます。舞台上のスクリーンにはパソコンで要約筆記された字幕が同時に流れます。小さなお子さん連れには託児サービスも用意されています。上映された映画を語り合えるサロンでは、地元の農家から提供されたトウモロコシやジャガイモが美味しく調理されて格安に販売されています。このサロンのレジなども障害を持った方々が一生懸命にボランティア参加しています。特別なことを特別視しない姿勢が貫かれています。

上映作品の字幕作りや音声ガイドの原稿作りも、この主旨に賛同したOLや主婦などが仕事を終えた夜に集まり、DVDを観ながら一ヶ月くらい掛けて、1シーンずつ丁寧に作り上げています。何から何までもがホントに手作り感たっぷりの映画祭なのです。

僕はこの映画祭に自作品を選んでもらったことに大いなる誇りを持ちました。この映画祭のスタッフ達に巡り逢えたことにも感謝しています。映画祭の本質は、映画を愛する映画ファンのためでなくてはならないといつも思います。大きな映画祭になればなるほど、映画ファンよりも映画製作者側の思惑がぐるぐる廻っているのを感じます。

今年は自作『ツレがうつになりまして。』の上映要請がありました。喜んで参加したかったのですが、この小さな映画祭は予算が苦しくなったために今年からDVD上映になるそうです。もちろん『ツレうつ』はDVDもあるのですが配給元の東映はフィルム上映しか許可しないそうです。〈会社の決まり〉という理由です。とても残念に思いました。少なくとも僕自身が著作権者ならレンタルすることが出来たのに...。

北海道ユニバーサル上映映画祭は今年7回目を迎えます。継続が力になると...まずは10回を目指して欲しいとお願いしました。何度でも参加したい、そして何度でも応援したい映画祭です。


北海道ユニバーサル上映映画祭公式サイトはこちら