
私の膝に座った女 by 関口 祐加
その女(ひと)は、焦げ茶色のワンピースの上に、アイボリー色のカーディガンという装いだった。
カーディガンには、袖を通さず、ロビーに入って来た。
カッ、カッ、カッ・・・
ヒールの音が、響き渡ると、その場にいた人間が、一斉に振り返った。
何百という瞳に見つめられ、その女は、益々輝いて見えた。
フッと彼女の瞳が、私のことを捉えた。
少し目を丸くしてから、ニッコリ私に微笑みかけると、再び歩き始めた。
私は、その女から目が離せなくなった・・・
どのくらい時間が、たったんだろう?
気が付くと、その女が、私の目の前にいた。
澄ました顔で私の膝に座ると、私の耳にフランス語で何かを囁いた。
Bravo, les réalisatrices!
ブラボー、女性監督!
1992年のことです。私は、2作目のドキュメンタリー映画「When Mrs. Hegarty Comes To Japan」と共に、ブラジルのサンパウロ国際映画祭に招待されていました。
クエンティン・タランティーノ監督の衝撃のデビュー作品「レザボア•ドッグス」も上映され、本人も来ていたこともあって、映画祭は、華やいだ雰囲気でした。また、「蜘蛛女のキス」のヘクトール•バベンコ監督もブラジル在住、映画祭に参加されていたので、お話しする機会があり、私にとっては、とても貴重な映画祭体験となりました。
しかし、忘れられないのが、私の膝に座った女--マリア•デ•メディロスのことです。小柄なのに、強烈なオーラを放っていたマリアは、ポルトガル生まれで、主にフランスで活躍している女優さん。
1990年「ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女」のアナイス•ニン役で注目されていたこともあって、映画祭の主役でしたね。
実は、当時タランティーノ監督は、次作「パルプ•フィクション」のキャスティング中で、マリアは、見事ブルース•ウィリスの恋人役、ムーン•フェイスのファビアン役を射止めました!
マリアは、フランス語が分からない私のために英語に切り替え、こう続けました。
「あなたが、劇映画を作る時に、私の事を思い出してね。」
上手いなあ。
でも、いつかは、劇映画を作ろう、そんな私の気持ちの原動力になっているのが、マリアの存在なのかもね、と思います。
関口からのご指名:我らが会報の編集長、舞原さん!いつもご苦労様。顔晴って、舞ちゃん!!
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