このページの先頭です

特集

日本映画監督協会 会員名鑑

創立80周年・80th Anniversary

2016年05月27日

創立80周年記念事業を終えて~「劇場版仮面ライダー555〜パラダイスロスト」 
田﨑竜太
日本映画監督協会劇場(2016年2月27~28日)に参加の田﨑竜太監督からの寄稿です。 監督協会会報2016年4月号からの転載です。


このたびは創立80周年記念上映会に自分が撮った「劇場版仮面ライダー555〜パラダイスロスト」を上映していただきありがとうございます。大切なイベントの一角を担う事ができて大変光栄に思っております。ただ、協会員の皆さまの中には「なぜ監督協会の上映会で『仮面ライダー』を?」という疑問をお持ちの向きもあろうかと思い、この場を借りてこの手のトクサツ作品が置かれている状況を考察してみようと思います。

 まず、論を単純明快に進めるために、観客のタイプを乱暴にも【都市生活者型】と【田園生活者型】に分けてしまおうと思います。自分が食べる物は自分で育て、出産時は自分たちで赤ちゃんを取り上げ、屋根を葺きなおす時も地域の仲間で、という生き方が古来からの【田園型】の生活だとすると、江戸期ぐらいから見られる【都市型】の生活は、食材を魚屋や八百屋で調達、お産は産婆さん、畳を替える時は畳屋さんに、つまり専門家にお金を払ってやってもらうというライフスタイルです。このタイプが商品に金を払うかどうかの判断をする時に大きな指針となるのは魚屋さんの「イキがいいよ、旨いよ」という言葉や「○○産ブランド牛肉」というステッカー。映画の世界に直せば「○○賞受賞作品」とか、評判を判断材料としてチケットを買う行為と言えます。観客の中の多数派はこのタイプのお客さんだと思っています。

 では、観客の中で【田園型】はどういう人でしょう? 賞味期限のステッカーなんかなくても食べ物が傷んでいないかどうかを自分の鼻で判断することが出来る田園の生活者、即ち作品にラベルが貼ってなくてもその善し悪しを自分の物差しで判断できる人です。そういう層は昔から好事家・マニア・ヲタクなどと称され「非・一般人」という扱いを受けてきました。つまり明らかにマイノリティでした。ですが、この少数派の【田園型】観客たちのお蔭で人気作品に成長した例は多くあります。本放送では打ち切り同然に終わったアニメが再放送時に人気に火が付き、結果、とてつもないメジャーコンテンツに成長した例を皆さんもご存じでしょう。本放送時にマイノリティである【田園型】観客が発した「面白い!」という小さい声が、やがて再放送時に【都市型】観客にまで波及したためです。

 『仮面ライダー』などのトクサツ作品も長らく【都市型】の目から見ればラベル通り子供向けのコンテンツでした。ですが昨今その事情に少々変化が見られます。【都市型】観客も大手を振ってトクサツ作品を楽しんでくれているのです。私たちの妥協しない作品作りの成果、と胸を張りたいところですが、冷静に分析すれば社会の情報化により【田園型】観客たちが下した評価がかなりのスピードで【都市型】に伝播し「自分たちが観ても楽しいんだ...」という空気が醸成されたというのが一番大きな原因でしょう。更に言えば子供の頃、小さな【田園型】観客としてトクサツ作品に触れた層の二世代化も重要なファクターでしょう。

 以上、トクサツ作品の周辺で昨今みられる【田園型】観客層に端を発する波紋の分析でした。ですが、監督協会のような組織が、こんな俄かに起きた小さなさざ波を取り上げるというのは並大抵の事ではありません。私の目には80年の歴史を積み重ね、なお「新しく」あることや「変わる」ことを恐れない、柔軟な組織であり続ける決意表明のように映りました。そういう協会の一員であることを今、大変誇らしく思います。

 文末になりましたが上映会運営に努力していただいた委員の皆さま、本当にありがとうございました。